小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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再度集合する時間になって屋上にいた二人の男女は旧校舎に足取りを進めた。

移動中、霧斗はこんなことを考える。

正直なところ彼は団結などしていなかった。今少年が最も優先すべきもの、それは自分の記憶を取り戻すまでの時間を無事稼ぐこと。それだけだ。

…それからはどうすればいい?それからは…わからない。

旧校長室に戻ると、仲間からの熱い歓迎が待っていた。

辺りは完全に暗闇で支配され空から降り注ぐ月と数々の小さな惑星が放つ薄い光だけが地面を明るく照らしている。いつの間にか学園には人影一つ見当たらなくなり、周りには静かな静寂だけがただ永遠と広がっていくようにも見えた。

そんな夜。

対アンドロイド用作戦本部 (旧校長室)

パン!パン!!と高く乾いた音が断続的に少年の耳を叩く。

感覚はおよそ、二秒から三秒に一発と言った割合だ。

原因は旧校長室の窓を全開にしている、少年少女達。

彼らは即座に右腰に隠し持っていた拳銃を引き抜くと窓から真っ暗になった夜空に向かって狙い撃ちし始めたからである。

狙い撃ちとは言っても、すぐに暗闇の中に消えて行ってしまうのだが。どうやらその銃は内部の組織を少し改造しているらしく、発射された銃弾が時速二百キロで空気を切り裂くのだから、直撃すれば手足の骨を砕きその骨がガラスの如くバラバラにするほどの力を持つ。
それを、試すような感覚で撃っているのだ。

打ち終えた後、外の地面に空になった大量の薬きょうが小さく転がる音がした。

にも拘らず。

「はい、霧斗くん。初めてでも撃てるわ。」

そんな異様なことをやってのける中の一人、あすかがいつもと変わらぬ口調で黒く輝いた拳銃を少年に手渡した。

「きくのか?」

霧斗はそう質問しながらも差し出された銃を受け取った。
カチャ、短い金属音が鳴る。

初めて持った拳銃は想像していた以上に重みと存在感があった。

あすかはそれを見ながら平然とした口調で、

「足を狙いなさい。とりあえず追ってこなくなるわ。」

「初心者が撃って当たるのか?」

「そういうのは経験して覚えていきなさい。あたし達がそうしてきたんだから。」

そんな無茶苦茶な話があるか、と内心毒付いてしまった霧斗だったが、今はぐっとこらえる。

「…っ、いいだろう。」

彼が忌々しそうにそう言った時だった。

直後。
部屋中のカーテンが一斉に閉じられ、照明の明かりが消える。周りを囲むように展開された大きな机に設置される数十機の現代型パソコンが同時に起動された。それもたった数秒と言う驚くべき速さで。

最後に前方で満足げに立っていた茶髪少女が後ろの天井に取り付けられた小型スクリーンを一気に引き延ばすと、そこでようやくすべてが完了する。

「良い返事ね、霧斗くん」

その決め台詞にも聞こえる言葉を合図にして、少女が背にしている小型スクリーンに青白い映像が映し出された。映像はスクリーンの真ん中で立体的に回転するALIVEと記された校章にも似ているマークのみだ。

まさにここはどこかの作戦本部のようだった。

しばし唖然とした様子でスクリーンにくぎ付けとなってしまう少年を余所に、あすかはどこかに隠し待っていたベレー帽を被る。

まるで自分がこの作戦本部の指揮官であるかのような態度で。

この部屋にいた各々の視点がスクリーン一点に集められた。

霧斗の後ろではソファーでくつろいでいた様子のピンク髪少女・岩崎さんが「始まったか」と小さく呟いている。

徐々に部屋中から緊張感が感じられるようになったころ、ようやくここであすかの口が開いた。

「あなたにはまず慣れてもらうためにいつもやっている簡単な殲滅作戦に参加してもらうわ。作戦名…」

そこでまた区切った少女は、また緊迫感あふれる口ぶりで、

「オペレーション・ANNIHILATION (殲滅)」

その言葉が発せられた瞬間、霧斗の立ち位置的に若干後ろ気味で待機していた少年たちの声が上がる。

少し小柄な少年が「えぇ!?」そして薄紫髪の少年が「殲滅だとっ!?」おまけに巨体な横綱まで「これは大きく出たな…」と、それぞれが苦痛のような叫び声で騒ぎ始めた。

(オペレーション・ANNIHILATIONか…いったいどんな作戦なんだ?)

旧校舎の一室に少年の疑問だけがはびこり始める。

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