一章 八話 涙
あたしは信じられなかった。さっきまで楽しくトランプをしてた。なのに今ここで。あたしの席で。皆一人の女の子の悪口を言っている。美紀ちゃん達はカメラで撮っている。
悪口?違う。これは。
いじめだ。
「どうした楓?」
「えっ・・・?」
「顔青いよ?体調悪いの?」
れいなちゃんに言われて我に返った。皆あたしを見ている。
大丈夫? 具合悪い? 声をかけてくれたが怖かった。
「ちょっと・・・体調悪いかも。保健室行ってくる。」
具合悪いフリをして教室を出た。そのまま走った。まっすぐ廊下を走って階段を下りた。
並ぶ教室達が迷路に見えた。息が切れた。体が震えた。それでも走った。
さっきの言葉たちを消すように。
走って走ったその先に職員室があった。青ざめているあたしを事務の人が心配した。
体調が悪いというと職員室に入れてくれた。中には熊田先生が居た。驚いて駆け寄る。
事務の人が説明する。先生は来客室のカギを開けてくれた。
今日は使わないから横になっていなさい。 そういわれて横になった。
先生が静かにドアを閉めた。静かになる部屋。一人になった。
あたしは自然に涙がこぼれていた。ぬぐってもぬぐっても涙がこぼれた。
しまいには声をだして泣いた。ハンカチがなかったからYシャツで拭いた。
あたしがいじめられているわけじゃない。
なのに無性に怖かった。悲しかった。クラスに戻りたくない。