小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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チームALIVEの狙撃班に所属する少女、比沙子は銃に恋する乙女である。

なので、新型アンドロイドが出現し、いつチームが壊滅してしまうか分からない状況であっても、やはり『相棒』を近くで確認できない事は、少なからず比沙子の精神状態へ影響を及ぼしていた。

こうしている今も学習棟A棟の屋上で様々な情報の分析を行っている比沙子だが、その効率は平時の半分以下にまで落ち込んでいた。

気分が下がっている。
一つの事に集中ができない。

モニタの映像から送られてくる情報よりも、体の内側から生まれる情報の方が桁外れに多い。頭の中で目まぐるしく行き交う様々な意見、思考、アイデアなどに、自分自身の整理能力が追いつかなくなっている。

平たく言えば、かなり困っていた。

そんな比沙子の様子を見かねたのか、同じくALIVE狙撃班の『現在』リーダー・岩崎というクール系美少女がアクションを起こした。

彼女は比沙子に向けて、の狙撃銃を軽く放り投げたのだ。

少女はおっかなびっくり両手で狙撃銃を受け止め、

「!」

「ちょっと単純な方法で思考の最適化を手伝ってあげる。オペレーションが始まってから、銃に触れる機会も多少減ったと思うしな。試しに撃ってみろ」

岩崎は肩でボルトアクション型狙撃銃のバレットM95を担いだまま、そんな事を言った。

「あ、ああ。私の本来の狙撃銃は『相棒』なんだけどな……」

ブツブツと小声で言いながらも、比沙子は両手で銃を構える。

それだけで周囲の空気が一変し硬直化するというのだから、彼女も彼女で相当の使い手ではある。

と。

そこへ、先ほど集合し『作戦』のため屋上全体に対アンドロイド用ミサイルを設置していた狙撃班のメンバー達が、面白半分で指を差しながら小声で話し始めた。

「み、見てくださいよ愛実(つぐみ)!先輩達の狙い撃ちバトルが始まるみたいですよ!!」

「ケンカを囃し立てるとか後輩のする事じゃないでしょ凪咲(なぎさ)」

「きっと百発百中ですよ!こう、こうやって、片手で引き金引いてどっばーんって撃ち抜くんです!!」

猫騙したいなジェスチャーをしてはしゃぐ愛実の声を聞き、岩崎の顔から変な汗が出始める。

当然、この世界に合わせて独自の進化を遂げた狙撃班は、各種の銃撃術もそれなりに取得している。……のだが、だからこそ、彼女らの扱う技術は実戦に特化している。暗闇での狙い撃ちのような、『できたら間違いなく達人クラスの証明になるが、でも実際に使う場面ってなくね?』という部分はスッポリ空白となっているのである。

とはいえ、あの純粋キラキラ目を裏切る訳にはいかない。

比沙子はひそひそ声で、

「(おっ、おいっ、あれは、その、どうするんだ?)」

「(仕方ないな……)」

岩崎は手の中にあった銃弾をバレットM95に装填して、完全な狙撃スタイルを保持。

その上で、真正面からグランドを見て、比沙子に叫ぶ。

「よく見ておけ比沙子!!本場学園プロの狙い撃ちを見せつけてやる!」

「ええっ!?本気でやる気か!?狙い撃ちとはいえ、暗くてよく見えないのに!!」

比沙子の声が大きかったせいか、それまで興味を示していなかった準備中の他のメンバー達も何だ何だと集まり始めた。あっという間に屋上の中央には数十人の人だかりができる。

岩崎が狙撃銃を構えるその先には、破壊されたミサイルの残骸がものうっすらと見て取れた。

もういろいろと後に引けなくなった比沙子は、肩を縮ませながら、

「い、行くぞ?じゃあ、三、二、一で先に撃ってくれよ?」

「そんな合図なんぞ必要ない!いつでも撃ってやる!!」

「さ、三、二、一……」

パァァーン!!!!と。
岩崎のバレットM95から射発された銃弾が勢いよくグランドの地面へ食い込む音が、屋上中に炸裂した。

全ての動きが止まっていた。

大きく狙いを外した岩崎の方が、口をパッカリと開けて唖然としている。比沙子の両手は頭の上の部分で不恰好なまま止まっており、誰がどう見たって狙い撃ちが失敗したのは分かり切っていた。

(ふ、フォローしないと……)

狙撃班リーダーの大親友でもある比沙子は、日本の生き恥の概念に基づき、とっさにリーダーを立てる事へ思考を巡らせた。

(早く何とかフォローしないと、このままじゃ岩崎が真っ白な灰になっちまう!!)
「い、今のは練習だよな!?ノーカンノーカン!!」

しかし岩崎の方は声には出さず唇だけ動かし、『ば、馬鹿。こんな暗闇で狙い撃ちなんてスコープでもないと無理だって!それだと最低もう一回はチャレンジしないといけなくなるだろ!!』と、必死なコメントを出そうとしていた。

だが吐き出してしまった言葉はどうにもならない。
二回目のチャレンジが始まる。

パァァァァァァーン!!!!と。
もはや狙いが逸れたどころではなく、前方の樹木を勢い良く撃ち抜いてしまう説明不要の結果がリーダー岩崎に襲いかかる。

狙撃スタイルで硬直する体とは裏腹に両目を中空でさまよわせる岩崎は、今度の今度こそ灰になって風へ流されようとしていた。

な、な、何とかしなきゃーっ!!といろいろテンパった比沙子はさらに、

「そ、その銃だからいけないんだよな!?実戦で使う本物の銃はこんな軽量じゃないから、重さが軽いバレットM95じゃ手元が狂うっていうか!!!」

「(ばっ、ばかっ、比沙子、この馬鹿ーっ!!)」

岩崎が反論しようとしたところで、同じ狙撃班の香乃(こうの)が、

「じゃあこっちの実験用狙撃銃を使えば良いんじゃないですか?きちんと表面をコーティングしてあるから重さだけなら実戦銃と変わらないすよ。……制御装置がついていない分、威力は本物の強化弾以上ですけど」

「こ、こ、ここここここ香乃!!お前のアシスト絶対に確信犯だろ……ッ!!」

ドゴォォォォォォン!!!!!!と。
頭蓋骨が深刻なことになっていそうな音が炸裂した。

凄まじい轟音が辺りを埋め尽くし、グランド中央の地面が粉々に砕け散った。

が。

唯一足りないものと言えば、的であるミサイルの破裂音と爆発により生じる紅蓮の炎か。

もはや恥もクール性もなく両手で頭を押さえてのた打ち回るリーダー岩崎。どこまでいってもフォローのできない比沙子は混乱の極みにあり、あわわわわわわわわわわわわわーっ!!と必死に頭を高速回転させた結果、

「実験用狙撃銃なんてダメだ!!こんなの実戦で振り回すやつなんていないもん!狙い撃ちなら!新種の精密照準を要した狙撃銃なら百発百中で撃ち抜けるのに、でもまーこの戦場化の中でそんなのないから仕方がないかーっ!?」

「あるわよここに。『ボルトリック・ガトリングショット』で良ければ」

同じ狙撃班の少女・ふわふわ金髪の相馬(そうま)からベストなタイミングで手渡されてしまった比沙子は、カタカタと小刻みに震えながら岩崎の方へ目をやった。

少女の手にあるのは、超遠距離からの連続射撃が可能な先端科学の結晶。

最新科学技術の機能を組み込んだ狙撃銃。

暗闇で一キロ以上離れた距離からたった一撃でアンドロイドを破壊した伝説的な機能を持つ。それも多彩な技術を使用して。率直に言って、人間の動体視力では到底撃ち抜けないレベルである。ましてその銃器本体に電波を使った精密照準を設置し、赤外線装置や光学照準とかを上乗せしちゃってとんでもない裏技的な力を発揮しちゃった暁にはどんな結果を招く事か。

『おおっ、次は本気みたいですよ!次こそバッキューンって撃ち抜くみたいです!!』と瞳をキラキラさせるメンバーたちの声を耳にしながら、岩崎は小声で言う。

「(……い、いや、もう良いんじゃないかなー正直ここまで頑張れば努力賞ぐらいは貰えると思うだけどさだから比沙子もそんな肩肘張らなくても……)」

「いいや」

スラリと銃を構える比沙子は、何やら勝手に覚悟を決めてしまったらしく、

「これ以上リーダーに恥をかかせる訳にはいかない。岩崎にここまで上塗りさせてしまった以上、せめて有終の美を飾るのが私の務め。終よければすべて良しだ」

「はっ、恥がどうのこうのというレベルを超えてるぞ!!こんなもんまともに撃ったらグランドに巨大なクレータが出来る!やるにしてもせめて力を抜いて速度を下げるとか色々……ハッ!?これはまさか追い詰められた人間が性能以上の実力を大覚醒させる例のイベント的な何かなのか!?よ、よーし岩崎さん内に秘めた才能とか掴み取って新たな主人公になるために頑張っちゃうぞー何だぜーっ!!」

ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!と先端科学の塊が火を噴き空気を切断する恐るべき音が炸裂する。

撃ち出された銃弾の威力はいかに!?
次回に続く!!

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