一章 第四話 スキナモノ
「全員そろったか?」
ドアを力強く開ける男性。確か担任の先生だった。
外見を見たところ年代はあたしの父親と同じくらい。
シワが目立つ。髪は白髪染めをしたのだろう。不自然な黒髪だった。
「さっきも紹介したが、このクラス担任を務める熊田だ。」
手慣れたように白チョークを取る。ゴンゴンと音を立てて黒板に自分の名前を書いた。
パンと手に付いたチョークをはたく。首を一回回す。 こんどは君たちの番だ。右側から順に自己紹介。名前と好きな物。事でも人でもいいぞ。 熊田先生は窓側の生徒を指さした。
右側から三列目だったあたしは慌てて自己紹介文を考え始めた。・・・好きな物
小さい頃から歌が好きだった。
歌って、まわりの人からうまいと褒められるのが嬉しかった。将来は絶対歌手になろうと決めていた。
綺麗な服を着て。ステージで立つ。たくさんの拍手の中歌う事に憧れていた。
夢が崩れた明確な日付はない
中学に上がると部活に入った。テニス部だった。友達に入ろうと誘われて入った。
まわりの人達とも上手くいっていて楽しかった。充実していた。
そして忙しかった。朝五時に起きて支度をした。
日が暮れるまでボールを追いかけた。そうしたら知らない間に歌手の夢が消えていた。
生活していく日々の中でなれっこない夢というものを知った。
普通の人が送る日々を学んだ。あたしはそっちを取った。
「あたしは氷川楓。趣味は音楽鑑賞。ロックが好きです。」
何も変哲のないつまらない人間になっていた。