小説『ハイスクールD×D ~古代龍の覚醒~ 』
作者:波瀬 青()

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それからゲーム当日までの期間の間、俺は姫島先輩とずっと魔力の向上と堕天使の力の制御を目標に修行に明け暮れた。

今では姫島先輩は模擬戦のときよりも強力な魔法を扱えるようになったし、光を少しずつ操れるようになっていた。

飲み込みが早いね。やっぱり素材がいいと違うのか。
凡人の俺はただひたすら感心した。

塔城さんにはすっかり嫌われてしまったのかあれからは一回も一緒に修行をしていない。屋敷で会っても目も合わせずに俺の前から去っていく。

流石に辛くて最初のうちは泣きそうになったけど、今はなんとか耐えられるようになった。




ゲーム当日まで後3日になったある日。
事件は起こった。

俺と姫島先輩がいつもの様に修行を終わらせ屋敷に戻ると、やけに慌ただしい様子でアーシアさんが目の前を横切っていった。

俺は気になってアーシアさんを呼び止める。

「アーシアさん、何かあったの?」
「あ、エージさん。実は小猫さんが……」

塔城さん?一体何があったんだ?

「恐らくですけど…オーバーワークで倒れてしまいまして……」
「アーシアさん、塔城さんは今どこにいる?」

アーシアさんは俺の剣幕に気圧されながらも塔城さんの居場所を教えてくれた。

「に、二階の塔城さんの部屋で横になっています」
「ありがとう、アーシアさん!」

俺はアーシアさんが言い切る前に走り出した。
階段を駆け登り、塔城さんの部屋の前まできた。
ノックをする時間も惜しくて俺は走ってきた勢いのままで扉を開けた。

「塔城さん!」

塔城さんはベッドに横たわり上半身だけを起こしていた。その顔色は悪い。次に目を惹いたのは塔城さんの頭の猫耳だ。

塔城さんは扉の方に目をやって来たのが俺だとわかると目付きが鋭くなる。

うぅ……機嫌は悪いままか

目を会わせるとぷいっと顔を逸らされてしまった。

「大丈夫?」

俺が声を掛けても無視。

しょうがない……

俺はベッドの横に置いてあった椅子に腰を下ろした。
塔城さんは俺を見ようともしない。

「倒れたって聞いて心配したよ。大した事なかったみたいでよかった」

俺の声は虚しく部屋に響き、誰にも応えられずに消えていく。重い沈黙が漂い、俺はいたたまれなくなる。

「俺が言えたことじゃないかもしれないけどさ……オーバーワークは危ないから、適度な休憩を……」
「……うるさいです」

俺が最後まで言い切る前に塔城さんの口から出た冷たい一言が俺を制した。

「そんな初歩的な事、先輩に言われなくても分かってます……これは単なる私のミスです。次はありません」

あくまで俺の言うことは否定する塔城さん。
この話を続けてもずっと平行線を辿りそうだ。
なら……腹を割って話をしようじゃないか。

「じゃあ、俺は今から本音を言うぞ。厳しい事を言うから俺の事を嫌いになってくれて構わない」

俺は声のトーンを少し落としてそう告げた。

「塔城さんはグレモリー眷族にとっての何なんだ?」

塔城さんの眉がピクリと反応する。俺は構わず続けた。

「塔城さんは『戦車(ルーク)』。『戦車』の特性は攻撃力と防御力だ。でも、今のグレモリー眷族には俺や木場、ゼノヴィアみたいに攻撃力が高いメンバーがいる。それにゲームまでにイッセーは『禁手化(バランスブレイカー)』に至る。イッセーと俺は鎧があるから防御力も高い」

俺はスラスラと無感情に言葉を並べていく。
塔城さんの顔には明らかな怒りが浮かんできていた。

「……何が言いたいんですか?」

低く圧し殺した声で塔城さんが俺に問う。
俺は塔城さんを真正面から見据えた。

「要は……役立たずなんだよ」

塔城さんの目が一層に鋭くなり、俺を射ぬく。
それでも俺は怯まない。

「部長は破滅の魔力を備えてる。ゼノヴィアには聖剣デュランダルが、木場とギャスパーには強力な『神器(セイクリッド・ギア)』がある。俺とイッセーにはドラゴンが宿ってる。これだけのメンバーがなんらかの 特別な力を有してるんだ。眷族の中で一番弱くても恥じゃないさ」

俺は最後に小さく嘲笑を浮かべた。
今や、塔城さんの両手はベッドのシーツを強く握りしめて両肩は怒りに震えていた。

「……ないですよ」
「……なに?」

ボソッと呟いた塔城さんの声は小さすぎて最後の方しか聞こえない。
俺が聞き返そうと声をあげたときには塔城さんは動いていた。
聞き返した俺の顔面に塔城さんの右ストレートが抉り込む。
小柄な体格に反して重い一撃に俺は椅子ごと倒れた。

「分からないですよ!!強くて、特別な先輩には分からないんですよ!!何もできない私の気持ちが!!」

塔城さんはベッドから飛び降りると同時に俺を殴ってきたのだ。塔城さんは歩いて倒れた俺の眼前まで向かってきた。

「……先輩はいいですよ。体術も、魔法も使える。そんな強い人に……私みたいな弱い人が逆立ちしたって追い付けやしないんです」

自嘲気味に笑う塔城さんの頬には涙が伝っていた。俺は殴られて口の中が切れたのか、口から少し血が垂れていた。袖で血を拭いながら立ち上がる。

「……そんなことない」

俺は小さな後輩の肩に手を置いた。

「俺だって……悪魔に成りたてのころは弱かった。眷族の一番のお荷物で、何の役にもたってない。塔城さんにだって、一回も組手で勝ったことなんかないし、木場との才能の差に絶望もした。
毎日毎日……自分の弱さを嘆いて、悔しくって辛かった」

レイナーレには何の抵抗も出来なかった。
アーシアさんを助けられなかった。
ライザー戦、手も足も出ずに燃やされた。

思い出すときりがない。
俺の人生、挫けそうな事ばかりだった。

それでも……

「それでも……強くなりたかった。こんな自分を認めてくれる仲間の為にも。強くならなきゃいけなかった。辛くても、苦しくても……」

俺の勢いに気圧されていた塔城さんが口を開く。

「……口だけならなんとでも言えるんですよ。強くなろうとしたって壁に道を阻まれるみたいに…それ以上進めないんです」

塔城さんは悔しそうに歯噛みした。俺は肩を握る手に力を籠める。

「じゃあ……塔城さんは全力でその壁に向かってったのか?自分の全てをかけてその壁をぶち壊そうとしたのか?」

塔城さんの表情が固まる。

「してないだろ?猫又の力から逃げてちゃ……その壁は越えられないんだ。姫島先輩は……逃げてない。立ち向かってるんだ。
嫌いな力を使ってまで強くなろうとする理由があるんだ」

塔城さんの肩から手を離して俺は言った。

「結局……本人がどう感じるか。どんなふうになりたいか。その思い、意思の強さが……人を成長させるって俺は思う。
塔城さん……君はどう思ってるだ?」

身体の向きを変えて俺は出口に向かった。
言いたい事は全部言った。
後悔はないし、これでよかったと思ってる。

俺は無言で扉を閉め、廊下を歩きだした。






○翌日

俺は今、グレモリー邸の中庭で待機していた。
今日は修行に出ているメンバーが帰ってくる事になっている。

イッセーと木場がどんな風に成長したか気になるところだ。

「おーい!!」

グレモリー邸の入り口の方から懐かしい人物が手を振って走りよってきた。服はボロボロで修行の激しさが伺えた。

「イッセー!久しぶりだな!!」
「なんとか生きて帰る事ができたぜエージ…何回か死にそうになったけど」

二週間ぶりにイッセーは俺たちの前に姿を表した。身体は引き締まって一回り大きくなったように感じる。

しかもこの感じ……

「前よりドラゴンの波動を感じられるな。上手くいったみたいじゃないか」
「あぁ!俺だって無為に夏休みを過ごしてたわけじゃない。まだ完全にじゃないけど……禁手(バランス・ブレイカー)に至ったぜ!!」

イッセーは誇らしげに語った。

しかし、こんな早くに禁手に至るとは……余程キツい修行だったんだな……
まぁ、イッセーは根性あるし、俺はやってくれるって信じてたぜ!!

「やあ!イッセー君とエージ君」
「二人とも元気そうだな。早くゲームで暴れたいものだ」

そう言って近づいてきたのは……金髪のイケメンナイト木場!
もう一人は……全身のいたるところに包帯を巻いてボロボロの状態のゼノヴィアだった!
怖い!夜にこんな人みたら間違いなく悲鳴あげて逃げるね俺は。

「木場とゼノヴィアも無事か。よかったよかった。これで外出してたメンバーは全員そろったな」

ゼノヴィアは途中から屋敷を離れて修行してたから会うのは久しぶりだ。その間にいったい何があったか聞きたい。

「イッセー君は逞しくなったね」
「変な目で俺を見るんじゃねぇよ木場!俺にそういう趣味はない!!」
「い、いや違うんだよ。僕はただ筋肉がついたなって思って」

そこで言い淀む木場もどうかと思うけどな……

「ゼノヴィアはなんでそんな状態になってんだよ……」
「怪我して包帯を巻く生活を繰り返していたらこうなったんだ。まぁ、殆どの怪我は完治しているからゲームに支障はない。安心してくれ」
「安心できねぇよ!治ってるなら外してくれ!」
「しかしだな……今外すのは…」

ゼノヴィアは急に恥ずかしそうに頬を染めた。
なんだ?

「実はこの包帯の下には何もつけていないんだ。だから今外すと裸になってしまうんだ」
「ぶっ!」

俺は想像して鼻血を噴き出してしまった!
どうもこういうところは治らない。

「それでもまだエージが脱げというのなら脱ぐが……」
「いい!脱がなくていいから!後で着替えてくれ!!」

まったく……本当にゼノヴィアは俺を出血多量で殺したいのか?

「おかえりなさい、みんな」
「部長!」

グレモリー邸の玄関から部長出てきた部長は俺たちを見て満面の笑みを浮かべていた。

「お久しぶりです部長」
「部長ぉぉぉぉ!会いたかったス!!」
「主みずからお出迎えとは痛み入るね」

木場、イッセー、ゼノヴィアはそれぞれ部長に返事を返した。
部長は満足そうに笑い、

「明日は魔王様主催のパーティーが開かれるから、今日はしっかり休むのよ」

そう言って俺たちを屋敷に招き入れた。
俺も今日は姫島先輩の修行がお休みなのでゆっくり休むことにした。

自分の部屋に向かう途中、廊下の向こうから塔城さんが歩いてくるのが見えた。その姿はジャージ姿で、これから何処かに向かうようだ。

俺に一瞥もくれずに塔城さんとすれ違った。明日は大事な行事があるので、塔城さんにも休んで貰わないといけない。
俺は迷ったが声をかけることにした。

「塔城さん、明日はパーティーなんだから今日ぐらい体を休めようぜ」
「…………」

俺の声は確かに聞こえてるはずだが、明らかに無視された。まぁ、昨日あんな事言ったんだから当たり前か。

俺は自室の扉を開き、真っ先にベッドに飛び込んだ。上質な素材でできたベッドは俺を無抵抗に受け止めた。
ゴロンと寝返りをうち、仰向けになる。

それを見計らったようなタイミングで浴室の扉が開いた。

「ん?もう寝るのか?まだ寝るには早いぞ」

包帯だらけだったゼノヴィアが駒王学園の制服に着替えてそこに立っていた。
そういえば相部屋だったっけ。

「まだ寝ないよ。ちょっと考え事だ」
「そうか。あんまり考え込むなよ。なんなら私が相談にのるぞ」

ベッドに腰掛けながらゼノヴィアが言った。

「そんな大層な悩みじゃないよ。ただゲームが心配でさ」
「なんだエージ?まさか私達が負けるとでも思ってるのか?」

顔をしかめたゼノヴィアが身を乗りだし、上から俺の顔を見下ろす。
俺は苦笑を返した。

「そこまでは思ってない。普通のルールなんて無い闘いなら俺達グレモリー眷族はかなりの力があると思う。でも……これはレーティングゲーム。色んな細かいルールがあるんだ。場合によっては俺達に不利なルールでゲームをすることになるかもしれない。
それが一番心配なんだ」
「そうか……よし」

一人で納得した様にゼノヴィアは頷いた。
だが、次の瞬間、俺の頭は抱えられゼノヴィアの膝の上に移されていた。
所謂、膝枕だ。

「心配しなくて大丈夫だ。エージが参加できない分、私が眷族の力になる」

俺の頭を撫でながらゼノヴィアは優しく囁く。

女の子の膝枕!
男子なら一度は夢見るこのシチュエーション!
柔らかい。後頭部に伝わる感触は紛れもないゼノヴィアの太股のものだ!なんで女の子の体ってのんなに柔らかいだぁぁ!!

俺が一人で悶々としているのに構わずゼノヴィアは続けた。

「エージには何度も助けられたからな。今度は私が恩を返す番だ。この夏休みの間、成長した私の姿をみていてくれ」
「ああ……シトリー戦、頑張ってくれよ」
「任せろ」

俺は疲れていたのかゼノヴィアに膝枕されたまま眠りに落ちた。

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