小説『絶対に笑ってはいけないLIAR GAME』
作者:カテゴリーF()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

移動中-1



 バスに揺られながら、福永は今回のゲームについて考えていた。

(アウトが少ないプレイヤーが優勝か……だったら、他の奴を手当たり次第に笑わせればいい! これぞまさしく必勝法!)

 5億円(厳密には事務局に貸し付けられた1億円は返却するため差し引き4億円)の賞金を手に入れるため、ずる賢い嘘つき毒キノコは自ら進んで道化を演じ、他の4人のアウトを誘発することを思いついた。

「はーい! みんな注目っ!」

 笑いの胞子をばらまくべく福永は席を立ち、バランスを崩さないようにつり革につかまりながらいつものテンションで叫んだ。そして、思惑通り4人のプレイヤーの視線が彼に集中した。ちなみに、現在車内にはプレイヤー5人と事務局員アリス以外の客はいない。

「福永! いっきまーす!」

 福永は顔の筋肉を巧みに動かし、表情を変えていった。俗に言う変顔だ。

「福永さん……クスッ」


 デデーン♪
『カンザキ様、アウトです』


「直ちゃんっていつまで経っても……バカだよねぇぇぇぇぇぇ!」

 福永の変顔に対し、笑うまいとしていた直だったが、堪えきれずに笑ってしまった。そんな彼女に福永はお決まりのセリフを叫ぶ。ちなみにこのとき、福永もいつもの流れで高笑いをしそうになったが、ここで笑ってしまっては元も子もないためなんとか堪えた。判定音が鳴り、モニターに『カンザキナオ様 OUT』の文字が表示された。アルサブが直のアウトを宣言するとバスが停止し、昇降口から黒服を着た事務局員の男性が乗り込んできた。

「何ですか? ……痛ッ!?」

 事務局員は直の前に立ち、懐から取り出した輪ゴムで彼女の額をしばいた。ゴムパッチン。それが笑ったときの制裁のようだ。その後事務局員はバスから降り、何事も無かったかのようにバスは発車した。

「い、痛い……」

「神崎さん、大丈夫ですか?」

「結構痛そうですね……」

 涙目になりながら額を押さえる直。そんな彼女にヨコヤと葛城が声をかける。

「おい福永、いい度胸してるなぁ。俺はおまえを潰す。覚悟しとけよ……キー、ノー、コッ」

 秋山が敵意を露わにしながら席を立った。そして福永に近づいて宣戦布告し、着席した。福永のくだらない変顔で直がハメられ痛い思いをしたことにイラついているようだ。

「ちょ、アッキー怖いよぅ……(結局直ちゃんしか笑ってないなぁ。結構自信あったのに……この3人、やっぱり強敵だな)」

 秋山の脅迫に戦慄しながら、福永も自分の席に座った。すると……。


 ガコンッ!
「ッ!?」


 福永の着席と同時に秋山の座席だけがすべり台のように傾き、秋山が座席から滑り落ちた。そして、ゆっくりと座席は元に戻った。

「アハハハハハハハ! ウケる。アッハハハハハハハッ!」

「ハハハハッ、これは傑作です」

「フフッ……秋山くん、なかなかやりますね」


 デデーン♪
『フクナガ様、ヨコヤ様、カツラギ様、アウトです』


「おまえら……」

 常にクールな秋山の醜態に宿敵たちは盛大に笑い、アウトとなった。とくに、ヨコヤと葛城はアウトになるのを承知でわざと笑っているようだ。秋山はそんな3人を睨む。判定音とともにモニターに3人の名前とOUTの文字が表示され、またバスが止まった。今度は事務局員の男性が3人乗車してきた。制裁を加える事務局員の人数は、アウトになったプレイヤーの人数に対応しているようだ。

「超痛いんですけどぉぉぉ!」

「これは予想以上ですねぇ」

「ただの輪ゴムでこれほどの威力を出せるとは考えにくい。特注品でしょうか……?」

 ゴムパッチンを食らった3人はそれぞれ感想を述べた。実は葛城の指摘通り、この輪ゴムは事務局が今回のために特別に作ったものだった。そのため通常の輪ゴムでのゴムパッチンより威力は高くなっている。

「秋山さん! 大丈夫ですか? 痛いところは無いですか?」

「……ああ。大丈夫だ」

 制裁を受けた3人が痛みに悶絶する中、バカ正直でお人好しな直だけは笑わず真剣に秋山の身を案ずる。秋山は直に返事をしてから立ち上がった。しかし、自分の座席に座ろうとはしなかった。また座席が傾いて滑り落ちる可能性があるからだろう。

「アッキー、ビビッテナイデハヤクスワッチャエヨ〜」

 福永が変な声色で秋山にささやく。それに対し、秋山はただ黙って窓の外を見ていた。

 そのままバスは走り続けていたが、前方にバス停が見えると減速し停車した。そしてバス停にいた客を乗せると再び発車した。

-4-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える