小説『Acute,ReAct』
作者:マトゥー!()

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    ◇    ◇    ◇

 翌日

來未(くみ)たちの誘いを断った俺は、また病院へ来ていた。

ネームプレートに『結城(ゆうき)弥生(やよい)』と書かれているのを見て、

今度はためらわずドアをノックする

「誰?」 という声が聞こえたのでドアを開く。

「あら、あなた」

「どうも」

「また来たの。てっきりもう来ないと思っていたわ」

呆れているようだ

「俺もできれば来たくはなかったんですけどね」

それはそうか、自分自身でも呆れているのだから

「あんなこと言われて気にならない程、鈍い神経してないんですよ」

「それは説明を要求しているのかしら?」

笑顔で頷く

「・・・私はできれば話したくないのだけれど」

好奇心は猫をも殺す

「俺は気になってしかたがないです」

けれど時にはスリルを味わうことも大切だ

「はぁ」

太陽が雲に隠れ部屋全体が薄暗くなる。

数秒の間を置き、彼女はゆっくりと語りだした

「私が自殺志願者なのはわかるわよね?」

その問いかけに無言で頷く

「私は今まで何度も死のうとしたわ。だけどね、どうしても出来ないのよ私には」

「出来ないって、どうして?」

一瞬視線が逸れる

「暗示って言えばいいのかな、意思はあっても身体が無意識に出来なくしてしまう」

強く拳を握り締める

「半年前まで私には親友がいたの、そう親友だった・・・筈なのにね」

少し下唇を噛む

「私はその子に裏切られたのよ。それが理由で死のうと思ったのだけれど結局死ななかった」

一つため息が漏れる

「でもね、それだけならまだ良かったわ、それだけなら自殺すればいいだけなんだもの。

けれどその体験は私に暗示をかけた。死への恐怖によってね」

小さく瞳が揺れる

「それで他人につまり俺にあんなことを?」

「そうよ、赤の他人のあなたがちょうど良かったのよ」

わずかに語気が強くなった

「じゃあ、改めて聞くけど」

虚空のような瞳がじっと見つめてくる

「あなた私を殺してくれない?」

戸惑い、憎しみ、怒り、絶望、焦り、

それら全てが合わさってできた不安。

あぁ、そうかこの人はもう・・・

どうしようもないほどに狂ってしまっている。

「それはできません」

きっぱりと言い切ると彼女は自嘲的な笑みを浮かべた

「そりゃそうよね、そんなことできるわけないわよね。最初から期待はしていなかったわ」

深く息を吸う

「でも」

ぐっと全身に力を込める

「あなたが死ぬための手伝いならできます」

ガタガタガタ 強風が窓を叩く。

雲の切れ間から夕日が差し込み部屋全体を眩しく照らす。

「ありがとう」

逆光の中 彼女は静かにそう言った。

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