放課後
俺は悪魔の仕事を終わらせ、家に帰る仕度をしていた。最近は依頼が多いのだが、今日は比較的少なく、俺は直ぐに依頼を終わらせ部長から帰宅の許可をもらった。
「部長、お先に失礼します」
「お疲れ様。ゆっくり休みなさい」
時刻はまだ五時で外は夕日に照らされ茜色に染まっている。
俺は鞄を肩に担ぎ、部室を後にしようとしたんだが………
「では行くぞエージ」
「…………」
俺が帰るのを待ち構えていたかのようにゼノヴィアが声を掛けてきた。
やっぱり覚えてるよね……
「……ゼノヴィア、本当に来るのか?」
「勿論だ。エージの部屋にも入ってみたいからな」
ゼノヴィアは嬉しそうに言った。
そんなに楽しみにされると断れないんだよな……
俺がそんなことを考えていると、床の魔方陣が淡く輝き、塔城さんと姫島先輩が帰ってきた。
「ご苦労様です」
「うふふ、ありがとうエージ君」
「……どうも」
俺が声を掛けると姫島先輩はニコニコ笑顔で、塔城さんはいつもの無表情で返事をしてくれた。
そういえば二人にはまだ何も聞いてなかったな。
休憩の為ソファに座った二人に、俺は近付いた。
「二人とも何かして欲しい事ってあります?」
聞くと姫島先輩は顎に手を当て、何かを考え始めた。
「ん〜今のところは特にありませんわ。また思い付いたら言いますね」
「そうですか……」
姫島先輩の期待に応えられるといいんだけど……
「……私も特にありません」
塔城さんも何処からか取り出したクレープを食べながら言う。
「塔城さんも?じゃあ、何かあったら先輩に相談してくれ。力の限り協力するよ」
可愛い後輩を守るのも先輩の使命だからな!!
塔城さんは静かに首肯した。その顔が少しだけ赤いのが気になった。
「エージ、早く行こう。時間が惜しい」
「分かったよ」
ゼノヴィアに急かされ、踵を返して帰ろうとした時だった。
「……エージ先輩とゼノヴィア先輩は何処かに行かれるんですか?」
うっ……
塔城さんにそう声を掛けられ俺は足を止めてしまった。
背を向けてるから塔城さんが何をしているか分からないけど、背中に鋭い視線を感じる。
ゼノヴィアを家に泊めるなんて言えない。
どうする?どうすんのよ、俺!?
「今からエージの家に泊まりに行こうと思ってね」
ゼノヴィアァァァァァァァァァ!!
お前は俺に恨みでもあんのかぁぁぁぁぁぁぁ!?
ゼノヴィアのその一言で部室は凍った様に静かになった。物凄く気まずい。
「あらあら、ゼノヴィアちゃんったら。もうエージ君とそんなに仲良くなったの?羨ましいわ」
姫島先輩が感情の籠っていない声音で言った。
怖い、怖いッス……姫島先輩…………
「レストランで食事をしたこともあるぞ」
レストランじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
ファミレスだぁぁぁぁぁぁぁ!!
しかも食べてたのはお前とイリナだろうが!!
「……エージ先輩」
「エージ君」
あ、死んだな俺。
俺は覚悟を決め、振り返った。
そこにはジトーっと俺を見ている塔城さんと顔は笑ってるけど目が笑っていない姫島先輩。
「いや……その……疚しい気持ちがあったんじゃないんですよ。ゼノヴィアが友達の家に泊まってみたいって俺に言ったから……ちょと待って塔城さん!!」
話の途中で塔城さんが立ち上がり、俺に向かって歩いてきた。や、やられる!!
俺は自分の死期を悟った。色々あったけど楽しかったな。グッバイ現世……
「……私もエージ先輩の家に行きます」
「へっ?」
予想外の一言に、俺は我に還った。
「エージ先輩がゼノヴィア先輩に卑猥な事をしないか心配ですから」
そこまで俺って信用ないのか?
「私は構わないぞ。むしろ人数が多い方が楽しめるだろうからね」
ゼノヴィアは呑気に言い放つ。俺の家なんだけど……
「なら私もエージ君の家に泊まりに行こうかしら。殿方の部屋にも入ってみたいわ」
「姫島先輩!?」
俺に一体何が起きてるんだ……
頭が状況についていけず、爆発しそうだ。
姫島先輩は荷物を持って俺の隣まで歩いてくる。
そのまま俺の腕に自分の腕を絡めた。
「いいですわよね、エージ君?」
密着してくる姫島先輩の胸が……腕にぃ……
俺は空いている手で鼻を押さえた。このままじゃ出血多量で死ぬ可能性が出てくるぞ。
「みんなそこまでにしなさい。エージが困っているじゃない」
今まで何かの資料を読んでいた部長が助け船を出してくれた。
た、助かった……
「エージは私の下僕なんだから、私も泊まりにいくわ。下僕がどんな家で生活しているかを知るのも主の務めだもの」
改めて、俺は今日死ぬかも知れない。
○古城家
俺は諦めて皆を家に連れてきた。梓乃以外の女の子を家に上げるなんて初めてだ。
「狭いですけど……上がってください」
皆をリビングに案内した。リビングと言ってもただ、ソファとテレビが置いてある簡素な部屋だ。
一番広いし、キッチンが近いから俺は困ってないけどね。
「取り敢えず……夕食にしましょうか。冷蔵庫に何も無いから買ってきます」
「そういえば、エージは料理ができるの?」
部長が俺に聞いてくる。
「恥ずかしながらできません」
梓乃に任せっきりだったから俺は料理なんて出来なかった。唯一できる料理が茹で玉子なんだ。
それを聞いて呆れた様に部長が嘆息した。
「無意味に買い物しても何も作れないわ。ここは私が作るから、必要な食材を買ってきてちょうだい」
「本当ですか!?」
部長は料理が上手だ。以前、部長の手作りケーキを食べた事があるけど美味しかったからな。
「じゃあ、小猫とゼノヴィアもエージと一緒に買い物をしてきて。五人前を作るならかなりの量の食材が欲しいから。朱乃は私と夕食の下準備をするわよ」
「……分かりました」
「任せてくれ」
「分かりましわ」
流石は我らが『王(キング)』。
部長の的確な指示により、俺と塔城さんとゼノヴィアは買い物に出掛けた。
「今の時間にやってるスーパー……商店街に行けばいいかな」
もう夕日も沈みかけ、時計の針が六時を指していた。
俺達は商店街を目指し、歩き出した。
「エージ、料理ができないなら今までどうしていたんだ?」
「まえは梓乃に料理を作ってもらってたからなぁ……今は外食したり、カップラーメン食べたりしてるよ」
我ながら情けない。これを機に料理を勉強してみようかな。
「……完全に駄目人間」
「何も言い返せないよ……塔城さん」
塔城さんの呟きが俺の心にクリティカルヒットした頃、商店街に辿り着いた。
何やら奥の方で人だかりが出来ている。何かイベントでもやってるのかな?
「行ってみる?」
「うん。面白そうだからね」
「……別に構いません」
行き交う人々の間を縫うように進み、俺達は人だかりの中心に到達した。そこにいたのは……
「魔法少女ミラクル☆レヴィアタン!みんな〜よろしくね☆」
………アニメのコスプレをして、ポーズを決めている魔王レヴィアタン様だった。
「あ!君はリアスちゃんの眷族じゃない☆どうしたの?」
俺達を見つけたレヴィアタン様は軽い足取りで目の前まで歩いてきた。
「……夕食の買い物にきたんです。レヴィアタン様こそ、どうしてここに?」
「私はこの辺りの店の総支配人になったから視察にきてたんだ。明るくていい人ばかりで、私この町が気に入っちゃった☆」
横チェキしながらレヴィアタン様は言う。
可愛いなぁ……
「……エージ先輩早く買い物を済ませましょう。部長達が待ってます」
「そうだった。レヴィアタン様、俺達ちょっと用があるので失礼しますね」
塔城さんに促され、俺達は人だかりを離れようとした。
「ちょっと待って。お願いがあるの」
レヴィアタン様に引き留められてしまった。
嫌な予感が……
「実はハシャギ過ぎてソーナちゃんが私の事を探してるみたいなの。できれば匿ってくれないかな☆」
ソーナとは駒王学園の生徒会長であり、上級悪魔シトリー家の次期当主、支取蒼那先輩。悪魔としての名前はソーナ・シトリーでレヴィアタン様の妹だそうだ。
レヴィアタン様はシトリー先輩に頭が上がらないらしい。
「レヴィアタン様がよろしければ、是非きてください」
魔王様からの頼みだから悪魔として断れない事もあるし、レヴィアタン様は可愛いから大歓迎だ!
レヴィアタン様を加えた俺達は、買い物を済ませ家路についた。
「ただいま戻りました」
大量のレジ袋を抱え、リビングに入る。
そこには、エプロン姿の部長と姫島先輩がいた。
「お帰りなさい。もう準備万端よ」
部長のエプロン!!綺麗だなぁ……
勿論、姫島先輩も最高だ!二大お姉様万歳!!
レジ袋を部長に渡し、俺は玄関で待機してもらっていたレヴィアタン様を呼んだ。
「部長、実は先程レヴィアタン様とお会いしまして。成り行きでレヴィアタン様も泊まる事になりました」
「リアスちゃんとその眷族のみんな!お世話になります☆」
入ってくるなり、そう宣言したレヴィアタン様を見て部長と姫島先輩は絶句したようだ。
俺が事情を説明し、どうに納得してもらえた。
「分かりました……余りハシャギ過ぎないようにしてくださいね、レヴィアタン様」
「分かってる分かってる☆」
快活に言うレヴィアタン様は、凄まじい速度で二階へ駆けていった。
「…………レヴィアタン様は元気ですね……って二階はマズイ!!」
二階にはアザゼルさんが持ち込んだ大人のDVDやゲームが保管された部屋があるんだった!!
俺もお世話になっているので見つけられる訳にはいかない!!
「レヴィアタン様!大人しくしてください!!」
俺はレヴィアタン様を捕獲するため二階に続く階段を駆け上った。
後書き----------------------------------------------------
まだ章の途中ですが……
お久し振りです、波瀬です。
今回は閑話休題でエージが部員+αと仲を深める話を書きました。
更新遅くてすいません。
あと、本小説がアットノベルス様の殿堂小説に選ばれました。
嬉しい限りです。
これからも更新を頑張っていくので、よろしくお願いします。
※ヒロインについて
アーシアはイッセーの事が好きって事にします。
それ以外のメンバーは可能な限り、主人公のハーレムに入れていきたいですけ