「なんだ?今の?」
俺の意識がもどると部屋の状況が一変していた。
アザゼルさんとミカエルさんは窓からグランドを見ている。
ルシファー様とレヴィアタン様は真剣な顔で何かを話し合っていた。
後ろを見ると、一部の人を除いてほとんどの人がまるで時間ごと停止させられたように動かない。
動いているのは、三大勢力のトップの方々とヴァーリ。
それに……部長とイッセー、木場とゼノヴィアだった。
「エージ!!」
俺の意識が戻ったのを見て、イッセーがこちらに走り寄ってきた。
「久しぶり!元気してたか!?」
「久しぶり、イッセー。元気にやってたよ」
こうやって話すのも久しぶりだ。
「起きたか、エージ」
アザゼルさんが俺達の前に歩いてきた。
「アザゼルさん、これは一体なん「おいっ!なんでエージがお前のところに居るのか説明しやがれ!!」
……いや、イッセー」
俺の言葉を遮り、イッセーがアザゼルさんに向かって叫ぶ。
「そうね、聞かせてもらいましょうか。アザゼル」
部長がゆっくりとアザゼルさんの前に立ちはだかり、木場とゼノヴィアもその後ろに続いた。
「みんな……」
嘆息しながらアザゼルさんは肩を竦める。
「おいおい、俺は悪者か何かか?一応エージの命の恩人なんだぜ?」
「……どういう事?」
訝しげに部長が訊く。
「フェニックスとのゲームでリタイヤしたエージは、魔方陣に仕掛けられてた細工で別の場所に強制転移させられたんだ。テロリストの隠れ家にな。そこから俺がエージを連れ出したんだよ」
「なんでそんな事を?」
今度は後ろに控えていた木場が口を開いた。
「あのゲームを見ていた他の上級悪魔がテロリストと繋がっていて、エージを利用しようとしたんだろう。だから悪魔の目が届きにくい堕天使の組織で匿っていたのさ」
アザゼルさんの説明を聞き、みんな黙ってしまった。
「で、エージ。今の状況は分かるか?」
アザゼルさんに聞かれ、俺は首を横に振った。
「そうか。なら、リアス・グレモリー、お前が教えてやれよ」
ヒラヒラと手を振ってアザゼルさんは窓の方に戻っていった。
久しぶりに部長と話すと思うと緊張してしまう。
「部長、一体何があったのか教えてください」
俺は部長に頭を下げた。
だが、返事がない……もしかして怒ってる?
「……顔を上げなさい、エージ」
そう言われ、恐る恐る顔を上げると顔を柔らかいもので包まれた。
「無事でよかったわ、エージ!!」
凄くいい匂いがするぞ……まさかこれ……部長のオッパイ!?
抱き寄せられた俺は、されるがままに部長の胸に顔を埋めていた。
(ヤバい……夢にまで見た部長のオッパイ!俺の夢が一つ叶ったんだ!!)
でも、段々苦しくなってきた。窒息の一歩手前で俺は部長の手をタップして離してもらった。
(ハアハアハア……部長のオッパイは色んな意味で凶器だぜ)
乱れた呼吸を整えながら、俺は何だか戻ってきたのを実感した。
「とにかくエージも復活したし、ギャスパーを助け出すのよ!」
ギャスパー?って誰だ?
困惑する俺を見て、木場がフォローしてくれた。
「エージ君がいない間に増えた眷族だよ。強力なセイクリッド・ギアを持ってるんだけど、制御できなくて危険だからこの場には居ないんだ」
爽やかスマイルが眩しいぜ。ゼノヴィアが木場に続く。
「この状況はそのギャスパーの力が原因なんだ」
部長は重々しく頷いた。
「その通り。『停止世界の邪眼(フォビトゥン・バロールビュー)』。視界に映したもの全ての時間を一定時間停止することができるのよ」
マジかよ!!それって……
「時間を停めて女の子に色々な事ができるじゃないですか!くっそぉ、羨ましい!!」
だって時間を停めてたら何をしてもばれないし、最高じゃないか!!
「流石はエージだ!俺もそれを考えてた!!」
「おおっ!同志よ!この夢をいつか叶えよう!!」
俺とイッセーを見ながら、部長は深い溜め息を吐き、木場は苦笑いをしていた。ゼノヴィアも小さく笑っていた。
「二人ともそんな場合じゃないのよ」
部長の声で正気に戻った俺とイッセーは部長の話に耳を傾けた。
「現在、ギャスパーは旧校舎のオカ研の部室にいるのだけれど……そこをテロリストに占拠されて、ギャスパーは捕まっているはずよ。そのギャスパーの力を何らかの方法で強化した結果、この停止世界ができた」
テロリスト……まさか『禍の団(カオス・ブリゲード)』か?
俺は窓際に向かい、グランドを見てみた。
そこに居たのは俺を公園で襲ってきた奴と同じ格好をした連中だった。
間違いない……
「アザゼルさん、これは………」
窓際に居たアザゼルさんに訊くと、忌々しげに告げた。
「ああ、テロだ。和平の矢先に冗談じゃねぇぞ」
不意にルシファー様が俺の肩に手を置いた。
「君もリアスの眷族なんだろう?なら、この状況の解決に協力してくれないか?」
魔王であるルシファー様に声をかけられ、俺は正直ビビった。
だけど、みんなの役に立てる時がきたんだ。俺のやることは決まっている。
「悪魔の命運の為に尽力する所存です」
みんなの為に戦う。
もう負けたくないから。
「いい目をしている。君の活躍を期待しているよ」
ルシファー様はそう言って俺から離れた。
「俺が相手してきます。その間に解決策を考えてください」
俺は部屋にいる全員に告げた。
「分かった。ならヴァーリ、お前もついていけ。その方が奴等の目を惹ける」
「了解した」
アザゼルさんの提案にヴァーリが応え、俺の隣に歩いてきた。
「足手まといになるなよ、古城英志」
「余計なお世話だ、ヴァーリ」
軽口を叩きながら、お互いのセイクリッド・ギアに力を込める。
「「禁手化(バランス・ブレイク)」」
蒼白の鎧を身に纏った俺と、白銀の鎧を身に纏ったヴァーリは校舎の結界を抜け、飛翔した。