小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

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 京から大阪の道中、輿の中で甲斐姫は笑顔を取り戻していた。小山で会った江姫、京で出迎えてくれた茶々

様。二人共とても良い人で大阪に対する考え方も変わっていたのだ。

 途中山崎の峠を越えて大阪に入る。ここは豊臣秀吉が明智光秀の軍を破ったところだ。今はその面影もない

ほど静寂な山道になっている。


 注、山崎の合戦、明智光秀の謀反で織田信長が討たれた。いわゆる本能寺の変であるが、その後知らせを聞

いた羽柴秀吉、後の豊臣秀吉は中国地方の雄、毛利家を攻めていた。その一ヶ月前備中高松城を水攻めにして

高松城の動きを探っていたのだが、思わぬ知らせに驚天動地した。すぐに高松城と和睦の交渉をし、姫路城に

帰ってそこから山崎まで不眠不休で進軍した。いわゆる中国大返しである。そして勢いをつけて明智軍を打ち

崩し勝利した。ちなみに明智光秀は雑兵の竹やりに腹を刺し貫かれて死んだ。


 大阪に入った甲斐姫はそのまま城に入るかと思われたが、輿を下ろしたのは城下の街中であった。

甲斐姫は

 「喉が渇いた。どこぞで茶が呑みたいのう。」

と言った。すると家永は

 「はっ、姫様。すぐそこの茶屋でお休みいたしますか。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうじゃな、では行こうぞ。」

と言った。

 甲斐姫は茶屋でくつろいでいると、そこに慶次が現れた。

甲斐姫は

 「前田殿、わらわの警護は終わったはずでは。」

と言った。すると慶次は

 「はい、しかし伊藤又兵衛がまだ生きておりますので。それに大阪城にも用があります。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうか、大阪城に用か。」

と言った。すると慶次は

 「越後から上杉景勝様が入城してござる。その家臣の直江兼継殿とは友人でござるゆえ。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうですか、上杉家ですか。わらわも会いたいのう。直江殿といえば兜に愛の一文字を付けたお方じゃ

の。」

と言った。すると慶次は

 「そのとおりです。秀吉様に内緒で合わせてあげましょうか。」

と言った。すると甲斐姫は

 「良いのか。それは楽しみじゃ。」

と言った。

 慶次も秀吉の嫉妬深いところは知っているので、なるべく表沙汰にならない程度で会わせる算段をする必要

があると踏んだのだろう。

 大阪城に入った甲斐姫はすぐに秀吉に接見した。

秀吉は

 「おー、おー。良く来た。相変わらず美しいのう。どうじゃ皆の者、わしの言う事にウソはないじゃろう。」

と言った。すると福島正則は

 「いやぁ、私は小山へは行っていなかっので話に聞くばかりでしたが、これ程の美形の姫とは。驚きまし

た。それに武芸にも秀でているとは。一度手合わせ願いたいですな。」

と言った。すると秀吉は

 「こりゃ、また悪い癖が出ておる。お前は加減を知らんから手合わせの相手をことごとく怪我させる。姫に

なにかあったらどうするつもりじゃ。」

と言った。すると正則は

 「はは、申し訳ございません。」

と言った。すると甲斐姫は

 「心配はご無用に願います。私は負けません。」

と言った。すると一同から

 「おおーーーー。」

という声が上がった。その中には慶次から聞かされた上杉景勝がいた。その景勝に正則は

 「あの姫は鬼姫と噂される程の腕じゃそうだ。一度やってみたいの。」

と言った。すると景勝は

 「場所柄をわきまえよ。ここをどこだと思うておる。」

と一喝した。

 福島正則は何かブツブツ言いながらも、すぐに一喝されたのを忘れて甲斐姫の顔を見つめていた。

接見が終わり、城内の廊下の隅で慶次が

 「甲斐姫様、こちらです。」

と言って中庭を通り過ぎ角の部屋に入った。そこには直江兼継がいた。

兼継は

 「甲斐姫様、直江兼継でございます。」

と言った。すると甲斐姫は

 「甲斐です。お噂は聞いておりますよ。愛の一文字を兜につけていらっしゃるとか。」

と言った。すると兼継は

 「はい、私も姫の噂は聞いております。鬼も逃げ出す剛勇さとか。」

と言った。すると甲斐姫は

 「それは言いすぎじゃ。わらわはそんなに恐い者ではありませんぞ。」

と言った。すると兼継は

 「これは失礼つかまつった。」

と言って慶次も含めて三人で大笑いした。

 奥に入り、甲斐姫の部屋に案内されると、そこは初姫、江姫が住んでいる部屋の隣であった。

早速、江姫が部屋に入ってきて

 「久しぶりじゃのう、小山で見たときより一段ときれいになって。」

と言った。すると甲斐姫も

 「江姫様、懐かしゅうございます。江姫様がいたから私はここまで来ました。これからもよろしくお願いし

ます。」

と言った。するとそっと覗いている初が

 「なんじゃ、鬼姫との噂はウソじゃったか。どんな凄い姫が現れるかと思うたが。私より美しいとは。」

と言った。すると江は

 「姉様、失礼ですよ。すみません姉の初です。」

と言った。すると初は

 「初です。よろしくね。」

と言った。すると甲斐姫も

 「甲斐です。これからよろしくお願いします。」

と言った。

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