小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

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 しかし豊臣軍の奮戦にも限りがあり。樫井の戦いの後は道明寺の戦いで真田幸村隊が孤立した味方を助け、

両軍睨みあいになったのだが、他の戦いで豊臣勢が破れた為退却せざるを得なくなった。徳川勢も疲弊してい

たため追撃はしなかったようだ。

 そして翌日、天王寺、岡山の戦いが始まる。

幸村は

 「これが大阪城を守る最後の戦いとなろう。全員死を覚悟して当たれ、自らを奮い立たせろ。」

と言った。すると幸村の部隊の兵達は

 「おおーーー。」

という雄叫びを上げた。

 この戦いで突撃に成功したのは毛利勝永や大野治房などの部隊だが、その間隙を突いて徳川家康の陣へ突っ

込んでくる隊があった。それが幸村が率いる真田の兵を中心とした部隊だった。

幸村は

 「皆の者、あと一息じゃ。突っ込めーーー。」

と言う。すると真田の兵達は

 「おおーーー、行くぞ。」

と言って付いてくる。


 注、真田幸村、真田昌幸の次男に生まれ上杉家や伊達家に人質に取られ、そこで武術を学び天下一の武将と

称えられる程の兵にまで育った。特に槍を得意とし突きの凄まじさは天下無双と言われた。直江兼継や前田

慶次ら歴戦の勇士にもひけを取らないその知略の閃きは徳川家康をもって腹を切ることを覚悟したと言わしめ

た。


 毛利勝永が引き寄せた徳川軍の兵の布陣が海が割れるように左右に開き、そこに一陣の風が吹いたかのよう

に一騎の騎馬武者が槍を抱えて突っ込んでくる。そしてその後に続く真田の兵達。それは鬼人のごとくであり

津波のように押し寄せる勢いであった。真田の赤い鎧兜を纏った幸村がふと見ると、隣には幸村と同じような

騎馬武者が一騎、浅葱色の鎧兜を纏った髪の長い女武者が槍を抱えて疾走している。

幸村は

 「甲斐姫様、お止めください。我等は死地に向かう者達、決して生きては帰れません。」

と言った。すると甲斐姫は

 「我も命は棄てておる。構ってくれるな。」

と言った。そして二人を先頭に徳川家康の陣を目指して突っ込む姿に、徳川の兵達は為す術を失っていた。

 とうとう家康の陣の前に幸村が到達し大声で

 「我は真田昌幸が一子、真田幸村である。徳川家康殿とお見受け申す。お覚悟。」

と言った。

 家康の傍にいた大久保彦左衛門は驚き

 「おのれ、真田の小倅が。大殿に向かって。それからその女武者はなんだ。名を名乗れ。」

と言った。すると甲斐姫は

 「我は成田氏長の娘である。甲斐姫見参。」

と言った。すると彦左衛門は

 「成田の鬼姫か。なる程たいしたものだ。だが周りは我等の手の者が囲んでおるぞ。」

と言った。すると幸村は

 「ええい、どけ。」

と言って槍を振り回し、家康の取巻きの兵の首を跳ねた。そして甲斐姫は家康に向かって突っ込む。

 「よくもここまで豊臣をやり込めたな。許せんぞ。」

と言った。すると家康は

 「あわわわわ、皆、我を守れ。」

と言った。すると一人の武将が割って入り太刀で甲斐姫の槍を跳ね返した。

甲斐姫は

 「おのれ、お主名前は。」

と言うとその武将は

 「藤堂高虎、ここからは一歩も踏み入れは許さん。大殿様ここは我に任せてお逃げくだされ。」

と言った。すると家康は本陣を棄ててどこかへ逃走した。その間藤堂の兵が幸村、甲斐姫を足止めしていたの

だ。そして続々と徳川の兵が集まってくる。

幸村は

 「甲斐姫、ここはお逃げくだされ。あなたには奈阿姫を守る仕事がありまする。」

と言った。すると甲斐姫は

 「幸村殿、死ぬつもりか。」

と言った。すると幸村は

 「仕方ありませんな。」

と言って甲斐姫の乗っている馬に槍の柄で一撃を与え、甲斐姫の馬は大阪城に向かって走っていった。

 その頃、家康は命からがら逃げて別の陣へと辿りついた。

家康は

 「おのれ、真田の小倅め。わしはもう少しで討ち取られる処じゃったわ。」

と言った。するとそこに秀忠が駆け寄り

 「大殿様、ご無事で。」

と言った。すると家康は

 「くっ、お主の言う通りになったわ。護衛の兵が少なすぎた。」

と言った。そこへ藤堂高虎が息を切らせて

 「大殿様、真田幸村は追撃を諦めて撤退しました。」

と言った。すると家康は

 「真田の小倅を許すな。追え。追って討ち取れ。」

と言った。

高虎は

 「ははっ。」

と言って戦場へと戻って行った。

 大阪城に戻った甲斐姫はすぐに天守閣にいる奈阿姫の下へ急いだ。この決定的な戦局の流れは豊臣の敗北

を示している。すぐに城から落ち延びなければ奈阿姫が危ない。

 天守閣に駆け上がった甲斐姫はそこに一人で居る奈阿姫を見つけた。

 「奈阿姫様、秀頼様や淀君は。」

と聞いた。すると奈阿姫は

 「蔵に隠れると言って階段を降りていきました。」

と言った。すると甲斐姫は

 「それでは奈阿姫様は私と一緒にこの城を離れましょう。」

と言って二人で階段を降りていった。

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