4人はユノンが行きそうな所へ向かった。
自室、休憩広場、オペレーションセンター、開発エリア、etc……しかし、どこにも彼女の姿はなかった。
部下たちに聞いても証言が定かではなく、まさに五里霧中であった。
「ちぃ、ユノンの奴……どこに行ったんだ……」
ラクリーマは未だに見つからない彼女を探して艦内の至る所を走り回っていた。
休みなしで走っていたためか、顔じゅう汗だらけである。
しかし、それだけでないようである。
「はあっ……はあっ……っ!!」
息を切らし、わき腹と胸を押さえて立ち止まった。
……どうやら傷が悪化しているようである。
「……ぐくぅ……っ、はあ……はあ……っ。
……ワリィな、無理させちまって……だが、耐えてくれよ!!」
一呼吸おいて、また走り出そうとした時、
“リーダー……リーダーっ!!聞こえますか!?”
通信機からレクシーの声が聞こえた。
「レクシーか!?どうだ!?」
“聞いた話によるとユノンさんはどうやらプラントルームにいるようですぜ!!”
「プラントルームだと?わかった、今すぐそっちに向かう!!お前らもそこで合流だ」
――そして、多目的エリアのプラントルームで4人は再開した。
オペレーションセンターに連絡を取り、オペレーターがモニターで確認すると彼女らしき人物がベンチに座っているのが確認され、未だ出ていない模様だ。
「……あとは俺の出番だ。お前らには本当に感謝しねえとな」
「いやいや、これもリーダーのためですから。
それに……」
のび太、特にしずかは何かを期待しているように輝かしい目をしている。
「ラクリーマ……ユノンさんに上手く伝わるといいね」
「わたし、信じてるわ。二人の思いが伝わることを……ガンバってください……」
「お前ら……っ。ククッ、照れるじゃねえか。
なら行ってくる、三人はもう解散してくれ」
そう言い残し、彼はプラントルームのドアをまたいでいった。
……………………………………
ユノンはプラントルームの中心のベンチで一人、黄昏ていた。
“やはり、自分より死んだ女のほうがいいのだろうか……。
確かにあたしみたいにこんな根暗で心の病んでいる女より、はるかにいいかもしれない。
その女が生きていたら諦めるかもしれないけど、今はもういない。なら自分の気持ちはどうなるの……?
やっぱり、あの時なにも知らずに死んでいれば……っ”
これではしずかの言ったことが嘘だと感じ、彼女はため息をついた。
「ユノン、ここにいたか!」
「! ?」
ついに本人のラクリーマが駆けつけ、対面した。
「探したぜ。お前、まだ病み上がりのクセに無茶すんじゃねえよ!」
ユノンは顔を真っ赤にして、立ち上がると彼に背を向けた。
「おいおい、待てよ。こんな機会なかったから二人で話さねえか?」
「…………」
ラクリーマはユノンを無理やり座らせて、彼も隣に座った。
今の室内は夕焼けがかかり、オレンジ色の光が二人を包んでいた――。
「ここの花や植物すごくねえか?これは昔の恋人が咲かせたもんなんだぜ。
まあ、ここまでは俺が大事に育てたがな」
「…………」
しかし、彼女は手を握り震えている……。
「俺はな、死ぬまでこいつらを育てるつもりだ。
もし万が一、俺が早く死んだらお前がここを引き継――」
「――何よ。あんたはあたしにその死んだ女の話をしてどうしたいのよ!!」
「ユノン……っ!?」
「そんなにその女が好きなら早く死んであの世へ行けばいいじゃない!!
……けど、あたしにどう責任とるつもりよぉ!?」
彼女は大粒の涙を浮かべた。そして唖然としているラクリーマに対して、ついに――
「……ユノン……お前」
「けど……あんたはそのランって女が好きなんでしょ!!忘れられないんでしょ!!
あたしのこの気持ち……どこに向けたらいいの!?」
「…………っ!!」
あのラクリーマの表情が蒼白となっていた。
そう……ユノンも好きだがランのことがどうしても忘れられない。これが仇になった瞬間だった。
「おっ、俺はぁ……っ」
「無理しなくていいわよ。
どうせあたしみたいに……性格悪くて無愛想で……根暗で……リストカットするような女が人を愛する資格なんてないのよォォ!!」
「ユノン!!」
彼女から涙が溢れだし、立ち上がるとすぐさま走り出した。
彼も慌てて彼女に追い付き、腕を掴んだ。
「だから待てよ!!俺の話を聞けよ!!」
「離してよォ!!もうあんたと顔も合わせられないのよ!!
もう今すぐにでも自ら死んでやる!!」
ラクリーマは泣きじゃくり暴れる彼女の両肩を掴んで無理矢理焦点を合わせ、互いが見つめ合うような状態になった。
「なら俺も今ここで伝えてやんよぉ!
ユノン、俺はお前が好きだ!!
お前のその容姿、体格、声、性格、行動全てが愛しくてしょうがねえんだよぉ!!」
「…………」
彼女はその場て静かになった。ただ、「ハァ、ハァ」と息を小刻みに吐いている。
「キャア!」
「ユノン、俺の前では女らしくなってくれないか?」
彼女をまたお姫様抱っこをして、そのままベンチに座った。
……数十秒ほど経って、互いに顔も見ず、静かだった周りの空気が彼の声で途切れた。
「ああ、確かに俺はそのランって女が好きだった。
情けねぇことに未だに夢の中に出てきては俺から離れていくんだよ」
彼の目はいつになく淋しさを伴っていた。
「前任のボスもランが好きだったらしくてな、そいつの気持ちを考慮して、俺はあいつを死ぬ直前まで、十分愛してやれなかったからかもしんねえ……」
「……あんたって悪人だけどそこは人間くさいわよね……」
「だから頼みがある。
……さっきも言ったが俺はどうしてもランのことから離れられなくて本当に困っている。
だから……お前の力を貸してくれないか?
俺の中にユノン……お前という女しか見れねぇようにしてくれ」
「あたしは……そんなことできる自信がない。第一恋愛したことが……」
「そんなの関係ねえよ、好きになったモン同士がな。
俺はお前を幸せにできるように頑張る、毎日好きなだけ愛してやる!」
ラクリーマに優しい笑みを浮かべて近い彼女の顔を見つめた。
「もう一度言うぜユノン。お前が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」
「……ほんとにあたしなんかでいいの……?」
「当たりめえじゃねえか。俺にはお前みたいなしっかり者が必要なんだよ」
彼女も笑みを浮かべていた。それも今まで見たことのない優しい笑顔で。
それは美人である彼女をさらに引き立てることになった。
「……ふふっ、あんたってまるで甘えん坊の子供みたいね……」
「……ククッ、そうかもしんねぇな。だから頼むぜ、俺の……大好きなお姉ちゃんよぉ」
「……うん」
……そして室内は夜のように暗くなり、特殊なスポットで再現した月明かりの下で静かに濃厚な口づけを交わす二人の男女の姿があった。
やっと二人の思いは重なり、至福の時を迎えた。
“嬉しい……っ、嬉しい……っ”
彼女は絶対離さないくらいに彼を強く抱きしめていた。
もう孤独ではない。このアマリーリスの……いや、この愛する男がいる限りはもう寂しい思いはしない。
そして彼もまた、やっとユノンと一緒になれて死ぬほど嬉しかった。彼女はタバコを吸っているためか、口づけは苦さもあったがこれもまた味になっていい。
そう……二人は今ここで誓いあったのだ。
……一方、オペレーションセンターでは。
“やったあああっ!!”
その様子を見ていた大勢の組織員は一斉に歓喜と祝福を上げた。
中には涙するものもいた。ここまで綺麗にいくとは思いもしなかった。
その中で、のび太、しずかも二人の姿に嬉しさと喜びが溢れかえっていた。
「二人とも似合ってるね……よかった」
「ええっ。ラクリーマさんとユノンさん……ホントにきれい……」
「僕らもああいうふうになりたいね」
「ええっ……って!?
どういう意味よのび太さん!?」
「どっ、どういう意味ってしずかちゃん……」
――ラクリーマは口づけを止め、彼女にこう言った。
「どうする?もしかしたら奴らがこの中見てるかもしんねえぜ?
……続きは司令室でするか?」
その問いに彼女はクスッと笑った。
「……バカっ……」
――そして、モニターを眺める組織員達は何かを期待しているようにニヤついていた……。
「もしかしたらここで……うしししっ……」
「そりゃあたまんねえや!!」
「こうなったら全員で一部始終を観ようぜ!!」
“オオーーっ!!”
「やっ、やめろお前らーーっ!!
いくらなんでも二人に失礼だろ!!
それにここにのび太としずかがいるんだぞ!!」
大勢の息が合うなか、レクシーだけが顔を真っ赤に染めて慌てふためいていた。
「いいじゃねえか。それにのび太達にも勉強ということで!」
「だから二人にはまだ早すぎるっていってんだよ!!
俺は絶対許さねえぞ!!」
なんやかんやもめ事を言ってるうちに突然、プラントルームのモニタリングが切れ、映らなくなった。
オペレーターがパネル操作しても全く反応がない。
原因は……すぐに全員気づいた。
「あ〜あっ……。リーダーの仕業だ」
「よく見たらドアもロックされてるみたいだな……。
これじゃあ観れねえぜ……」
「ちぇっ……」
落胆の言葉とため息が辺りに飛び交う。
まあ、これで二人のプライベートは守られたわけで一件落着である。
当然、のび太達は一体中でどんなことが行われているのか想像できなかった。
……………………………………
次の日、エクセレクターの修理を終えて発進した。
ラクリーマによると、あと1日で地球のある銀河系の手前の宙域に行けるという。
のび太達二人にとってはとても待ち遠しいことだ。
しずかとのび太は通路を歩いていると前方から女性の姿がこちらに近づいてくる。
「ユノンさんだ」
「あっ!」
;「…………」
彼女はいつも通りの仕事に戻り、いつもと同じく飄々と歩いている。
「「お疲れ……さまです」」
「…………」
何も言わず、軽くお辞儀しただけで互いの横を通る。
そこから数歩歩いた後、
「しずか?」
「はっ……はい!?」
「……ありがとう。心の底から礼を言うわ。また……あたしの話相手になってくれないかしら……?」
なんと彼女から感謝と誘いの言葉を言われて、二人はすぐに振り向いた。そしてしずかは嬉しさのあまり、顔をにんまりさせた
「ユノンさん……はい喜んで!!」
「フフ……っ、楽しみにしてるわ」
彼女も笑い、歩き出した。
今度はしずかが彼女に、
「それからユノンさん?」
「……?」
「ラクリーマさんとお幸せにぃ!!」
満面な笑みで彼女に祝福の言葉を浴びせた。
「…………」
ユノンは二人の方へ振り向き、なんととびっきりの満面の笑みを返した。
美しく、可憐な印象を伺わせるほどで、それは彼女が心を開き始めたことを顕す出来事であった。
それを見た二人はどれほど嬉しい事だろうか。言葉にできないほどであろう。
……長かったのび太達の旅もようやく終わりを迎えようとしていた。
しかし、向こうには宇宙屈指の強大組織『銀河連邦』が待ち構えていることを、二人は知るよしもなかった。