小説『大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦!!【R-15】【完結】』
作者:はならむ()

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ラクリーマは艦内をさ迷っていた。どこに行きたいのかもわからず……ただ、分かってることが、彼の顔から感じるのは『絶望と不信』であった……。

(おい、一体何があった!?なんでこんなことになった!?
俺があいつらの罪を全て背負って死刑になればそれで済むはずだったのに……なぜ、仲間やレクシーだけでなくユノンまで死ななくちゃいけねえんだ!!なんで俺が生き残らねえといけねんだ!?おかしい、おかしいだろ!!

特にユノンはこれから幸せになるべきなのに……なんであいつがあんな死に方しねえといけねんだ!!?)


ラクリーマは左手で頭を押さえて抱え込み、自分に向かって残酷なまでにこう問う。

(お れ は い っ た い な に を や ら か し た ん だ ! ! ?)

ラクリーマの完全に自暴自棄と混乱に犯されていた。
それもそのはずである。
『仲間のためならいつも自分が犠牲になればいい』、その信念が生んだ悲劇。
ラクリーマの思念、レクシー、ユノン含む、仲間達の思念がすれ違った結果が先ほどの暴動であった。
そう、死んでいったレクシー達も、愛する彼女ユノンの非情な死も、彼の過剰なまでの仲間に対する自己犠牲精神によってもたらせた、自分が持つその信念によって、裏切られた結果であった……。


“ズドォォ………っ”


この艦内が激しく揺れている。それは先ほどの無差別攻撃でオペレーションセンター、所謂中枢が破壊されたことにより、制御が利かなくなったことを意味していた。
最悪の場合、この艦は崩壊、爆発するかも知れない。


……先ほど撃たれて引きずる足を止めて壁に寄りそり左手で頭をぐっと押さえうなだれた。

(どっ……どうすればいいんだよォ……もう何が何だかわかんねえよォ…………)

あのラクリーマとは考えられないくらいに絶望にうちひしがれ、怯えていた。
その時の彼を例えるなら、まさに見知らぬ地で親とはぐれてしまった子供のようである。


どうあがいてももう変えられない。全ては自分が招いたことだと――。

しかし、その瞬間……。



(うう……うげえ……あがぁ―――っ!!うわあああっっ!!)


突然、彼は倒れて痛々しいほどの悲鳴を上げながらのたうちまわる。

(麻酔が……切れやがったぁぁ……っ)

あの『BE-58』の効果が切れて、副作用が発現したのであった――。
全ての代償がこのタイミングで……。


「ががァァ……あぐああああっ!!」

もはや痛みではない。全身に刃物が貫かれたような、全身を炎で焼かれるような苦しみ……いやもはやそんな言葉では違う形容のできないものである。
今、死ねたら本当に楽であろうほどに。

――彼は今ここで、本当の『生き地獄』を味わっていたのであった。

(……なぜだ……痛みなんぞ……ガキん時から嫌になるほど経験してんのにぃ……)

しかし痛みは治まるどころか更に激しさを増し、ついには。

「ごぷァァっ!!」

口からの大量の血が洪水のように吐き出される。
血だまりに顔を埋めている今の彼は本当に哀れだ。

(……別に死ぬのは怖くねえ……このまま死ねたらどれだけ楽になれるか……。だが……なんでこんなに悲しい気持ちになんだよォ……なんでこんなに気分がワリいんだよォ……)


彼は気づいていなかった。
肉体の痛みだけなら彼はまだ耐えると思える。しかし、今の彼はそれに加えて心、精神的にも多大な痛みを被っていたのだから。
しかし、彼最大の悲劇は今の身体状態にも関わらず、即死できなかったことであった。

(……誰か教えてくれ……俺のやり方は間違ってたのか………………)


彼は哀しいほどに自分で自分に問い詰めた。

今の彼の頭中は今までの追憶が全て流れていた――。


……壮絶な人生であった。
荒廃した大地、環境。治安など一切ない無法世界。食べ物はなく、水は汚染されて、同じ種族同士が殺し合って屍肉を貪る日々。
生き残るために、次々と自分の種族を共食い続ける、いつ自分が殺されるか分からない、気が休まらない日々。
そしてある時、空から見たことのない巨大な物が降りて、その中から出てきたのは白衣に身を包んだ謎の男と数人の男達。その男らに突然、誘われて――。
彼は今、走馬灯のように流れていた――。


「くくぅ……ぐぬぅ……」

全身に苦痛の走る体を堪えて再び立ち上がり、壁に伝いながら歩き出す。しかし彼の顔をもはやあの精気が感じられず、もう数十年くらいに老化したようにも感じられるほど、弱りきっていた。

(クククっ、俺はもう何も残ってねえ……まさかこんな結末になるなんざ考えてもなかった……。

アマリーリスのみんな……ホントにゴメンよ……ゴメンよぉ……)

ラクリーマの表情がかなり暗く、そして弱々しかった。これは今までの彼からしたら考えられないくらいに弱気であった。
それほどまでに後悔と罪悪感にまみれていたのであった。

(ドゴォ――っ!!)

突然、真天井が爆発、ライトが一斉に粉砕された。彼にはこのくらいの衝撃でさえ避ける程の俊敏さはもう残っておらずそのまま倒れ込んだ。

(エクセレクターはもう限界なのか……あいつから預かったモノを俺は……)

ラクリーマは立とうとしなかった。次第にその瞳は閉じていく……。

(もう疲れたぜ……いい加減に死なせてくれよ……もう自殺したほうが楽だ……)

ラクリーマは左腕にそう念じる。だが、いつもなら左腕は彼の思考に反応してすぐに動くが、こう言う時に限って全く無反応である。

(お前も俺に苦しんで死ねってか……)

――そして目が完全に閉じてしまい、彼の命が尽きかけていた。

しかし、その時の脳に浮かぶは今まで死んでいった部下達が必死な表情で彼を残酷なまでにこう引き立てる。

“リーダー、俺らの分まで生きてくだせえ!!”

“俺らのことは心配しなくていいっスからどうか自分のために生きてくださいよ”

それが頭に響き渡り、彼の命を繋げていた。

(なんでだよ……なんでお前らは俺を死なせてくれねんだよ……俺はお前らを死に追いやった張本人だぞ……)


……しばらくして彼はゆっくりながらも立ち上がり、また歩き出した。
銃創の出来た、痛みでガクガクであり、いつ崩れるてもおかしくないほどのボロボロの右足、血まみれであり多量出血で視界が霞み、倒れそうになるたびにまた部下の叫びが頭に響き、彼を無理矢理に意識を保たせる。
それが彼にとっては天の声なのか悪魔の囁きなのかは分からない。
この状態のまま、彼は目的地もないまま歩いていった――。

………………………

ドラえもん、スネ夫、ジャイアンはのび太達を探しに通路内を走り回っていた。しかし、一向に二人に出会えない。
しかも先ほど近くの通路から爆発する轟音が連続で聞こえ、この艦内は近い内に崩壊すると三人とも感づいていた。

「ドラえもん、このままじゃあ……」

「しょうがない……ノビールハンドを……」

ドラえもんはポケットに手を突っ込み、中身を取り出すが調子が悪いのか変なモノばかり出てきてしまう。

「おい、またかよ!!」

「何やってんだよもう!!」

二人に急かされるもそう簡単に出てこない。

「ええっと……あった!!『ノビール……』」




(ドワオオーーっっ!!)

手前の横の通路壁が突然爆発し崩壊、同時に巨大な炎が吹き出し、ドラえもんの腹部をかすった。

“うわああああっ!!!”

三人はびっくりして後ろへ尻餅をつくが、運よく通路に伝わるほどには強くなく、すぐに弱まり引っ込む。

「アチチ……ホントに危なかった……んああっ!?」

「ドラえもんどうしたんだ!?」

「さっ、さっきので四次元ポケットが燃やされたーーっ!!」

「「何だってえぇぇっ!!?」」


先ほどの噴出した炎がドラえもんの腹部を通過したせいでポケットが焼失してしまった。
これではもう、ひみつ道具が出せないではないか!?

「ふ、ふざけんなよドラえもん!!必要な時に限ってなんでだせねんだよ!!」

「道具の出せないドラえもんなんてただのポンコツロボットじゃないか!!」

『触れてはいけないタブー』を口にしたスネ夫に対し、ドラえもんはついに……。

「も、もう一回いってみろ!!僕だって好きでこうやってるワケじゃないんだァァ!!」

涙目で顔を赤くしながら彼の服をグイグイ引っ張るドラえもん。
それを止めようと必死なジャイアン。

またいつもの取っ組み合い、悪く言えば『子供のケンカ』をまた性懲りもなくしていると、


(アナタ達何やってるの!!!?)


馬鹿デカイ声女性の声が聞こえ、後ろに振り向くと何とエミリアとミルフィがこちらへ向かってきているではないか。

「エミリアさん!!?それにミルフィちゃん!!」


駆けつけると彼女は三人の頭にポコっと軽く叩いた。

「あなた達ねぇ……もう少し仲良く出来ないの!?」

「ホントにもう、今の状況わかっているのかしら!!」

エミリアのミルフィは呆れに呆れているが、

「だってスネ夫君がぁ!!」

「ドラえもんの方こそ――っ!」

また揉め合う二人に、エミリアはついに……。

「いい加減にしなさい……さもないと本気で殴るわよ……」

「「ぴいっ!!」」

彼女のドスのきいた低い声と睨み付けるような鋭い瞳、眉間にシワを寄せたその顔は今まで見たことのない恐さを二人は一気に畏縮した。

「エミリアさん……大丈夫なんですか?」
ジャイアンの気遣いにエミリアは先ほどの恐い表情から一気に恥ずかし混じりの笑みを浮かべた。

「……ごめんね。あたしがしっかりしないといけないのにね……けどもう大丈夫、一刻も早くあの子達を追跡しましょう」

「ドラちゃんの道具を使おうヨ!!」

「それが……」


……二人に先ほどあったことを話すと仰天した。

「なんですって……ならもうドラちゃんの道具が……」

ドラえもんはシュンと落ち込み、申し訳なさそうな表情をしている。

「過ぎたことはもうどうすることもできないけど……これじゃああの二人を探すのは絶望的だわ……」

この艦内の通路構造をあまり理解していない自分等にとって、今いる場所も未知の領域である。

「エミリアさん達、よく僕たちのいるトコ分かりましたよね?」

「……実ははぐれた時のことを考えて、密かに三人の服に発信器をつけておいたの。ミクロサイズの特殊品だから今は取れないけどね」

準備のいい彼女に三人は本当に感心している。

「今はそれよりどうにかしてあの子達の居場所を突き止めないと……」

「そうね。今の艦内状況見るとこの艦も下手したら崩壊するかもしれない。
それまでに最低、あの子達を発見して脱出しないとそれこそ任務失敗を意味するヨ」


悩んでいる中、ドラえもんは地面に散らばっているさっき出した道具を漁り出した。

「とりあえずあるにはあるけど……この状況で役に立つモノは……『たずね人ステッキ』ぐらいだな……けどこれで何とか基盤はできる!」

不幸中の幸いか、『たずね人ステッキ』があったおかげで二人を探す可能性を生まれた。

――そして5人はまた集結し、互いに見つめ合う。

「みんな聞いて……ここから本当の執念場よ。まさに時間が勝負になるわ」

「全ての頼りはドラちゃんの残り少ない道具。みんな持てる知恵を振り絞って行動ヨ!」

三人は頷いた。

「ホントにキツい現状だけど、やるしかないんだ。
せっかくやっと会えたのにここまできてのび太君としずかちゃんと会えずに二人が死ぬなんてそんなのイヤだしね」

「ああっ!」

「だね!」


「……なら行くわよ。所々爆発が起きてるから常に自分の周りを意識し警戒して。ここからは自分の身は自分で守ること、分かった?」

「了解!」

「「「分かりました!!」」」

改めて5人の決意を固くひとつにし、二人の発見を信じ、長い通路を走っていった。


………………………

そしてのび太としずかの二人もラクリーマを追って走り続けていた。ドラえもん達とは違い、ここの内部構造はよく知っているため今、どこにいるかはわかっていた。

「ラクリーマ……どこに行っちゃったんだろ……」

のび太達は彼を助けたい気持ちに必死であった。それがのび太にとっては恩返しの為に、しずかにとってはユノンが死に間際、彼女に託した願いを果たす為に、一刻も早くラクリーマの元へ辿り着きたい、そう思っていた、いやそれしか考えられなかった。

「のび太さん、ラクリーマさんが行きそうな場所わかる!?」

「ラクリーマの……行きそうな場所……」

二人は考える。あののび太も今は真剣に考えてる。
彼らが今まで行ったエクセレクター艦内のエリア、ルーム、場所全てを記憶から引きずり出す。休憩広場、司令室、食堂、訓練エリア……等思い浮かぶが、二人の一番気にかかる場所が一つ共通した。
それを互いに言うと違うことなく一致したのであった。

「――行ってみよう!!しずかちゃん!!」

「ええっ!!」


二人はそこに彼がいることに希望を求め、駆けていった。
二人の共通した場所とは一体……?

………………………

「…………」

ラクリーマはプラントルームのベンチのある中央広場にいた。彼にとっては色々と思入れのある場所……。
最初の彼女ランが育てた花の育成場所であり、そしてユノンと愛を誓い合った場所である。
しかしここも爆発の被害にあい、水の蒸留装置が壊れ、今や済んだ空気が煙に包まれて完全に汚染、それが原因でデリケートな花や植物は早速枯れはじめていたのであった。

それを光景を目にしたラクリーマをさらに絶望へと追い込む。

(ラン……俺のせいか……俺のせいでこうなったのか……本当にすまねえな、あの世にいったら謝らねとな……せっかくお前の育てたお前の大切な物を……)


もはやプラントルームとも呼べないこの室内でも今は彼にとって、全てを失ったと思い込む彼が寄りすがれる唯一の場所であったのだから……。


「ぐ……ぐえぇっ!!」

強烈の吐き気に襲われ、その場にうずくまる。髪の毛も少しずつパラパラ落ち始め、ぼさついてた大量の髪ももう短髪になりかけていた。

口を押さえた手には血がべっとりとついているのを確認すると、タイツで拭った。
全身倦怠感、吐き気が今なおも治まらず額を押さえて疲労困憊のように激しく息を乱し、内臓痙攣が起こる放射能障害に冒された身体、無理をし過ぎたせいで内臓や筋肉、骨格がボロボロであり痛感神経をもろに刺激、もう息をするだけで苦痛の身体を無理矢理我慢してのそっと立ち上がる。
こんな状態になってもまだ立っていられるとは……よほどの精神力がないと無理である。

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