小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 二条城で秀吉の持て成しを受けた甲斐姫は一週間、京の都を見て回った。応仁の乱で破壊し尽くされた京の

都は、織田信長の普請事業で立ち直り、ほぼ現在と同じような町並みになっている。

 甲斐姫は少数の武士を取巻きにして二条城から三十三間堂に行った。

甲斐姫は

 「凄いところじゃのう、こんなに千手様が並んでいるのを見るのは初めてじゃ。」

と言った。すると家永は

 「まったくその通りでござる。圧倒されますなぁ。」

と言った。

 甲斐姫達はそこから清水寺に行った。現在の中学生の修学旅行と同じような道筋であるが、それはこの時代

からの京見物を踏襲しているのである。

 清水寺に着いた甲斐姫は見物客に混じって本堂の舞台から下を見た。

甲斐姫は

 「きゃーーー、高いのう。わらわは高いところは苦手じゃ。」

と言って少女のようにはしゃぎ回っていた。

 その甲斐姫を火縄銃で狙っている者がいる。風魔忍者だが清水寺の舞台の下、森の中から狙いを定めている

のが甲斐姫の後を付いてきた慶次の目に入った。

慶次は

 「姫、伏せて。」

と言って甲斐姫をかばった。とその瞬間火縄銃の発射音が轟き、清水寺は騒然となった。銃弾は甲斐姫の背中

の上を通過し本堂の天井に当たった。

甲斐姫は

 「前田殿、ありがとうございます。しかしまだわらわを狙うとは。」

と言った。すると慶次は

 「風魔は狙った獲物を仕留めるまで追いかけます。我等が奴らの頭を叩かない限り。」

と言った。すると甲斐姫は

 「すると大阪城に入っても油断はできんという訳か。」

と言った。すると慶次は

 「そうですな、しかし大阪城は忍び返しの石垣がある難城。そう簡単には入れないはず。だが。」

と言った。すると甲斐姫は

 「それでも風魔は入ってくると申すか。」

と聞いた。すると慶次は

 「そのようですな。」

と言った。

甲斐姫は

 「それ程わらわを狙うのは、浜田将監だけの恨みでは無いように思えるが。」

と言った。すると慶次は

 「捨丸がそれを調べてまいりました。忍城の戦いの時水攻めでの堤防を決壊させて多くの豊臣の兵が死にま

したが、その中に風魔の者が多くいたようです。決壊は姫が命じていたのですか。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうじゃ、わらわが命じた。我等の農民が決壊させたのだが、それを止めようとした豊臣側の中に堤防を

築いた者がいたようじゃ。」

と言った。すると慶次は

 「その堤防を短い時間で作れたのは風魔の技術があったからです。それを一瞬の内に崩されたのですから恨

みは深いと思われます。」

と言った。

甲斐姫は

 「それは戦でのこと、そこまで恨まれる筋合いではないわ。」

と語気を強めて行った。すると慶次は

 「忍びの技術は門外不出、絶対のものです。それを崩されたのは風魔の誇りを崩されたも同じです。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうか、しかし戦を仕掛けた石田三成殿も今は味方。なんとか話し合いに持っていきたいが。」

と言った。すると慶次は

 「そうですな、今も関係の無い者までも危険な目に遭いました。これは豊臣側から風魔になにかしらの話し

合いが持たれるように持っていかなければ。」

と言った。すると甲斐姫は

 「よろしく頼む。」

と言った。


 注、この場合、当事者の甲斐姫が話し合いに出たのでは決裂する恐れが多くあり、第三者である豊臣家の重

臣が中を取り持つ形にするのが良策である。


 しばらくして捨丸が火縄銃を撃った風魔忍者を捕まえてきた。

慶次は

 「死ぬことは無い。これから豊臣と風魔で話し合いが持たれる。それを風魔十郎殿に伝えてくれ。場所と日

時は後ほど伝える。」

と言った。すると忍者はニヤッと笑い

 「そうか、分かった。」

と言い捨丸が縄を解くとあっという間に消えて行った。

六、大阪城

 豊臣側、石田三成と風魔側、風魔十郎の話し合いが行われたのは三日後、京の銀閣寺近くの旅籠で行われ

た。話し合いでは風魔側から今後一切甲斐姫には手を出さないという確約書が出され、豊臣側からは銀三百貫

が出された。そして伊藤又兵衛の依頼には今後一切応じないということも確認された。 

 京で危険な目にはあったが、その後は羽を伸ばし遊びまくった甲斐姫。ようやく大阪城に入ることになっ

た。

甲斐姫は

 「ようやく大阪城じゃのう。わらわはあの猿顔のジジイに弄繰り回されるのは嫌じゃが。」

と言った。すると京まで甲斐姫を迎えに来た茶々は

 「心配することはないぞ。側室とはいえ大殿様の気分次第でどうとでもなる。高齢であるからの、そう度々

あるものではない。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうなのですか、私は毎日そんな嫌な思いをするのかと思ったが。」

と言った。すると茶々は

 「ホホホホッ、そんなことはありません。側室の中にはまだ一度もお手つきをされない者もおられます。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうなのですか。心配ばかりして損をしました。」

と言った。

茶々は

 「そなたは良い娘じゃのう、大殿様がそなたに行かないようお味方してあげようぞ。」

と言った。 

-11-
Copyright ©taikobow All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える