小説『ハイスクールD×D ~古代龍の覚醒~ 』
作者:波瀬 青()

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俺は二つの魔力に向かって走り出した。
『禍の団(カオス・ブリゲード)』のテロを未然に防ぐためにも、塔城さんを守るためにも足を動かす。

まだ明るい時間だが、森の木々に覆われて周囲はまるで暗闇だった。悪魔になったお陰で暗くても目が利くので構わず走る事数分。
開けた場所にでた。

そこには二人の人物の姿があり、二人とも走って現れた俺に視線を向けていた。

「おや?誰か入ってきたと思ったらエージかにゃん♪」

黒い着物を身に纏った、ナイスバディな女の子。
頭には猫耳、シッポまで生えている。

「久しぶりだな…黒歌」

初めて会ったのは街の路地裏だったっけ。

「……エージ先輩」

そして俺の後輩、ドレス姿の塔城さん。
困惑したような目で俺を見ている。

「心配で追いかけてきたよ、塔城さん」

俺は右手に腕甲を装着し、戦闘体勢をとる。
そのまま塔城さんと黒歌の間に割って入った。

「あのビルの回りにはテロを警戒して天使、堕天使、悪魔の連合軍が警備をしてるのに良くここまでこれたな」
「まぁね♪あの程度の連中に気付かれるようなヘマはしないにゃ〜」

得意気に黒歌は言う。

「で、お前は何しにここに来た?塔城さんを連れ出して何するつもりだったんだ?」

俺は黒歌から目を逸らさずに問いかける。黒歌は笑顔を浮かべたまま答えた。

「白音を迎えにきたのよ。あの時は連れていけなかったから」

黒歌の視線が俺の後ろにいる塔城さんに向けられた。ビクッと身体を震わせて塔城さんは怯えている。

「悪いけど、塔城さんはグレモリー眷族の仲間で俺の後輩だ。お前に渡す訳にはいかない」

塔城さんの反応から考えて、塔城さんは黒歌についていく事を望んでいない。
なら、俺が塔城さんを守る!

「ヒャハハハハッ!黒歌の迎えに来たら何だよこれ!何か楽しそうな状況になってるじゃん!!」

空からの哄笑に顔をしかめると、古代中国の鎧を纏ったイケメンが空から降り立った。
ヴァーリチームの一人。孫悟空の美猴!

このタイミングで敵の援軍かよ!

「はぁ……なんでエージがここにいるのかな?」
「おやおや、ヴァーリから聞かされていましたが実物は相当面白そうですね」

更に空間に裂け目が生まれ、そこから二つの人影が現れた。

「……梓乃」

紫の着物を着た俺の幼馴染みにして『鬼』。ヴァーリにスカウトされて今や冥界全土で指名手配中のテロリスト、鬼山梓乃。

もう一人は背広でメガネをかけた紳士のような青年。その手に握られている剣からはゼノヴィアのデュランダルの比じゃない程の極大な聖なるオーラが発せられていた。
聖剣使いか。

大見得切った瞬間に四対一になるなんて……
くっそ!やるっきゃないか!!

「黒歌!お前、古代龍と闘るなら俺っちも混ぜろよな!!」
「お猿さん、エージと闘いたいなら好きにするといいにゃ。私は白音を連れて帰れればいいしね♪」
「勝手に連れ帰ったらヴァーリが怒るよ、黒歌?」
「まぁまぁ、梓乃。黒歌にも考えがあるんでしょう」

雑談を繰り広げるテロリスト達。

「じゃあ、俺っちが古代龍と勝負するぜぃ!!」

雑談を切り上げて俺に向かって来たのは美猴だった。
この状況を打開するには……

「そっちがその気なら……俺も手加減しないぜ?」

黒歌が手で美猴を制し、俺を見据えている。
俺は魔力を高めながら美猴を挑発する。
後ろにいる塔城さんだけでも逃がす方法を考えないと。

「無駄な挑発はやめた方がいいにゃ〜。私らと闘ってただで済むわけないのはわかるでしょ?」
「分からないね。俺は闘う前から勝負を諦めたりはしない」

黒歌は顎に手を当てて何かを思案するような仕草をする。

「言っちゃなんだけど、グレモリー眷族には白音より強い人が沢山いるよね。お荷物の白音の為にそこまでしてもエージが痛い目みるだけだにゃ〜」

塔城さんが悔しそうに歯噛みしているのが分かる。こんな事を言われて悔しいんだろう。
それに今の発言は俺も聞き逃せない。

「おい、黒歌。取り消せよ」
「なんで?私は事実を言ったまでにゃん」

瞬間、俺の身体から魔力が噴き出す。
準備は整った。

「バランス・ブレイク」

俺の身体から噴き出る魔力が形を持ち、一瞬で俺は鎧を纏った。
それと同時に塔城さんの足元に魔方陣が展開される。
ランサスのデータの中から一時的に結界を無効化する魔法を使用。この方法だと大した距離は転移できないが塔城さんを逃がすには十分な筈だ。

「外に出たら援軍を呼んでくれ。俺も出来るだけ頑張るけど、楽観できら相手じゃないんだ」
「せ、せんぱ…!!」

塔城さんが最後まで言い切る前に、塔城さんの身体は青白い光に包まれこの場から消失した。

「おいおい、黒歌。逃げられちゃったぜぃ」

美猴は開戦を今か今かと待ち構えウズウズしている。ヴァーリと同類の戦闘狂め。

「まったく……エージは相変わらず甘いんだから……」
「黒歌の結界をものともせずに転移を成功させるとは大した腕ですね」

梓乃は溜め息のようにボヤき、聖剣の青年は感心の声をあげた。

「どうやって転移したのか知らないけど……私の白音を奪った罪は重いにゃ………殺す」

さっきまでとは違う感情のこもっていない声。
俺も構えをとり、戦闘の意思を示す。

「やっと始まりかよ!楽しくなってきたなぁ!!」

美猴も黒歌の制止がなくなったことで、俺に敵意を向ける。

「かかってこいテロリスト!」
「「上等!!」」

俺が叫ぶと美猴が棍を取り出し、俺に飛びかかってきた。

「伸びろっ!如意棒ッ!!」

美猴の掛け声で棍が伸び、俺に襲いかかる。
横凪ぎに振るわれた一撃を俺は跳躍して回避する。

「はあぁぁぁっ!!」

黒歌がつくりだしたオーラを俺目掛けて放つ。
俺は黒歌のオーラを弾き、空中に魔方陣を展開。黒歌達に向けて属性魔法のフルバーストを喰らわせる。

ドォォォォォォォォォッ!!!!

爆音が響き、俺の視界を煙が塞ぐ。

「まだまだぁっ!!」

その煙を切り裂いて後ろから現れた美猴が棍で一撃を浴びせてきた。
両手を交差して防ぐも、美猴の勢いは止まらない。

「オラオラオラオラオラァッ!!」

凄まじい速度で繰り出される刺突。鎧が耐えきれず崩れていく。
反撃の隙がない!このままじゃ好き勝手にいたぶられるだけだ。
形振り構ってはいられない。

腕をクロスしたまま俺は翼を広げて前進。美猴に向かってタックルを仕掛けた。予想外の反撃に美猴の手が止まる。
その隙を突く!
タックルの姿勢から急停止して右拳を叩き込んだ!

ドゴンッ!

鈍い打撃音と確かな感触を手に残し、美猴は俺の一撃で吹き飛んでいく。
あの程度で倒れる奴じゃない。

「やってくれるじゃないの!」

黒歌は毒づき、さっきよりも濃密なオーラを両手に集めはじめた。

「妖力+魔力のミックス攻撃!食らって死んじゃえ!!」

極大なオーラが俺に放出される。
鎧の崩れた部分を修理して防御障壁を前面に多重展開!防いでみせる!!

ドゴオオオオオオオッ!

黒歌の攻撃と俺の障壁が衝突する。
黒歌の攻撃は障壁をものともせず俺に迫る。なんて威力だ!
俺は両手を突きだして更に魔力を込めた。

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ズオォォォォォォォ!!!!

黒歌の攻撃が俺を包む。
鎧の大部分が砕け、俺はいつもの制服姿に逆戻りだった。その制服もボロボロで所々に穴が開いていた。
まぁ、障壁を展開して魔力で身体を覆ったお陰で死なずにすんだ。

「いてて……流石はヴァーリが認めるだけはあるぜぃ!!俺っち感激だ!!」

気がつけば美猴がいつの間にか復活して俺の前に立っていた。その表情からはダメージの色が伺えない。

「私の全力攻撃で生きてるなんて……感心を通りこして呆れるにゃ……」
「まだやれるよな!?俺っちはまだ満足してねぇぞ!!」

まだこの二人からは余裕が見てとれる。
鎧を再構築して二人に相対する。コイツらの相手程しんどい事はないな……

「黒歌、もうすぐエージのお友達が来ちゃうよ?どうするの?」

離れたところで傍観していた。梓乃が間延びした声で言う。
コイツは相も変わらずのマイペースだ。

「だったら梓乃も手伝うにゃ!!」
「今はエージと闘う気はないよ。エージにはもっと強くなってもらわないと。エージが強くなった時に、私の目標は叶うかもしれないんだし」

梓乃の目標……?
一体何を考えているんだ?

「その代わり、アーサーが参戦するみたいだよ。エージも死なないように気をつけてね」

アーサー?

ゾクッ

「うわっ!?」

後ろから向けられた殺気に、俺は大袈裟な回避行動をとる。
そして体勢を立て直して後ろを見ると、先程まで俺がいた場所に剣が突き立てられていた。

「いい勘ですね。いまのを避けますか……」

全身に鳥肌がたつような、冷笑を浮かべたメガネの青年が剣を握って立っていた。
戦闘前の柔和なイメージとは対象的な……残虐的な雰囲気を醸しだしてメガネの青年は剣を構え直す。

「容赦無いわねアーサー……やっぱりアンタとはやりたくないわ」

黒歌が呻くように呟く。
それに青年はニッコリ笑顔で答えた。

「失礼、貴方達の闘いを見ていて気がはやってしまいました」

俺の本能が告げている。この場にいる黒歌や美猴、梓乃以上に、この男は危険だと!

「聖王剣のアーサー・ペンドラゴン。お相手願います」
「なるほどね……名前を聞いてピンときたよ。お前……アーサー王の子孫か」
「よく分かりましたね」

俺の発言に青年―――アーサーは少し驚いたような表情をした。
これでも勉強してるんだぜ!!

「お前の持ってるその剣……カリバーンか。アーサー王が手にしていた最強の聖剣らしいな」
「これまた正解ですね。正確にはこの剣はコールブランド。私の家で代々受け継がれてきたものです」

最強の聖剣使いがテロリストかよ……世も末だぜ。

「お喋りはそこまで!ちゃっちゃっと終わらせるにゃ!」

黒歌がそう言うと、アーサーは苦笑した。

「黒歌もああ言っているので、いかせてもらいます」

アーサーの姿が消える。
次の瞬間には俺の背後にアーサーが現れていた。
木場よりも早いっ!!
上段から振り下ろされた剣を身体を捻ってかわした。

「はぁっ!」

アーサーに向けて魔法陣を展開する。この至近距離からなら避けられないはずだ!!

「甘いですね」

呟くとアーサーの剣が唸りをあげて振るわれた。
すると、俺の魔方陣が空間ごと削りとられ魔法を発動するまえに霧散した。

「私のコールブランドならば、空間ごと切り裂くことなど容易いですよ」
「そんなのアリかよ!?」

俺は距離をとるために翼を広げ空に逃れた。

「俺っちを忘れてないかい古代龍!」

空には金色の雲に乗っていた美猴が待ち構えていた!
しまった!!アーサーに気をとられすぎた!!

「さっきのお返しだぜぃ!!」

美猴の棍が俺にクリーンヒットする。鎧越しに伝わる衝撃で俺は苦悶の声を洩らす。

「ぐはぁっ!」
「もう一丁!!」

美猴が身体を一回転させて、渾身の一撃を放つ。
なす術なく俺の身体は殴り飛ばされ、地面に衝突する。

「ぐぅ……」

両手を着いて立ち上がろうとした正面には……

「ハロ〜♪」

黒歌が手を翳していた。

ズドドドドドォォォォォォォォォンッ!!!!

黒歌の手から魔力弾が連続で放出される。
鎧を纏っているので直接のダメージは無いに等しいが、衝撃は殺しきれない。

「がぁぁぉぁぁぁぁぁぁ!!」

はやく、立て直さないと……!
自分の足元に魔方陣を展開。そこから雷が迸る!
黒歌は攻撃を中止して俺から離れた。

立ち上がって俺には正面の三人を睨む。

やっぱりコイツらは強い。
ヴァーリと一緒にいるだけはある。

『エージ、奴等の実力は相当なものだ。いくらお前でも勝算は薄いぞ』

分かってるよランサス……

「もう終わりかい?こんなもんじゃないだろ古代龍!」
「当たり前だ……嘗めんなくそ猿!!」

魔力を放出して最高速で距離を縮める。美猴の眼前まで迫った俺はその勢いのまま身体を捻りソバットを繰り出した。

「惜しいねぃ!俺には当たらないよ!!」

棍を器用に操り、俺の脚は美猴に止められる。
が、この蹴りはハナから止めさせるのが目的だった。

「直撃だぜっ!」

俺の脚が赤く輝き、爆発を引き起こす!
あらかじめ脚に魔方陣を纏っていたのだ。炎に包まれた美猴はたまらず飛び出した。

「あっちぃぃぃぃぃ!焼け死ぬところだったぜぃ!!」

距離をとって一息つく美猴。
そんな暇は与えない!!

美猴の真上に魔方陣を展開。そこから大量の雷が降り注ぐ。

「うっわっと!!」

美猴は雷を避けて反撃しようとするが降り続ける雷がそれを許さない。

「無視とは酷いですね」

左右からアーサーと黒歌が強襲を仕掛けてきた。
左右に両手を広げて魔方陣を展開。黒歌に向けて幾条の光線が放たれ、アーサーには地面を抉りながら真空波が直進していく。

「はあああああああああ!!!!」

標的を美猴にチェンジし、照準を合わせる。
正面に魔方陣が広がり、いまだ雷に手間取っている美猴に極大の魔力砲が撃ち込まれた。

反応が遅れた美猴は回避に失敗し、魔力砲に呑まれた。

「こんにゃろぉぉ!!」

黒歌が妖力と魔力を込めたオーラを放つが俺は瞬時に加速して回避。アーサーの後ろに回り込んだ。

「ふんっ!!」

万全の体勢で繰り出した俺の正拳突きは空をきった。こっちを見もせずにかわしやがった!!

「もらいました!」

振り向きざまに俺の腹に聖剣を突き立てられる!!

最強の聖剣を前に鎧はなんの意味も持たずに砕けた。俺の肉が焼け、焦げる匂いが漂ってくる。
俺は口から血を吐き出した。

「ぐぅ……肉を斬らせて骨を断つってなぁ!!!!」

聖剣を両手で掴み、隙だらけのアーサーの頭部にハイキックを見舞う。

「がはぁ!? 」

苦悶の声を上げて膝をつくアーサー。俺は腹に刺さった聖剣の柄を握り痛みに耐えながら引き抜いた。
悪魔の再生力をもってしても聖剣のダメージから回復することはかなわず、俺の腹には小さな穴が空いた。
引き抜いた聖剣を持つ俺の手は鎧が熔けて、地肌が剥き出しになる。
それ以上聖剣を持っているの不可能で、俺はその場で聖剣を取り落としてしまった。

「アーサー!」

黒歌の叫びに反応してアーサーは聖剣を掴むと回避行動をとった。

アーサーが離脱した瞬間を見計らって黒歌の魔力弾が俺に直撃した。

「……効かねぇよ!!」

鎧の再構築を済ませ、黒歌の攻撃を耐える。
次弾がくるまえに身体を動かそうとしたときだった。

赤い閃光が俺の目の前を通過していった。その赤い閃光は遠くの山を丸ごと消し飛ばした!

なんだ今の!?

「エージィィィィィィ!!!!」

騒々しい声で俺の前に立ちはだかったのは赤い全身鎧の男だった。

「イッセー!!」

『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』となったイッセーは俺を取り囲んでいた黒歌達に指を指し、堂々と宣言した。

「お前らぁぁぁぁぁ!!小猫ちゃんとエージに何してんだぁっ!!」

前までのイッセーからは考えられないオーラを纏って、敵を見据える姿はまさしく赤龍帝の名に相応しい。

「黒歌、さっきの赤龍帝の一撃で結界が壊れちゃったよ。それと大勢の悪魔がここに向かってきてる」

梓乃の声を聞いて黒歌は悔しそうな表情を浮かべた。

「……今回は引き上げるけど…次にあったら覚悟しておくにゃ!!」

黒歌がそう言うと、黒歌を中心に転移用の魔方陣が浮かび上がっていく。

「お、俺っちもわすれないでほしぃぜぃ!!」

少し遅れて美猴が金色の雲に乗って現れた。あのの攻撃を受けて生きてるなんてしぶとい奴だ。

「今回は合格だねエージ。でも、これからはこんなに上手くいかないよ」

転移の光に包まれながら梓乃が俺に言った。

「おい、待てよ梓乃!お前は俺に何をさせようとしてるんだ!?」

梓乃の目標。梓乃は俺の力が必要かもしれないと言った。何を企んでるんだ?

「復讐………だよ。エージ」

梓乃はポツリとそう呟いた。

「復讐?」
「まだ分からなくていいよ。いずれ嫌でも知る日がくるから」

一際強く魔方陣が光輝き、転移が始まろうとしていた。

「バイバイ、エージ」

発光が終わると、梓乃達はもうこの場からいなくなっていた。
俺は鎧を解除して地面に方膝をつく。
腹に手をやると、ベッタリと血がついていてかなりの血液を流している事が分かった。
聖剣のダメージが予想以上に俺の身体を侵していた。

「おい、エージ!しっかりしろ!!」

イッセーが駆け寄ってくるが俺の視界は暗転し、意識を失った。








○???

目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。
ほのかに漂う薬品の匂いが鼻をつく。

首だけを動かして辺りの様子を伺う。
俺の左手には血液パックからチューブが伸び、輸血をされていた。

(なんでこんな事に………?)

俺は起きたばかりの頭を酷使して、記憶を掘り返す。

「…………エージ先輩…?」

涙声で呼ばれて俺は首を動かす。
そこにはベッドの脇に設けられたパイプ椅子に座った塔城さんがいた。
俺の右手は塔城さんに握られていた。
俺は率直な疑問を口にする。

「……なんで泣いてるんだよ?」

塔城さんは泣いて赤く充血した目に更に涙をためて、俺の手を強く握る。

「……よかった…」

塔城さんの頭を撫でようと右手に力を込めるが、何故か身体がいう事をきかず、ピクリとも動かない。

「ぐっ……」

身体を起こそうにも腹部に激痛が走り、起き上がる事も出来そうにない。
そこで、俺は思い出した。
聖剣が俺の腹に突き刺さり、聖なるオーラのダメージと血を流しすぎて倒れた事を。

俺は仲間を守れたのか……?

「そっか……最後に倒れたんじゃ格好良くキマらないな……」

俺は苦笑いをして、塔城さんに言った。

「目が覚めたみたいね」

病室の扉が開き、そこから部長が険しい顔で近づいてきた。
足音を鳴らして俺のベッドまで来た部長は俺の頬に手を添える。

バチン!

「おぶっ!!」

なにが起こったか理解出来なかったが、ヒリヒリと打たれた頬が痛みを俺に伝えていた。

「今のは……たった一人で小猫を助けに行った事への一発よ。そしてこれは……」

ベチン!

乾いた音が無機質な病室に響、俺は二回目のビンタを貰った。両頬がビリビリする……

「私たち眷族を悲しませたことへの一発。
エージ、貴方は確かに強いわ。主である私より遥かに。だからといって今回の貴方の行動は目に余るわ。いくら小猫を守るためでも、貴方の行いは見過ごせない。
そのベッドの上で大人しく反省していなさい」

部長は俺に厳しくそう告げて踵を返して部屋から出て行った。
うぅ……部長を怒らせてしまった。明日謝りに行こう。

「…ランサス」
『なんだ?』
「俺の怪我について詳しく教えてくれ」
『お前が倒れたのは身体中に聖なる力が巡った事と、血を流しすぎたことで間違いはない。
流石の私も、聖剣に刺されながらも反撃するとは思わなかったぞ』
「うぐっ……あれはアーサーに一撃入れるのに夢中だったからだ」

ランサスは俺以外の人にも聞こえる声で会話を続ける。

『まぁ、エージらしいといえばらしいが……』

ランサスは呆れたように呟く。

「と、とにかく俺の怪我はどうなんだよ?明日には動けるようになるのか?」

ランサスの話を遮り俺は本題を切り出した。 

そんなに深刻じゃなければいいんだけど……

『うむ……そうだな。流石は聖王剣というところか、眷族に強力な回復要員が居なければお前は死んでいたかもしれん』

マジかよ……アーシアさんありがとう。

『お前が気絶している間にアーシア・アルジェントが治療を施してな、お前の腹部の傷は殆ど完治した。だが……』

だが?

『聖剣で受けたダメージまでは治療できなかったようだ。本来ならお前が目を覚ますのは身体の中から聖なるオーラが抜けきってからの筈だったのだ』
「け、結構深刻な状態だったんだな。それでなんで俺はこうして意識があるんだ?」

ランサスの話の通りなら俺は今でもベッドで寝てるってことだ。
だけど俺はこうして目を覚ましてる。

『……私から言うのは無粋だが、強いて言うならそこの小娘のお陰だろうな』

小娘?
この部屋に居るのは俺と……

「……塔城さん?」
「…………」

俺が視線を向けると塔城さんは複雑そうな顔で俯いていた。

(おい、ランサス。どういう事だよ!)
(本人に聞けばいいだろう。そんな事も考えられないのか?)

俺はランサスに心の中で文句を言うが、取り合ってくれない。
こいつ、俺が塔城さんと気まずいって知ってるだろっ!!

「はぁ……塔城さん」

俺が名前を呼ぶと、塔城さんは俯いていた顔を上げた。
正面から見る塔城さんの顔はどこか困った顔をしていた。塔城さんの頬には涙の跡が残っており、俺は胸が締め付けられるように感じた。

「あの、そのぉ……ランサスが言ってたけど、塔城さんのお陰で俺が目を覚ませたってどういう事かな?」
「……エージ先輩の身体を蝕んでいた聖なるオーラはとてつもなく強力でした。普通の悪魔なら刺された時点で消滅していたかもしれません」

うへぇ……消滅はしたくないいぜ。

まだ童貞卒業してないし、グレモリー眷族のレーティングゲームもあるんだ。

「……先輩の傷は確かに治っています。ですがアーシア先輩の力でも身体の中の聖なるオーラを消し去る事は出来なかった。だから私が仙術を使いました」

仙術?

「仙術は生命に流れる大本の力を操る術です。その術でエージ先輩の光に対する免疫力を上げて聖なるオーラを消化していきました」
「そんな術があるなんて凄いな……」

俺は塔城さんの発言に驚くばかだった。
って待てよ……

「それって……黒歌と同じ力なんじゃないのか?」
「………はい」

俺が恐る恐る尋ねると塔城さんは少しの間を置いて返事をした。
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。あれだけ嫌がっていた力を、俺なんかの治療の為に使わせてしまうなんて。

「……ごめん、塔城さん。俺の為に力を使わせちゃって」
「……もういいですよ。エージ先輩」

俺の謝罪に帰ってきたのは優しく温かい声音の返事だった。

「……以前、私に言ってくれましたよね」

塔城さんは俺の手を掴んだまま続ける。

「……どう感じるか、どんな風になりたいか。意思の強さが人を成長させる。
エージ先輩が言った言葉です」

確かに言った。オーバーワークで倒れた塔城さんに俺が言った言葉だ。

「……今日までずっとその事について考えていました。それでも今日まで答が見つかりませんでした。
でも、今日……姉さまに会って分かったんです。
私はただ、姉と同じようになるのが怖かった。力を求めた果てに、姉さまと同じように眷族を裏切って殺してしまう。そうなってしまうんじゃないかって……怖がっていたんです」

塔城さん……

「……おかしいですよね。私は強くなる事を望んでいたのに、心の奥では拒んでいたんです。そんなんじゃ強くなれるわけないのに。
エージ先輩の言葉の意味も分からずに姉さまに会って、姉さまから私を守ってくれたエージ先輩を見て……私はやっと答を見つけました」

塔城さんは目に決意の光を宿し、俺を見据えた。

「私は立ち向かっていくエージ先輩を見て、エージ先輩のようになりたいって思った。
姉さまと同じ力を持っていても、私は……エージ先輩みたいに仲間を守れる力が欲しい!」
「……そんな風に言われると、恥ずかしいけど…俺なんかが塔城さんの目標になれるなら」

また死ねない理由が増えたな。
俺は右手を塔城さんの頭に置いて、頭を撫でながら言った。

「俺は喜んで塔城さんの目印になるよ」
「……先輩っ」

塔城さんは驚いたように頭の上の俺の右手を凝視していた。

「何回も瀕死の状態から蘇ってきた俺だ。後輩の為ならこんな怪我ヘッチャラさ」
「……嘘ですね」

カッコつけたつもりで得意気に言った俺の顔をジーッと見つめながら塔城さんに指摘された。

「うっ……魔法で右手を無理矢理動かしてるんだ。けど、明日には復活するから!
嫌だった?」

俺の質問に塔城さんは照れているのか顔を赤くしながら首をフルフルと横に振る。

「……嫌じゃないです……エヘへ」

なにこの可愛い生き物。
父さん、母さん……俺は道を踏み外してしまうかもしれません。

「うふふ。心配して損をしてしまいましたね」

病室の扉を開いて、入室してきたのは姫島先輩だった。
いつものニコニコ笑顔が、更に輝いて見える。

「どうしたんですか姫島先輩?」
「お二人の様子を見に来たんですよ。それと、もう遅いので小猫ちゃんを迎えにきました」

俺は塔城さんの頭を撫でていた手を止めて、頭から下ろした。

「明日はいよいよゲーム当日ですからね。しっかり休んでください!」
「ふふ。そうですわね。エージ君もお大事にね」

塔城さんは名残惜しそうに俺を一瞥してから姫島先輩に歩み寄った。

「では、失礼しますね。おやすみなさいエージ君」
「……おやすみなさいです、エージ先輩」
「おやすみ。二人とも明日は頑張ろうなっ!!」

右手を魔法で動かして大きく手を振る俺。
姫島先輩と塔城さんは笑顔で病室から出て行った。
二人の居なくなった病室は静かで、無機質だ。

「いろいろあったなぁ……」

俺はベッドに身体を預けながら今日の事を思い出した。

「明日はゲーム。でも俺は参加できないから観戦してる上級悪魔の警護……忙しくなりそうだ」

そんな事を考えながら、俺は襲い来る睡魔に身を委ねた。






___ATOGAKI___

誠に申し訳御座いませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!<(_ _)>
サイト内でのトラブルのおり、この作品を別のサイトに移そうかと考えておりまして…
準備を整えてからアットノベルス様を覗いたらサイトは復旧していて、応援のコメントをいただいておりました。

受験もうまくいって時間がある今、力の限り続きを書いていきたいと思っております!

どうかこれからも応援、よろしくお願い致します。




関係ありませんが、ここでアンケート。

前述の通り作者に時間ができたので、新作を書いてみたいと思っております。
今のところアイデアが三つほどあるのですが……どれを書いていいか悩んでいます。
なのでこの作品を読んでくださる方々に選んでほしい所存でございます。

1ハイスクールD×D(本作と同様オリ主)
2Fate/stay night×Chrono Trigger
3とある魔術の禁書目録×PSYREN
4その他(要望があれば善処致します)

4のその他の場合、作者が作品を知らない可能性があるのでご容赦ください。

ご意見、ご要望、感想、指摘などありましたらどんどん言ってください。
では、長くなりましたがどうか協力お願いします。




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