小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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「人じゃない?」

唐突に言われてしまった言葉の意味が最初、理解することが出来なかった。
そんな中、あすかはめんどくさそうな口調で、

「そう、彼らはAIMよ。」

「AIM?」

「正式名所はAn_Invountary_Movement。『無自覚』って意味で、あそこにいる人たちはつまり『無自覚な存在』言い換えれば『不確定な存在』ってことになるわ。…本当は図書室にこもってラノべばっかり読んでるオタクたちが勝手に命名したんだけど。」

最後の方は小さくてよく聞き取ることが出来なかったが、なんとなく意味は理解することが出来た。しかし、いまだ気がかりなことと言えばどうして彼らが『不確定な存在』なのかと言うことだ。

「それって本の話か?」

「例えよ。連中は私たちが来る前からここに作られた、…って言うと少し違うんだけど…まぁ、とにかく模範ってこと。」

「じゃあ自意識はないのか?話しかけても同じ答えしか返ってこないとか?」

「試してみれば?あそこにいる誰かに話しかけてみるとか。」

「そしたらどうなるんだよ。」

そこでいったん会話が途切れた。
原因は少女が言葉を区切ったからだ。

彼女の口がゆっくりと開かれ、そして、静かに告げる。

「消えちゃうのよ。話しかけるとね。そしてまた新しい形となって表れるの。」

「どういうことだ?」

「生まれ変わるというよりは、別人になるってところかしら。…だから『不確定な存在』、そういわれる所以よ。」

そんな話が本当にあるのだろうか?少年にはまだ到底理解できそうにない。
まだこの世界には謎がありすぎる。さすがにあすかでもそれ以上のことを知っているとは思えなかった。

「ちなみに、AIMは歳を取らない。それは私たちも同じ。」

「……、」

「ほかには?」

「アンドロイドの凶暴性は?おれは出会ってすぐ刺された。」

「えっ?ああ、あれはねっ!?」

急に顔を真っ赤にして動揺する少女だったが霧斗にはどうしてかわからなかった。それも当然。あの時少年は錯乱状態であまり覚えていないようだが、自分が彼を撃って殺しかけたとはとても言えない。

何とか落ち着きを取り戻した少女は一回咳払いをする。

「コ、コホン。見てたけど、あれはあなたが勝手に自爆しただけじゃない。そりゃ、アンドロイドなのか証明しろ、なんて言ったら刺されるに決まってるわよ。あのロボットからして言えばかえって好都合なことだったのかもね。」

「アンドロイドはこの世界のルールに従順って訳か。」

「…無愛想なだけかも。」

「自意識があるのか!?」

霧斗は衝動的に思わず振り向いてしまう。

「さぁ?謎。無感情、不愛想、言葉数が少なすぎる点についてはAIMより個性的ね。」

「俺みたいな殺されかた…いや、殺されかけることもある、と…」

「もちろん。あと、アンドロイドの出現時間は夜だけ。その他の時間は襲撃も戦いもないから安全ね。」

「…分かった、じゃあ最後。」

今までの話を聞いたうえでまだ彼には疑問視することがあった。この質問は答え次第で今後の少年に大きな影響を与えるだろう。
それはALIVEの目的でもある重大なことだ。

しかし、今聞かなければならない。

出なければ少年はこれからどの道に進めばいいのかさえ分からなくなってしまう。

「『元いた世界』ってのは本当に存在するのか?」

あすかの表情が一瞬こわばる。

短い沈黙の後、少女は小さく言った。

「私はあると信じている。たとえ見たことがなくても、覚えていなかったとしても。」

言いながらあすかは体制を変えて、気付けば霧斗と同じ体勢になっていた。

思えば、これが初めて彼女の心が動いた瞬間だったのかもしれない。

「アンドロイドに聞いてみたことはないのか?」

「まさか、そんなこと言ってる間に殺されちゃうわよ。」

そこでやっと会話が終了した。

あすかは飲みかけのティーコーヒーを一気に飲み干すと吐き捨てるように、

「以上!お勉強会は終了ね。」

その言葉が夕暮れの空に広がっていくのを、少年は黙って見つめていた。

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