小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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学園 第二連絡橋 真下

渦巻は茫然とした。

突如、真上で橋として機能していたはずの鉄筋が次々に少年の目の前で落下していく。厖大な数の遮蔽物が地面に接触するたびすさまじい轟音が炸裂し、大量の砂煙が辺りを埋め尽くしていった。

「な、何が起こってやがる…!?」

考えることも動くことさえままならない。

鉄筋の落下により引き起こされた地面の揺れは容赦なく渦巻の体を右左へ揺さぶる。手に持った木刀を強引に下へ突き刺すことで何とか今の体勢を維持しているが、正直なところ周囲の状況に目をやることが出来なかった。

イライラしながら少年は舌打ちすると、

「くそっ、上でアンドロイドが現われやがったのか!!あの新入りまさか殺られちまったんじゃ…って、やべぇ!大村はどこに行ったんだ!?」

真上に入る新入りに気を配っている場合ではなかった。そんなことよりあの水で酔った童顔野郎の身が危ない。
しばらくしてようやく鉄筋の落下はおさまり、自身のような揺れもおさまった。

頭よりも先に体が動く。

砂埃のためあまり前が見えなかったが、落下点の音を目印にただひたすら走り続けた。無我夢中で直進する少年はやがて砂埃から抜け出すと、そこで驚くべき光景を目の当たりにする。

そこには、大量の遮蔽物が積み重なり巨大なオブジェを模った鉄筋の残骸があった。
きれいに消え去った大橋を余所に、薄い光が偶然できたようなこの場所を明るく照らし出している。

だが、驚くべき光景とはこれをさすものではない。
「あッ…!?」

思わず奇声染みた声を発してしまう渦巻の目の前には、何事もなかったような顔で済ましている一人の泥酔者が。

「う〜い、なんかあったの?」

そう言ってへらへら笑う大村は、そもそも自分の状況を完全に理解していない。

空気を読め、と言えばまったくその通りなのだが、残念なことにそれ以上に異常なことがあった。

たとえば、積み重なった鉄筋のてっぺんに自身が今立っている事とか。

大村は何も気づかぬまま高さ数十メートルの巨大なオブジェに座り込んでいたのだ。

童顔の少年は大きな鉄筋の上で胡坐をかくと持参のミネラルウォーターを一気に飲み干した。どうやら完全に酔いが回ってしまったらしく、そのまま落下した斜頸物に倒れ込んでしまう。

大村はへらへら笑う口調で、

「ああ…やべっ、気持ち悪ぃ。つーか、水飲んでふつう酔うのかな〜?うーんあ、あれ?…っ!?って、あれぇぇえええ!!?」

「…っち、今さら自己暗示が解けたのかよ」

と、木刀をなぜか振り回す渦巻はどうでもよさそうに吐き捨てる。

しかし、その一方で暗示が解けてしまった元泥酔者と言えば、

「というかなんで僕はこんな高いところにー!?こ、怖くて降りられないよー!!誰か助けてぇぇええええ!!」

やっと自身の状況を把握した大村は恐怖で絶叫した。

下でそれをため息交じりで眺めていた渦巻は仕方なく呟く。

「…助けてやるから待ってろ」

それだけ言うと、少年は木刀を投げ捨てて無言のまま鉄筋の山を登り始める。
真上で感激する大村は泣きじゃくるような感じで何やら言っているようだったが、渦巻はあえてそれを無視した。

一々返事を待っている時間などどこにもない。
というか、それどころではない。

積み重なった鉄筋を必死でよじ登る渦巻は心の底で叫んだ。

(やべぇぇえええええええええええええ!!絶対あすかに怒られるッッッ!!)

アンドロイドの追跡もそうだが、一番怖いのはやはりあすかの厳しいお仕置きである。もはやボコボコにされるだけでは済まされないかもしれない。今すぐ大村を救出して言い訳を考えなければ。

渦巻の額から汗が吹きでる。恐怖がせりあがった。

しかし、
直後。

大村の横に人影が現れる。

真上で大泣きしていたはずの大村の姿が何者かにより一瞬で消え失せる。
何事かと思い辺りを見渡す少年だったが、すぐにその理由を悟った。

消えたのではない。連れ去られたのだ。

一人の少女の手によって。

「大村君!!会いたかったぞー!!やっぱり、いつみてもお前は可愛いなぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

童顔の少年を無自覚に救出した忍者少女の栞が大村に抱き着いていれば、

「あれーっ!?栞さん、急にいなくなったと思ったらこんなところに…まったく、いい度胸ですーっ!!」
と、眼鏡の長身男が追っかけてきたり、

「貴様高杉『団体行動を心がけましょう』はお前のもっとうではなかったのか!?」

と渦巻がイラッとするほどの巨体を兼ね備えた横綱力士が後ろから現れたり、

「おー、なんか音がしたと思って来て見たら仲間だ、仲間!!なんで皆集まってるんだ!?」

大食堂で待機していたはずの日村が駆けつけて来たりと。

あっという間に、見る見るうちに、
ALIVEのメンバーの一部がここに集結した。

渦巻は鉄筋の山から飛び降りると、汗ばんだ額に手を当てて、

「ちょっと待て、待てよ。ここは明らかに俺の場面。あんた等出てくるにしてもうちょい後にしろよ!!こ、このままじゃ背景に埋もれる……っ!!木の葉を隠す森を勝手に作られた!?」

彼の目の前で状況は徐々に変化していく。
戦いと言う大きな歯車に乗せて。

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