小説『絶対に笑ってはいけないLIAR GAME』
作者:カテゴリーF()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

バス乗車



 とあるバス停に、長髪の女性が一人やってきた。彼女は黒い封筒を手に持ちながら、そこにあったベンチに座った。

「事務局はまた、ライアーゲームを……」

 彼女の名は神崎直。ライアーゲーム……勝てば大金が手に入り、負ければ巨額の負債を背負う、騙し合いのゲーム……の元プレイヤーだ。彼女が手にしている黒い封筒には、白い文字で『LIAR GAMEのご案内』と書かれていた。ファイナルステージでライアーゲームは崩壊したはずだと彼女は思っていた。しかし、再び彼女に招待状が届いた。

 彼女は迷うことなく参加を決めた。事務局に勝利し、今度こそライアーゲームの呪縛を解くために……。

「あれ? 直ちゃんじゃん。やっほー」

 事務局の迎え待っていると、直に声をかける男性が現れた。

 マッシュルームカットに黒縁眼鏡、派手な色のシャツとパンツを着こなし、首にはスカーフが巻かれている。彼の左手にはイチゴ味のコーンスナックが、右手には直のものと同じ招待状が握られていた。

「福永さん!」

 彼の名は福永ユウジ。直とは2回戦「少数決」で出会い、ファイナルステージまで共に勝ち上がった嘘つき毒キノコだ。

「直ちゃんも参加するんだ! やっぱり顔なじみがいると心強いね! 今回もよろしく頼むよ!」

「はい!」

 再会を喜ぶ二人。すると、そこへ……。

「お久しぶりです、神崎さん。福永さん、この間はどうも」

「ヨコヤさん! お久しぶりです!」

 上から下まで白でコーディネートし、白い日傘をたたみながら彼……ヨコヤノリヒコは直と福永に挨拶をした。

 ヨコヤの挨拶に直は笑顔で答えたが、福永はそっぽを向いて顔をしかめていた。

「どうしたのですか福永さん? タブーゲームのときは私の名前を叫んで喜んでいたというのに……私、あなたに何か嫌われるようなことをしましたか?」

「はいはい、おめでとう! 俺に勝てて良かったねぇ!」

 どうやら福永は『タブーゲーム』でヨコヤに敗北したことを根に持っているようだ。彼はそのときのことを思いだし、悔しさに打ち震えている。

「相変わらずうるさいですね、福永くんは。もう少し声のボリュームを落としたらどうですか?」

「葛城たーん! お久しぶりっス!」

「お久しぶりです!」

 そこへ現れたのは、生まれつきの赤毛にシルクハットをかぶった魔女のような出で立ちの女性心理学教授……葛城リョウだ。

 福永はこみ上げる悔しさを少しでもごまかすかのように、やってきた葛城に絡んでいった。

「相変わらず魔女みたいな格好だねぇ。魔法少女? 魔法少女かつらぎ☆マギカ……ッ!?」

 福永の言葉を遮るように、葛城は彼の顔面スレスレに持っていたステッキの先端を突きつけた。突然の出来事に怯む福永。

「いい加減黙りなさい。でないとあなた……死にますよ?」

「……ハイ」

 葛城の視線と言葉から放たれるプレッシャーが福永にのしかかった。福永はだらだらと冷や汗を流しながら、裏返った声で短く答えた。

「あっ、秋山さん!」

 そんな中、直はこちらにやってくる男性を見つけて声を上げた。

 その男性はヨコヤとは対称的に全身を黒でコーディネートし、両手をロングコートのポケットに突っ込んだ状態で4人がいる場所まで歩いてきた。彼の名は秋山深一。かつて天才詐欺師と呼ばれ、ファイナルステージを制したライアーキングだ。

「お前……また事務局の奴に唆されたのか?」

「いえ。今回谷村さんは来てません。私の意志です」

 秋山の問いに、直は決意のこもった目で答えた。

 バス停に5人が集まった段階で、1台のバスが彼らの前に停止し、そこから黒い服を着た少女が1人が降りてきた。彼女の名はアリス。ライアーゲーム事務局の最年少事務局員だ。年端もいかない少女が事務局員として登場したことに直は驚くが、面識のある福永は驚かず他の三人もポーカーフェイスを保っていた。

「お待たせいたしました。ご乗車ください」

 アリスに促され、5人は順番にバスに乗車した。なお、このバスの座席は乗車口と向かい合わせになるように設置されている。座席にはそれぞれネームプレートがついており、プレイヤーたちはそれに従って席についた。席順は運転席側から直、秋山、福永、葛城、ヨコヤだ。そして、彼らの向かいの席の天井付近にモニターが設置されていた。彼らの着席と同時に、モニターに仮面をつけた男性が現れた。

『皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。わたくしが今回ディーラーを務めます、アルサブです』

「まだ移動中だろ。アルサブ登場早くね?」

 福永が早すぎるディーラーの登場に疑問を抱いた。

『すでにゲームは始まっております。今回のゲームのルールはたったひとつ。何があっても絶対に笑ってはいけない。それだけです』

「もし笑ってしまった場合はどうなるんですか?」

『笑ってしまったプレイヤーはアウトとなり、制裁を受けていただきます。今回、皆様には場代として1億円を貸し付けます』

 直の質問に答え、説明を再開するアルサブ。実際には持っていないが、プレイヤー全員が1億円を持っている状態だということだ。

『ゲーム終了時にアウトの数が最も少ないプレイヤーが優勝。場代を総取りすることができます。そして、おわかりかと思いますが皆様に貸し付けた1億円は返却していただきます』

 今回も、負ければ1億円の負債……その先にあるのは破滅だ。

『我々は必ず回収します。いかなる手段を使ってでも、必ず……!』

 アルサブの宣言と同時にバスが発車した……。

-3-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える