小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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屋上から見下ろすグランドの惨状を共有する事はない。

完全な危険区域に、長い金髪ツインテールを不自然に揺らしながら、小鳥遊は耳元にある通信用の小型機械に話しかける。

「アンドロイドの特殊妨害電波の持続時間は終了しました。そちらでも通信機は使えますか?」

『通信は確認できている。接続不良のミスもなさそうだ』

返答したのは、比沙子と呼ばれる狙撃班の一人だ。

「セキュリティの包囲網や、土地の特殊磁場などを組み込んだ学園内での妨害電波の行使とは、あまり長く続かないはずです。こちらでも気をつけますが、細かい敵性電波の数値変動は厳密にパソコンのモニタで確認しているそちらの方が調べやすいはず。注意していただけると幸いです」

『外部からの影響などをも含めて、変動は常にチェックしている。磁場の流れ、学園の周囲に張り巡らされたセキュリティも、現在では正常通り。突然『新型』が電波的な反撃を行ってこない限り、作戦行動および通信に支障をきたすようなエラーは起こらないものと推測されるぜ?』

当然、ALIVEのデータベースから、磁場やセキュリティの記録などは開示されているだろう。

小鳥遊は通信機を維持させたまま、屋上の出口へと向かう。

片腕をわずかに動かすと、ガチャリという金属質な音が続いた。

特殊構造で重さは感じていないが、今の小鳥遊は破壊を徹底して造られたとされる漆黒のランチャーを構えていた。武器の射発部分には小型ロケットが大量に備えられており、その周りにはごちゃごちゃとした装置が付け足されている。

地上を歩くとすれば、本来相当の重装備であるだろう。
重さや外部からの攻撃用に強化された『制服』を着た小鳥遊ならとにかく、並の人間なら潰されていただろう。

だが、仮にアンドロイドを専門に研究している者が見れば、小鳥遊を慌てて止めたかもしれない。そんな軽装で『外』へ出るなど自殺行為だ、と。

単に『新型』との力の差だけの問題ではない。戦闘能力以前に、強化機関銃や斬撃波の問題で即死するのは避けられないからだ。

「武器威力の確認は終了。これから屋上を出て『外』へ行きます。近くに『新型』が潜伏しているそうですが、構わないとの事でしたね」

『敵も体力保持のために力は温存しておきたいものだろう。元々、長期戦のタイプではない造りになっているようだしな。ただ、万が一って事もあるから、その点は注意しておいて』

「……そうでなくては逆に困ります。もしも『新型』が今なお動き続けていたなら、そもそも『外』へ出る事も、危険区域に再突入する事もできないでしょう」

『新型アンドロイドについては、そのまま放っておいても数十分ぐらい動きは見せないだろう。まぁ、体力をある程度回復させても、攻撃出力の高さから見て自然と力尽きそうだし。いずれにしても、朝には『消滅』するように設定されているから気にする事はないよ』

「了解しました。では」

『いってらっしゃい。無理はするな』

その声を聞き、小鳥遊は出口であるドアノブを迷わず回した。

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