小説『データ・オーバーアライブ』
作者:いろは茶()

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天井までビル二階建て以上の高さがある、巨大な倉庫の中だった。

ちょっとしたプールほどの広さもある手すり付きの籠の中には様々な運動系器具が積んであったが、実際には偽装だった。ドーム状の空間の外側にそれっぽく立体映像を流しているだけだ。

そして、内部は整備場に改造されていた。
アンドロイドの、である。

ギシギシと、科学性スプリングの軋む音がした。

アンドロイドと戦っていると、何をするにしても常にこの音に包まれる事になる。衣服の衣擦れの音に近いが、慣れない人間が聞き続けると精神に変調をきたす、という噂もあるようだ。

『妨害電波の行使には不向きな土地と言うことは以前から知っていたが、まさかここまで早いとわな。ふん、だが作戦の誤差範囲内だ。このままでも問題はない』

音声が不安定な声が続く。

『アームズバスター』

――準備はできている。だが、回りくどくはないか?

『今のままでは、残りの出力が少ない。もう少し体力を回復させておいたほうが良い』

――となると、黒夜

『作戦も大詰めさ』

――ラインを限定させるなら、俺は先に『狙撃班』ってのを潰す方に回ったほうが良いんじゃないか

『潰せるものから一つずつ、順番に潰していくのが手っ取り早いが、生憎お前に残された時間は長くない。大体、お前は以前しくじっただろう。校舎の屋上にいた狙撃手を殺し損ねたんだからな』

――あれはお前が撤退を促したはずだが

『それがなかったとしたって、元々一〇〇点満点とは呼べなかったはずだ』

――剪定の意義を忘れるなよ

『分かっている。剪定の基本は、強く太い枝を選ぶ事だ。その意味では、あの枝が最も太く、なお扱いやすい』

――流血と危機感は枝を育てる水となる、か

『予定を確認する。お前はALIVEの主力部隊へ向かえ。体力の足りない分は「フィールド」でサポートしろ。敵の通信電波に関しては無視して構わない。出力の負担は少ないほうが良い。向こうも向こうで動き始めている。うまくいけば、後は磁石のように自然と繋がる』

――だが大丈夫か。先に『狙撃班』を奇襲して潰しておいた方が安全だ。主力部隊襲撃のためあすかに関われば、向こうが出てくる可能性は低くない

『それならそれで構わない。手間が省ける』

――黒夜

『アームズバスター。お前が懸念しているのは岩崎美織か?それとも近江栞か?』

――『情報思念体進化実験(データシフト)』だ

『ふん、霧斗か。なら大丈夫だ。お前の不安は杞憂に過ぎない』

通信相手の癖か。
いつものように、侮蔑の調子を混ぜた答えが返ってくる。

『何故なら、まだこの世界に慣れていないし、あの実験の当初からこいつはただの埋め合わせにすぎなかった』

少女はあっさりした声で、

『何より、さっきの戦いで体の芯から体力を奪われている』

――そうか

『お前の方こそ、前より地味になっていないか?予備の右腕とは言え、機関銃なんて珍しい』

――前にも言っただろう。重要なのは見た目じゃなくて実戦のインパクトだと

ギシギシと科学性スプリングを軋ませながら、新型アンドロイドは応じる。

『では、予定通り』

――そうしよう

『里見霧斗か』

まるで先ほどの言葉をすべて撤回するかのような言葉で、通信相手は忌々しそうに賞讃する。

『まったく、大した人材だよ。あのガキは』

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