小説『ハイスクールD×D ~古代龍の覚醒~ 』
作者:波瀬 青()

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「もうちょっとペース上げて行こうか」

後ろに続く塔城さんと姫島先輩に声をかけた。
昨日とは違い、二人の表情はやる気に満ちていた。

心配だったけど、これなら大丈夫かな……

俺は二人の前を走ってそう感じた。

グレモリー家の広大な敷地の中には、緑豊かな森がある。
俺はそこで二人と修行する事に決めた。

今は森の中を走っている。
生い茂る木々を眺めながら走るのは新鮮で飽きることは無かった。

俺も姫島先輩も塔城さんも動き易いジャージ姿だ。
俺の背負っているリュックには修行に必要な物を詰め込んできた。

ゲームに出られない分、全力で仲間のサポートをするんだ!

暫くすると湖が見えてきた。
ちょうどいいのでここで休憩することにしよう。

「ちょっと休憩しようか」

二人は俺の提案に頷き、ゆっくりと歩き始めた。
全く息を切らしていない二人はまだ元気がありそうだ。

「……エージ先輩、少しいいですか」

塔城さんが俺に近付いてくる。フィンガーグローブを着けていた。

「ちょっと待って……よし、いいよ」

リュックから俺のフィンガーグローブを取りだし身に付けながら返事をする。
俺の格闘技の師匠でもある塔城さんはあらゆる格闘技をマスターしている。
昔の俺は手も足も出なかった。

「……いきます」

軽く跳躍した塔城さんは俺に向けて拳を繰り出す。
鋭い拳打を俺は掌で受けとめていく。
顔、腹、わき腹、顎。身体のいたるところに拳を突き出す塔城さん。

「もっと早く突かなきゃ、敵は倒せないぞ」

俺はことごとく防ぐ。
負けず嫌いの塔城さんは俺に一撃見舞おうと躍起になる。

確かにパンチのスピードは上がったけど……

「足元がお留守だよ」

パンチの合間を縫って塔城さんの足を払った。
バランスを崩され、尻もちをついた塔城さんの眼前に俺の拳を突き付ける。

「実戦だったら、これでリタイヤだ」

俺は拳を納めて塔城さんに手を差し伸べた。
だが、俺の手を無視して塔城さんは自力で立ち上がった。

うーん……ちょっと傷つくなぁ。

「とりあえず、塔城さんは格闘の基本は出来てるから。後は相手をよく見て対応する事だ」

俺のアドバイスを聞きながら、塔城さんは俺から遠ざかって行った。
うぅ……先輩らしくなかったかな?

「エージ君、少し聞きたい事があるのですが」

姫島先輩が頬に手を当てながら声を発した。

「なんですか?」

駆け足で姫島先輩のもとへ。
姫島先輩の手には古い魔道書の様なものが握られていた。

「この本で少し分からない部分があるのですが……」
「ああ、ここはですね………」

本の解説をしてその日の修行は終わった。





グレモリーの本邸に帰ってくると箱入りヴァンパイアが出迎えてくれた。
入口の隅っこに段ボールが置かれていてそれが小刻みに震えている。

「ど、どうしたんだ?」

俺は段ボールを遠巻きに見ながら呟いた。
アザゼルさんにいじめられたのかもしれない。
そう思うと気の毒だ。

「おい、ギャスパー。一体何があった?」

段ボールを持ち上げてギャスパーの姿を確認した瞬間、俺は言葉を失った。
いつも女装しているのは見慣れているけど、今回のギャスパーの服はなんとメイド服だった。
ギャスパーの小柄な体にぴったりのサイズ。
黒を基調としたフリルが沢山ついていた。
頭にはメイドカチューシャ。

「……エージ…先輩?」

小さな口から俺の名前が呼ばれた。
そのうえ潤んだ瞳で俺を見上げている。
外見が完璧に女なので、その破壊力は絶大だった。
しかもメイド服のコンボ。

俺は新しい扉が開く音を聞いた。

い、いかん!俺はノーマルだ!女の子が好きなんだ!
コイツは男なんだ!目を覚ませ!

「くっ!?消えろ俺の煩悩!!コイツは男だぁぁぁぁ!!」

俺は自分を叱りつけると、ギャスパーを直視した。

「先輩なんですか!?顔が怖いですよ!?」

戸惑う金髪美少女メイド……違う!
金髪女装メイド野郎、ギャスパー。
その姿に俺の理性のダムは崩壊した。

「ね、ねぇちゃん……一緒に遊ばなグッハァ!!」

横からの強い衝撃に俺は茂みに突っ込んだ。

「おや、ギャスパーに迫っている変質者だとおもったらエージだったのか」

戦闘服に身を包んだゼノヴィアだった。
その手には悪魔を滅ぼす聖剣、デュランダルが。

「ふざけんなぁ!いくらなんでも聖剣の柄で殴る奴があるかぁ!?
危うく滅せられるとこだったぞ!!」

茂みから飛び出して抗議の声を上げる。
殴られた部分が煙を上げて焼け焦げていた。

「うっ…ひっく…怖かったよぉ」
「大丈夫ですよギャスパー君」

俺の目の前で涙で嗚咽を漏らすギャスパーが姫島先輩に頭を撫でられている。
物凄い罪悪感だ。

「……犯罪者予備軍」

ボソッと塔城さんの言葉が俺の心を抉る。

「俺はノーマルだぁぁぁぁぁァァァァァァ!!!!」

屋敷の扉を開き、俺は自分の部屋に駆けだした。
くっそぉ!助けてくれ、イッセー、木場!

俺にはギャスパーが男に見えない!!

「あら、エージじゃない」
「部長!!」

階段の踊り場で部長と鉢合わせした。
風呂上がりなのか、髪の毛が僅かに湿っていた。

「修行ははかどっているかしら?」
「微妙ですね……アザゼルさんが言ってたけど、二人の本当の力って何なんでしょうか?」
「そうね……貴方は二人の事を何も知らなかったものね」

部長の言うとおり、俺は二人の事なんて知らないもんな……

「私から言ってもいいのだけど……本人から聞いた方がいいと思うわ」
「そうですね、今度聞いてみます」

ゲームに向けて、二人の心の悩みを解決できたらいいな。

「おーい、そこの変質者。ギャスパーのメイド服はどうだった?」

階段の上からアザゼルさんの声がした。
あの口ぶりからして玄関の出来事を全部見ていたようだ。

「何てことを大きな声で言うんですか!?ギャスパーにアザゼルさんが無理やり着せたんでしょう!!」

部長を含め、屋敷で働いているメイドさん達も白い目で俺を見ている。

「エージはメイド服が好き〜♪」
「変な事言わないでくださいよ!!」

更にメイドさんからの視線が鋭くなった。
小声で囁く声も聞こえる。

「……嫌ねぇ」
「怖ぁい」
「ゴミ……」

あれ?なんでだろう?目から水が溢れてきたよ……

「俺は何もしてないんだぁぁぁぁぁ!!」

階段を急いで降りて俺は屋敷の外へ飛び出した。
翼を広げて空に飛びあがる。

「あんのエロ総督!女の胸を揉んで堕ちたくせにぃぃぃぃ!!」

叫びながら俺は行くあてもなく飛び続けた。
でも……俺が馬鹿だった。

よく知らない冥界なのに、適当に飛んだものだから迷ってしまった。

「まずい……」

取りあえず地上に降りよう。
辺りを見回すと、列車の駅を見つけた。
あそこからグレモリー家の方向を聞いて、全力で戻ろう。

駅に降りると丁度、列車が停車した。
そこから暑苦しい格好をした二人組が出てきた。

片方は俺より身長が高く、黒い外套を身にまといシルクハットをかぶっている。
もう一人はグラサンを掛けて黒いスーツを着た女性だった。

「……なんだあいつら?」

俺は条件反射で柱の陰に隠れた。

外套の男からは強大な力を感じる。
女の方もかなりの力の持ち主だ。

列車は二人を置いて先へ進んで行った。

「はぁ〜お忍びでくるのはスリルがあって楽しいのう」

外套の男は楽しそうに笑う。声からして老人のようだ。

「いい加減にしてください!いくら魔王から招待を受けたからって
ちゃんと連絡してからでなくては駄目です!!」

女の方が男に抗議する。

「頭が固いのう〜そんなんだからいつまでも彼氏ができないんじゃよ」
「か、彼氏は関係ないじゃないですか!」

……魔王から招待?一体何者だ?

「柱に隠れている君も、そう思わんかね」

ばれてたか……

俺はおとなしく二人の前に躍り出た。

「…………」
「なんじゃい、ただの若造か。どうせなら若い女の子がよかったのう」
「あんたら、何者だ?」

俺は押し殺した声で問いただした。

「さぁの。お主は知る必要はないわい」

二人は俺に興味を無くしたのか立ち去ろうとした。

「待てよ」

俺はそんな二人を呼びとめた。

「今は冥界全体でテロリストを警戒してるんだ。あんたらみたいな怪しい連中を見逃すわけにはいかない」
「そうかい……なら黙ってもらうかのう」

手で指示を出すとスーツの女が何処からともなく剣を取りだし俺に突き付けた。

「そうくるなら……俺も容赦しない」

右手を真横に突き出し、力を込める。

「禁手化!!」

右手から徐々に俺の身体を光が覆い、鎧を象っていく。
そして鎧姿になった俺を、外套の男は感嘆の声を洩らした。

「ほぅ……大した魔力だ」

この程度で驚いてもらっちゃ困る。

「あんたらを拘束して、魔王様のところに連れてってやるぜ!」

俺は二人に向けて一気に前進した。

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