小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第33話 ガリア王ジョゼフの氷解とタバサの妹と 前半 』





 ルシファーたちがラ・ヴァリエールから魔法学院に戻ってきてすぐ、ルシファー、タバサ、キュルケの三人は、タバサの母親、エルフィアを砂漠の新魔国へと引越しさせるために転移魔法の『ゲート』を通った。

 『ゲート』を通った三人は、フォン・ツェルプストーでエルフィアを回収。砂漠の新魔国へと転移した。

 新魔国を見せられたエルフィアは、砂漠を切り開いて作った国であることや、ハーフエルフのティファニアが居たことに驚き、先入観ゆえにティファニアを怖がりはしたものの、ティファニアの人なりにすぐに態度を改めた。

 その後、エルフィアの部屋をどこに設置するかという議題で、子共達が住んでいる離宮に住むのか、ルシファーたち妻が住んでいる後宮に住むのか、それとも国のどこかに住むのかという三つの選択肢を掲示された。

 エルフィアは三つの選択しで、始めは離宮を選ぼうかと思っていたようだが、タバサの説得やルシファーとの肉体関係で恋心が芽生えてしまった事などで、最終的にルシファーの妻になり後宮に住む事を決めた。

 部屋の場所はタバサの隣で二人の希望通り部屋の壁に新しくドアを設置して、いつでもお互いの部屋を行き来できるようにした。それとついでにタバサの隣のイルククゥの部屋にもつながるドアを設置した。

 後宮に住み始めて二日でエルフィアは新魔国での生活にも大体慣れたようだ。

 もともと、貴族として家事は一式仕込まれていたので料理も得意で、領民も城に住む人数も合わせて五十人と満たないし、全員が家族で助け合って生きているのだ。

 さらに、恒例の夜の営みなどに積極的に参加させられ、連帯感というものが生まれ、年の近いマチルダはもちろん、優しい柔らかな雰囲気のティファニアともすぐに仲良くなった。

 で、現在。

 エルフィアはルシファーの上に乗り、激しく腰を動かしていた。

「あぁんっ! んっ! ほんとに、すご、いですね! 昨夜もあんなに射精したのにっ!」

 エルフィアは嬉しそうに体を反らせて腰を動かしながら、自分の胸を揉んでいた。

 部屋にはルシファーとエルフィア以外誰もいない。他の皆が気を利かせて二人っきりにしてくれたからだ。

「エルフィアも、前はあんなに恥ずかしがっていたのに、すっかりセックスにはまってしまったな!」

 ルシファーは両手でクリトリスやアナルを刺激し、エルフィアを下から角度を少し変えながら突き上げる。

「そ、それは……、あなたのせいです、よ! あなたが、わたしをこんな風に変えたんです! んんぅぅ〜〜〜〜!!!」

 両手で胸を揉みながら体を大きく後ろに反らせ、絶頂に達した。

 ちゅきゅっ、と子宮口が亀頭に吸い付く。

 吸い付かれているからかペニスが引っ張られているように感じた。

 ぐうっ! それにしてもいい締まりだ!

 ルシファーはエルフィアの締りに射精感を募らせ、解放する。ドプドプと子宮に精液を流し込まれ、エルフィアは子宮に打ち付けられる熱に歓喜の悲鳴をあげた後。糸の切れた人形のように前のめりに倒れた。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 エルフィアはルシファーの胸に手をついて荒い息を吐いた。お互い大粒の汗をかいていてベタベタするが不快感などはなく、爽快感があった。

「気持ちよかったぞエルフィア」

「はい……、わたしもです……」

 子宮に感じる熱い精子に女として満たされたエルフィアは満足げに息をはいた。

 ルシファーはエルフィアの背に両腕を回して優しく抱きしめ、エルフィアもルシファーの胸に抱かれた。

 それからしばらく繋がったままゆっくりお互いを感じあっていると、エルフィアが口を開いた。

「ルシファーさま、相談があるのですが……」

 エルフィアは新魔国に来てから感じた幸せと、この国にはルシファーが治めていて、他国からの侵略もない理想郷とも呼べる国に、シャルロット(タバサ)の妹……、ガリアの王家の掟によりいないものとされたもう一人の娘は、この国ならルシファーなら受け入れてくれるのではないかと思い、秘密を打ち明けた。

 自分には娘がもう一人、ジョゼットという娘がいて、タバサの双子の妹だという事、そしてガリア王家の掟で、海に浮かぶ陸の孤島のような寺院に送り出した事、自分は恨まれてもいいから、引き取りたいとルシファーに話した。

 ルシファーは、ジョゼットを引き取りに賛成した。

 そして、もう一つ。今度はルシファーからエルフィアに申し出をした。

 それは、トリステインがタバサを『亡命』させようとしている事だ。

 トリステインが『亡命』を受け入れてくれる事はありがたいが、タバサはガリア王家の正統後継者で、ガリアからトリステインに宣戦布告するきっかけにもなるし、ガリア王家に何らかの出来事が生じた場合、例えばガリア王国が戦争をしたとき、タバサを正統な王として御輿を担がされ、無理やり王にされる可能性があるからだ。

 タバサをこのまま『亡命』扱いにさせないためにルシファーはガリア王ジョゼフと話し合うことを決断していたのだ。

 ルシファーは原作知識を消去する際、間違って全ての原作知識を消してしまったが、ジョゼフとシャルルに何かしらの事情があったことは覚えている。

 エルフィアは再び政争争に巻き込まれて一族どうして殺し合いをしてしまうのではないかと忌避したが、砂漠に国を築いてしまうほどのルシファーを、娘や自分を救い、閨(ねや)をなんどもともにしたルシファーを信じて、ジョゼフと話し合いをする事を了承したのだ。











 ルシファーはタバサにも了解を得たところでガリアへと向かい飛行した。

 同行者は、タバサとエルフィアの二人でキュルケは新魔国で留守を預かっていてくれた。

 ルシファーは二人を抱えて飛び、数十分もしないうちにガリアの王宮、ヴェルサルテイル宮殿へと侵入した。

 認識阻害を使いジョセフの元まで歩く。ジョゼフはタバサの伯父にあたるので血による探知ですぐに居場所が分かった。

 ジョゼフがいるであろう執務室まで来る。

 ドアをノックするとジョゼフの声が返ってきた。

「入れ」

「ん? 何者……、シャルロット? オルレアン公夫人も?」

 ジョゼフは驚いた。アーハンブラ城に幽閉していたはずのタバサと母親のオルレアン公夫人が消えた事は知っていたが、まかさ自分の元へと来るとは思ってはいなかったのだ。

 ジョゼフは二人の前に立った黒髪の男へ声をかけた。

「お前はいったい何者だ? どうしてその二人を連れているんだ?」

「俺は、ルシファー。ルシファー・ベルモンド・サーゼルベルグ。こいつらの夫だ」

 ルシファーはそう言って二人を抱く。

 ジョゼフはまったく状況が読めずに困惑した。

 この男は今何と言った? 夫? シャルロットの夫? シャルロットはまだ小さいのに……、じゃなく、なぜオルレアン公夫人の病が治っているのだ? そう言えば虚無の使い手は黒髪で……、いや、そうなら背中に長剣を背負っているはずだ。ミョゼの報告によると少年らしいし、この男は何者だ?

「お前は何者だ?」

 ジョゼフは男に問いかける。

「さっきも言っただろう? 俺は二人の夫だよ」

 ルシファーは二人を抱き寄せて言い放つ。

「そういうことではない。何故ここにシャルロットとオルレアン公夫人がいるのだ? アーハンブラ城から逃げたのは知っていたが、何故ガリアの、我が前に現れたのだ? オルレアン公夫人の毒も消えているようだし、貴様が何かしたのであろう」

 ジョゼフは話しかけながらもルシファーに悟られないように杖を取り出した。

 土のルビーを指にはめて『始祖のオルゴール』から流れる調べを聴き得た虚無の呪文『加速』を小声で唱える。

「まあ、そう質問ばかりするなよジョセフ。座ってゆっくり話さないか」

 ルシファーはそう言うと【王の財宝】から普通の椅子をジョゼフの机の前に三脚出した。

 ジョゼフはいったいどこから椅子を出したか気になりながらも応じた。

「いいだろう」

 ジョゼフの正面に座ったルシファーが話を切り出した。

「ジョゼフよ。お前は何故シャルルを手にかけた」

「「「…………っ!?」」」

 ルシファーの突然の問いにジョゼフは目を見開き、タバサとエルフィアもルシファーを横目で見る。

「お前はどうして弟を手にかけ、弟の妻や娘であるシャルロットを辛い目にあわせるのだ?」

 ルシファーは原作知識がないので、率直にジョゼフに問いかける。

「お前とシャルルの間に何があったのだ?」

「なっ、なにを……」

 ルシファーは繰り返し、ジョゼフの目を見て問いかける。ジョゼフは目の前の男の覇気ともいえるプレッシャーに飲まれ始める。

「話してみろ。全て、今ここで、お前とシャルルの間に何があったかを……」

「おっ! 俺は……! 俺はっ……!」

 ジョゼフは自分の両腕で頭を挟み込む。苦しそうに口を開く。タバサとエルフィアはルシファーとジョゼフの空気に口をはさむことも出来ずに事の成り行きを見守った。

「さあ、ジョゼフ。話してみよ」

 ルシファーが呟くとジョゼフはゆっくりと語りだした。

「お、俺は……、シャルルの、悔しがる姿を見たかったんだ」

「「っ!?」」

 ジョゼフの告白にタバサとエルフィアは驚く。

 ジョゼフはそれから弟、シャルルが魔法の才能に秀でているのに、自分は魔法の才能がなく家臣にバカにされ、シャルルから慰めの言葉を貰うたびに惨めな気持ちになり、憎んでいた事を告白した。そしてさらに、父親の王が次期王を自分に指名したとき、とてつもなく嬉しく思い、指名されなかったシャルルが絶望し、悔しがる姿を羨望していたのに、シャルルは『おめでとう』とニッコリと笑ってそう言い『兄さんが王になってくれて、ほんとうによかった。ばくは兄さんが大好きだからね。ぼくも一生懸命協力する。いっしょにこの国を素晴らしい国にしよう』と、なんの嫉妬も、邪気も皮肉もこめられておらず、本気で兄の戴冠に喜ぶ弟の顔があり、ジョセフのシャルルに対する嫉妬が、強い憎しみに変わり、弟を手にかけてしまい、それから心が震えることがなくなった事を搾り出すような苦しげな声音で告白した。

「そうか……」

 ルシファーは立ち上がりジョゼフの目の前に立った。

 ジョゼフがシャルルに抱いている憎悪と嫉妬が、ジョゼフの行動の原動力になっているんだな。

 シャルロットとエルフィアをこれ以上政争に巻き込まれたりしないよう……、というか、妻たちと安心出来る生活を送れるようにジョゼフを改心させに来たが、どうするか……。

 えーと、シャルルが嫉妬しているところを見せ……、ああっ! 霊界から魂を呼び出す……、んじゃなくって! 記憶回帰! 確か始祖の祈祷書に『リコード』という呪文があったな! それを使えばジョゼフを改心できるはずだ! で、なんに『リコード』をかけるかだが……、土のルビーが怪しいな。試しにかけてみるか。

「ジョゼフよ」

「なんだ……」

「今から一つの魔法をお前にかける。それでシャルルの本心が知れるはずだ」

「なにを言って……!?」

 ルシファーが杖を振るい、土のルビーに『リコード』をかけた。

 ジョゼフに土のルビーから『記憶』が流れ込む。

 突如夢の世界に放り込まれたジョゼフが見たものは、ヴェルサルテイル宮殿の本丸……、グラン・トロワの一室。父が崩御する前の父王の執務室だった。

「なんだ? いったい?」

 ジョゼフはそこで驚くべきものを見る。

 それは次期王が指名されたすぐの映像で、弟のシャルルが執務机の引き出しの中身を床にぶちまけ、机の上に突っ伏して、泣いている姿だった。

 「……どうして? どうしてぼくじゃないんだ」

 シャルルは呟く。

「父さん。どうしてぼくを王さまにしてくれなかったんだ。おかしいじゃないか。ぼくは兄さんより何倍も魔法ができるんだぞ。家臣だって、ぼくを支持するやつばかりだ。それなのに……、どうして? どうしてなんだ! わけがわからないよ!」

 ジョゼフは目の前の光景に混乱した。

 これは……、いったいどういうことだ?

 そのとき……、脳裏に声が響いた。

『ジョゼフよ。今お前が見ている光景は実際にあったことだ。お前の指にはめてある土のルビーの記憶を強い念を引き出してお前に見せているんだ。一応、シャルロットたちには見えなくしている。お前の目でシャルルの真実を確かめろ』

 ルシファーだ。

『これが実際に起こった光景だと? バカな!』

 ジョゼフは感覚を研ぎ澄ませる。目の前の光景が嘘か真かを探り、真実だと感覚で理解した。

 真実と気づいてからジョゼフの心が騒ぎ始める。

 実際に起こったことだと?

 ジョゼフはシャルルが一目もはばからずに、両の手で指輪を胸に押し付け、泣いている姿に意識が吸い込まれていく……。

「兄さんに勝つために、ぼくがどれだけ努力をしてきたと思っているんだ。ぼくのほうが優秀だと証明するために、ぼくが見えない場所でどれだけ頑張ってきたと思っているんだ。すべて今日のため、今日という日のためじゃないか!」

 ジョゼフは理解した。これは、父王の崩御する間際のことだ。あの日、父王は二人を枕元に呼び、『次王はジョゼフと為す』と言い残したのである。そのあと、すぐのシャルルの言葉は、まったく裏表のない、シャルルの本心だと思っていた。どうあがいても勝てぬその心の清らかさに打ちのめされたジョゼフはシャルルを激しく憎み、とうとうこの手にかけてしまったのである。

 でも、それは本音でもなんでもなかった。自分の嫉妬を見せまいとした、シャルルの必死の抵抗だったのだ……。

 ジョゼフの目から、滂沱とした涙が溢れた。気づくと、ジョゼフはシャルルの前に出てしまっていた。

「……兄さん」

 シャルルの顔が驚愕にゆがみ、ついで慌てた様子で、『違う……、違うんだ。父君の荷物を整理してたら、慌ててしまって……」

「いいんだ」

 どこまでも優しい声でジョゼフは呟き、弟の肩を抱いた。

「兄さん……」

 全て見られたと知ったらしいシャルルは、とうとうその端正な顔を泣き顔にゆがめた。

「ごめんよ。ばくは悔しい。どうしても悔しい。わからないよ。どうしてぼくが王さまじゃないんだ? 父さんはどうして、ぼくを王さまにしてくれなかったんだ? どうして兄さんが王さまなんだ? どうしてだい? ほんとうにわからないんだ。ぼくがどれだけ頑張ってきたのか、兄さんや父さんは知らないだろうね。ぼくがどれだけ……」

「知っている。わかってるよ。だからもう泣くなシャルル。俺もそう思う。どう考えたって、王に相応しいのはお前だ。だって、お前はあんなに魔法が出来るじゃないか」

「兄さん。兄さん……」

「だからな、俺がお前を王さまにしてやる。なに。父上の言葉はお前と俺しか知らぬ野田から、どうとでもなるよ。お前が王さまだ。俺は大臣となって、お前を補佐しよう。そうしよう。な? シャルル。それがいい。だろう?」

 ジョゼフは何度もシャルルにそう言い聞かせた。

「兄さん。ごめんよ。ぼくはどうしようもなく欲深い男だよ。家臣たちをたきつけたのは、ぼくなんだ。ぼくが根回しをして、家臣たちを味方につけたんだ。裏金もつかった。兄さんはそんなことはしなかったのに……、ぼくは……」

「もういい。いいんだ。俺とお前は同じだった。それで俺には十分なんだ。だからいいんだ。もう何も言うな」

 心から、ジョゼフはそう言った。爽やかな気持ちが溢れ、心を満たしていく。それが喜びだと知るのに、幾分時間がかかった。

「俺たちで、このガリアを素晴らしい国にしようじゃないか。なあシャルル。俺たちで、世界をもっとよくしようじゃないか」

 溢れる涙を頬に感じながら、ジョゼフは何度も繰り返した。

『俺たちで、このガリアを素晴らしい国にしようじゃないか』

『俺たちで、世界をもっとよくしようじゃないか』

『俺たちなら出来るよ』

『なあシャルル』

『なあシャルル……』

 ジョゼフの手から杖が落ちる。両手で顔を覆った。

「シャルル……。俺たちは、世界で一番愚かな兄弟だなあ」

 自分が泣いている事に気づき、ジョゼフは笑みを浮かべる。

「なんだ。俺は泣いているじゃないか。ははは……」

 涙が焼けるほど熱く……、ジョゼフの心を幾重にも包んでいった。











「なにが起こったの……!?」

 タバサとエルフィアは突然泣き出したジョゼフに驚き、椅子から立ち上がった。

「シャルルの真実を……、兄弟の間違いを正したんだ」

 ルシファーはそれだけ言うとジョゼフに視線を向けた。

 ジョゼフは立ち上がると、床に突然跪いた。

「シャルロット……。長い事、大変な迷惑をかけた。まことにすまなく思う。お詫びのしるしにもならぬが……、受け取ってくれ。お前の父のものになるはずだったものだ。オルレアン公夫人もまことにすまなかった……」

 ジョゼフは王冠を脱ぎ、深く頭を下げた。

 タバサはその態度の変わりようにジョゼフに杖を向けた。

「……何があったの?」

「説明はせぬよ。お前の父の名誉に関わる事だからな。だがもう、終わった。すべては終わったのだ。ルシファーと言ったな……、感謝する。心が震えなくなった俺が泣けた……。泣く事ができた。あとは、お前たちが俺を気のすむように扱えば、それでよい」

 タバサは本当に伯父王ジョゼフの変心の理由がわからなかった。ただ……、彼は『全て終わった』と言う。

 父を殺した憎い仇であるジョゼフ。殺したいと憎んでいたジョゼフを魔法を使って殺そうと思った。

 杖を振り上げ、『ブレイド』という杖自体を刃に変える魔法を唱え、首をはねようとして、振り下ろそうとして出来なかった……。

 すでに、タバサの心を埋め尽くしていた激しい憎悪の感情も、ルシファーに出会ってから薄れ、復讐でなく、新魔国の家族との未来を見つめ始めていたのだ。

 ジョゼフを殺せば確かに気は晴れるかもしれないが、それだけだ。

 憎しみは憎しみを生む。

「殺さぬのか? 父を殺した仇だぞ?」

 ジョゼフは意外そうにタバサを見上げた。

 タバサは決断する。

「…………。わたしは、あなたを許さない……。わたしは、あなたを殺さない。憎しみはここで終わらせる」

 はっきりとタバサは呟いた。

 タバサは涙を流した。

 これでわたしの復讐、ガリアと決別する。

 父さま……。わたしは仇は打ちません……、もう、復讐は望みません……。

 エルフィアは涙を流すタバサを優しく胸に抱いた。











 ルシファーはタバサとエルフィア、ジョゼフが落ち着いた後、相談を持ちかけた。

「それで、ジョゼフよ。この後の事を相談したい」

「この後は、お前たちの好きにしてよいと言ったはずだが」

「俺は、シャルロットとエル……、オルレアン公夫人を政争争いなどに関わらせたくないんだ」

「なに?」

 ルシファーは、この城にジョゼフの元に来た本当の理由を打ち明ける。

「俺がもともとお前に会いに来た理由は、二人にお前の脅威から逃げ回る生活をさせたくなかった事と、シャルロットがトリステインに『亡命』扱いにされ、政治に利用させられないようにする事なのだ」

 ルシファーの告白にジョゼフは驚く。

「俺はもうお前らには手を出さないし、王にはシャルロットが……」

「わたしは王になりたくない」

 きっぱりと言い放つタバサ。

「わたしはもう政治や政争などで一族が殺しあうところなど見たくはありません」

 エルフィアも口をはさむ。

「だが……、この王冠は」

 ジョゼフは手に持った王冠を見つめた。ジョゼフはシャルルの娘に王冠を返したかったのだ。

「なあ、ジョセフよ」

 ルシファーがジョゼフに声をかける。

「なんだルシファー」

「王冠は今まで通りお前が被ればいいだろう」

「だっ、だが……」

 俺がこの王冠を被っていいのか?

「シャルロットもオルレアン公夫人も政争など関わりあいになりたくないし、それに……、ジョゼフよ。『二人でガリアを素晴らしい国にする』んじゃなかったのか?」

「っ!!」

 そうだ……、俺はシャルルとガリアを世界を素晴らしい国にしようと……。

「お前が、シャルルの分までガリアを素晴らしい国にするんだ」

 俺が……、シャルルの分まで……。

「ジョゼフよ。ガリアを素晴らしい国にするのだ、シャルルに胸をはれるような素晴らしい国にお前がするのだ」

「俺は……」

 タバサがジョゼフの前に立つ。

「ガリアを素晴らしい国にすると約束して」

 ジョゼフは頭を下げる。

「ああ……、ああ……! 約束する! 約束しよう!」

 ジョゼフは涙を溢しながら頭を下げ続けた。

 後日……。

 シャルロット・エレーヌ・オルレアンはガリア王宮ベルサルテイル宮殿で始祖に誓い、ガリア王位継承権の破棄を宣言した。

 その突然の王位継承権の破棄に当初は混乱などはあったが、もともと現王ジョゼフにトリステインへと留学させられていた身だったので、混乱は二日もしないうちに収まった。

 シャルル派で反ジョゼフ派のまとめ役、カステルモールを始め、シャルロットの王位継承権の破棄に異議を唱えたが、シャルロットじきじきに国のために尽くすように言われては、他に何も言いようがなく、忠誠はシャルルに捧げたままに、ガリア王に仕えることにまとまった。

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