小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

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 奈阿姫を伴って甲斐姫は階段を降りていく、そして地下への坑道に行こうとすると、そこには女子長刀隊の

待女達が待っていた。

甲斐姫は

 「あなたたち、ここで何をしているの。」

と言った。すると待女の一人が

 「徳川の武将がここへ秀頼様を捜しに来たら、討ち取ろうと思いまして。」

と言った。すると甲斐姫は

 「ここはもう良いですから、奈阿姫を逃がす為に力を貸して下さい。」

と言った。すると

 「はい、では行きましょう。」

と言って一緒に坑道の中に入った。

 坑道の中は暗く蝋燭の灯りだけでは足元が心もとない。時々つまづいて倒れそうになるが皆、助け合って地

下の道を通っている。

 そして大阪城の周りにある森の中の出口に出た。辺りは真っ暗でもう夜になっているがその時、大阪城の三

階付近から火の手が上がった。それがみるみるうちに天守閣まで燃え広がるまで、時間はあまり掛からなかっ

た。

奈阿姫は

 「大阪城が、天守閣が燃えてる。あああーーー。」

と言って泣き崩れた。そこへ徳川側の武将となって豊臣を攻めていた真田家、真田信政が近づいて

 「奈阿姫様とお見受けしました。すぐに我等徳川の陣に来てくだされ。」

と言った。すると甲斐姫は

 「それはならん。奈阿姫様は豊臣家直系、なにをされるか分からんゆえ。」

と言った。すると信政は

 「従兄妹の幸村は徳川が討ち取りました。もう抵抗なされるな甲斐姫殿。」

と言った。すると傍にいた待女達が長刀を振るって抵抗する意思を示した。すると信政は

 「もう戦は終わり申した。これ以上は無益でござる。」

と言った。

甲斐姫は

 「皆の者、長刀を納めよ。仕方あるまい。徳川家康殿の陣へとお連れしてくだされ。」

と言った。すると信政は

 「ありがとうございます。甲斐姫殿。」

と言って信政は奈阿姫、甲斐姫。そして待女達を徳川の陣へと連れて行った。

 その頃、家康は上機嫌で扇子を開いて顔を扇いでいた。

家康は

 「幸村を討ち取ったのは天晴れじゃ。しかしわしに槍を向けたもう一人の女武者が気になる。あれは誰じ

ゃ。」

と彦左衛門に言った。すると

 「さぁ、誰でしょうか。私にはさっぱり。」

ととぼけたことを言った。実は成田家と大久保家は親密な関係を持っていて、その長女である甲斐姫のことも

良く知っている。甲斐姫が家康の逆鱗に触れたら只では済まない。それを考えてのことだったのだ。

 奈阿姫と甲斐姫は徳川家康の陣へと連れて行かれ家康本人から尋問を受けた

家康は

 「若い女子、そちは奈阿姫であるか。どうじや。」

と言った。すると奈阿姫は

 「はい、私は奈阿です。父は豊臣秀頼、母は楓です。」

と言った。すると家康は

 「そうか、秀頼の子か。それからそちは誰じゃ。」

と言って甲斐姫を指差し言った。すると甲斐姫は

 「私は成田氏長の娘で甲斐です。秀吉様の側室をしておりました。」

と答えた。すると家康は

 「先ほどわしに槍を向けておった女武者がいたが、そちではないのか。」

と聞いた。すると甲斐姫は

 「さー、存知おりません。」

と言った。実はここに連れてこられる前に真田信政から、家康急襲の疑いが掛けられたら否定せよと言われて

いたのだ。甲斐姫はそれに従った。

家康は

 「あのような勇壮な女武者は成田の鬼姫くらいしか考え及ばぬが、まぁ良いそちは無罪じゃ。そして奈阿姫

、そちは豊臣の血を引いておる。よって死罪じゃ、連れて行け。」

と言った。すると奈阿姫は

 「そんな、嫌じゃ、死ぬのは嫌じゃ。助けてたもれ、甲斐姫。」

と言った。すると甲斐姫は

 「家康様、それはあまりにも無慈悲にございます。奈阿姫はまだ子供でございますよ。」

と言った。

家康が

 「ええい、子供であろうと豊臣の血筋は許さん。」

と言ったところで大阪城は夜空を真っ赤にして炎上し、轟音と共に崩れて行った。

奈阿姫は

 「大阪城が、大阪城が燃え尽きてしまった。」

と言った。すると家康は

 「ふん、古い物は消えて当然じゃ。わしが豊臣の臣下であったことなどこの炎が消し去ってくれるわ。」

と言った。すると甲斐姫は

 「そんな、それではあまりにも。」

と言いかけたところで彦左衛門が

 「大殿様、もうそれくらいで。」

と言った。すると家康は

 「よいか、先に捕えた豊臣国松とこの奈阿姫の処刑は明日じゃ。分かったな。」

と言った。

 翌日、大阪城が燃え尽きて、その後上杉の直江兼継らの働きで城の中井戸の中から千姫が助け出された。そ

して千姫は徳川家康の前に連れ出された。

千姫は

 「お爺様はなんてひどいことをしたのですか。私を秀頼様の正室にしたのはこんなことの為だったのです

か。答えてください。」

と言った。千姫にしても初めてと言って良い家康に対しての反発だった。それを聞いていた家康は

 「千、そなたは豊臣に嫁に行って染まったようじゃの。しかし豊臣はもう無くなった。無くなったものには

もう嫁である必要は無い。」

と言った。すると千姫は

 「ひどい、ひどすぎます。それが徳川家康という武士の言う言葉ですか。」

と言った。すると家康は

 「ええい、頭を冷やせ。それから国松と奈阿は処刑する。それも承知してくれ。」

と言った。すると千姫は

 「ああああーーー、なんてことを。人で無し。止めてくだされ。国松も奈阿姫もまだ子供です。」

と言った。すると家康は

 「子供であろうと豊臣の血筋はここで絶つ、それが徳川の世にする為の布石じゃ。」

と言った。すると千姫は

 「ううううっ、それなら奈阿姫はわが養女とします。それでよろしいな。」

と言った。すると家康は

 「なんと、そんなことを。それ程豊臣に取り込まれておったのか。」

と言った。

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