小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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学園大食堂 周辺

「こりゃどういうことだ?」

日村は頭をかしげて呟く。

彼はあすかの指示により大食堂付近に派遣された戦闘員の一人だ。
新型のアンドロイドはあすかに任せておき、日村を含めるほかの戦闘員はその周りで外部からのロボットの侵入を阻止する役目にあった。

対アンドロイド用に特殊コーティングされた制服に身を包み、改造サブマシンガンと手榴弾で武装したついでのような仕事だ。

現在、作戦開始時刻はとうに過ぎており、そろそろノーマルなアンドロイドが姿を現してもいいのではないか、と思うほどの時間が経過していた。

にも拘らず。

その肝心なアンドロイドが一向に現れない。
何度周囲を確認してもロボットの姿らしきものは一つも発見できなかった。

日村は諦めるように鉄製の柱に背中を下すと、一つ大きなため息をする。

「…しっかし、こんなに静かだとかえって薄気味悪くなっちまうなぁ。」

少年は首からぶら下げていたサブマシンガンから両手を離すと野放しになった自身の右手を力強く握りしめた。何度かその動作を繰り返した後、彼は少し苦笑する。

「ハハ…今まであれだけの数を相手にしてきたのに、まだ震えがとまんねぇや。」

自分の手を見ながらぼやく少年は、やがて前方にあった外灯に銃の狙いを定め始める。
意味は特になかったが少しでも銃に慣れておくため、そして自身のショットをより正確にするためだった。

日村は静かに標準を合わせると、小さな光を放つ灯を容赦なく撃ち抜く。

直後。
ドババババババ!!と甲高い音が連続して鳴り響いた。

破壊された外灯から数ミリ単位の破片が大量に飛び散り、唯一辺りを照らしていた光は闇の中に拡散して消えていく。

カチャ。

撃ち終えた日村は銃の標準から目をそらすと前に広がる虚しい光景を冷めたように見つめた。
しかし、周辺には目立った変化は何もなく、空となった薬きょうだけが床に転がっていく。

「っち、やっぱしでてこないか」

少年は舌打ちして今度こそ柱に背中を下すとしばらく黙りこんでしまう。

だがそれと同時に、日村は考える。

(アンドロイドが現れないって、今思うと前代未聞じゃね?つーか、まだ銃声も聞こえないし。…俺が撃った分はカウントに入れないでだけど。)

妙な風が少年に吹き付けあたりに不穏な空気が流れる。

日村はあまり直感が鋭い方ではないが、それでも今回ばかりは何かしら感じ取ることが出来た。

…なにかおかしい。

背中突如に悪寒が走り、少年の思考を強引にとがらせる。

日村は眉をひそめた。

(なぜ、アンドロイドは姿を見せない?遠くで発砲がないってことはやっぱしロボットがまだ出てきていないって事だよな…。でも、あすかの指示が間違えているとは思えないし…)

「もしかして」

そこで日村は思いのほかひらめく。

(ってことは、あすかにに背の情報を流した奴がいる?だけど、うちの仲間で裏切るような奴は絶対いないし…うーん、やった奴は人間じゃないのかもしれないな。)

そこでいつもより自分がさえていることに気付く少年はさらに妄想を加速させ、

(さしずめ人間じゃないとすれば、AIMかアンドロイドしかいないから、どっちかっていうとロボットの方かな?もしそうだとすると、ダミーの情報を流されたあすかの指示は必然的に間違っていることになる。…それが今の現状?)

それが本当ならその理由は考えるまでもないだろう。

相手を混乱させ、そのどさくさに紛れて敵を打つ。
いそいでこれをあすかに報告しなければならない。

だが…。

そこで彼は自ら引き出した考えを否定させ、自身の意思を阻害してしまう。
これはあくまで妄想だと勝手に判断し、無かったことにしてしまう。

最後に日村は退屈そうに言った。

「あーあ、これがもし正解だったらなぁ」

これが、日村と言う少年の生き様。

自分の意見はあまり口にせず、他人にすべて任してしまう人生。
それが少年を『たまにやる男』にでっち上げ、今に至らしてしまっているのかもしれない。

そのありきたりな答えが、すべて間違っているとは限らないのに。

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