小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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学習棟A棟 屋上。

夜の闇に姿を溶け込ませることで自身の気配を最大にまで低くする。
暗闇に包まれた屋上には誰もいない。

はずだった。

突然、無線のような声が響く。

『こ、こちら大村。大変ですッ!!たった今、第二連絡橋で霧斗君が一人でアンドロイドに応戦中です!!』

慌てた様子の大村の声が鼓膜にまで達するのを感じると通信を強引に取り切った少女は改めて狙撃銃の標準を確かめる。

何度確認してターゲットを補足した標準に誤差は感じられなかった。

ここまでは狙い通りだ。

そう思いながら時を待つ一人の少女は今現在とある学習棟の屋上にいる。
少し肌寒い温度の中でそよ風が吹き、少女のピンク色を美しい髪が静かになびいた。

「そろそろだな」

そう言って薄く微笑む彼女は床にしっかり固定した愛用の狙撃銃を撫でた。
彼女もまたその少し変わった銃に見合う体制をとっており、周囲に人がいれば確かにそれは異様な光景にも見えるだろう。

確かに異様ではあった。

床に彼女もまた全身を床に顰めるようにして伏せオリジナルの制服には迷彩柄の防弾ジョッキをよそおった中型の収納服を着用。現代風に作られた最新型かつ改造を施したポルトアクション型狙撃銃は暗い空間の中で銀色の輝きを見せる。

先ほどまでのクールな雰囲気とは打って変わり、今は好戦的と言うよりもこの場を楽しんでいるようにも見える彼女の表情はとても歪んだものだった。

少女は岩崎と言う。(下は記憶喪失のため不明。)

唯一この学園でロボットに敵対するメンバーの一人であり反乱分子。
さらに、チーム『ALIVE』において最も銃の扱いにたけたその実力は狙撃犯のリーダーにまで抜擢されるほどだ。

今や狙撃のプロとまで慕われている。

しかし。
彼女にとってそれはほんの些細なことに過ぎない。

少女は自分の狙撃の腕前に微塵も誇りなど持ち合わせていなかった。
全ては銃の性能差ゆえに成り立つこと。

決して自分には溺れずそれ以上にライフルへの感謝を忘れない。
それが岩崎のポリシーであり、この世界での生き様でもあった。

譬えるならスナイパーと言った所か。

そして。
そんな彼女の指先がそっと銃の引き金に添えられる。

地上で動きがあった。

理由はそれだけで十分。
標準から覗く視界に映ったのは一人の少年とそれを追跡するように追いかける一気のアンドロイドの姿だった。

罠にかかった。

狙撃者としては絶好の瞬間だ。
あの新入りの少年がうまく機能してくれたようだ。彼がなんとなくバリゲート班の役目を一番遂行できているように感じたのは気のせいだろうか。

とにかく今は思考と集中力を共に一点の事に集結させる。

最後に彼女は吐き捨てるように、
「餌が餌に食いついたか」

直後。
狙撃銃の銃口が煌めき閃光がほとばしる。
改造され滑腔砲とかした銀色の銃が火花を散らす。

引き金が引かれた。

同時に。

ドォォン!!と。
狙撃銃の形状をした銃器にしては妙な轟音が鳴り響き、少女の耳を叩く。

標準を合わせた先では大量の粉塵が舞い上がり、白い煙が近くの周辺を埋め尽くしていた。射発された砲撃にも近い一撃が連絡橋付近で巨大な風穴を作ったのだ。

だが、それにも拘わらず。

岩崎の表情からは余裕が消えていた。
普通ならここですでに勝敗は下ってしまっているはずなのだが、向こうからは全くそのような気配は感じられない。

まだ終わってはいなかった。

次の瞬間。

強烈な斬撃波が少女の後髪付近を通過し、餌食となった髪の数本が散り散りとなって空に飛び散る。

「ッ…!!」

岩崎の頬に冷や汗が流れた。

これは敵のほんの挨拶代わり。
そして久しぶりのような気もした。

恐怖しているはずなのにこの状況を楽しんでしまうあの好戦的な感情。
余裕は消えうせたはずなのに薄れる事のない絶対的な自信。

再度狙撃銃の狙いを定めると今度は自然と笑みが零れ落ちてしまった。

少女は笑う。

この最高な状況の中で。

「今回の敵は本気で戦えそうだ」

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