小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第2話 仮契約と原作介入』

 ルシファーは、キュルケを抱えて、他の貴族共が好奇の視線で見てきたが、それを無視し、キュルケから聞いた部屋に向かった。

「ここでいいのか?」

「ええ。ここがあたしの部屋よ」

 キュルケの部屋は、ベッドとクローゼット。簡易な机があるだけの簡単な造りの部屋だった。

 ルシファーは、キュルケをベッドに下ろす。

「ねぇ、使い魔契約について教えてくれない?」

 キュルケが上目使いで聞いてきた。

「使い魔契約だったな。俺の契約はお互いの精神のパスを繋ぐことで、契約と成す魔法なんだ」

「魂のパス?」

 聞きなれない言葉にキュルケは思わず呟く。

「ああ。ここでは、聞きなれないだろうな。俺の世界での契約魔法だし、まぁ簡単に言うとだな俺とお前の魂の一部を繋げるんだ。そして、魂を繋げた者は、お互いが危険な状態であった場合知ることが出来。力の受け渡しが可能になるんだ」

「魂を繋げて大丈夫なの?」

「それは心配ない。魂と言ってもほんの一部だし、お互いの立場は、平等だ」

 キュルケの疑問にルシファーは、何の淀みもなく答える。

「そのやり方は?」

「やり方は……」

 ルシファーは、キュルケの耳元に唇を持っていきその方法を伝える。

 キュルケは、ルシファーが言った事を頭で理解すると、途端に顔が真っ赤に染まり、狼狽し、大声をあげる。

「えっ!? 契約方法って、セックスなの!!?」

 うん。俺が、前の世界で教えてもらった方法はセックスだったよ。まぁ、相手はサキュバスだったけどね。

「まぁ、そうなのだが、俺とお前は会ったばかりで、すぐに体を開いて契約しようとは言わん」

「でっ! でも、私はあなたと契約しないと進級が……」

 キュルケは、契約しなければ点数を貰えずに落第する事をルシファーに説明する。

 ルシファーは不安げな表情で見つめてきたキュルケの隣に座り、爆弾を落とした。

「だが、お前処女だろ?」

「っ!!?」

 そうなのだ。アニメや小説では、過激なスキンシップやキスは当たり前のキュルケは、実は処女の女の子だったのだ。

 何故、ルシファーがその事に気づいたかと言うと、出会ってすぐに笑い声を発しながら、魔法で調べたからであった。

 くくくっ!! まさか……まさか! 淫乱で非処女と思ってたキュルケが処女だったとな!!

「なぁ、キュルケ。俺は、こういう形でお前の処女を貰いたくないんだ」

 ルシファーは、キュルケの手に、己の手を重ねる。

「でっ、でもっ! 契約しないと……」

 キュルケは、ルシファーを握り返しながら、肩に寄りかかって顔を上げ、詰め寄る。

「ああ。その点についてもきちんと案を用意しているから、安心してくれ」

 ルシファーは、そう言うとキュルケの手に握り、魂の波長を繋げる。そして、魂が繋がったことで、お互いの手の甲にルーンが刻まれる。

「こ、このルーンは?」

キュルケが突然現れたルーンに驚いて、しげしげとルーンを見る。その様子を見ながら、ルシファーはルーンについて説明する。

「そのルーンは、俺と仮契約をしている証だ。まぁ、魂を繋げる前段階に入った状態だと思ってくれ」

「魂を繋げる前段階?」

「ああ。本来の方法……性交で契約を交わせば、そのルーンは必要なくなり消えるがな」

「えっ?」

「実はルーンは、俺の世界では予約済みって意味なんだ。まぁ、もっと簡単に言うと『こいつは俺の女だから手を出すな』と周りに宣言しているんだ」

「俺の女……」

 俺の女と宣言をされたキュルケは、さらに顔を赤くする。まさか、今まで貴族の餓鬼を手玉に取っていた自分がここまで翻弄されるとは、思っていなかったのだ。

「お前が本当に俺に体を……処女を捧げたいと思ったら、その時に誘ってくれ」

 ルシファーは、軽くキュルケにキスをして、ベッドに横たわる。

「そうそう。俺とお前は対等な契約をしたんだし、元々俺は、こんな感じだから、そんなに緊張しないでくれよ。ご主人様?」

ルシファーは寝転がりながらキュルケに言った。

「……ふふふっ、ええ解ったわ。じゃあ。これからはあなたのことをダーリンって呼ばせて貰うわねっ?」

 キュルケは、微笑みながらルシファーの隣……窓側の方に寝転がり、ルシファーの腕に胸を押し付ける。

 ダーリンって……まじで原作通りだな! ああっ! それにしても早くキュルケとセックスしたいぜ……ああ。腕に胸の感触がぁ〜愚息がっ! 愚息が起きてしまうじゃないか!?

 ルシファーは、平気そうな顔で天井を見上げていたが、心の中では、キュルケを必死に襲わないように堪えていた。本来のルシファーであればキュルケなど簡単に押し倒し犯す事出来、契約をたてに犯す事も出来たが、あえてルシファーは、そうしなかった。ルシファーは、せっかく、処女なのだから、キュルケの方から喜んで捧げに来て欲しかったのだ。

 それから、ルシファーとキュルケは、寝巻き。ルシファーはボクサーパンツに、キュルケは、紫色のネグリジュ姿になり、一緒にベッドに入った。 

 キュルケは、先にベッドに寝転がり妖艶に微笑みながら、ルシファーをベッドに誘った。

 ルシファーは、心の中で何度も念仏を唱え、心を落ち着かせると、平気な顔でキュルケの横に寝転がった。

「なぁ、キュルケ? 俺だったから襲われないですんだんだぞ?」

「もうっ! ちょっとは、反応みせてよぉ」

 キュルケは、仕返しのつもりで行った行動が不発した事で、頬を可愛らしく膨らませる。

 ルシファーは、可愛らしく頬を膨らませたキュルケの赤い髪を優しくなぜる。

「俺ではこれでも内心ドキドキしているんだがな?」

 そうさ! アニメやまして原作でもめったに見ることが出来ないキュルケの顔に俺の心は野獣になってしまいそうなんだ!!

「襲うなら襲っていいのよ? あたしは、ダーリンになら無理やり襲われてもいいわよ?」

 キュルケの言葉にルシファーは必死に耐える。

「キュルケ。俺はお前とは心から愛し合って結ばれたいんだ。一時の感情ではなく一生燃え続けたいんだ」

 ルシファーは、キュルケの瞳を見ながらそう言うと、キュルケの体を抱きしめ「おやすみ」と呟いた後眠りに堕ちた。







 『ゼロの使い魔』の世界に来て一夜が明けた。

 ルシファーが朝の日差しを感じ、目を覚ます。そして、目の前で規則正しい寝息をたてているキュルケを見て本当に『ゼロの使い魔』の世界に着たんだと思う。

 ルシファーは、キュルケが起きるのまでの間ずっと、キュルケの寝顔を見ていた。

 ああ。マジで可愛いなぁ〜。ていうか、コイツほんとに16歳なのか? 同じ16歳のルイズと違いすぎるだろう!?

「……う…う〜ん……」

 ルシファーが、そんなことを考えていたら、キュルケが目を覚まし始めた。

「……ふあぁ……。あら? ダーリン。起きてたの?」

 キュルケは、あくびをし終えた後。ルシファーが起きている事に気づく。

「ああ。たった今さっきな」

「もうっ、それだったら起こしてよ。寝顔見られるの恥ずかしいんだから」

「そう怒らないでくれご主人様。俺は君の寝顔に心を奪われてしまって動けなかったんだからな」

「なっ……!? なに言ってるのよぉっ!!」

 キュルケは、寝そべったまま頬を膨らませ抗議したが、ルシファーは、軽口をたたいてキュルケの心を翻弄させる。

 そんなキュルケを横目にルシファーはベッドから降りて、神からのチート能力の一つである【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】を使い。服を取り出し、着替える。

「まったく、あなたのその『倉庫』は便利よねぇ」

 キュルケが規格外のチート能力を『倉庫』と言うのには理由があった。ルシファーが、昨夜食堂で夕飯を貰わずに部屋で着たことを思い出して、何もない空間から高級なパンを取り出した事で、キュルケが驚き「さっきのはなに!!?」と聞いてきたから、ルシファーはとっさに「俺の所有する空間で、まぁ倉庫のようなものだ」と言った事が原因だ。

 まぁ、実際のところ倉庫なのだが、倉庫の中に入っている物は、パンや服などはルシファーが入れたもので、本来の【王の財宝】に存在する物は一振りで何万の兵士の命を奪う剣など宝具や神具と呼ばれるものが、数えきれないほど入っている。

「まぁな。それよりも、そろそろ学園の時間だろう? ご主人様も着替えないでいいのか?」

「ええ、そうね。じゃあ、私は着替えるから後ろを向いてもらえますか? 紳士様?」

「かしこまりました。ご主人様」

 キュルケの軽口に、ルシファーも軽口で返し、キュルケから視界からはずす。

 そして、キュルケは着替えながらルシファーに話しかける。

「ねぇ、ダーリン? あたしをご主人様なんて呼ばないで。あたしとあなたは対等なんでしょう?」

「ああ、そうだったな。じゃあ、キュルケと呼ばせてもらおうかな?」

「ふふふっ。ハニーでもよろしくてよ」

 キュルケは、いつの間にか着替えを終え、後ろからルシファーに腕を絡める。

 キュルケマジで最高! 何なんだこの色気は!? ううっ! 早く自分のモノにしたい〜〜!!

 ルシファーは、キュルケをエスコートするように部屋の扉を開けて、廊下にでると、ルイズがサイトと一緒にこちらに向かってきていた。

 キュルケがルイズを見ると、にやっと笑った。

「おはよう。ルイズ」
 
 キュルケの挨拶に顔をしかめると、嫌そうに挨拶を返した。

「おはよう。キュルケ」

「あなたの使い魔って、それ?」

 才人を指差して、馬鹿にした口調で言った。

「そうよ」

「あっはっは! 私の使い魔と違って、品がないわね! というか普通の人間じゃないの!? あなたらしいわ。さすがゼロのルイズ」

 ルイズの白い頬に、さっと朱がさした。

「なによ! あなただって人間じゃない!!」

 ルイズが馬鹿にしたような目をルシファーに向けるとキュルケは、ルイズの前に立ち怒鳴りはじめる。

「私のダーリンをあなたの使い魔なんかと一緒にしないでちょうだい! 私のダーリンはただの人間じゃ……あらっ? ダーリンって人間なの?」

 キュルケは自分で言っていて迷った。ルシファーは、魔界の大魔王だし、100年以上生きている。そんなルシファーは、人間なのか? と疑問が生まれたのだ。

 ルシファーは、キュルケの問いを先読みし、後ろからキュルケに抱き、ルイズと才人に聞こえるように話す。

「ああ。そういえば種族についてなにも言ってなかったな。まぁ、俺の種族は、神魔。神の力を持った魔人だ」

「「「魔人っ!?」」」

 本当のルシファーの正体は、ルシファー自体にも分かっていない。神の後継者だし神と名乗ってもいいかもしれないが、魔界の大魔王と宣言したから神魔と名乗った。

 う〜ん。それにしても、俺ってなんていう種族なのかな? まず普通の人間ではないし、ていうか、俺はサキュバスと同じように食事の変わりに性交で腹を満たせるし、インキュバスか? う〜ん……わからんな。

「そうだ。俺はこの世界とは別の世界である魔界の大魔王だからな。人間ではないぞ?」

 ルシファーはそう言って、人間ではないことをアピールするように背中に3対になった6枚の翼を生やす。

 その様子にキュルケはもちろんルイズや才人までもが、思考を停止させ言葉を失い固まってしまう。

「ん? どうしたのだ? お〜い?」

 ルシファーは、片手をルイズに突き出して振り、やっと思考が回復した。

「あっ! あなた何者なのよ!!?」

 ルイズが桃色の髪を振りながら、キュルケを後ろ抱きにしているルシファーに杖を向けて怒鳴る。

「ああ。俺か? 俺はルシファー。キュルケの使い魔だ」

「使い魔〜〜??」

「ああ。使い魔だ。で、お前達の名は?」

 まぁ、知っているんだけどな。

「私は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。ヴァリエール公爵家の3女よ! あなた使い魔の分際で少し態度がでかいんじゃないかしら?」

 どうやら、昨日の召喚で行った脅しを召喚に夢中でルイズは見なかったようだ。キュルケがルシファーが怒って、ルイズを殺してしまわないかとハラハラしている。

「あっはっは。俺は使い魔だぞ? 自分の認めた相手以外に敬意を払うと思っているのか?」

 ルシファーは、笑いながら似せつけるようにキュルケの頬にキスを落とす。

「あんっ! もうダーリンったらぁ」

 その様子に初心なルイズは、赤面し声を震わせながら怒鳴り、後ろの才人は羨ましそうに見る。

「こここ……こんな所で、なななっ、なに盛ってるのよ!!」

 だが、ルシファーはルイズを気にも留めずに才人に名を尋ねる。

「それで、君の名は?」

「おっ! 俺の名前は、才人。平賀才人(ひらが さいと)って言います」

「ルイズと才人か。これからよろしくたのむよ」

 本来だったら、キュルケの使い魔はサラマンダーで、キュルケがルイズを挑発するはずなのだが、当のキュルケはルイズそっちのけでルシファーに熱い視線を送っていた。

 う〜ん。やっぱりこの桃色ぺったんこ娘は好きになれないなぁ。我がままで才人を犬扱いするし、馬鹿だし、焼もち焼きが激しいから、俺の蝕し外決定だな。うん。原作通りルイズは才人にあげよう。

 ルシファーはそう心の中で思うと、キュルケと共に食堂へ向かった。

「なんなのよ! なんなのよあいつはっ!? 公爵家の息女に向かってあの態度っ!!」

「ルっ、ルイズさん……?」

「あんたは、黙ってなさいっ!!」

「ぶへらっ!!?」

 残されたルイズは額に青筋を浮かべながらルシファーの方を向き怒鳴り、落ち着かせようと肩に手を置いた瞬間。ルイズの拳が飛び才人は殴られた。








 ルシファーは、キュルケと一緒に食堂に着いた。

 アニメで見た3つ並んだ長いテーブルが置いてある食堂に感動しつつ、キュルケに着いていき、キュルケが座ろうとした席の椅子を引いてやる。

「あら、さすがね。ありがとうダーリン」

「どういたしまして。キュルケ。それじゃあ、俺は外で食べに行くよ」

「ちょ、ちょっと! 一緒に食べないの?」 

 ルシファーは、嬉しそうに微笑むキュルケを一撫ぜすると、一声かけて食堂から出て行こうとすがキュルケに止められる。

「ああ。俺はこの国では貴族ではないしな。まぁ、倉庫に食料もあるから俺は外で食べるよ」

 ルシファーは、手を振りながら、食堂を後にする。

「ダーリン……」

 ああっ! 寂しそうにしないでくれキュルケ! 大丈夫だって今だけ! 今だけなんだから!

 ルシファーは、外に出て【王の財宝】から椅子とテーブルをだし、次に保存していた魔物の肉とワインとパンを召喚し、朝食を摂った。

 食堂の外で優雅に食事を行うルシファーに貴族達は絶句した。ルシファーがただ食事をしているだけなら、貴族達もそれほど気にも留めなかっただろうが、ルシファーの召喚した椅子とテーブルが人目を引いたのだ。そう。食料や服といった例外は存在するものの、本来【王の財宝】に存在する物は宝物だ。

 ルシファーが【王の財宝】を開いて椅子とテーブルを出すと、なんとも目が痛くなるような黄金で出来た物が出現したのだ。黄金のテーブルと椅子で食事をしていると当然貴族達から、注目を集め、いつしか人垣が出来てしまっていたのだ。

 う〜ん。やっぱり、黄金のテーブルは使わないほうがよかったかなぁ? でも、でてきちゃった物は仕方ないし、早めに食ってキュルケの所に行くかぁ。

 ルシファーは、残っていた魔物の肉を食べると、席から立ち上がり、テーブルと椅子を【王の財宝】の中にしまい。キュルケの元へ向かった。







 キュルケに連れられて、魔法学院の教室に向い。キュルケの隣に座った。

 ルシファーがキュルケの隣に座ったことで、いつもならば、キュルケを取り囲むように集まる男子どもは、ルシファーが発する威圧と昨日の脅しで、近づけずにいた。しかも、キュルケもいつもの余裕がある様な振る舞いではなく。蕩けた顔で、ルシファーに抱きついているから、男子どもは、血の涙でも流さんばかりにこちらを睨んでくる。

 つーか、マジでうざいな。どんだけ、人気なんだよキュルケ。

 ルシファーが、男子どもの視線にため息をついていると、ルイズとサイトがやってきて、ルイズの隣……俺と違って床に座っているサイトが初のファンタジー接触で感動しながら、騒いでいると、紫色のローブと帽子を被った中年の女性が入ってきた。

 中年の女性は、教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。

「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 その言葉にルイズは俯いた。

「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール……えーと、ミス・ツェルプストーの隣の方も使い魔なんでしたね」

シュヴルーズが再び才人の方を見て微笑むと、教室中がどっと笑いに包まれた。

「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」

ルイズは立ち上がり、長いブロンドの髪を揺らして、可愛らしく澄んだ声で怒鳴った。

「違うわ! きちんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」

「嘘つくな! 【サモン・サーヴァント】ができなかったんだろう?」

 ゲラゲラと教室中の生徒が笑うが、ルシファーとキュルケはそんなことお構い無しに、無言で見つめ合っていた。

「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」

 握り締めた拳で、ルイズは机を叩いた。

「かぜっぴきだと? 俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」

「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いているみたいなのよ!」

 マリコルヌと呼ばれた男子生徒が立ち上がり、ルイズを睨みつける。シュヴルーズ先生が手に持った小ぶりな杖を振ると、二人は糸の切れた操り人形のように、すとんと席に落ちた。

「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」

 ルイズはしょぼんとうなだれている。さっきまで見せていた生意気な態度が吹き飛んでいた。

「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」

「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」

 くすくすと笑いが漏れる。

シュヴルーズは、厳しい顔で教室を見渡して杖を振った。まずはくすくす笑いをする生徒たちの口に、ぴたっと赤土の粘土が押しつけられる。

「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」

 教室のくすくす笑いが強制的に黙らされる。そして、シュヴルーズが先ほどよりも厳しい表情で、ピンク色の空気をかもし出しているルシファーとキュルケに向かって、赤土の塊りを落とした。

「ん? なにかしたか?」

 シュヴルーズが放った赤土は、二人に当たる瞬間。跡形もなく消え去り、教室に沈黙が生まれた。

「ミ…ミスタ? さっき何を……?」

「ん? 単に消しただけだが?」

 ルシファーの気にも留めていない様子に、シュヴルーズは、ルシファーを刺激しないことにした。

「ミス・ツェルプストーと恋愛を楽しむのは、勝手ですが、時と場所を選んでもらえませんか。ミスタ?」

「ああ、そうだな。キュルケ」

「わかったわダーリン。でも、休み時間とかはいっぱい甘えさせてね」

 そう可愛らしく言ってから、二人はほんの少しだけ離れ、正面を向きなおした。

「で、では、授業を始めます」


        (魔法説明中略:詳しくはゼロ魔のアニメ&小説参照)       


 シュヴルーズの授業の最中にルイズとサイトが私語をしたことで、見咎められた。

「ミス・ヴァリエール!」

「は、はい!」

「授業中の私語は慎みなさい」

「すみません……」

「おしゃべりをする暇があるなら、あなたにやってもらいましょう」

「え? わたし?」

「そうです。ここにある石ころを望む金属に変えてごらんなさい」

 ルイズは立ち上がらない。困ったようにもじもじするだけだ。

「ご指名だろ。行ってこいよ」と才人が促した。

「ミス・ヴァリエール! どうしたんですか?」

 シュヴルーズ先生が再び呼びかけると、キュルケが困った顔で言った。

「先生」

「なんです?」

「やめといた方がいいと思いますけど……」

「どうしてですか?」

「危険です」

キュルケは、きっぱりと言い。教室のほとんど全員が頷いた。

「危険? どうしてですか?」

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

「ええ。でも、彼女が努力家と言うことは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」

「ルイズ。やめて」

 キュルケが蒼白な顔で言ったが、ルイズは立ち上り「やります」と言い緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。

「キュルケどうしたんだ?」

 ルシファーは、原作を読んで知っていたが尋ねた。

「ルイズの魔法はいつも失敗するのよ! ダーリン! 早くここから逃げないと!!」

 キュルケは、ルシファーに抱き、逃げようと言う。

「安心しろキュルケ。俺がお前を傷つけさせると思うか?」

「ダーリン……」

 再びルシファーとキュルケは二人だけの世界に入り、その間にか呪文を唱え終えたルイズは杖を石ころに向かって、杖を振り下ろした。

 その瞬間、誰しも爆発が起きると覚悟していたが、爆発は起こらず、机には手でつかめる大きさの球体が一つ置いてあるだけだった。

 「せ、成功した!?」

 爆発が起こらなかった事で、ルイズの顔はパァと輝き、自分が初めて練成しただろう球体を見ていたら、横からルシファーが現れ、その球体をつかんだ。

「ダ、ダーリン!?」

「あっ! あんた何すんのよ!?」

 キュルケは驚きの声をあげ、ルイズは、球体を奪い取ろうとするが、ルシファーは黙って、球体を窓の外に放り投げ、暫くすると教室で爆発するするはずだった衝撃と爆風が巻き起り学園を揺らした。

「あ、あんた……」

「こっ、これは?」

 そこで教室にいた面々はルシファーがルイズの『失敗』魔法を何らかの方法で球体に閉じ込めたのだと理解した。

 そして、シュヴルーズも生徒達が恐れていた事を理解し、それを未然に防いだルシファーに感謝し、それと以上に、学園を揺らすほどの爆発を一瞬で見切り、けが人が出ないように対処したルシファーに恐怖心を抱いた。

「なっ、なんだルイズ……いつもの失敗か」

「ああ。ゼロのルイズが成功するわけないよ……な?」

 教室の貴族達は、ルイズ馬鹿にするが、その声にはいつもの、馬鹿にしたようなものと少し違った。

 ルシファーはそのまま、キュルケの隣の席に座り、肩を抱く。

「なっ? 大丈夫だっただろう?」

「さすが、あたしのダーリン!」

 キュルケは、大喜びながらルシファーに抱き、授業はその後滞りなく進み、才人は何故ルイズがゼロと呼ばれているか理解した。







 トリステインの教師コルベールは、ルイズが召喚した平民の少年の左手に現れたルーン事が気になり、図書館で調べると、ルイズが召喚した少年の左手のルーンは、始祖ブラミルの伝説の使い魔ガンダールヴかも知れないとオスマンに報告した。

 オスマンとコルベールは、トリステイン魔法学院に訪れた危機にさらに頭を抱え、オスマンはとうとうロングビルにセクハラを働くにも起きなくなった。








 ルシファーは、今朝と同じように昼食を摂りにきたキュルケに付き添い。椅子を引いた後、食堂から出て、今度は地面に直接腰を下ろして、食事を始めた。

 そして、ルシファーが食事をしていると、腹を手で擦りながら食堂から出できた才人とばったりと目が会う。

 才人は、同じ使い魔であるルシファーがパンや肉を食べているところを見ると、ダッシュでこちらに来て、土下座した。

「すまない。ルシファー! 飯を……飯を分けてくれないか?」

 ルシファーは、パンを一つ手に取り、才人に向ける。

「ほら、食えよ才人」

 才人は涙を流しながら両手でパンを受け取り、バクバクと食べ始める。

「あっ、ありがとう! やっとまともな飯にありつけたよ……」

「一応言っておくが才人。俺が今食ってるの肉は、食わないほうがいいぜ?」

「うう……俺はもう肉を食うことができないのか……?」

「勘違いするな才人。この肉は、魔物の肉で人間のお前が食ったら死ぬから、食うなと言ったんだ」

「魔物の肉……人間が食ったら死ぬ……? お前って本当に人間じゃないんだな」

「まぁな」

 ルシファーがそう言うと、才人は悲しそうに呟いたが、その後の発言を聞いて、意地悪で言ってる事ではないと理解した。 

「ああ、そうだ。あそこのメイドに言ってみたらどうだ?」

 原作通り黒髪のメイドのシエスタを指差して、サイトを原作通りの展開に持っていき。才人は、シエスタと一緒に食堂の調理場へ消えた。

 う〜ん。これで原作通り進めば、ナルシストのギーシュにサイトが突っかかり、広場で決闘を始めるはずだったな。

 キュルケが食事を終えるのを待って、確認すると、きちんと才人は、原作通り決闘を申し込んだようだった。ルシファーは、キュルケを誘い才人とギーシュの決闘の観戦にむかった。

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