俺が列車と馬車を経由してグレモリー家に着いた頃には、すっかり日も暮れて夜になっていた。
「貴様、何者だ!」
フラフラとした足取りで門に近付くと、警備員みたいな人に囲まれてしまった。
頼むから休ませてくれないか……
「決して怪しい者じゃないんです。俺はリアス・グレモリー様の眷族なんですけど……」
俺が弁解すると、男達の顔付きは更に険しくなった。
「嘘をつくな!リアス様と眷族の方々はとっくに屋敷で休憩をとられているのだぞ!!」
「いや、だから用事で遅れたんだって!部長に確認を取ってくださいよ!」
まさかここまで疑われるとは……
「彼は私の眷族よ。いれてあげなさい」
空からの声に顔を上げると、部長が空から舞い降りてきた。
「部長!」
「リアス様!」
俺と警備員は同時に声をあげ、突然現れた部長を眺めていた。
「遅かったわねエージ。魔王様にお会いできたかしら?」
「はは……お元気そうでしたよ」
頭を掻きながら俺はそう言った。
「そう。じゃあ、行きましょうか。お母様もお父様も貴方が来るのを楽しみにしているのよ」
踵を返して門をくぐる部長の後を追うように、俺はグレモリー家に足を踏み入れた。
門をくぐった先にある部長の家は、最早家というより城だった。
そこまでの道のりには美しい庭園や、煌びやかな噴水が設けられていてグレモリー家の威光を示していた。
「まるでお伽噺だ」
苦笑を浮かべつつ。俺は足を進める。
冥界独特の空気が俺を包みこんでいるように感じた。
やがて城の入口に着いた。
部長が扉を開くと見えてきたのは広いホールだった。
中央には二階に続く階段があり、天井にはおおきなシャンデリア。
本当の城じゃないか!!
「おかえりなさいませリアス様」
呆けて突っ立っていた俺の耳に聞こえてきたのはどこかで聞いたことのある声だった。
「お疲れ様グレイフィア。エージを迎えにいってたのよ」
目をやると部長と話しているのはメイド服を着こんだ銀髪の美人さん。
グレイフィアさんだった。
俺の視線に気づいたのか、グレイフィアさんがこちらを見た。
「英志様、ようこそグレモリー家へ」
ぺこりと丁寧なお辞儀をされて俺もお辞儀をした。
「お、お邪魔します。お久しぶりです、グレイフィアさん」
「ご無事でなによりです」
グレイフィアさんと話をするのは本当に久しぶりだ。
相変わらず緊張するけど……
「先ずはエージを部屋に案内してちょうだい」
「かしこまりました」
グレイフィアさんは部長の言葉に頷き、指を鳴らした。
すると何処からか大勢のメイドさんが集まってきた。
おお!!どの子も可愛い!!メイドさん最高!!
「古城英志様を部屋にご案内してください。荷物は既に部屋に持ち運んでありますので」
メイドさんに先導されながら、俺は階段を上った。
「こちらが英志様のお部屋になります」
連れてこられたのは人間界の俺の部屋四つ分ありそうな大きな部屋だった。
ここを……一人で使うのか?
メイドさんはもうどこかに消えてしまい、部屋には俺一人だった。
グレイフィアさんの言った通り俺の荷物が片隅に置いてあった。
「……腹へった」
魔王領を出てから俺は何も口にしていない。
戦闘したのに何も食べないのは正直キツイ。
「承りました」
「うわっ!!」
いつの間にか俺の部屋の扉が開かれてそこに立っていたグレイフィアさん。
背後からの声に俺は文字通り飛びあがって驚いた。
「食事の準備はしてあるのでダイニングルームにきてください」
それだけ言うとグレイフィアさんは廊下を歩いて行った。
人の後ろに気配を消して立つのは勘弁してほしい。
「取りあえず飯が先だよな」
漂ってきた料理に臭いを辿りながら俺はダイニングルームに行くことにした。
「おお!!美味そう!!」
ダイニングルームに入った俺はテーブルに並べられていた料理を見て感嘆の声を上げた。
普通に人間やってたらこんな豪華な食事なんて人生で一回もたべられなかっただろうなぁ。
悪魔に成ってよかった!!
「いらっしゃい。貴方がリアスのお気に入りの子かしら?」
食事が並べられているテーブルの一角に亜麻色の髪を靡かせた美女が佇んでいた。
部長に似てる?目つきが鋭いけど……それ以外は部長そっくりだ。
「私はヴェネラナ・グレモリー。リアスの母よ」
「部長のおお母様あああああああああああああ!!!?????」
どうみたって二十代前半にしか見えないぞ?
「うふふ、悪魔は魔力で自分の見た目を変えられるのよ」
妖艶に微笑む部長のお母様は笑った時の部長と瓜二つだった。
「疲れた……」
俺はたった今、風呂にはいってきて自室のベッドに横たわっていた。
食事は食べたには食べたが、部長のお母様にテーブルマナーで何度も注意されてしまった。
グレモリー眷族としての自覚を持って、礼儀を学べって言われたな……
こんど木場にでも聞いて勉強してみよう。
アイツはなんだかマスターしてそうだし。
風呂は風呂で大浴場を一人で使わせてもらって、くつろぐ事が出来た。
逆に落ち着かなかったけどな。
電気を消して俺は寝る事にした。