小説『ゼロの使い魔 世界を渡る転生者【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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『第43話 ロマリア訪問 』






 ロマリアへと向かおうとしたアンリエッタは、才人の『こちらの方が早い』という勧めで魔法学院に停泊しているコルベールの『オストラント号』でロマリアへと向かう事にした。

 そしてロマリアへと向かう『オストラント号』の中で、ルイズはずっと部屋に篭っていた。

 次姉のカトレアから送られた手紙が原因だった。

 八割がたルシファーへの手紙だったが、残りの2割に才人を心配するような言葉がつづられていたからだ。

 故郷を思い出して泣いていた。

 自分の前では才人は帰りたいといっても、故郷の話などしないし、それに最近本当に帰る気はあるのかと疑いたくなるほど、人が変わったように真面目になった。

 それに大事にしていたノートパソコンという物もコルベールへ渡してしまった。

 ルイズの心は沈んでいた。

 才人の心が分からない。

 使い魔のルーンの所為で、自分の事を好きだと思わされている、と不安になる。

 そこで、ルイズは教師であるコルベールに相談を持ちかけたところ、さらに不安になるような事を言われた。

 コントラクト・サーヴァントを行い使い魔になった魔物や動物は、主人に従うようになる。

 そう言えばと、他の使い魔達の事が思い出された。

 使い魔となった竜は無条件で主人を背中に乗せるようになるのではなかったか、と。

 ルイズ自身も教えていたが、コルベールも才人に文字も教えていたようで、コルベールは才人の習得速度に疑問を持ち、一つの事実にいきたったそうだ。

 それは、使い魔が、主人の都合の言いように『記憶』を変えられる。記憶とは、脳内の情報すべて、才人がわたしたちの文字を覚えたのも、あまり故郷のことを思い出させなくしたのも、『記憶』を……、『心』に干渉する使い魔のルーンが原因ではないかとコルベールは語った。

 使い魔のルーン。

 才人の左手に刻まれているガンダールヴのルーンは、心の震えに反応する事からも、あながち間違ってはいない事だと、ルイズは思い、悩んだ。

 自分を好きだといった才人の気持ちは、ルーンに創られた偽りだったのかと……。

 ルイズはロマリアへ着くまで、ずっと部屋で落ち込んでいた。











 そしてルイズは不安を胸に隠したまま、ロマリアへと到着し、アンリエッタに付き添い、ルイズと才人はロマリアのトップ、教皇ヴィットーリオに大聖堂で謁見した。

 そこで、才人とルイズ、アンリエッタの三人は、ヴィットーリオが虚無の担い手で、神官のジュリオが使い魔で、神の右手。ヴィンダールヴである事が教えられた。

「さて、本日こうしてお集まりいただいたのは他でもない。わたくしは、あなたがたの強力を仰ぎたいのです」

「強力とは?」

 アンリエッタがヴィットーリオに尋ねた。

 ヴィットーリオはゆっくりと口を開いて話し始めた。












 ヴァットーリオの話を聞いた三人はその途方もない話に、驚きを隠せなかった。

 アンリエッタが呟く。

「やはり、ヴァットーリオ殿は虚無の力を使って、聖地をエルフから奪還するつもりなのですね」

 アンリエッタの言葉にルイズが目を丸くする。

「知っていらっしゃったんですか!?」

「ええ……。少し前に、初めてお会いした時に」

 ヴィットーリオの後で控えていたジュリオが呟く。

「虚無の力を使うとは言ったけど、あくまで交渉に使うつもりですよ」

「交渉?」

 ジュリオの言葉を聞いた才人が首を傾げた。

 ジュリオは丁寧に説明を始めた。

「虚無の力を見せて、戦ったら負ける事を悟らせるのさ。そうすればエルフも諦めて聖地を返してくれるだろう」

「……どうして、聖地を回復せねばいけないのですか?」

 ルイズはヴィットーリオに尋ねた。

「それが、我々の『心の拠り所』だからです。ねぜ戦いが起こるのか? 我々は万物の霊長でありながら、どうして愚かにも同族で戦いを繰り広げるのか? 簡単に言えば、『心の拠り所』を失った状態であるからです」

 どこまでも穏やかな、優しい声でヴィットーリオは言葉を続けた。

「我々は聖地を失って幾千年、自信を喪失した状態であったのです。異人たちに、『心の拠り所』を占領されている……。その状態が、民族にとって健全なはずはありません。自身を失った心は、安易な代用品を求めます。くらだない見栄や、多少の土地の取り合いで、我々はどれだけ流さなくていい血を流してきた事でしょう」

 ルイズは言葉をなくした。それはハルケギニアの歴史そのものであったからだ。

「聖地を取り戻す。伝説の力によって。そのときこそ、我々は真の自身に目覚めることでしょう。そして……、我々は栄光の時代を築く事でしょう。ハルケギニアはそのとき初めて、『統一』されることになりましょう。そのときはもう、争いはありません」

 ヴィットーリオは、淡々と『統一』という言葉を口にした。幾度となく、ハルケギニアの書く王達が夢見た言葉……。

『統一』

「始祖ブリミルを祖と抱く我々は、みな、神と始祖のもと兄弟なのです」

 ルイズはその言葉に心動かされた。だが……、どこか引っかかるものを感じる。アンリエッタと才人はなにやら納得したようだが、ルイズは違った。

「あの……、いいですか? 聖下」

「どうぞ」

 ルイズは恐る恐る言った。

「聖下のおっしゃっていた事は、強力な武器でエルフを脅す、ってことですか?」

「はい。そうです。あまり変わりませんね」

 ヴィットーリオは呆気なくルイズの言葉を肯定した。

「そんな……、エルフが相手だからと言ってそんなことしていいんですか?」

 ルイズの言葉に話の内容を理解した才人がつぶやいた。

「わたくしは、すべての者の視や早稲を祈る事は傲慢だと考えています」

 きっぱりと、ヴィットーリオは言った。

「わたくしの手のひらは小さい。紙がわたくしに下さったこの手は、すべての者に慈悲与えるには小さすぎるのです。わたくしはブリミル教徒だ。だからまず、ブリミル教徒の視や幸せを願う。わたくしは間違っているでしょうか?」

「間違ってはいないと思います。でも……」

 才人が考え込んでいると、アンリエッタが真剣な面持ちで呟いた。

「……サイト殿。わたくしは教皇聖下のお考えに賛同する事にいたしました」

「姫さま!?」

「わたくしはかつて、愚かな戦を続けました……。もう二度繰り返したくない。そう考えます。力によって、戦を防ぐ事ができるなら、それも一つの正義だとわたくしは思うのです」

 アンリエッタの言葉はそこで終わらなかった。

「ですが、その力が本当に使えるのであればの話です」

 ヴィットーリオは眉をぴくりを動かした。

「ルイズは現在精神力が切れて、虚無の魔法は唱えられませんし、そもそも後2人の虚無の担い手と使い魔、秘宝に、指輪はそろっているのですか?」

「それは……」

「わたくしは教皇聖下のお考えに賛同しますが、エルフを脅せるほどの力が現在ハルケギニアにあるとは思えないのです……。4のすべてが揃ったとしても、戦いの途中で担い手の精神力が切れてしまったり、エルフが切り札を切ってきた場合はどうお考えなんですか?」

 ヴィットーリオは笑みを浮かべたままゆっくりと話し始めた。

「わたくしも警戒していますが、ハルケギニアが一つにまとまり、4の4を完全に集めさえすれば必ず勝てると思っています。虚無の担い手の方もロマリアの密偵が全力を持って捜索していますし、もうすでに残りの担い手の情報は得ています」

「あの……、質問いいですか?」

 才人が手を上げる。

「どうぞ」

 にこやかに、ヴィットーリオは頷いた。 

「『虚無』を集めるのはいいんですが、ガリアのはどうするんですか?」

「ガリアの虚無ですが……」

 ビットーリオは言葉を強張らせた。

「ガリア王国のジョゼフ王は現在、姪のシャルロット殿から王位継承権を奪った後から、国の内政に取り組んだり、不穏分子を排除して国力を高めるのに必死になっています。今回の式典にも欠席するとの事でしたし、数年は動かないでしょうから、今は警戒するだけでよいと思います。ガリア王国がおとなしいうちに、四人目の担い手と、残りの秘宝と指輪を探し出し、虚無の3人の力で、あの信仰心もないガリア王ジョゼフを屈服させるのです」

 ルイズたち3人はヴィットーリオの言葉に不安を感じ、最後まで賛同するとは言えなかった。











 ヴィットーリオとの邂逅から翌日。

 神官ジュリオは才人に『見せたいものがある』と呼び出し、大聖堂の地下階へと連れて行った。

 そのでジュリオは『場違いの工芸品』を才人へと見せた。

 『場違いな工芸品』とは才人の世界から送られてきた武器たちのことであった。

 AK小銃から戦車、ジェット機のエンジンまで地下の倉庫に埋まっていた。

 ジュリオは驚きながら武器を触る才人に向かって呟いた。

 これは聖地からロマリアの密偵が持ち運んできた品だと

 そして、才人が元も世界へと戻れる方法が、帰り道が、聖地にあるかもしれないと印象づけていた。












 もう一方では、コルベールから『火のルビー』を返却されたヴィットーリオが、アンリエッタとルイズを呼び出して、虚無の魔法、中級の中の上、『世界扉』を唱えて、自分が虚無の担い手である証明をしていた。

 アンリエッタとルイズは、ヴィットーリオの『世界扉』で才人の世界を覗き、技術力の差に驚き、ルイズは才人が元の世界に戻れる手段が分かり、急いで才人に知らせようとしたが、ヴィットーリオに止められた。

「なんで止めるんですか!?」

「今サイト殿を元の世界に戻されたら、我々が困るからです。彼にはジュリオが今頃『帰る方法は聖地にある』と、言っているところですからね」

「何故そんな事を!?」

 アンリエッタが声を上げる。

「ハルケギニアは彼の力が必要不可欠なのです。今帰られてはハルケギニアはエルフとの戦いに勝利できませんし、脅す事すらかないません」

「でも! でも!」

 ヴィットーリオはルイズに向かって続ける。

「我々は選ばねばいけないのです。個を救うか、個を捨てて、すべてを失うかを……」

「っ……!」

 アンリエッタは指を噛んだ。

 ハルケギニア大陸の一国の王として、ヴィットーリオの言葉が分かるのだ。

 才人が元の世界へ帰れば、四の四は揃わない。

 新たな使い魔を召喚する?

 それはおそらく無理だ。

 使い魔は一人に付き、一つ。

 元の世界に才人を返しても、ルーンが消えるとも限らないし、返してしまってもルーンが残ったままなら、新たな使い魔など召喚できない。

 それに才人に元の世界に返したくないという自分がいた。

 アンリエッタは気づかないうちに、口から自然と言葉がでていた。

「分かりました。サイト殿には知らせません」

 と……。

「姫さま!?」

「ルイズ……。あなたにも分かるでしょう? サイト殿を帰してしまうとハルケギニアがどうなるか」

「そ、それは……」

「もしも、聖戦が発動された時、虚無の全員が揃わなければ、ハルケギニア中の人間の未来が……、人間が滅んでしまうかもしれないのですよ」

 アンリエッタに続くように、ヴィットーリオも呟いた。

「そうです。もしも元の世界に返してしまえば、我々の未来はありません。なんとしても我々は聖地を奪還しなければならないのです。4人の担い手が現れた今が最大のチャンスなのです」

 ルイズは俯いて涙を溜めた。

 そんなルイズの両肩に手を置いてアンリエッタは言った。

「ルイズ。それにあなたはサイト殿を元の世界へ返してもいいの?」

「え?」

「返してしまえばもう二度と会えないかもしれないのよ? それでもいいのルイズ?」

「そ、それは……」

 ルイズはもはや何も言えなかった……。











 ルイズ達がそれぞれ不在で暇になっていたコルベールは、丁度その頃才人に貰ったノートパソコンに向き合っていた。

 ハルケギニア一の天才と言ってもいいだろう、コルベールは充電切れだったノートパソコンのバッテリーを錬金を使って、電気が溜まった状態に戻し、どうすれば動くのかとあちこち弄っていた。

 カチッ。

 ノートパソコンのボタンを押した瞬間、動き始めた。

「こ、これは……!?」

 真っ黒だった画面が、鮮やかな光景が映し出された事にコルベールは驚いた。

 そして丁度その頃に、扉が開いて才人が帰ってきた。

「サイト君! こちらへ来たまえ!」

 コルベールは興奮した様子で叫んだ。

「どうしたんですか?」

 才人はコルベールに近づいて、気づいた。

 電池切れで動かなかったはずのノートパソコンが動いている事に……。

「コルベール先生! これって……!」

「ああ! 解析してバッテリーに電気を宿したんだ!」

 そこからコルベールはどうやってバッテリーを電気が溜まっている状態へと戻したか説明をしていたが、ノートパソコンの画面に釘付けとなっていた才人は、コルベールの話しなどまったく耳に入っていなかった。

 ノートパソコンに家族や友人達からのメールが、何通も届いていたからだ。

 一番多かったのは母親からのメールだった。

 いつも自分の身を心配しているメールに、才人は涙を流した。

「サイト君……」

 コルベールは静かに部屋を後にした。











 その後は何も起こらずに、3周年記念式典が行われ、トリステイン王国へとルイズたちは戻った。

 だが、そこで、コルベールが予想していた事が、事実であった事に気づいた。

 コルベールが予想した、使い魔になると心を変わる。

 という説は、本当だったのだ。

 ノートパソコンの画面に映る家族からの手紙を、泣きながら読んでいた才人が、ルイズの前だとまったくそんな様子を見せないどころか、帰ることすら忘れているように感じられたのだ。

 コルベールはその事実に震え、すぐにルイズを研究所へ呼び出した。

「なんでしょうかコルベール先生」

 帰れる手段があるのに教えられないと言う罪悪感で、落ち込んでいたルイズは沈んだ声で呟いた。

「以前君に相談された事なんだが……」

 コルベールの言葉にルイズは体を強張らせた。

「……何か分かったんですか?」

「ああ。やはり使い魔となると、心が変えられる事が分かったんだ……」

「っ!!?」

 ルイズは言葉を失う。

 コルベールはそんなルイズに、淡々と告げていった。

 ノートパソコンに家族からの手紙が送られてきて、泣いていた事。

 ルイズが近くに居るときは、まったくそんな様子を見せない事。

 ルイズの近くと、離れたところでは、才人の心に多少の変化があった事などを告げた。

「コルベール先生……、わたしはどうすればいいんですか……?」

 ルイズは涙を流しながら、コルベールへつめ寄った。

 コルベールは顎に手を置いて呟いた。

「確か……、サイト君の持っている剣は、始祖ブリミルのガンダールヴの剣だったね?」

「はい……。デルフリンガーです」

「そのデルフリンガー君に尋ねてみるのはどうかね? インテリジェンスソードなのだからルーンについて尋ねてみては……」

「はい……」

 そしてルイズは才人のいない間に、デルフリンガーに問いかけた。

 デルフリンガーはルーンに洗脳効果があるか分からないと答えたが、虚無ならルーンに干渉できるという情報が得られた。

 ルイズは急いで『始祖の祈祷書』を開いて、使える呪文を探したが、始祖の祈祷書からはなんの答えも返ってこなかった。

 沈んだままルイズは再び、コルベールの元へとやって来た。

「そうか……、デルフリンガー君もダメだったか……」

「はい……。先生、どうすれば才人の心を元に戻せるんでしょうか……」

 コルベールは頭の隅に、ある人物が浮んだ。

 絶大的な力を持つ、危険人物。怒らせればどうなるかまったく分からない魔人。

 聞いてみる価値はあるだろう……。

 コルベールは思い切って、ルイズに言った。

「ミス・ヴァリエール。あの人物なら、もしかしたら、サイト君を正常に戻せるかもしれない……」

「ほんとですか!? 心当たりがあるんですか!?」

「……ああ。君も知っている人だよ」

「知ってる人……」

 ルイズの頭にも、ある人物が浮んだ。

 コルベールはゆっくりと言った。

「ルシファー殿なら……、おそらくなんらかの方法を見つけてくれるかもしれない」

「……ルシファー」

 一筋の光を得たルイズは、気に入らない姉に手を出す最低な男に頼る事は嫌だったが、もうそれにすがるしか方法はなかった。

 決心したルイズはコルベールに頭を下げた。

「コルベール先生! ルシファーの居場所を教えてくださいっ!!」

 コルベールは頭を下げるルイズに苦い表情を浮かべて、ゆっくりと呟いた。

「……すまない。わたしも知らないんだ……」

 ルイズは固まった……。












 ルシファーを探す事にしたルイズは、まず始めに婚約して退学したキュルケの実家に手紙を出した。

 しかし、キュルケの実家から戻ってきた手紙には、ルシファーとキュルケが現在実家にいない事、行き先は知らないと、書かれていた。

 手がかりを失ったルイズは諦めずに、アンリエッタから調査するように言われた虚無の担い手探しの合間に、ルシファーを探した。

 トリステイン王国を始め、アルビオンまで……、ルイズと才人、水精霊騎士隊の面々は虚無の担い手を探しながら、ルイズに頼まれるままルシファーの行方を捜した。

 そして3ヶ月以上探した結果、四人目の虚無の担い手よりも、ルシファーの情報が集まった。

 集まったには集まったのだが……。

「なによ、なんなのよ! あいつ! キュルケがいるくせに、なんで酒場の女の子や娼婦達に手を出してるのよ!! し、しかも、いくつもの奴隷商で女を買ったかったですって!? あいつってほんと何なの!!?」

 ルイズは魔法学院に設けられたゼロ戦の格納庫兼水精霊騎士隊のたまり場で叫んだ。

「ほんとにすごかったよなー。『魅惑の妖精亭』でもルシファーのヤツ人気だったし……」

 才人は羨ましそうに呟いた。

 ルイズは羨ましがる才人を怒る余裕もないので、床を踏みつけた。

 ギーシュやマリコルヌといった水精霊騎士隊の面々は、少し離れたところでワインを飲んでいた。

「はぁ……、羨ましい! 僕にも女の子の口説き方をぜひご教授して欲しいね!」

「まったく貴族でもないのに、何人もの女の子と……」

 ぶつぶつと呟きながら、自棄酒をあおっていた。

 ルイズはギーシュたちが飲んでいたワインを壜ごと奪うと一気に飲んだ。

「おっ、おい!?」

 才人はルイズの口から慌ててワイン壜を取り上げた。

 ルイズはぷふぁ〜っと、アルコール臭い息を吐きながら叫んだ。

「ほんとにどこにいるのよ!!? 3ヶ月も探してるのに! 何で見つからないのよ!!? 見つかる情報も情報で、一緒に寝たとかだし! もうっ! どこにいるのよ!!」

 ルイズは今まで溜まった鬱憤を晴らすかのように、杖を振るった。

 振るうと今まで何の反応もなかった杖が、光だした。

「おっ! おいルイズ!!? バッ、バカッ! なにをする気だ!?」

 才人と水精霊騎士隊の面々が青い顔で、止めるがルイズは止まらない。

 杖はバチバチッと、音を出しながら、光りを大きくしていく。

「エクスプロージョン!!!!」

 そしてルイズの言葉と共に、ゼロ戦の格納庫はバラバラに砕け散った……。

 ちなみにバラバラに砕け散ったゼロ戦と格納庫は、調査したルイズと水精霊騎士隊の給料のほとんどを使って直す事になった……。











 どうやっても見つからないルシファーに、ルイズは半ば諦めかけた頃。

 学院が夏季休暇に入り、実家へ帰る事になった。

 ルイズは馬車で才人とシエスタを連れて、実家へと向かった。

「最近おかしいぞお前」

 才人は馬車に揺られながら呟いた。

 ルイズはそんな才人に小声で、聞こえないように呟いた。

「……おかしいのはあんたよ……」

 ここずっとギクシャクしている2人を見かねてか、シエスタが騒ぎ出した。

「ほら見てくださいサイトさん! あそこに豚さんがいますよ!」

 きゃっきゃっと、才人に胸を押し付けるシエスタだったが、余裕のないルイズは暗い顔で外を眺め、そんなルイズの様子にシエスタも騒ぐのをやめた。












 それから実家へと到着したルイズたちは、家族に迎え入れらた。

 ささやかな晩餐会を楽しみ、久々に家族と再会したルイズは少しだけ心を癒された。

 晩餐会が終わった後の会場で、ルイズはカトレアに相談する事した。

 会場の隅に設けられた長椅子に座り、ゆっくりと呟こうとして、先にカトレアに呟かれた。

「そう言えばルイズ。わたし好きな人が出来たの」

 ……えっ?

 ルイズの頭は一瞬、真っ白になった。

「す、すす好きな人!?」

 ルイズは大声をだして驚いた。

 両親の視線やエレオノール、才人たちの視線が、何事かと集まったが、関係ない。

 ルイズはカトレアの言葉を息を飲んで待った。

 カトレアの口がゆっくりと開く。

「わたしね。ルシファーさまの事が好きなの」

「…………」

 頬を朱に染めて微笑むカトレアに、ルイズは目の前が真っ暗になるのを感じた。

 今までにたまりに溜まった心労が、ルイズから意識を奪おうとしていた。

 しかし、カトレアはそんなルイズに気づかずに、両手を合わせて、頬を赤く染めて呟いた。

「少し前からお手紙のやり取りをしたり、森へデートに行ったりしてたんだけど、そこで気づいたの。他に妻がいてもルシファーさまなら、ちゃんとわたしのことも愛してくれるってね」

 ふふふっ、と呟いたカトレア。

 ルイズは意識を失いかけていたが、脳内に響くカトレアの言葉に、失いかけていた意識が浮上するのを感じた。

「ちい姉さま、さっきなんておっしゃいましたか……?」

「ルシファーさまならわたしも愛してくれるって……」

「いえその前です!」

 ルイズは大声でカトレアにつめ寄った。

「ど、どうしたの小さいルイズ?」

 カトレアは目を大きく開いたが、ルイズは止まらない。

「答えてくださいちい姉さま!」

「え、ええっと……、お手紙のやり取りをしたり、森へデートへ行った……」

「それです!」

 ルイズはカトレアがすべてをいい終える前に叫んだ。

「ルイズ、そんな大きな声を出してはしたない……」

「母さまは黙っていてください!!!」

「「「「「っ!!?」」」」」

 大声をだしたルイズを叱ろうとしたカリーヌを、ルイズは怒鳴って黙らせた。

 その事に会場にいたずべての者達が言葉を失った。

 まさかルイズがカリーヌに反抗するとは、夢にも思っていなかったからだ。

 幼少の頃から厳しく躾けられたルイズが反抗したのだ、カリーヌもいつもならすぐに杖を取り出して叱るのに、ショックで固まってしまっていた。

 ルイズは鬼気迫る形相で、カトレアに向かって尋ねた。

「ちい姉さま! いつから、いつからルシファーと会っていたのですか!!?」

「え、ええっと……。た、確か3ヶ月ぐらい前に、ルシファーさまが家に立ち寄った時からかしら……? それから頻繁に会いに着てくれるようになって、一週間前にも……」

 ルイズはわなわなと肩を震わせた。

 そしてブツブツと何かを呟き始めた。

「なによなによなによなによっ、わたしがわたしが探してトリステイン中探したのに、さがしたのに……、ちいねえさまと手紙のやりとりですって……、しかもデート、デート……!! わたしが悩んで悩んで悩んで悩んでいるときにっ!! なんなのよ、なんなのよ……!!」

「る、ルイズ……?」

 会場に居た全員が寒気を感じた。

 ルイズから発せられる黒いオーラに、カリーヌも恐れを抱いたほどだ。

「ちい姉さま……」

 まるで地獄の底にいる亡者のような声だった。

「な、なに……?」

「ルシファーと手紙のやり取りをしてたんですよね」

「え、ええ」

「わたしもルシファーに手紙を出したいのですが」

「……わ、わかったわ」

 恐怖を感じたカトレアはコクリと頷いた。












 一方、そんなルイズたちの事など完全に忘れてしまっている新魔国のメンバーは、現在パーティーを開いていた。

 キュルケ、マチルダ、ティファニア、エルフィアの4人が懐妊したからだ。

 全国民を城へと集め、特別なワインや豪華な料理を食べあいルシファーの子が、宿った事を祝っていた。

 それから三日間ほど国を挙げて祭りを楽み、お祭り気分が抜けずに、ルイズから送られた手紙に気づくのに一週間もかかったのは、仕方がない事だろう。















<後書き!>

 少し変わった原作!

 大幅な時間変更!

 まだまだ続きます!

 そしてそろそろカトレアターンか!?

 次回予告!

 二重の心!!

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