小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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第二連絡橋というのは、この学園特有の全寮制サービスの一つだ。言ってみれば、どこにでも架かっていそうな一般の橋をさらに大きくしたようなものに近いかもしれない。生徒は時間ごとに多く利用し、その中で登校したり下校したりできる、ということだ。

学園の総生徒数は約二千人強で、その全員が管理された学園寮で暮らしている。
学生寮は言ってみれば『お金で買える秘密基地』。『自由な空間』が生徒の呼び込みとして成立していること自体、学習棟と寮との行き来として機能しているこの連絡橋が支えているといっても過言ではない。

建物は巨大な大橋で、学園中に複数設置されている事から橋には数字の番号が振ってある。

その中の一つ、庭園あたりに設置された第二連絡橋付近に、霧斗達は逃げ込んでいた。

「……、」

霧斗は跡形もなく落下して崩壊した大橋の残骸に目を落としていた。

その瞳にはまだ自分を含めあすかに気付いていない、大村、渦巻、栞、日村、高杉、松山の姿がばっちり映し出されている。

彼ら達であれば、少なくとも自分より確実に新型アンドロイドに対する戦力になるはずだ。

こちらの事情は察して分かるだろうが、『ALIVE』の面々はおそらく連絡が取れなくなった霧斗とあすかを探そうとしている。それは誤算だが、『答え』を教えれば、彼ら達は集まってくれるだろう。

なんとか、

(……合流することはできそうだ)

しばし苦笑した後、霧斗は使い物にならなくなった通信機の電源を切った。

アンドロイドが関わってくるのだとすると、『ALIVE』の面々にとっても他人事ではなくなってくる。だが、だからと言って、あの『新型』に関わらせるのは話が別だ。霧斗は、正直自分の保身のために彼ら達を巻き込むのはあまり気が進まない。

すると、隣で安堵する、事情を知らないあすかが声をかけてきた。

「霧斗くん、他のみんながここに集まっているってどうして分かったの?」

「いや、ほとんど偶然さ」

霧斗は首を横に振った。

もともと、根拠があった訳ではない。

新型アンドロイドが霧斗の配置された第二連絡橋に現れた時、強烈な斬撃波で大橋刃物も無残に破壊されてしまっていたが、しかし、それと同時に大量の粉塵が空に舞い上がり、地響きのような凄まじい炸裂音が生じていた。それが別の場所に待機していたほかのメンバーに敵が出現した場所と座標を教えていると霧斗は踏んだのだ。

その結果として、数人の仲間たちがここに集結している。
今思えば、本当に偶然だったのかもしれない。

霧斗は少し間を開けると、下で集合した少年達に木の枝を使って指示を行っている栞に目をやりながら、小声であすかに話しかける。

「それより、どういう事なんだ?あのアンドロイドが『新型』だってのは分かった。でも、なんで今は『新型』のロボットに襲撃されない?」

「実は正確なことは分かっていないの」

あすかは硬い声で答えた。

「私たち自身に何か問題があるわけじゃない。学園中に配置した戦闘員の面々が、おとりになっている……なんて線じゃなさそうだし、オペレーション前に仕掛けた本物の『罠』で足止めされる事もなかったはず。せいぜい、私や霧斗くんと接点があったところが精一杯ね」

「……、」

「となると、考えられるのは自意識の発達による自我の思考能力で、体力の回復を優先させることにしたのか、追跡するセンサーがさっきの戦いで故障したのか、そのあたりの関連性が高いことになるわ」

「いっちゃなんだが、ロボットだぞ」

とにかく、今のままでは情報が少なすぎる。

何故今狙われていないのか、どの程度の出力で先ほどまでの戦闘を行っていたのか。向こうの目的以外に知ることがあれば、生き残るための段取りを組み立てる一助になると思うのだが……。

「……現在出現中のアンドロイドの行動には前例がないんだよな。でも、確かに『新型』は今までにない武器で俺達を狙っている。逃げながらでも、そっちについて調べてみないと」

「反撃は安全を確保してからね」

あすかは言うと、連絡橋の方へ向かう。

「どこ行くんだ」

「下で馬鹿やってる連中と合流してくる。改めて考えたんだけど、ここも安全とは言い難いわね。ここは中継ポイントよ。下のメンバーのネットワークを使って、別の隠れ家に移動した方がいいわ」

「大丈夫なのか?」

「言ったでしょ。私はこのチームのリーダーよ。一度指示を間違えたくらいで、諦めたりする事はない!!」

言いながら、あすかは落下して積み重なった鉄骨に足を付ける。

体を斜めに傾かせたところで、彼女は振り返った。

「霧斗くん」

「何だよ?」

「あなたがいてくれて本当に助かった。恥ずかしいけど、それは認めるわ」

霧斗が答える前に、あすかは橋の下に降りて行ってしまった。

なんとなく居心地が悪くなった霧斗は視線を辺りへさまよわせたが、そこで彼はしかたなく少女の後を追った。

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