小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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学園大食堂 一階。

内部の人口密度が異常にまで達した人ごみの中を少女はわずかな隙間を縫うように進んでいた。

そんな中、あすかはため息をつく。

「全然見当たんないなぁ」

彼女の目的はこの大食堂に紛れ込んだアンドロイドの殲滅だった。
しかし当のそのお相手が一向に姿を見せようとしない。

あすかは動きを止めるとその場で考える。

(おかしい、確かにジャミングは解除したはず。なのに何で現れない?)

再度周りを見渡して確認するが、視界に映るのは造られた生徒ばかり。
あたりまえのように白いボディーに身を染めたロボットなどどこにもいなかった。

少女は顔をしかめる。

(アンドロイドの特性は人間を最優先にして駆逐することのはず。ジャミングを解除した時点で本来なら一斉に襲いかかってくるんだけど…)

そこでいったん思考を停止させるあすかは、腰辺りにあったポーチの中から銀色の銃を抜きだした。

そして迷わず、

パン!
天井に向けて発砲した。

直後。
それを見ていた学生の一人が悲鳴を上げた。

そしてそれにつられるように。

誰かが叫び、誰かは出入り口に駈け出して、その場から離れだしたのだ。
一瞬の沈黙はそのまま混乱へと変貌する。

学生たちが一斉に出口へと走り出した。
一階も二階も関係なくただその場から離れていくように。

数分もせずに大食堂から人は消えうせた。

だが、残った少女は舌打ちをした。

手に持った拳銃を下におろすと彼女は新たに生まれた疑問に直面する。

「こりゃ前代未聞ね。この方法を使って現れないなんて異例中の異例よ。さすが新型、といいたいところなんだけど、なーんか腑に落ちないのよね。」

そもそもとして。

この発砲方法はアンドロイド発見のためによく使われる手段の一つだ。
発砲することでわざと自分の位置を知らせおびき寄せ、現われた瞬間を狙って一斉に銃撃。
おもに学生の集団の中に紛れ込んだりして発見が面倒なときに有効だったりするわけだが、今回は違うようだ。

現われない。

監視カメラをジャックして強引に行内全体を観察していたが、確かにこの大食堂に出現したのは確かだった。この目で見た、というよりも監視映像にそう映っていたという方が正しいか。

アンドロイドの特性はすべてにおいて人間の駆逐を最優先させることにある。

人ごみにあえてまぎれるのは戦いを拒むわけではなく隙を見計らっているだけなのだ。だからこそ、その好戦的な思考パターンを利用し様々な対策が今まで数多く組まれてきた。その一つにあすかが行ったあの発砲作戦も入る。

さらにアンドロイドには『ジャミング』と言う厄介な特殊機能を持ち合わせていることが最近になってようやく明らかになった。

アンドロイドが人の集団に紛れ込んだりする時、白色のボディーのまま割り込んでも意味がない。
そのため辺り一面にある一定の電波を体内から発生させ人間の五感の一部を妨害する。それにより引き起こされるのは視界の異常。

たとえばアンドロイドが普通の人間に見えたり、その場から完全に消失したかのような錯覚を引き起こさせる。

しかし、あすかはしっかりジャミング対策をしていた。

見えないはずがないのだ。

少女は静かに思考を巡らす。

(考えられるとすれば二重のジャミング攻撃。一つ目に旧式を、そして二つ目に最新式を組み合わせてきた?)

となると非常にまずいことになる。あすかにはいまだ見えていなくても新型のロボットには丸見えの可能性が出てくるのだ。

今狙われると確実に死ぬ。

少女はすばやく銃を腰辺りから抜くと身構えたが、それでも考えを中断するわけにはいかない。

(だけどもしそうだとしたら今頃私は殺されているはずよ。だけどそうはならなかった…)

「まさか」

そこで彼女はある一つの考えが浮かび上がった。

もし、あの監視映像の記録が全て嘘っぱちだったとしたら?

前提が間違っていた。

アンドロイドがこの大食堂に侵入したというところでもう間違っていたのだ。
とすると、監視カメラの記録に残されたものはすべてダミー情報だったことになる。

あすかはぞっとした。

それがもし本当だとすれば映像により映し出されたアンドロイドはすべていなかったことになってしまう。

それは、つまり…

(この映像にハッキングして嘘の情報に切り替えたアンドロイドを覗いて、今回ロボットは存在しない!?)

これが新型アンドロイドの実力。

全てを騙しておいてなお、高見であざけ笑う者。
完全になめてかかっていた。

その油断につきこまれた結果こうなってしまった。
しかし、じっとなどしていられない。

この大食堂にロボットは入ない。
おそらくメンバーに支持した場所のほとんどがダミーである可能性が高い。
そして、仲間を配置したどこかに必ず現れる。

たとえば。

このチームの中で一番の弱点になる人のところへ。

突然耳元の通信機に連絡が入った。

『ザザ…あすかさん!大村です!!アンドロイドが第二連絡橋に出現しましたッ!!』

そこで通信機の向こうから何かとてつもない爆発音が炸裂した。

最後にあすかは静かに質問する。

「そのアンドロイドは?」

そして、予想していた返答が返ってきた。

『はい!どうやら新型のようです!!今ほかのバリケード班のみんなが向かっていますが…って、あすかさん聞いてます…』

通信を切った。

大きく深呼吸をすると少女は迷わず走り出す。
このままでは仲間が死んでしまうかもしれない。

いそがなければ。
少年の元へ。

「霧斗くんが危ない!!」

少女の叫びが大食堂に広がっていく。

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