小説『絶対に笑ってはいけないLIAR GAME』
作者:カテゴリーF()

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移動中-3



 プレイヤー5人がバスに乗車してから1時間ほどが経過した。その間に客(仕掛け人)が入れ替わり、直や福永が餌食となった。そして現在、直は乗車時と変わらぬ様子で座っていた。秋山は立ったまま車窓を流れる景色を眺め、葛城(と隣にいるヨコヤ)は秋山の著書を読み、福永は腕を組んで目を閉じて舟を漕いでいた。

 やがてバスの前方に赤信号が見え、バスは減速しながら停止した。その拍子に、眠っていた福永の体が右に倒れた。そして、直の太ももの上に福永のキノコヘアーが着地した。

「ふっ、福永さん!?」

「……ん? なんか柔らかいぞ。この枕気持ちいいな。しかもいい匂いクンカクンカスーハースーハー……」

 直は突然のことに驚き、少し顔を赤くした。寝ぼけているのか、それともわざとなのか、福永は直の太ももに顔をすり付け、その感触を堪能していた。

「……ぐえっ! ぐぐぐぐぐ苦じぃぃぃ!」

 しかし、それは長くは続かなかった。秋山が福永の首に巻かれたスカーフをつかみ、上へと持ち上げた。その様子はまるで罪人の絞首刑のようだ。

「何すんだよ秋山!」

 福永は自分の首を絞め上げた秋山に文句を言い、彼の顔を見た。

「……」

「(何だよこのプレッシャー、尋常じゃねぇ。こ、怖ぇ)……ごめんなさいもうしません」

 秋山の双眸が福永を睨んだ。無言で威圧する秋山に、福永はすっかり萎縮してしまった。滝のように冷や汗を流しながら謝罪の言葉を述べ、崩れ落ちるように座席に座った。すると……。


 ガチャリッ! ドンッ!


「……ッ!?」

「秋山さんっ!」

 彼の着席と同時に、秋山がつかんでいるつり革が外れた。それと同時に、秋山から見て後ろ側の座席に座っている入れ歯を落とした老人が、秋山の背中を杖で押した。秋山は対応できずに直の方へと体が傾いた。直はとっさに席を立ち、秋山を支えようとしたが、支えられずに秋山とともに座席に沈んだ。互いに唇を重ね合わせた状態で……。

「キャッ!!」

「……すまない」

 瞬時に離れる二人。直の顔は真実の赤リンゴのように真っ赤に染まっていた。秋山のほうは表情こそ変わっていないが、心の中でこの事態に動揺しているようだ。

「うぅうぅ〜。ひゅーひゅーだよ。ひゅ〜ひゅ〜だよぉ〜」

「これはこれは……」

「いいものを見せてもらいました」


 デデーン♪
『フクナガ様、ヨコヤ様、カツラギ様、アウトです』


 福永、ヨコヤ、葛城はニヤニヤしながら2人を冷やかした。それにより判定音が鳴り、アウトとなってしまった。そして事務局員から制裁を受けた。

「あっ、気にせず続けていいよ。邪魔しないから。見てるだけでお腹いっぱい。ごっつぁんです!」

「ゴムパッチンは痛いですが、それだけのものを拝めました。結婚式には呼んでくださいよ?」

「こう見えて秋山くんは結構奥手ですからね。夜はあなたから迫ってあげないとダメですよ? 神崎さん」

 ゴムパッチンを受けた後も冷やかしの手を緩めない3人。

「……」

「ごっ、誤解です! 秋山さんとはまだそんな関係じゃありません!」

 秋山はだんまりを決め込み、直は必死に否定するが……。

「「「まだ?」」」

 墓穴を掘ってしまった。3人の目がキラリと光り、直を追い込んでいく。すると、ふいにバスが停車し、扉が開いた。そして、2人の客人が乗車してきた。

「ンフッ……」

「マリオとルイージ? ってか西田ブラザーズじゃん! ウケるんですけど!」


 デデーン♪
『カンザキ様、フクナガ様、アウトです』


 乗車してきた客は、双子の兄弟である西田ユウイチと西田ジロウだった。兄ユウイチは4回戦先鋒戦『24連装ロシアンルーレット』で福永と、弟ジロウはファイナルステージ『エデンの園ゲーム』で直、秋山、福永と戦ったかつてのライアーゲームプレイヤーだ。彼らはマリオとルイージのコスプレをし、効果音のモノマネをしながら段差を1段ずつジャンプして乗り込んできた。その様子を見た直と福永がアウトになった。

「またアウトになっちゃいました……」

「まだ慣れないなこの痛み」

 直と福永が事務局員によるゴムパッチンを受けてからバスは発車し、西田兄弟も直の向かいにある席に座った。すると……。


 ガンッ!


「ッ!?」

 彼らの着席と同時に、秋山の頭上からうすい金属でできたお菓子の箱の蓋が落下し、秋山の脳天に直撃した。秋山は上を向き、何が起こったのかを確かめた。天井の一部が観音扉になっており、ゆっくりと閉まっていった。蓋はここから落下したものだった。

「ブーッ! また秋山かよ! 噴き出しちまったじゃねぇか」

「フハハハッ、なかなかに滑稽ですね」

「秋山くん、今のあなたに勝てる気がしませんよ」


 デデーン♪
『フクナガ様、ヨコヤ様、カツラギ様、アウトです』


 秋山の災難に、またこの3人がアウトになった。ちなみに、彼らだけでなく西田兄弟も爆笑していた。そして、秋山は面白くなさそうに眉間に皺を寄せ、笑っている者たちを順番に一瞥した。

「つーかさぁ、なんでおまえらがここにいるわけ?」

 ヒリヒリと痛む額をさすりながら、福永が西田兄弟にたずねた。

「俺たちにも来たんだよ。黒い封筒と黒い箱が。でも中身は1億円じゃなくてこの衣装だったんだよ」

「しかも同封されてたDVDでディーラーが『これが届けられた時点であなたに拒否権はありません。それでも拒否する場合は1億円を支払ってもらいます』って言ってたから仕方なく……」

 マリオ(ユウイチ)とルイージ(ジロウ)が順番に答えた。彼らも事務局の差し金でここに来たようだ。


 そうこうしているうちに、バスがパーキングエリアに入って停止した。

『皆様、目的地に到着しました』

「フフッ」

「アハハハハッ! なにその仮面!」


 デデーン♪
『カンザキ様、フクナガ様、アウトです』


 アルサブが画面に現れた途端に笑いだし、直と福永がアウトになった。アルサブの仮面には、額の部分に「肉」の文字が書かれ、両頬の部分に赤いうずまきマークが描かれていた。

「また笑っちゃいました……」

「ディーラーまでグルかよ」

 すぐさま事務局員が二人に制裁を下し、足早に去っていった。

『それでは、これより中間結果を発表いたします』

 アルサブによる中間発表が始まった。結果は以下の通りだ。


 1位:アキヤマシンイチ様…OUT数1
 2位:カツラギリョウ様……OUT数4
 2位:ヨコヤノリヒコ様……OUT数4
 4位:カンザキナオ様………OUT数7
 5位:フクナガユウジ様……OUT数10


『現在トップのプレイヤーは、アウト数1のアキヤマシンイチ様です』

 1回アウトになっものの、トップは秋山だ。最初に策を仕掛けた福永だったが、彼は他のプレイヤーに比べ笑いの沸点が低く、単独最下位となった。

「それでは、会場にご案内いたします」

 アリスがプレイヤーたちを誘導するために最初にバスから降りた。その後ろから秋山、直、福永、葛城、ヨコヤ、西田兄弟が順番に降りた。

「終わったな。さて帰るか……」

「じゃあ僕も帰るかな」

 帰路につこうとする西田ブラザーズ。だが……。

「誰が帰っていいと許可しましたか? あなたがたにはまだやるべきことがあります」

 アリスが二人を呼び止めた。

「それでも帰るというなら、1億円を支払っていただきます」

「「イイエ、カエリマセン」」

 アリスの脅迫に、彼らには従うという選択枝しかなかった。拒否すれば1億の負債を背負うのだから無理もない。

 そして、一行はアリスを先頭にオープン前のゲームセンターの中へと入っていった……。

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