小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

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 豊臣勢は大阪城を守ることに執着し、攻め込む徳川勢を押し返す事のみに集中した。その為、徳川勢は優勢

に戦をしているように見えたが、しかし冬であり持ってきた兵糧が先に尽きたのは徳川勢だった。豊臣側の事

前の兵糧買いが効を奏した結果だ。しかも大阪の米屋の米はすでに豊臣によって接収されており、これ以上陣

を敷いているのは不可能に思えたのだ。

徳川家康は

 「すぐに大阪城に使者を出して和睦の申し入れを伝えよ。」

と言った。すると秀忠は

 「はっ、そうします。」

と言ってすぐに伝令に伝えた。

 伝令は大阪城に走り、すぐに秀頼の下に書状が届いた。すると淀君がそれを秀頼の次に読み

 「これはどういうことだ。一方的に攻めている徳川から和睦とは。」

と言った。すると幸村が

 「おそらく兵糧が尽きたのだと思います。我々の兵糧買いの成果がでました。」

と言った。すると淀殿は

 「そうか、するとすぐに和睦するのは損か得か、どっちだと思うか。」

と聞いた。

 それを聞いて全員が和睦は受け付けないという意見でまとまった。元来、大阪が日の本の中心であるべきだ

という考えで徳川に対して反発していたのが、一方的な和睦の提案なら元の木阿弥になりかねない。

 その知らせを聞いた家康は

 「おのれ、豊臣め。目にものみせてやる。」

と言って昼にも関わらず大砲の砲手に

 「撃て、城郭を狙って良い。」

と言った。すると砲手は

 「城郭ですか、今までそんなことは無かったのに。」

と言った。すると家康は

 「ええい、何を躊躇しておる。早く撃て。」

と言った。

 ドドーンという音と共に放たれた砲弾は大阪城の城郭に向かって放物線を描いて飛んで行った。その頃、淀

君のお茶会が城郭の端の茶室で始まろうとしていた。

 一旦和睦の提案が出された以上。すぐには攻撃してこないだろうという目算があったのだが、淀君の待女達

が忙しく茶室を出入りしているときに、その砲弾が茶室に直撃した。

 ドカーンという音が辺り一面に轟いて、大阪城は騒然となった。今まで城郭は撃たなかった徳川勢が始めて

直撃弾を撃ったと言う事も衝撃だったが、それ以上に破壊された茶室にいた待女八人が犠牲になった。それは

悲惨な状態で淀君は

 「和睦じゃ、すぐに和睦せよ。もう嫌じゃ。」

と言って倒れこみうろたえた。それを見て甲斐姫は

 「淀殿、落ち着いてください。これは戦です。このようなことは当たり前にあるのです。」

と言った。すると淀君は

 「そなたは戦慣れしておるから、そういう事を言うのじゃ。わらわは二度の落城の時、その前に逃げておる

ので人が死ぬのは見慣れてはおらぬわ。」

と強い口調で言った。すると甲斐姫は

 「それでもここは落ちついてくだされ、すぐに和睦なされるのも良いでしょうが、うろたえた姿を見せるの

は良くありません。」

と言った。すると淀君は

 「分かりました。そうします。うううっ、皆わらわに尽くしてくれた者達なのに。」

と言って泣き崩れた。

 茶室は全壊していてすぐに手を付けることはできなかったが、和睦すれば修理はできるだろう。それより犠

牲になった待女の遺体を運び出さなければならない。それを甲斐姫が指導してようやく落ち着いたところで、

和睦の話し合いが持たれた。

甲斐姫はそれには出席せず一人家康に対しての怒りを溜め込んでいた。

 「おのれ、家康。いつかこの恨み晴らしてくれようぞ。」

と言っているのを幸村が聞いて

 「甲斐姫様、元に戻っておりますよ。もう戦場には出てはいけません。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そうか、そうじゃの。」

と言った。

 大阪城は徳川勢の兵で埋まり、和睦の条件である掘割を埋める作業の手順を豊臣主導で行っていた。それを

天守閣から見ている淀君は

 「これで大阪城は丸腰になってしまうであろう。これで良かったのか。」

と幸村に聞いた。すると

 「仕方ありませんな。和睦の条件に書かれているのですから。」

と言った。すると秀頼が

 「幸村、真田の戦法に篭城戦の仕方があるのであろう。それを皆に伝えてくれ。これで徳川が豊臣を諦めた

とはとても思えん。」

と言った。すると幸村は

 「はっ、御意に。」

と言って階下に降りていった。

秀頼は

 「母上、また徳川が攻めてくれば我が命尽きることもあります。その時は母上だけでもお逃げくだされ。」

と言った。すると淀君は

 「バカなことを、わらわが一人生きて何の意味があろうか。秀頼が死ぬときはわらわも死ぬときじゃ。」

と言った。すると秀頼は

 「娘の奈阿姫はどうします。道連れは避けたいのですが。」

と言った。すると淀君は

 「甲斐姫に預けていて大丈夫じゃ、それでも万一の場合は。」

と言いかけた時、正室の千姫が

 「その時は奈阿姫を我が養女とします。」

と言った。

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