学園 学習棟B棟 屋上
薬莢の鉄臭い匂いを鼻孔から軽く吸い込んでいた小鳥遊だったが、意識を切り替えるため、意図的に双眼鏡で周囲を見渡した。
前方のグラウンド、その全てが奇麗に消失。
今なお続く砲にも近い銃撃に合わせ、学習棟の建物全体がわずかに上下している。
とはいえ、ここは学習棟の中ではない。
学園の周りすべてを見渡せる、大きな屋上だ。
「……まさか、あすかさんのオペレーターである私が単独行動をとっているとは」
彼女が呟くと、耳元にある小型の機械から見知った声が飛んできた。通信機の向こうに入るのは、おそらく狙撃班のリーダーである岩崎だろう。
『今の戦力じゃ、地上で銃弾を連発する弾薬もあまり残って無いからな。当然、そのほとんどを私が所持しているってのも理由の一つなんだが』
確かに、この世界の銃と言えばARDBT…いわゆる対アンドロイドのために特殊強化された拳銃が主流となる。
対アンドロイド用に改造された滑腔砲モデルの狙撃銃を使うのは前代未聞だが、技術的には不可能ではない。
多くのチームメンバーがそれをやらないのは、その必要性を感じないのと弾不足のせいだ。アンドロイド対策に改造された拳銃と違って、『徹底した殲滅』を名目とした滑腔砲モデル・ライフルには、莫大な出力を使うのと一発の銃弾だけで広範囲に渡り破壊しつくしてしまう欠点がある。むしろ事前通達をしておかなければ、標的であるアンドロイドとまとめて迎撃されたり、重要な移動ルートを潰してしまう恐れすらある。
「確認を取ります。グランドの約中央に位置するNEWモデル・アンドロイドへの干渉方法は、狙撃銃モデル・滑腔砲によるものでよろしいのですね?」
『そうよ』
と岩崎は答える。
『一般の拳銃でもマシンガンにしても、「あいつ」には適さない。そこをわざと狙っているからな。だったら、残った地上の銃弾で一斉攻撃した後に、今度は空から大量の戦車みたいな大砲で地上攻撃のすきをついて一気にとどめを刺すしかない』
「……また大雑把な作戦ですね」
『だからそれをほかの連中に知らせるためにオペレーターであるお前を使うってわけ。いったん下で銃撃戦やってから再び上から奇襲。……言葉でいうのは簡単だが、実際には銃を扱う初心者には分からない、いろんな課題がある。』
「単純に、軌道上から標的へ撃つだけではダメ、という事ですね」
『銃器類による攻撃は相手の特殊能力で妨害されかねないって話だけど、オカルトチックな攻撃って、それこそ科学技術に関しては無防備って事でしょう?結局は全部同じって事だよ。新型アンドロイドへの銃撃は、念のため私たちの技術で防護できる環境を整えた方が良い。』
「……ターゲットの弱点は未だ分かっていないのですか?」
『少し前に合流した比沙子(ひさこ)と調べているが、銃撃戦までには間に合いそうにないな』
岩崎も苦い調子で答えた。
『どういう技術が使われているのかは不明。当然、私の銃の攻撃を退けられるあの薄青いバリアみたいな放出物についても、詳しい突破口は分かっちゃいない。それに状況を察して判断すると、おそらく監視の映像を勝手に偽造してダミー情報を流した犯人もおそらく新型のアンドロイドで正解だろう。……まぁ、その方法もいまだ分からずじまい。全くの謎状態。事態が進行している間に相手の手の内が分かるかどうかも保証できないな。』
ふぅ、と小鳥遊は息を吐いた。
「我々の技術で防護するのは分かりました。しかし、科学の技術による銃撃は簡単に妨害を受けます。その辺りはどうなっていますか?」
『あれは、あくまでも安定的な「飛翔」に関して適用される。今回の場合は普通の軌道上まではいつも通りに射発するんだ。そこからは特殊技術で評的にジャミングをかけて外部の情報を妨害させる。空から降ってくる銃撃の雨が分からなくなる様にね。この滑腔砲モデル・ライフルは「確実に敵を殲滅させる」ことに重点を置いて作られているから、狙いを外すことはまずありえない。』
抜け道を探すのも、戦闘の基本である。
そういった抜け道はその都度塞がれていくが、その変化に応じて別の抜け道を探し続ける。いたちごっこのような構造が、チームメンバー全体を微生物のように蠢かせているのだ。
「了解しました」
金髪ツインテールの少女はそう言って通信を切る。
その時、何もないはずだった右手から始まり、小鳥遊の右肩にかけて情報板が具現化されたような羅刹する文字が出現した。
そして、その不可解な現象が終わるとそこには……
「これが新しく作られた銃器の一つですか。…どっちかっていうと、これロケットの類にも当てはまる気がしますが」
何もないはずだった。
だが存在する。
少女の体の約半分で支える巨大な銃器の先端部分にはこうあった。
Ardbt-Series.
Modeicase-‘‘LAUNCHER‘‘
アンドロイドを『徹底して殲滅する』事に特化して作られた銃器のモデル。
数秒に数百発小型ロケットをさらに強化したミサイルが飛ぶという時点で、『それ』は恐怖を完全に定義していた。
先端科学技術が使われすぎていてどのような原理でこの右手に武器が出現したのかも彼女にはよく分からなかったが、それでも構わない。
小鳥遊は黒い塊のような武器に寄り添うような形で標準を見定めると、
「ぼちぼち」
そこで少女は一回区切り、
小鳥遊は無表情のまま言う。
「反撃戦と行きましょうか」
De-tao-ba-araibu30 end