――連行されるラクリーマ、泣き続けるユノン、その二人の姿にレクシーはもはや平常ではなかった――。
今の現実に耐えられなかった彼がついにとった行動とは。
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「おい、今すぐリーダーを離せ……さもないとこいつの命はねえぞォ!!」
「まっ、ママァァァァっ!!」
何ということだろう。レクシーはスネ夫を人質として捕まえて彼の頭に拳銃を頭に突きつけている。
「「「スネ夫!!?」」」
“レクシー(さん)!!?”
両勢が彼に注目した。無論、ラクリーマ達もである。
今の彼は追い詰められたようであった。
「レクシー、今すぐやめろ!!」
さすがのラクリーマも彼の予想外の行動に仰天、すぐに止めようとするも全く収まる気配がない。
「リーダー、俺にはあんたの考えが全然理解できないんです。何で俺らバカどものためにそこまで身を挺するんですかい……?」
「俺は……お前らのことを思って……」
「うるせぇ!そんなのリーダーの思い勝手だ。少なくとも俺はあんたの為に死ねればそれでよかったんだ!!」
「俺のためだと……?」
「リーダーは……リーダーは……俺達のことを『人間のクズ』だの『カス』としか扱ってくれなかったこんな世の中で一人の人間として、一人の男として見てくれた、たった一人の人間だ!!」
彼は震えながらこう語る。
「……確かに俺は散々悪さをしてきたさ。
そのせいで同種族からも見放されて『生きる価値などない』と堕ちるとこまできたのはしょうがねえ。
だけどこの人は違った。この人は確かに俺ら以上の悪人だが、それ以上に人間臭くて仲間に対してはすごく情に厚くて……果てには今みたいに俺らを助けるために土下座までして……こんなお人好しな人は今まで見たことないぜ!!」
「……」
「お前らだって俺みたいな扱いされてた時にリーダーと出会って、その魅力に惹かれてアマリーリスに加入したんじゃねえのか!?
掃き溜めみてえな人生をここまで楽しくこれたのもアマリーリスの……この人のおかげじゃなかったのか!?」
アマリーリス員は沈黙しているがその複雑な表情を見る限り、間違ってないようである。
「リーダー、ユノンさんを連れて逃げて下さい。この人を幸せに出来るのはあんたしかいねえんだ。リーダーばっか苦労する必要なんかねえ、一度はリーダーのために俺らにも苦労させてくださいよ」
彼の懸命な思いにラクリーマは……。
「ありがとよレクシー、お前がそこまで思ってくれてたなんてよぉ。
俺はお前と一緒に仕事できて本当に最高だった。
だがな、もう終わりなんだ。さっきも言ったが俺はお前らが生きてくれればそれでいい。レクシー、お前みたいに真面目で気さくな奴はシャバに出てもきっと上手くやってけるぜ、だから俺を忘れて生きてくれ」
「リーダー、だから俺は……」
「うるせぇ!!何べんも同じこと言わせんなっつっただろ!!
もうお前と俺は今から知らねえ赤の他人だ!!わかったな!!」
彼のその断固として曲げない意思がレクシーを絶望させた。
「……なんでだよ、なんで分かってくんねえんだよ……。
俺ら悪党にはここしか居場所がねえのに……どこに行けっていうんだよ……。俺はそんなの嫌だ――」
“レクシー!!!!はやまるなァァァァ!!!”
ついに狂い、引き金に手をかけて引こうとしかけたその時!!
とある隊員の銃から一発の甲高い銃声が鳴り響き、同時にレクシーはスネ夫を抱えたまま後ろへ力なく倒れた……。
「れっ……レクシー……?」
全員がその場で静止し静寂した数秒後に。
“レクシィィィっっっ!!!”
青ざめたアマリーリス員としずかとのび太が大急ぎで駆けつけた。
「うわああっ!!」
スネ夫は慌てて彼の腕をどかし、とっさにそこから逃げ出した。
「レクシー……嘘だろ……っっ」
彼はもはや動くことはなかった。頭のど真ん中を一撃で撃ち抜かれて脳髄が飛び散り、瞳孔が開き、身体の筋肉はピクリとも動いていない。
彼は即死であった。
のび太としずかも彼の成れの果てに、取り乱していた。
「ああ……ああっ!!」
「レクシー……さあん……いや……いやあああ!!」
彼らより一番錯乱している人間がいた。――最愛の恋人ジュネである。
彼女はレクシーの元へ駆けつけて我を忘れて彼の動かない身体を何度も、何度も揺さぶる。大粒の涙を流しながら……。
「レクシー……嘘だよね……起きてよ……ねえっ!!ねえってば!!!
ふざけんじゃねえよォォォ!! あたいをおいて先に死ぬなんてェェ!!うわあああああ―――っっ!!!」
……最悪の事態と化した瞬間である。ラクリーマとユノンの二人は口を開けたままその場で茫然自失していた。
そしてカーマインも発砲した隊員の元へ駆けつけ、怒涛の如く胸ぐらを掴んだ。
あの彼が完全にキレている。
発砲した本人は顔面蒼白で大量の冷や汗を流していた。
「う……撃たなければ……あの子が……ああ」
――この直後、彼の犯した行動がこの場が地獄へと変わる起爆剤となった。
「ふざけんじゃねえぞ……おい……っ!!!」
アマリーリス員はその怒り全てを連邦隊員全員に向け、ジュネも顔を鬼のようにして立ち上がった。
“うおォォォォっっ!!!”
――アマリーリス員による暴動が勃発した。殴り合い、手持ちの銃で撃ち合い、刃物が持つものはそれで切り刻み、この場は血で血を洗う修羅場と化したのであった。
ドラえもん、ジャイアン、スネ夫はその光景を避難した場所からガタガタ震えながら見ているだけしか出来なかった。
のび太としずかはそれぞれラクリーマ、ユノンの近くにいた。
「何なんだよこれは……どうしてこうなったんだ……っ!?」
あのラクリーマが絶望しきった表情を浮かべている。
一方、ユノンもその光景に怖がっているようにその場で震えながら身を丸くしていた。
「ひいいいいっっ!!」
「ユノンさん!!?」
「し、しずか……こ、こわい、こわいよぉ……」
まるで子供みたいによりすがる彼女にしずかは強く抱き締めて寄り添った。
しかし彼女もその凄惨な状況に耐えられそうにもなかった。
「なんで……なんでなの……」
ミルフィは逃げ損ねて周りであたふたしていた。
「大丈夫かミルフィ!!」
「ああ、助けてぇ!!!」
コモドスが彼女を見つけ、抱き抱えるとそのまま安全地帯へ。二人もこの状況になすすべなくただ瞳を震わせているだけであった。
そしてカーマインはいまだ放心状態のエミリアを連れ添い、枯れるほどを大声を張り上げた。
しかし最早暴走とそれを食い止めようと決死する両勢を止めることなど不可能であった。
「ニャアアアアアアっ!!」
ジュネは持ち前の鋭い爪で隊員を切り裂こうとするも、複数の銃を向けられて、
「えっ……?」
彼女の身体に一発の穴が、さらに二発、三発と前後に穴ができ、その場で倒れた。
「がはあ……」
残る力を振り絞り、レクシーの遺体へ身体を這いずり行った……。
「……レク……シー……、あたいとまた……幸せに……いようね……………」
彼女は彼の手をグッと握る否や、その場でもう二度と動かなくなった――。
「ジュネェェっっ!!!
お前らもうやめろ!!!やめろっていってんのがわからんのかァァ!!!」
狂乱の宴と化したこのオペレーションセンター内では彼の声もすぐにかき消された。
「あぐぅ……」
「おい大丈夫か!?しっかりしろ!!」
ラクリーマはすぐ側の血まみれで倒れて最早虫の息であった一人の戦闘員に駆けつけた。
「ラクリーマさん……ユノンさんを連れて逃げてください……これは俺ら全員の願いです……」
「しゃ、喋るな、身体にさわるぞ!!」
「くく……ラクリーマさん……らしいや……けど……レクシーの言った通り…こんなゴミみたいな人生を楽しく暮らせてこれたのも……リーダーの……おか――」
最後まで言うことなく彼は事切れてしまった。
ラクリーマさえも今の周りの状況をただ見てるしか出来なかった。
(やめろ……やめてくれ……俺はこんなのは……お前らが死ぬなんぞ……望んじゃいねえっっ!!!)
――仕掛けたのはアマリーリス側であるがシールドなど武装している連邦隊員と違い、殆ど丸腰で明らかに戦力不足であり、次々とアマリーリス員が倒されていく。
ラクリーマはのび太と目が合い息を飲んだ。
「ラクリーマ……?」
彼は掛けられていた手錠をその怪力で無理矢理引きちぎり、のび太をすぐに取っ捕まえて小型レーザー砲を突出させた。
何ということだろう。彼はレーザーを連邦と自分の仲間に発砲。
撃たれた本人達は撃ち抜かれてその場でドサッと倒れた。
「ラク……リーマ……なんで……」
その場で全員の動きが止まった。
その視線は今度はのび太を人質に取ってるラクリーマへと向けられた。
「「「「のび太(さん)(君)!!!」」」」
“リーダー!!”
右手でのび太を抱え、左義手でレーザー砲と鉤爪を出してそれをのび太の頬にチロチロかざした。