小説『ハイスクールD×D ~古代龍の覚醒~ 』
作者:波瀬 青()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

駒王学園で三大勢力の会談が開かれてから一週間。
俺は久しぶりに学園に向かう通学路を歩いていた。

フェニックスとのレーティングゲーム以来に通るその道は妙に懐かしかった。
俺の格好は勿論、駒王学園の制服だ。

会談でめでたく和平を結んだ三大勢力は、もう戦争をすることはないだろう。
懸念があるとすれば禍の団(カオス・ブリゲード)の連中と他の神話体系の勢力だ。

ルシファー様のお許しを得て、俺はグレモリー眷族に戻ることができた。

「和平を結んだし、君はリアスを裏切った訳じゃない」

ルシファー様の言葉を聞き、俺は号泣した。
やっぱり魔王になるだけはある。ルシファー様の心の広さに感謝します!

眷族のみんなには内緒で今日、俺は登校することになった。
これもルシファー様のご意向で、その方が面白いからだそうだ。
魔王様は少しお茶目だと思ったよ。

校門をくぐると、そこには制服をきた沢山の女の子!
どこを見ても、女子!女子!女子!
こここそ俺の安息の地なんだ!!
『神の子を見張る者(グリゴリ)』に居た時は修行ばかりで
女の子を見ることなんてできなかったからなぁ。

自然と俺の目から涙が溢れる。こんなに嬉しいことはない……

「なにアレ…気持ち悪ぅ…」
「見ちゃだめよ!何されるか分かんないんだから!!」

俺の周りに居た女子がコソコソと何か言っているが……俺は気にせず職員室に行こう。
職員室に着くと、休養室で待機するように言われた。
なんでも俺は交通事故に巻き込まれて大怪我を負い、入院している事になっていたらしい。
まぁ、悪魔のゲームで行方不明になったなんて言えないしな。

「古城君、無理しなくていいですよ。辛かったらいつでも言ってください」

担任の女の先生にそう言われ、俺は一緒に教室に向かった。
教室の前までくると、中から懐かしいクラスメイトの声が聞こえてきた。

「じゃあ、ここで待っててください。呼んだら教室に入っていいですから」
「はい」

俺を置いて、担任は教室に入っていく。
静かになった教室に担任の声が響いた。

「今日はみんなに嬉しいお知らせがあります。分かる人居ますか?」

ざわざわと騒がしさを取り戻した教室。先生は満足げに頷き、俺を呼んだ。

「はい、静かにしてください!入っていいですよ!」

入室を促された俺は扉を開け、教室に一歩足を踏み入れた。
歩きながら教室の中を眺める。なにも変わってない。それが少しだけ嬉しかった。

「入院していた古城君が退院して、学校に戻ってきてくれました!!」
「ワァァァァァァァァァァ!!!」

先生の言葉を聞き、教室のみんなが叫んだ。な、なんだ!?

「退院おめでとう!!」
「久しぶり!俺のこと覚えてる?」
「エージゴラァ!貸したDVD返しやがれ!!それとおめでとう!!」

その叫びが収まる前に、俺へ様々な言葉が浴びせられた。
嬉しいけど……これはキツイ…!!

「静かに静かに!」

先生の一言で少しずつ、喧騒は収まり、俺は自分の席に座った。
隣にいるのはイッセー。

「よお!帰ってきたぜイッセー」

暫く呆けた顔をしていたイッセーの顔がどんどん綻んでいく。
そして満面の笑みを俺に返した。

「おう!待ってたぜ、エージ!!」

俺は親友とハイタッチをかわした。
やっと帰ってきたんだ、俺の日常に。






○放課後

俺はイッセー、アーシアさん、ゼノヴィアと一緒に部室に向かっていた。
俺の足取りはフラフラで、今にも倒れそうだった。

「大丈夫ですか?」

アーシアさんが俺の顔を心配そうに覗きこんでくる。

「なんとか……」

俺は無理やり笑顔を作り、アーシアさんに応えた。

「情けないぞ、エージ。男はもっと堂々としているべきだ」

クールにそう言うゼノヴィア。

「お前のせいでこんなに疲れたんだよ!!」

ゼノヴィアに喰ってかかろうとする俺をイッセーが後ろから抑える。

「邪魔するなイッセー!俺はこの常識知らずに常識を教え込まなきゃいけないんだ!!」
「気持は分かるけど……落ち着こうぜエージ」

今日の休み時間、俺の席お周りには人だかりができていた。
俺への質問責めで、正直それだけでも疲れた。だが、ゼノヴィアはそこに爆弾を投下しやがったんだ。

「エージ、戻ってきた事だし。返事を聞かせて欲しい」

人をかき分けて俺の所にきたゼノヴィアはそう言った。

「なんだよ、返事って?」
「子作りの話だ。ちゃんと準備もしてある」

制服のポケットから取り出したそれを俺に差出しながら、ゼノヴィアは続ける。
それは薄いビニールの袋に覆われた、大人の夜に大活躍する……
コンドームだった。

「私と子作りしたいか。YESかNOで答えてほしい」

爆発したような絶叫が教室に反響する。
それとは対照に俺の頭の中は真っ白だった。

「エージィィィィィィィ!!!!!!貴様ァァァァァァ!!!!!
入院しときながら、俺たちを裏切ったなぁぁぁぁ!!」
「滅びろ!!古城英志に死を!!」

松田と元浜を筆頭にクラスの男子に連れていかれ、俺は公開処刑となった。

「あれのせいで、俺はクラスの女子から獣扱いされて、近くを通るだけで悲鳴を上げられるんだぞ!!
もう生きてけねぇ!!」

そんなやり取りをしている間に、部室の前に到着した。

「どうせなら部長達も驚かしてみたいよな……エージ、どうする?部長達がくるまで待つか?」

イッセーが悪戯を思いついた子供の様な顔で俺に提案してきた。

「そうだな、俺たち以外はもう部屋の中に居るからそのまま入ろうか」
「なんで分かるんだ!?」

イッセーが驚きの声を上げる。そんな大声だしたら驚かすもないだろ。

「なんとなく気配みたいなもんで分かるんだよな……」
「すげぇな…じゃあそのまま入ろうぜ」

イッセーが感嘆した声を上げ、部室の扉を開けた。
イッセー、アーシアさん、ゼノヴィアが先に部屋に入っていく。
俺は最後に部室に入った。部室の中には懐かしの部活メンバーが揃っていた。

「古城英志!!ただいま戻りました!!!!」

あれ?反応がないぞ?
なんか変かな俺?

俺がキョドっているとソファに座り、ショートケーキを食べていた塔城さんが立ち上がって俯きながら俺の方に歩いてきた。

「塔城さん、久しぶり!また一緒に頑張ろ、ぅうっ!!」

腹部に激痛。塔城さんのボディブローは的確に俺の腹を抉った。

「ぐぁあ……何故……?」
「……心配させた罰です」

腹を押さえながら床に両膝をつく。

「……本当に先輩は馬鹿なんですから…」

顔を上げると塔城さんは目に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
必死に歯を食い縛り、泣くのを我慢している子供の様に見えて、俺の胸がズキンっと痛む。

「……ごめん、塔城さん。俺は馬鹿だし、みんなに迷惑かけちゃたけど……
また仲間になってもいいかい?」

俺は立ち上がり、塔城さんの頭を撫でながら言った。

「……当たり前です」

ギュっと塔城さんが俺に抱きついてきた。
俺の胸の中から小さな泣き声が聞こえる。

「お帰りなさい。エージ、これはどういう事かしら?」

椅子に座りながら部長が聞いてきた。

「ルシファー様が部長達に言わずに戻ったら面白いからって……」

俺の返答を聞き、溜め息をつく部長。

「まったく…お兄様ったら……」

姫島先輩が席を立ち、俺に向けて微笑んだ。

「お帰りなさい、エージ君。お茶はいかがですか?」
「お願いします!姫島先輩のお茶が飲みたいです!!」
「うふっ、嬉しいですわ。それではとっておきの茶葉を使っちゃいましょうか♪」

ニコニコしながらお茶を注ぎに行く姫島先輩。
楽しみだなぁ。

グイッ

泣いていた塔城さんに急に引っ張られる。そのまま有無を言わせない怪力でソファに座らされた。
隣には塔城さんが座って、また無表情にケーキを食べ始めた。
その目は少し赤い。
今度お菓子を持ってこよう。

「やあ、また会えて嬉しいよ」

気さくに手を振ってきたのは木場だった。

「気持ち悪い事言うなよ……まぁ会えて嬉しいのは俺も同じか……」

爽やかな笑顔を俺に向ける木場。コイツは相変わらずイケメンだな。

俺は姫島先輩が淹れてくれたお茶を飲み、暫く眷族のみんなに何をしていたか説明した。

「古代龍……そんなものがエージにやどっていたのね。テロリストが目をつけるだけはあるわ」

顎に手を当て思案する部長。その顔はどことなく嬉しそうだった。

「眷族に二人も龍を宿す者がいるなんて、私は幸運ね!!」

部長の役に立てるなら、俺は幾らでも頑張りますよ。

「では、鬼山さんがテロリストになった理由には心当たりは無いんですか?」

今度は俺の正面でお茶を注ぎながら姫島先輩が聞いてきた。

「……はい。梓乃は目標があるって言ってました。その目標がなんなのか分かりませんけど……アイツが間違いを起こす前に、俺がアイツを連れ戻してみせます」

禍の団、ヴァーリについていった梓乃はテロリストとして指名手配されている。
幼馴染みとして、俺がアイツを何とかしないといけない気がするんだ。

ガチャ

不意に部室の扉が開かれ、そこから二人の人物が入ってくる。

「おっ!エージじゃねぇか!学園生活enjoyしてるか?」
「キャー!!部室に知らない人が居ますぅぅぅぅ!!」

アザゼルさんと始めてみる短い金髪の可愛い女の子だった。
誰だろ?

「ギャスパー、彼は古城英志。私の眷族の一人よ」

部長が言い聞かせる様に金髪の女の子に言った。
ギャスパーと呼ばれた女の子は何処からか取り出した段ボールに籠り、叫ぶ。

「は、話には聞いていましたぁぁ!!ギャスパーと言いますぅぅぅ!!
苛めないでくださいぃぃぃぃぃ!!!!」

メタル○アのあの人みたいな状態でそんな事言われても……

でも可愛いしいいかな。

「エージ、残念だがギャスパーは女装野郎だぜ」
「ギャスパー!期待させんじゃねぇぇぇぇ!!」
「ひぃぃぃぃ!!許してくださいぃぃぃぃぃ!!!」

俺は段ボールをギャスパーから取り上げ、逃げ出そうとするギャスパーを追いかけた。

「てか、何でアザゼルさんが居るんですか?」

俺は取っ捕まえたギャスパーをヘッドロックしながら聞いた。
ええい!暴れるな!!

「こいつら眷族のレベルアップの為に駒王学園の教師として赴任したのさ。
セイクリッド・ギアの知識を提供するにはもってこいだからな」

確かにその通りだ。
グレモリー眷族は若い悪魔の中でテロリストに対抗できる力を持つ数少ない戦力。
その戦力増強の為にアザゼルさんが来るのには納得だった。

「じゃあ、その腕は?」

アザゼルさんの左腕を指差しながら聞いた。
カテレアとの戦いで失った筈だけど……

「これは俺が作った本物ソックリの義手だ。カッコいいだろ?」

アザゼルさんの左手がポロリと取れて、それが機械である事を証明した。

「話してくださいぃぃぃ!!この人、停まりません!!」

あっ、ロックしたままだったギャスパーがたまらず俺の手をタップする。
もう満足したので、ギャスパーの頭を解放してやった。

「はぁはぁ……僕の目で停まらない人が居るなんて……」

停まるってことはやっぱりコイツが時間停止のセイクリッド・ギアの持ち主か。
俺には効かないみたいだけど。

「馬鹿野郎!俺を停めてないで女の子を停めてこい!!」

部室にみんなの笑い声が響く。
こうして俺は眷族に戻ってきた。
そこは俺にとってかけがえのない場所だった。



-34-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える