小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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夕暮れ。

放課後の校庭では運動系部活の練習が行われ、驚くほどの生徒でごった返していた。

辺り一面赤とオレンジで彩られた春の季節にしては珍しく、冷たい微風が空を撫でている。
少し肌寒く感じたせいか、昨夜の出来事をふと、連想してしまった。

今思い出しても身震いがしてしまうアンドロイドとの出会いは、正直なところ考えたくもない。
だが、そう感じれば感じるほど、現在自分の目に映る日常的光景が嘘のように思えてしまう。

視界を移動させると今度は大きな橋が見えた。

さらに言えば、その橋はどうやらこの学習棟および巨大な校庭から遠くに見える学生寮を繋げる為のものであるらしく、この二つは必要不可欠な連結関係にあるようだ。

その大橋には学校が終わり、自分寮に帰っていく生徒の姿が多々見てとれる。

帰宅部だろうか。

この世界に来る以前の記憶が消えてしまっているのにも関わらずこのような感情を抱いてしまうことは極めて妙なのだが、運良く残っていた生活知識がどうしてもそう思わせてしまう。

平和だ。

どこともなしに湧き上がってきた言葉の意味を理解するのに数分の時間を要してしまった。

どうにもここに来て初めての感覚らしく、こんな日常的でごく当たり前な時間を忘れてしまっていた自分につくづく呆れてしまう。

紅蓮の色に染まった空を眺めると太陽の日差しが徐々に弱まっていくのが肌で感じ取れる。

先ほど着替えた学生服にはまだ慣れていなかったが、このどこか見慣れた光景に溶け込んでいく気がしていつの間にか服の違和感は消えてしまっていた。

息を吸うと新鮮な空気が肺の中を満たしていく。

全てが初めての経験なのに、それでいてとても居心地がいい。
何もかもが当たり前のようで、心が落ち着いた。

そんなことを考えながら思わず苦笑してしまう少年・霧斗は現在、学習棟A棟の屋上にいる。先ほどまでいた旧校舎の校長室でのあれはどうやら定期的な集会であったらしく、先ほどいったん解散して今は個人の自由行動をとっていた。

しかし、そんな自由な時間であっても見る度に驚かされてしまうことが一つ。

「それにしても、でっかい学校だなぁ」

彼が何気なくそう呟いてしまったが、少年がそう言ってしまうのも無理のない話だ。
この屋上から見ると改めてそう痛感してしまう。

「総生徒数二千人強。全寮制のマンモス校よ。」

突然、後ろから声がした。

「お、お前…」

「おーす、さっきぶりだね。霧斗くん」

振り返るとそこには、あすかが立っていた。

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