「う……くく……」
サイサリスは目覚めた。腹が痛い……殴られたような不快感が残っている。
「つ……何があった…………」
ゆっくり起きてまだ寝ぼけている頭をゆっくり馴らすように辺りを見回す。
何か小型挺の内部のようだが……。
「なんで……あたしがこんな中に……」
外を見ようとモニターを見ると、
「ワープホール……空間……だと!?」
おかしい、なぜ自分がこの中にいるんだ?
彼女は記憶にある全ての映像を脳内で再生した。
連邦隊員に捕縛され自害しようとした時、ラクリーマに助けられて、謝られて……そこから全くなかった。
が……彼女は段々と何がどうなったか考察していくと……。
「あ……ああっ!!あのバカぁァァっ!!?」
ラクリーマの思惑に全て感づいた彼女はすぐに手前のコンピュータパネルをカタカタ叩きまくる。
何とかしてエクセレクターへ戻ろうとするも、
“キー入力、受け付けません、なおこの行き先は……”
彼女は必死に打ち込んでもコンピュータに拒否された――。
「嘘だろ……なんでだよ……」
彼女は諦めずに叩き込むも、全く先ほどと同じ反応であった。
キーを乱暴に拳を叩きつけるもそんな行為は全くの無意味であった。
彼女はその場でへたり込む、ブルブル震え始め――。
彼女の嘆きは誰にも届くことはなかった……。
………………………………
「リーダー……」
完全に逃げ場などなかった。彼らにはもう完全にもう包囲されていて集まってきた連邦兵に銃を突きつけられている。
「……」
ラクリーマは辺りを見回すが……自分一人だけなら逃亡は容易い。が、仲間を放っていくことは彼の性格上、考えられないことだった。
そしてついにラクリーマが決断を下す――。
「……わあったよ。今度こそホントにお手上げだ」
ラクリーマは似合わぬ穏やかな笑みで両手を上げた。それは降参を意味していた。
「リーダー……」
……隊員がラクリーマの身体を徹底的に調べ上げ、手錠の様なものを両手にかけられる。
「おい、あんた。こん中で1番偉いのあんただろ?」
「ああっ」
「……俺から頼みがある……聞いてくれないか?」
「頼みだと?」
突然、カーマインに何かを要望を述べる彼にここにいる全員が注目した。
敵である彼に頼みといえ、しばらく沈黙するがその真剣な瞳へ変えると共に口を開く。
「……俺の仲間達を許してやってくんねか?」
銀河連邦、アマリーリス員全員が驚愕する。
突然、何を言い出すのかと……。
「今までの悪行は全て俺が命令した。あいつらは俺の命令に従ってやってただけだ!!だから全責任は俺にある。
……とはいえこいつらも手を出しちまったワケだし無実にしろだなんて都合のよすぎることは言わねえ……だが、せめてものこいつらの罪を軽くしてやってくれないか?」
「…………」
「その代わり、俺がこいつらの罪全てを背負う。拷問やら何やらしたければいくらでも受けてやる。だから――」
彼がそう言っていることは軽い気持ちとは思えなかった。
その表情からは本気でそう思っていると思える。
「リーダー、何ふざけたこといってんですか!?」
「俺らはこいつらに助けられることを微塵も思っちゃないですぜ!!」
「うるせぇ!!少し黙ってろ!!」
訴える彼らを一喝で黙らせ、話を続ける。
「コイツらは今こそはどうしようもない悪人でバカな奴らだが、まだ俺よりかはまだ改心できる希望がある。
だからどうにかコイツらを更生させてやってくれ……頼む!」
何ということだろう……。
その彼からは信じられないような嘆願についに部下達は唖然とした。
「リーダー……あんた何言いさらすんですかい……!?」
「俺らは悪さが好きでアマリーリスに入ったんだ!!今さら更生なんて絶対に嫌だ!!」
必死の訴えがこの中に響き渡る。
「リーダー、俺らがここに加入する時にこう言いましたよね!?
「俺らはもう悪さすることでしか生きられん、なら死ぬまで俺らのやりたいことして楽しもうじゃねえか」って!!
俺達はそれを理解、承知の上で入ったんだ!!それをあんたはなに今さら撤回しようとしてんだよ!!」
黙っていた彼が彼らに口を開き、こう問う。
「ならお前らに聞くが、お前ら侵略の際、女子供、老人を殺そうとした時、少しは情をかけたことあったろ?」
「……」
「数日前、俺対お前らの実戦訓練にしても、ユノンを処刑する時のお前らの反応にしても、今までの全ての行動を見てるとな、自意識なくても心の底でそういうとこがあるってのが俺には丸分かりなんだよ。だがな、お前らはまだ改心の余地があるって証拠だよ」
「リーダー……しかし」
「それに言っておくがな、俺は何もてめえらを助けたいためだけにこう言ってるわけじゃねえ。なんか……切なくてな……」
「切ないですって……」
するとラクリーマはここにいる全員を見渡すように眼を動かした。
「俺は連邦、アマリーリス、そしてその地球人達含めてここにいる全員に感謝している。今回の戦闘は今までで一番楽しく暴れられたことにな。
戦っている最中、これ以上の幸せってあるもんかと思ったほどだぜ。
けどもし終わってしまえばもうこんな戦闘はできねえと考えるとなんかなってな……。
だってそうだろ?もし勝ったりでもしたらもう二度とこんなことなんか巡ってこねえよ。また再戦となりゃあ……それこそ組織を壊滅しかねんからな」
彼以外のほぼ全員がラクリーマという男の本質を知る。
この男……まさに『生まれからして戦闘狂』であると。
アマリーリス員から見ても彼だけは自分達とは違う別次元な存在であったのだ――。
「……まあ、そんなとこだ。こんなこと考えてるなんて元から俺にはリーダーなんて向いてなかったのかもな。その証拠にアマリーリスという俺の組織をここで終わらせることになっちまった」
カーマインの方へ身体を向けるとすぐさま正座した。
「だから頼む……偽善だのなんだの蔑んでもいい、虫が良すぎるのは俺でもわかる。
それでもあいつらをどうか救ってやってくれ!!俺からの心からのお願いだ!!」
目にする者全員が狼狽する。彼は頭を地面に付けて嘆願する。
それはまさに地球でも見る『土下座』であった。
レクシー含め、部下達はその姿に呆然だった。
なぜそこまでして自分達の事を……。
彼の行動が理解できなかった。
「ラクリーマさん、やめてください!!そんなみっともないことを!!」
「そうですよ!!プライドってもんがないんですか!!?」
しかし、
「俺は今まで、やりたいようにやってきたからプライドなんぞ初めから持ってねえよ」
「……」
「こんな俺に幻滅したか?それでいいさ、むしろそうしてくれた方がお前らも諦めがつくぜ」
彼の堅い決意はもはや曲げることは出来なかった。そんな時、
「くっくっく……確かに都合が良すぎるんじゃねえか?」
突然、彼の前にある隊員が現れた。それはどこかで見たことのある卑屈な笑み、そして狐の顔。
――サルビエスである。
「お前らみたいに悪さばっかして何の役にも立たねぇクズ共が、『はい、わかりました』と納得できると思ってんのか、なあ?」
サルビエスの汚く濁った瞳で彼を見下す。
「貴様ら悪人はこの世からいなくなればいい。
俺ら銀河連邦が唯一無二、最強の『正義』なんだよ、わかったか?」
「……ぐっ!」
ラクリーマの下げている頭を足蹴にしてグリグリと踏みにじるこの男、サルビエス。しかし、カーマインは黙っているはずもなく、
「馬鹿者っっ!!貴様、それでも連邦隊員か!!?」
「カーマイン提督、こいつらに何の情けもいらないですよ。今まで散々非道なことしてきたんですから寧ろ、これでも軽いほうじゃないんですかァ?ええ?」
今の状況から見たらあまりにも空気を読めておらず、行きすぎな横暴。
最早正気の沙汰とは思えない。
連邦側は彼の行動にドン引きし、アマリーリス員は無論……。
「テメェ!!リーダーになんてことを!!」
「このやろぉ!!ぶっ殺すぞゴラァァっっ!!」
案の定、ぶちギレて今すぐにでも襲いかかろうとするが、
「リーダー!!」
「……ここでお前らが暴れてみろ。それこそお前らの罪が重くなる。
俺の嘆願で助かると思うならここは抑えやがれ……分かったか……」
彼らの動きは止まった。しかし、サルビエスはその様子をほくそ笑み――、
「くくくっ、ならこれならどうだァァァァ!!」
――彼らを挑発するように蹴る、蹴る、蹴りまくる。
本人は彼の暴行に憤怒せずひたすら耐えている。両勢ともあまりの横暴に見るに堪えなくなった――。
「やめてください大尉!!」
一人の大柄の隊員が渋い顔で彼を止めに入る。
それは何を隠そう、部下であるコモドスであった。
「コモドス……キサマ……」
「大尉……自分はもう見苦しくて堪えられません。お願いです、もうここでとめてください!」
直属の部下の願いにも関わらず、サルビエスは彼を睨み付けた。
「ほう……貴様、誰にその偉そうな口を聞いてんのか分かってんのか……?」
「し、しかし、これ以上はアナタの信用にも関わります!!ですから――!!」
甲高く、怒りを込めた叱咤が周囲に拡がり、より緊迫とした空気に……。
「俺は一体誰だ?答えてみろコモドス?ええ?」
「……」
「……お前の言う通りここで止めてもいい。だがな、俺の機嫌を損ねたお前の一族がどうなるか……覚悟しとけよ!!」
「……!!」
脅しをかけるサルビエスと恐れているのかビクビクしているコモドス。
彼らの間に一体何の関係が……。
「な……なんだよ……?一族がどうなるとかどういうことだよコモドス、それに大尉!?」
近くの数人の隊員が二人に注目し、瞳を震わせている。
彼らはコモドスの同僚と後輩であった。
「けっ、お前らなどに関係ない話だ」
「……コモドス、俺はなんかおかしいと思ってた。
いつもお前は大尉にばかり付き添うし、パシリやら何やらばかりされて……何か恐れているのかオロオロしてばかりで……これじゃあまるで『奴隷』みたいじゃないか……」
「……」
本人の口から何も出なかったがあのサルビエスが彼に代弁するように平然とした表情で口を開いた。
「奴隷?何を言っている?俺がそんなことしないだろ?なあコモドス?」
彼は否定するもそれだけでは彼らは納得するはずなどない。
「コモドス!!なぜ何も話してくれないんだ!?」
「そうですよ中尉!!大したことないんならそんな表情しないハズでしょ!?」
問い詰められるコモドスは心を揺さぶられ動揺している。
しかし、便乗してミルフィまでもが前に飛び出す。
「お願いコモドス、教えて!!あたし達はあなたが心配なのヨ、ここで言わなかったらこれからもっと苦しむことになるかもしれないんだヨ!?」
――次第にサルビエスも苛立ちが募り、歯ぎしりを立てて彼らを威嚇する。
「キサマら……いい加減にしないと……」
その時であった――。
「大尉……もういやです……」
「コモドス!?」
コモドスの震えた声が彼を引き留めた。
――泣いていたのである。
「自分は……自分は普通に生きたいんです……いつもビクビクしながら……自分の家族を人質みたいに取られ、いつ惨い目に遭わされるかもしれない恐怖ばかりの地獄みたいな毎日を過ごすのはもう……嫌なんです……」
「キサマァ!!」
ついに自分の本音を打ち明けはじめた。良いも悪くも連邦勢の空気が一変する。
「コモドス、今こそ教えてくれ!!大尉とお前の関係を!!」
「……実は……――」
――サルビエスの種族『フォクシス』は中世の階級制度、貴族制をとっており、サルビエスの家系もまた上流貴族であった。
フォクシスの貴族は代々、自分達より劣る下等種族を各惑星から無理矢理連行して奴隷、召し使いにするのが主流であり、彼の一族が連れてきた種族と言うのが皮肉にも、『コンガース』でありコモドス達一族だったのである。
過酷な労働、家畜同然の扱いを受けた彼らはついに耐えきれなくなり、脱走を企てるも敢えなく失敗。
全員が処刑されかけたが現当主であり銀河連邦に入隊していたサルビエスの耳に入り、彼の提案により、コモドスが自分の永久従者になれば免罪するということであった。
……その事実を知った彼らは絶句する。
「知られちゃしょうがねえな。だがな、それは俺ら気高き種族『フォクシス』の決まりなんだよ!!
俺らより劣るゲス以下の奴らは俺らに使ってもらえるだけ有り難く思え!!
さあコモドス、今すぐこの男のようにひざまずき許しを乞え!!そうすれば先ほどの反抗を許すのを考えてやる!!ギャハハハハハッ!!」
彼の高笑いする声が辺りに響き渡る。しかし、周りにいた隊員達、特にコモドスの友人や部下達は徐々に怒りを顕しにし、
“おおーーっ!!!”
大集団がサルビエスへ雪崩れ込む。
「なっ、なんだ貴様らァーーっ!!!?」
数の暴力、強引に彼を押し飛ばし、倒れこんだ隙に囲む。
「な……なんなんだ!!こんなことしてただで済むとでも思うのかっ!!?」
「黙れ!!大尉……いや大尉なんぞ呼べるか!!
あんたは……銀河連邦隊員の風上にも置けない野郎じゃないか!!」
指の関節をパキパキならしながら、彼を睨み付ける。
「この……屑どもが!!」
サルビエスは手持ちの拳銃を震えながら彼らに向け始めた。
「いい加減にしろよ。黙って見てりゃあイイ気になりやがって……コモドス!!今すぐ俺を助けろ!!そうすれば今までのはなかったことにしてやる!!だから!!」
どこまで意地汚いのか、彼に助けを求めるが本人は――。
「……」
「コモドス、お前は昔から身体に似合わず気が小さくてお人好しすぎるのはわかってんだ。
脱走の時も恐れて一人だけ残り、俺に服従する時も嫌がらずにすんなりと承諾したお前は俺を助けないワケないよな……早くこいつらから助けろ!!」
、コモドスを従者にした理由も彼の性格を知った上であった。
彼は家族愛が強いゆえ、家族を人質にすれば絶対に反抗できないようにすることができるからである。
事実、銀河連邦に入隊したのも、先ほどの宇宙戦闘の際、過剰な程の攻撃、そしてあの『命令』を実行したのも彼の弱みにつけこんだからである。
コモドスは口を開かず無表情だ。手をぐっと握りしめ……戸惑っているのであろうか?
「コモドス、これ以上あんな人の言うことを聞いちゃダメだヨ!!」
ミルフィも必死に叫ぶ。彼女も彼にこれ以上、同じ仲間として、そして仲のいい同期生として苦しんでほしくないのである。
だが、サルビエスの方へ歩いていく。辿り着くとその怪力で囲む隊員達を強引に押し避けた。
「コモドス……いい奴だなお前は……」
「……」
コモドスは手を差しのべ、彼の手を握り掴んだ。
「!?」
コモドスはその強力な握力でサルビエスの手を潰しにかかる。メキメキと鈍い音が聞こえるのは分かった。
「ぎゃああああっ!!やめろ、やめろ!!!」
誰が見ても痛いと思わせるような表情で悲鳴をあげるも全く力を抜こうとしなかった。その時のコモドスの顔は誰も見せたことのないほど怖かった。
「大尉、確かに自分はバカがつくほどお人好しです。しかしこれ以上はもはや黙っておれません……。
もし、また家族をだしにして脅してくるのなら、その時は……」
言われる本人は完全に萎縮してしまっている。
コモドスは手を離し、サルビエスを見つめる。
「……もうサルビエス『大尉』を追い詰めるのはやめましょう。これ以上は何の意味もありません」
これでも制裁を与えないのは彼の情けでもあった。
しかしサルビエスからすれば今まで味わったことのないような屈辱であった。
「なっ……なんでだよ……っ。奴隷なんて親父達や『フォクシス』の貴族全員そうやってるのに……なんで俺だけこうやって責められなけりゃいけないんだよ……っ!くそっ、くそっ!!」
「……」