小説『ハイスクールD×D ~古代龍の覚醒~ 』
作者:波瀬 青()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

ボロボロの身体に鞭を打って翼を動かし続ける。線路とにらめっこしながら飛行すること数時間、ついに俺はグレモリー邸に舞い戻ってきた。辺りはすっかり暗くなっていて冥界の月が高々と光輝いている
時刻は深夜3時頃だろうか?よく分からない。
当然、正門は締め切られていた。こんな真夜中に外に出てる俺が悪いから自業自得だな。

正門を飛び越えてグレモリー邸の玄関まで向かう。昼には荘厳に見えるグレモリーの中庭も、暗闇のなかでは姿を変え、不気味な印象を感じた。

「……いてぇ」

ロスヴァイセさんの魔法で受けたダメージが大きい。明日の修行大丈夫かな?

グレモリー邸の玄関前に降り立つと、隣から声をかけられた。

「エージ先輩……?」
「塔城さん?」

声をかけてきたのは塔城さんだった。目を凝らすと闇の中に塔城さんの姿があった。でも、様子がおかしい。
今の塔城さんはホットパンツにタンクトップという出で立ちでそこまではいい。いつもの塔城さんだ。でも、今目の前にいる塔城さんの頭には……猫の耳が生えていた。お尻には猫の尻尾がユラユラ揺れていたのだ。

「あの、えっと……塔城さん…頭とお尻についてるのは何?」

恐る恐る俺は質問の声を発した。
しかし、塔城さんは俺の質問に答えることなく闇の中に飛び出していった。去り際に見た塔城さんの目は赤く充血し、涙を流していた。

「ちょ!?」

俺は塔城さんを追おうと体に力を入れるが、それと同時に身体に鋭い痛みが走る。立っていられなくなり俺はその場にうずくまった。

くっそ、これくらいのダメージでなに弱音あげてんだよ!

あの塔城さんが泣いてたんだ。俺が泣かせちゃったのかも知れない。すぐに追い付いて、謝らないと……

俺は身体の痛みを無視して走り出す。グレモリー家の庭は広大で塔城さんを完全に見失った今からじゃ追い付くのは無理かもしれない。でも……なにもしてないでいるよりはマシな気がした。

グレモリー家の庭の隅から隅まで探すように走り回った。暗闇の中、何回も樹木の根に躓き転んだ。ボロボロになっていた服は更に泥にまみれになっていた。

それでも、まだ塔城さんを見つけてない。もうとっくに屋敷に戻ってるかもしれないけど、ここで謝らないと俺は塔城さんになんて謝っていいか分からない。

足を動かし続けて、湖の畔に俺は辿りついた。昼間、俺達が修行した場所だ。湖面には月が映り込んでいて、別の世界がそこに存在しているようだった。

ふらつく足で湖面に近付く。湖面に映った俺の顔は服同様、泥だらけだ。

ほんとに……情けない先輩だ。

走っている間、俺は黒歌のことを思い出した。塔城さんのお姉さんである黒歌には猫耳と尻尾があった。姉妹だから塔城さんにも猫耳と尻尾があったのかもしれない。

黒歌と塔城さんの間に何かあったのか?そのことも気になった。俺は塔城さんの事を何も知らない。俺なんかが踏み込んでいいことじゃないかも知れない。

それでも……俺は……塔城さんの力になりたい

あの暗い、何も光のない時間。ライザーに燃やされ絶望の淵にいた俺を元気付けてくれたのは、グレモリー眷族の存在だった。その居場所に戻る為に俺は強くなろうとした。

眷族の誰かが、もし昔の俺と同じ様に苦しんでいるのなら助けてあげたい。

顔の泥を拭い、次はどの方向に行こうか考えを巡らせると湖の向こう岸の木の下に白い何かを見つけた。目を凝らす。

あれは……塔城さん!!

塔城さんは俯いていて俺に気付いてないみたいだ。向こう岸にまで走っていくのは時間が惜しい。背中の翼を動かして湖を渡ることにした。

湖の上を飛行している途中、一瞬俺の身体が硬直した。翼の関節に違和感を感じる。

「マジかよ!?」

俺が声を張り上げたときにはもう遅かった。
重力にしたがって俺は湖に墜落した。
もがいて水面に顔をつき出す。

「ぷはぁ!」

ロスヴァイセさんの蹴りを背中で受けたからか翼にさっきまでに無かった痛みが走る。これじゃ飛ぶのは無理だ。

塔城さんの岸までは後、半分程だった。クロールで湖を渡り、上陸。水を吸った服が重い。肌に張り付いて気持ち悪かった。

とにかく、俺はやっと塔城さんの目の前までたどり着いた。塔城さんの頭には猫耳はなく、尻尾も無くなっていた。

「塔城さ「なんできたんですか」……」

俺が最後まで言い切る前に塔城さんが遮った。

「なんでって……塔城さんに謝ろうと思って」
「迷惑です。先輩は早く屋敷に戻ってください」

俯いたまま、塔城さんは冷たく突き放してくる。

「なら、塔城さんも一緒だ。ゲームまでの大切な時間を無駄にはできない。休む時は休まないと駄目なんだ」

俺は何とか塔城さんを説得しようと試みるが、塔城さんはただ首を横に振るだけだった。

「私の事はいいんです。もう放っておいてください」

その物言いに俺は大声を張り上げた。

「いいわけないだろ!レーティングゲームには眷族全員が協力しなきゃ勝てないんだ!塔城さんの力が必要なんだ!」

部長の夢、レーティングゲームの全タイトルを制覇する夢を叶える為にも俺達は強くならなきゃいけないんだ。

「先輩に私の何が分かるんですか!?」

珍しく、塔城さんが大きな声を上げた。それは悲痛で、悲しみが籠っていた。同時に顔も上げて俺と目があった。

塔城さんは泣いていた。両目の端に涙を溜めて俺を見上げている。

その威圧感に負けて俺は何も声がでなかった。

「私は……あんな力を使わなくても強くなってみせる。あんな力……使いたくもない」

塔城さんは何かに怯えたように呟いた。

「黒歌と……何か関係してるんだな」

俺が黒歌の名前を出した瞬間、塔城さんの身体がビクッと震えた。

「……知っているんですか?」
「『神の子を見張る者(グリゴリ)』にいたときに会ったんだ。それで……塔城さんの事を聞かれたよ」

塔城さんはまた俯き、ポツリポツリと黒歌について語り始めた。

「私の姉……黒歌ははぐれ悪魔です。仕えていた主とその眷族を皆殺しにして何処かに消えてしまいました。その姉と同じ力が私にも宿っているんです」

塔城さんは立ち上がり、俺に向き直った。

「私と姉は妖怪、猫又です。その中でも力のある希少種族『猫魈』。私は姉の様に力に溺れたくないんです」

そう宣言した塔城さんの目には静かな怒りが焔のように揺らめいていた。

アザゼルさんが言ってた本質ってのはその猫又の力の事だったのか……

「私は姉よりも強くならないといけないんです……!」






○グレモリー邸

「大丈夫ですかエージさん。こんなに傷を作ってくるなんてどうしたんですか?」

俺は現在、グレモリー邸の自室のベッドに横たわっている。その傍らにはシスター服を着たアーシアさんが立っていて俺の治療をしてくれていた。

「ああ……ちょっと冥界の魔物とエンカウントしちゃってね」
「えぇ!?エージさんにここまでの傷をつける魔物が冥界にはいるんですか!?」

アーシアさんの質問に適当な嘘で答えるのは辛いけどオーディンさんとロスヴァイセさんの話をしてもしょうがないからな。

あの後、塔城さんと俺は一緒に屋敷に戻ってきた。道中、塔城さんとの会話は無く、気まずい雰囲気だった。

屋敷についた頃には朝日が昇っていて、すっかり明るくなっていた。

部屋に戻る途中、アーシアさんと会ったので治療をお願いしたのだ。
やっぱりアーシアさんの治癒の力は凄い!もう殆どの傷から痛み消えている。

「はい、エージさん。終わりましたよ」

アーシアさんに促されて身体を起こすと痛みも何も無く、健康そのものに戻っていた。

「ありがとう、アーシアさん」

ボロボロになったジャージから制服に着替えていたので俺はそのままアーシアさんと廊下に出た。

「私はアザゼル先生に用があるので失礼しますね」

丁寧なお辞儀をしてアーシアさんは俺とは逆方向に歩いていった。

俺は寝ずにそのまま今日の修行に向かうことにした。
俺と塔城さんと姫島先輩で決めた集合場所には、姫島先輩が先に来ていた。塔城さんの姿はない。

「おはようございます、姫島先輩」

小走りで姫島先輩に近づき挨拶をする。姫島先輩は笑顔で俺に手を振ってくれた。

「おはようございます、エージ君」

俺は辺りを見回して塔城さんを探すがやっぱり来てないみたいだ。

「塔城さんは……きてないみたいですね」
「そうですね……エージ君は何か聞いてないんですか?」
「俺は……何も聞いてないです」

一瞬、真夜中で塔城さんとの会話を思い出す。

俺は……塔城さんに何をすればいいんだろうか?

急に黙り混んだ俺を心配そうな顔で姫島先輩が覗き込んできた。

「エージ君?どうかしたんですか?」
「あ、いえ…なんでも無いんです。とりあえず塔城さんは居ませんけど始めましょう」

その後、姫島先輩と魔法について訓練をしたが正直、身が入らなかった。

昼時になって姫島先輩が提案してきた。

「エージ君、そろそろ昼食にしませんか?」

俺は昨日の夜かは何も口に入れていない事を思い出した。腹が急に空腹を訴えてきた。

「はい……じゃあ屋敷に戻りましょうか」
「ここで大丈夫ですよ」

姫島先輩は持ってきていたリュックを漁りながら言った。

「今日はキッチンと食材をお借りしてお弁当をつくってきましたから」

姫島先輩の手料理!

「ほんとですか!?」
「はい、たがらここで……二人で食べましょう」

姫島先輩の笑顔がいつもより数倍可愛く見えた。

地面にレジャーシートを広げて弁当を食べた。
姫島先輩が作ってくれたのは日本料理が中心で馴染み深い味だ。
やっぱり姫島先輩の料理は美味い!!

「ゆっくり食べてくださいね。沢山ありますから」

上品に笑いながら姫島先輩は水筒を取りだし、コップにお茶を注いでくれた。

「ほんと美味しいです!ありがとうございます先輩!!」

口の中いっぱいに料理を詰め込んだ俺は弁当を作ってくれた姫島先輩に感謝した。

昼食を食べ終わり、一息ついている時、姫島先輩がおもむろに口を開いた。

「小猫ちゃんの……話を聞いたんですね」

姫島先輩は俺の目を真剣に見つめて、逸らそうとしない。
ここで嘘をついても直ぐに見抜かれるよな……

俺は観念して夜あった事を姫島先輩に打ち明けた。

「俺はどうすればいいんでしょうか。塔城さんには強くなってほしいんです。でも……自分からその力を解放したいって思わないと意味が無いと思うんです。嫌々そんな事をしても……塔城さんの為になりません」

姫島先輩は嫌な顔ひとつせずに俺の話を聞いてくれた。

全てを言い切ったとき、俺の中にあったモヤモヤした気持ちはすっかり無くなっていた。

「すいません……長々と話してしまって」
「いいんですよ。エージ君は私の後輩で、後輩の悩みを聞くのは先輩の役目です。寧ろ私に話してくれて嬉しかったですよ」

姫島先輩はそういって俺の手をとった。柔らかい姫島先輩の手はとても温かくて心が安らいだ。

「じゃあ……次は私の話を聞いてくれますか?」
「はい。俺が役に立てるかわかりませんけど……」
「ふふ、話を聞いてもらえるだけでも心は軽くなりますよ」

姫島先輩の言う通りだな……

「エージ君は『神の子を見張る者』にいたんですよね?」
「はい」
「なら……私の事は知っていますよね」

姫島先輩の声のトーンが少し下がり、暗くなる。
後ろからバサッという音が聞こえて首を動かしてみると、姫島先輩の背中から蝙蝠の様な悪魔の翼と漆黒の堕天使の翼が生えていた。

「姫島先輩の事は……バラキエルさんから聞いてます」

姫島先輩は人間と堕天使のハーフだ。
バラキエルさんとは姫島先輩のお父さんで、『神の子を見張る者』の幹部でもある。
俺も何回か手合わせをしたけど恐ろしく強い。単純な破壊力ならアザゼルさんを上回るかもしれない。

姫島先輩のお母さんは、バラキエルさんを狙って襲ってきた教会の関係者に殺された。その事件がきっかけで姫島先輩はバラキエルさんを恨んでいるみたいだ。
バラキエルさんだけじゃない。アザゼルさんを含む堕天使全体を恨んでいる。

「そうですか……私は堕天使である自分が許せなくて…悪魔に転生しました。でも今になって堕天使の力が必要になるなんて皮肉ですね」

姫島先輩は自嘲気味に笑った。その儚げな横顔に俺は何か言おうと口を開いたが何を言えばいいか分からなかった。

「本当は今でも堕天使の力は使いたくないんです。少し前までは絶対に使わないと誓っていたんです。でも……」

そこで少し間を置いて姫島先輩は言った。

「エージ君を見てたら、その事が馬鹿みたいに思えたんです」
「え?」

急に俺の話になって俺は頓狂な声を上げた。

「部長やイッセー君から聞いたんです。眷族に戻る為にエージ君がどれだけ頑張ったのか。コカビエル戦でも、模擬戦の時にもエージ君の強さはあっとうてきでした。フェニックス戦の時よりはるかに強くなったエージ君は地獄の様な修行をしてきたんだと思います」

まぁ、実際に地獄だったんですけどね……
あの時期は何回もお花畑を見たよ。

「私もエージ君を見習って……仲間を守れるくらい強くなろうと思ったんです。だから……私はこの堕天使の力に逃げずに立ち向かいたいと思います」

姫島先輩がそんな風に俺を見ててくれたなんて……

「途中で挫けそうになるかもしれないですけれど……その時は支えてくれませんか?」

不安気に俺に聞いてきた先輩に俺は笑顔を返した。

「勿論です!先輩のお手伝いをするのが後輩の役目じゃないですか!」

俺の返事に姫島先輩は満足したように頷いた。

「ありがとう、エージ君」
「任せてくださいよ!」

姫島先輩は堕天使の力と向き合う事を選んだ。
俺はそれを全力で助ける。

残った問題は……塔城さんだ。
塔城さんは未だに猫又の力から逃げ続けてる。一体どうすればいいんだろうか?

そんな俺の不安を読み取ったのか、姫島先輩がアドバイスをくれた。

「小猫ちゃんも迷ってるの。その答えがでるまで…そっとしておいてあげて」
「姫島先輩がそう言うなら……」
「そうそう。女の子の事はちゃんと考えてあげてくださいね」

姫島先輩は立ち上がり、俺に言った。
太陽を背にした先輩はまるで女神の様に美しかった。






――後書き――

更新できずすいません。
お久しぶりです、波瀬です。

諸事情で小説の更新が出来ず、ここまでの遅れをだした事を恥じております。

PCを新たに、これからは心機一転がんばりたいと思います。

最後に、この小説を応援してくださる方へ。

ありがとうございます。文才の欠片もない作品ですが、どうかこれからもお願い致します。





-51-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D 13 イッセーSOS (富士見ファンタジア文庫)
新品 \630
中古 \339
(参考価格:\630)