sideイッセー
ギャスパーを無事救出し、旧校舎を出ようとした時だった。
ドッガシャァァァァァァァンッ!!!
俺たちの目の前に何かが落ちてきた。
立ち上る土煙が消えたあと、そこに居たのはアザゼルだった。
「まさかここで裏切るとはな……」
アザゼルは立ち上がりながら苦笑した。
「悪いな、アザゼル。こっちの方が面白そうなんだ」
そう言って空から降りてきたのは白龍皇ヴァーリ!!
あまりの展開についていけず、俺はたまらず声を上げた。
「ぶ、部長!あいつら仲間なんじゃないんですか!?」
「わからないけれど……かなりマズイ状況に変わりないわ」
部長も状況を理解できないようで、その顔には焦りが浮かんでいた。
「ハーフヴァンパイアのセイクリッド・ギアを使い、この会談を襲撃する。天使や堕天使と馴れ合うなど、許されない行為なのです」
空からの声に上を見上げると……
うおっ!?
なんて大胆な格好をしてるんだ!
エッチな服を着て登場したのは見ず知らずの女性だった。
「いやらしい顔でこちらを見ないでください、赤龍帝」
鋭い視線で睨まれ、俺は怯んでしまう。
「貴方のような人が赤龍帝など信じられな……」
ドガァァンッッ!!
女の人の声を遮り、またもや何かが落ちてきた。
土煙が晴れたそこには蒼白の鎧を纏ったエージが倒れていた。
鎧にはヒビが入っていて、今にも崩れそうだ。
「エージ!!」
俺は倒れているエージに近付こうとするが、ヴァーリが俺の前に立ちはだかる。
「お前は俺の獲物だ」
そう言った白銀の鎧の戦士は俺の身体に触れようとする。こんな所で宿命の対決するのか!?
「おいおいヴァーリ……それは駄目だろ」
ヴァーリの後ろでゆっくりとエージが立ち上がった。
瞬く間に傷だらけの鎧が修復され、エージはヴァーリと対峙する。
「流石にまだ死なないか古代龍」
「そう簡単に死ぬ程ヤワじゃないんだよ」
エージとヴァーリは互いを牽制するように睨み合う。
エッチな服の女性は嘆息しながら呟いた。
「こうなった白龍皇を止めるのは困難ですね……ではアザゼルを先に始末しましょう。このカテレア・レヴィアタンの手で!!」
レヴィアタン!?
なんでこいつが魔王様の名前なんだ!?
アザゼルが俺に言った。
「そいつは旧魔王、レヴィアタンの末裔だ。今はテロリストの一員だけどな」
旧魔王!?
噂じゃ現魔王に逆らって冥界の隅に追いやられたって聞いたけど……
それの恨みでテロなんか起こしたのか?
「真の魔王である私達が冥界を支配するのは当然です。冥界を統治した暁には天界に攻め入り、
世界を治める……それが私達の最終目標です」
なんかただの新入り悪魔の俺の知らない所で世界が動き出そうとしてるのかもしれない……
sideエージ
「くだらないんだよ、世界がどうとかさ……みんなが平和に暮らせりゃそれでいいだろ」
俺の口から自然と発せられた言葉はカテレアの高すぎるプライドを刺激するには充分だった。
「貴方に私達の考えは理解できません。所詮は薄汚い転生悪魔なのですから」
その返答を笑う者がいた。
「ハハハハ!!若造の意見で熱くなってるんじゃねぇよ。カテレア、戦争を知らない若い世代にまで戦争の業を背負わせようってのか?そんなの馬鹿げてるぜ」
アザゼルさんだ。
心底可笑しそうに腹を抱えて笑っている。
それと対称的にカテレアの顔は怒りに歪んでいった。
「アザゼル!私達を愚弄する気ですか!!」
カテレアの身体から魔力が溢れ出す。
アザゼルさんは表情一つ変えず、懐から金色の短剣を取り出した。
「俺はただ、セイクリッド・ギアの研究をしたいだけさ。戦争なんかしたら、そんな暇はないからな。
邪魔するなら……消しとばす」
短剣が形を変え、光を放ち出す。
「禁手化…!」
一際強い光を放ち、次の瞬間、そこには金色の鎧を纏ったアザゼルさんだった。それは俺やヴァーリの鎧と似ていて、ドラゴンのオーラを感じた。
「アザゼル……それほどの力を有していながら、何故!?」
カテレアが困惑したような声を上げる。
「白龍皇と古代龍のセイクリッド・ギアを研究し、作り上げた最高傑作。人工セイクリッド・ギア……『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』の擬似的禁手化(バランス・ブレイカー)、『堕天竜の鎧(ダウン・フォール・ドラゴン・アナザー・アーマー)』だ」
圧倒的な威圧感でアザゼルさんは言った。
アザゼルさんの力は完全にカテレアを超えていた。
そのままアザゼルさんはカテレアに指を指し、クイッと動かした。
「こいよ」
「なめるな!!」
カテレアがアザゼルさんに突撃する。アザゼルさんは片手に光の槍を創り出し、応戦した。
「流石アザゼルだ!本当に凄い!!」
ヴァーリが高笑いをする。コイツはどこまでも狂ってやがる。
アザゼルさんがあんなに本気出してんだから……世話になった俺がただ見てる訳にはいかないよな!!
「ヴァーリ!ここで勝負といこうじゃねぇか!!」
背中の翼に魔力を集め、一気に距離を詰める。
俺は右の拳をヴァーリに叩き込む!!
だが、軽々と俺の拳を掌でヴァーリは受けとめる。
「いいだろう!古城英志!!お前の全力を見せてみろ!!」
拳を離し、ヴァーリは俺に蹴りを浴びせる。
両手をクロスして、それを防ぐ。
俺はその脚を取り、上に持ち上げた。そのまま地面に叩きつける!!
ドゴォォォォォォォッ!!!!!!
地面に亀裂が走り、叩きつけたヴァーリを中心に大きなクレーターができる。
俺は間髪いれず、そこに魔力弾を打ち込む。
『Divide!!』
その音声が聞こえた瞬間、魔力弾の威力が半減した。
白龍皇の半減の力だ。
クレーターからヴァーリが飛び出し、すれ違いざまに俺の腹にパンチを打ち込む。
『Divide!!』
ガクンと俺の身体から力が抜ける、触れた者の力を半減させる事が出来るんだったな!
「だからどうしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔力を身体の底から魔力を絞り出す!
もっとよこせ!もっと……もっとだ!
俺の身体から滲んで溢れた魔力が大きな魔法陣を描く。標的はヴァーリ!!
俺がランサスのデータを研究して生み出したオリジナルの魔法だ!
相手は白龍皇!出し惜しみはしない!!
「喰らえぇぇぇっ!!」
魔法陣から巨大な何かが出現し、空中のヴァーリに向かって飛んでいく!!
「これは……鎖?」
それは魔力でできた鎖だった。だが、ただの鎖じゃない。
ヴァーリはその鎖を払おうとするが、その鎖を離れない。
「俺のオリジナル……龍封じの鎖だ。その鎖が巻きついた龍は決してその鎖の呪縛から逃れられない!
加えて……その鎖には強力な龍殺しの魔法も合わせている!」
俺は鎖が生えている魔法陣に更に魔力を流した。
「グァァァァァァァァ!!」
魔力が流れて龍殺しの力をヴァーリに注ぎ込む!
これで終わりだ!!
『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!』
半減の力をフルに発動してヴァーリは鎖を弾き飛ばした。くそっ!駄目か!!
爆散した鎖は空中で塵となり消えた。
「はぁはぁ……まさか対ドラゴンの魔法まで用意していたとはな……だが、俺の様な力ある龍を封じこめるにはまだ早い。その証拠に、白龍皇の力で脱出する事が出来た」
息を切らしながら、ヴァーリはそう指摘した。
コイツの言うとおり、この魔法は未完成だ。もっと俺本体に魔法が扱える技術が必要だ……
「おい、ヴァーリ。俺は終わったが、どうする?二対一でやるか?」
アザゼルさんが黄金の鎧を解除して近づいてきた。
カテレアを倒したようだが、アザゼルさんの左腕は肘のあたりからバッサリ切断されていた。
「『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使えば、二人を倒すこともできるが……それは得策じゃないか」
『ヴァーリ、ここは引いた方がいい。龍殺しの力が予想以上にお前の身体を蝕んでいる』
アルビオンの言葉を聞き、ヴァーリは肩を竦めた。
静かに地上に降り立ち、
「しょうがないか……美猴、いるんだろう」
空を見上げ、呟いたヴァーリに反応するように空の空間が歪み、そこから爽やかな顔をした男が現れる。
その男は中国の古い武将が着ていたような鎧を着ていた。
「おいおいヴァーリ。オレッチにも少しは遊ばせてくれよい」
文句を言いながら男はヴァーリの隣に立つ。
「すぐにそこら中で遊べるようになる。今回わ我慢しろ。それより転移の準備だ」
「へいへい分かりましたよ」
渋々といった様子で美猴という男は持っていた棍を地面に突き立てた。
すると地面がずぶずぶと沼のように変化し、ヴァーリ達の身体が沈んでいく。
「置いてかないでよ」
その声の主は校舎の屋上から飛び降り、ヴァーリ達と合流した。
「梓乃……」
声の主、鬼山梓乃は俺を見て微笑んだ。
「一応聞いておこうか、古城英志。君はどちらを選ぶ?」
ヴァーリが分かり切った事を聞いてくる。
「俺はグレモリー眷族に戻る。テロリストにはならない」
「そうか……では、次に会えるのを楽しみにしているよ」
ヴァーリは白々しく首を横に振りながらそう言った。
「じゃあね、英志」
梓乃は軽く笑って俺に手を振った。
そうして会談を襲撃したテロリストは去っていった。