第9章 和平
「いてて……」
俺はあの後、部屋にやってきた梓乃に怒られながら怪我の治療をしてもらっていた。
場所は『神の子を見張る者(グリゴリ)』の医務室だ。
「まったく!英志は自分の身体を大事にしないと駄目だよ!!」
曹操の槍で抉られた傷口に包帯を巻きながら梓乃は言う。
「大事にしてるけどさぁ、向こうが俺を狙ってんだし逃げるわけにはいかないだろ」
バシッ!
「グォッ!!」
傷口をひっぱたかれた。
痛い……ただでさえ光のダメージで身体中が痛むのに……
「そうかもしれないけど、英志が死んだら、私もグレモリーさん達も悲しいよ。自分が思うより英志は周りから大切に思われてるんだから」
真剣に言われ、俺は何も言い返せなかった。
「……分かってるよ。死ぬつもりなんてないからさ」
「うん」
まだやりたい事もある。
大事な仲間もいる。
俺は死んでやる訳にはいかないんだ。
梓乃の言葉で改めて実感した。
「おう、お二人さん。久しぶりだな」
医務室の扉が開き、入ってきたのはアザゼルさんだった。
「アザゼルさん!帰ってきたんですか!?」
俺の質問にアザゼルさんは、面倒くさそうに頭を掻きながら答えた。
「今さっきな……ちょっと用事ができたんで準備をしなくちゃいけねぇんだ。エージにも参加してもらうから支度しとけよ」
「え?俺も?一体どんな用事なんですか?」
アザゼルさんの顔が急に真剣なものになる。
「天使、堕天使、悪魔の……運命を決める重要な会議さ」
○駒王学園
久しぶりに訪れた学園の廊下を俺とアザゼルさん、ヴァーリは歩いていた。
先日のコカビエル戦での事情説明のため、天使長と堕天使総督、魔王が集う。俺、悪魔なのにこっち側にいるのはOKなのかな……
校舎は強力な結界に覆われていて、誰も中に入れない。逆に一度入ったら出られない。
「はぁ〜かったるいな〜」
グチグチ文句を垂れるアザゼルさん。
トップなんだからしっかりしてくださいよ。
因みにアザゼルさんの格好はコカビエルが着ていたものより装飾の凝ったローブだ。
いつもの浴衣は流石に駄目だろうと俺とシェムハザさんで説得してやっと着てくれたんだよな。
職員会議室で会談が開かれるまでの間、休憩室で待機をしているらしい。
俺達は休憩室に入り、時間を潰すことにした。
休憩室に入るなりアザゼルさんが
「寝るから時間になったら起こしてくれ」
そう言って
の○太並みのスピードで寝てしまった。
「はぁ……しっかりしてくれよ………」
俺は呟きながら近くにあった椅子に腰掛けた。
ヴァーリは壁に持たれて腕を組んでいる。
不意にその口が開いた。
「古城英志、曹操と戦ったというのは本当か?」
「知ってるのか?」
曹操と戦った事は一応アザゼルさんに報告してあるがヴァーリには言っていない。
「ああ、俺も奴とは戦った事があるからな」
ヴァーリも戦ったのか。
曹操の野郎、本当に戦闘狂だぜ。
「で、勝ったのか?」
俺の質問にヴァーリは首を横に振った。
「いや、曹操のセイクリッド・ギアの禁手化(バランス・ブレイカー)状態が厄介でな……決着はつかなかった」
曹操を禁手化させたのか!?
俺なんて禁手化してない曹操に負けたのに……
やっぱりヴァーリは凄い奴だ。
コンコン
「間もなく会談が始まりますので、移動をお願いします」
何処かで聞いた声だ……
どこだったっけ?
「行くぞヴァーリ。アザゼルさん、起きてください」
俺はアザゼルさんを起こし、職員会議室に向かった。