小説『大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦!!【R-15】【完結】』
作者:はならむ()

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だが彼は――もう死ぬのは時間の問題であると悟った。


(プシューーッ!!)

入口ドアが開く機械音を察知、すぐに茂みに入り、息を殺す。

(連邦野郎か……こうなったら俺の命尽きるまでぶち殺し続けてやらぁ……)

彼はドラえもん達と対峙した時のように再び闘争本能、殺戮本能を燃え上がらせた。が……。

「ラクリーマ!!」

「ラクリーマさん!!お願い、いたら返事してぇぇ!!」


プラントルームに響くその中は聞きなれた子供の男、女の声。 そう、のび太としずかであった。

(あいつら……何しにきやがった!?
のび太には俺のことを忘れろといったハズだろ!?)

ラクリーマは瞬間、表情を一変、がく然となる。
しかし彼の思いに反して、二人はここに向かって来ていた。
「しずかちゃん、中央のベンチの所に行ってみよ!!」

「そうねっ!!」

段々と近づいてくる彼らについに苛立ちが募らせた。

(てめえら……そんなに俺に殺されてえのか……よお!!)

……そして二人は中央広場に着くとそこには……。

「ああ、ラクリーマ……」

「ラクリーマさん……」


広場の中央に設置してあるベンチには彼がいた。しかし彼らに背を向けて無反応であったが。

「……てめえら……何しにここに来やがった?」

彼らの口調は怒がものすごく混もっていた。

「僕達は……ラクリーマに……何か恩返しがしたくて……」

「……恩返しだと?」


「あたし達、ラクリーマさんの辛そうな顔をしているのを見て……何か助けになれたらなって……」

(何馬鹿げたこといいさらすんじゃボケェ!!)

彼の凄まじい怒号が二人を威圧、畏怖させた。


「仮にも俺は殺戮と破壊することしか考えてない救いようのねえ悪人だぜ?
そんな俺の助けになりたいとはな……お前ら、ここまでアマちゃんのお人好しだったとは思わなかったぜ……現にお前らがここに来たのも俺に殺されにきたのかと思ったぜ!!」

ラクリーマは振り向くとその殺意の沸いたオーラを放ちながらで二人を睨む。

「大体のび太、お前に言ったよな?俺のことを忘れろと。どいつもこいつも……俺の言う通りにしてりゃあ後腐れなく済んだものを……本当に不愉快だ……」

「「…………」」

「俺が捕まりゃあそれであいつらが助かったんだ!!
それなのにレクシーといい、ユノンといい……いや、俺に関わった人間はすぐ何かしら俺に生きろとほざいて自ら死にやがる、全くくだらなすぎてヘドが出そうだぜ!!」


自暴自棄すぎる言葉に二人は震えて涙を浮かべた。

「ひ、酷すぎる……ラクリーマ、それはあんまりすぎるよ!!」

「そうよ!!レクシーさんやユノンさん達、今まで死んでいった仲間の人達はラクリーマさんをすごく信用してたからこそあんな行動とったのよ!!
でなきゃ、命を自ら捨てる行動なんかとらないわ!!」

その言葉にラクリーマはほくそ笑むような態度をとった。

「なら俺だってな、お前らに本音ぶちまけてやんよお!!

本当は俺は総司令なんぞやりたくなかった!!」


「なっ……何だってぇ……?」


「……ただ好き勝手に暴れまくって、誰であろうと片っ端から殺しまくって……気に入った女を犯しまくって……死ぬときは戦って死ねればそれが俺の本望だ!!

だがな、組織のリーダーになった以上はそんな考えをもってると組織自体を破滅に追い込む。
こんな自分勝手な俺が一番上に立とうなんざあり得ねえのは誰からの目から見ても一目瞭然なんじゃあ!!」

その凄まじい事実にかける言葉が出なくなる。
しかし彼は震えていた。

「……だが、あの馬鹿共はそんな俺を慕ってきやがった、ついてきやがった!!そしてこんな俺の為に命を捨てやった!!

そんなどうしようもないあの馬鹿共でも――」

(あいつらの命は俺の命そのものなんだよ!!!)

彼の今言ったことは正しく本音であると確信した。
この男、仲間の事を散々悪く言ったが、何だかんだで心から大事にしていたのである。


「けっ、もう今さらそんなことはどうだっていい!!
こんな状況になって俺には何もない、後戻りすらできねえんだよ、なら――」

(もうキサンらも直々に殺してくれるわーーっ!!)


完全に血が上っているラクリーマに何を言っても無駄であった。


「ラクリーマ!?」

……彼はのび太に突っ込み、その勢いに乗って彼の頬に全力の裏拳を放った。
当然、その唐突さに避けることなど出来ずにまともに受け、横へはじき飛ばされ、地面に転がり倒れた……。

「のび太さぁん!!!」

のび太はピクピク動くだけで全く起きようとしない。しかしラクリーマはそんな彼に向けて右手の指関節をバキバキ鳴らす。

「ククク……のび太、今すぐ楽にしてやるから安心しな!!」
その顔は戦闘訓練で見せた時のように悪鬼羅刹であり、彼の前に立つ者全て、敵と判断してしまっていた。
のび太の元へ向かおうとするラクリーマにしずかは大粒の涙を浮かべ、彼の足へ飛び込み必死にしがみついた。

「ラクリーマさん、ダメ!!のび太さんを殺さないで!!」

彼女の必死の説得に解せず、今度はしずかへその狂った視線を向けた。

「しずか、最初出会った時にお前を殺しておけばよかったよ。こんなことになるんならァァァァ!!」

「ひいっっ!!」

なんとしずかの縛った髪を乱暴に掴むと左手甲から鉤爪を出し、それをゆっくりと彼女の顔面に突き刺すように構える。

「のび太はしばらく起きやせん。てめえをぶっ殺した後、あいつも血祭りにしてやらぁ!!」

「ああ……ラクリーマさん……ユノンさんが……ユノンさんがあなたに……」

「もうユノンなんぞどうでもいい。もう喋れないようにしてやらぁ!」


馬耳東風となり、暴走するラクリーマ。
そんな中、倒れていたのび太が悶絶しながらゆっくりと起きた。頬が真っ赤に腫れ、眼鏡を吹き飛ばされたが幸いにも近くにあったので震える手で手探りで探し当て、着けた。

「しずかちゃん……しずかちゃん!!?」

今にもラクリーマの手に掛けられようとしている彼女の姿に慌てふためく。

「ラクリーマ!!しずかちゃんに手を出すと許さないぞ!!」

だが彼は彼女を殺すことにしか目に見えてない。

彼は凄く焦り散らしていると、

“ガチャ……”

後ろのポケットから何か落ちた。それは拳銃である。
これは連邦の開戦前、ラクリーマがこれでしずかを守れと渡された拳銃であり、彼はそれを短パンの後ろポケットに突っ込んでいたのを忘れていた。

それを見たのび太は突然、ある究極の選択肢を迫られることになった。
これを使えばしずかを助けられるかもしれない、この近距離から撃てば彼の射撃の腕なら確実にラクリーマに命中させることができる。
しかしそれが最大の問題であった。

(僕は……ラクリーマを……撃てるのか……)


下手をすれば殺しかねないし、良くてもケガは免れない。
しかし、その行為は彼を助けるどころか返って苦痛を増やしてしまうことになるのだ。

二つに一つ、しかしもはやそんな時間などない、早くしなけばしずかが……。けどラクリーマを助けたいのにこれでは……とのび太の心を深く抉ろうとする選択であった。

(どうすればいいの!?誰か……誰か教えてよ!!)


彼は心の中で必死にそう叫んだその時、

“……撃ちな!!”

どこからか声がした。それは女性の声であるがその主はユノンではなく、明るめの甲高い声質であった。

(だっ誰なの!!)

“それより早く撃ちな!!でないとあの子がラクリーマに殺されるんだよ!!”

(けどそれじゃあラクリーマが!!)

“あの子だけじゃない、ラクリーマ自身にも本当に取り返しのつかないことになるんだよ!!
二人を救えるのはあんただけよ、早くっ!!”

(けどどうやって!!)

“……あいつの左腕に弱点があるからあたしがそこに照準を合わせてあげる!!そこを狙えばあいつを一切傷つけることなく動きを止めれる。
あんたは引金を引くだけでいい、早く銃を持って!!”


(…………)

のび太はその声の言う通りに銃を拾い、ラクリーマに向けると、なんと銃口が彼の意思と関係なく左腕の肘間接部へ向けたではないか。

“ごめんねラクリーマ、あんたがこれ以上一人で苦しむとこは堪えられないから!!”

一体この声の主は誰なのか知りたいが今はそんなことを思っている暇などなかった。

――そしてラクリーマは左腕を引き、全力で鉤爪を押しだそうとしていた。

彼女の顔にその鈍い銀色の爪を向けて……

「死ねえしずかああああああっっ!!」


「イヤああああっ!!」


刹那、

(―――――――)

一発の発砲音が鳴り響いたと共に、ラクリーマの動きは止まった。左腕がそのまま力を無くしたかのように落ちて、彼自身もその場でブルブル震えはじめる。
「あぐあぁ……………っ」

横を見ると深く息を乱したのび太が今にも落としそうな銃口を自分に向けていた。

「の……のび太……?」

が、彼にその後ろにいるはずもないある人物がのび太と銃を共に支え持つ姿がはっきりと見えた。
それはのび太より少し身長が高く、左右には金色の翼を高らかに広げ、その顔は幼い顔立ちで金髪のショートカットが似合う女性であり、ラクリーマ自身が一番何よりも知る人物であった。

(ラン……?お前か!!?)

それはラクリーマの始めに愛した女性、ランであった。しかし彼女は何も言わず、彼を見つめる。それも……。
(なんでだよ……なんでそんなに今にも泣きそうな顔するんだよ……なんで俺を憐むような表情するんだよ……)

しかし、そんな彼もすぐに現実に戻されることになった。

「うう……ひくっ……っ」

「し……しずか?」

前を見るとしずかが泣いていた。しかも自分の右手は彼女の髪を今にも引き抜きそうなほどに強く掴んでいた。

やっと正気を取り戻したラクリーマは次第に自分をしようとしたことに気づき、顔面が一気に蒼白と化した。

「お……俺は……なんて……ことを……っ」

ラクリーマはついに力を無くし、その場で倒れこんでしまった……。


そのまましばらく互いに言葉すら出ずに沈黙が続くも、のび太はすぐに立ち上がりしずかの元へ向かった。

「しずかちゃん、大丈夫!?」

「のび太さん……ああ、のび太さん!!」

互いに無事を喜び、抱き合うがそれもすぐにある方向へ視線を向けた。


「ラクリーマさん大丈夫!?」

「うぐぅ……」


彼らのそばで倒れ伏せている彼だが、うめき声を上げていることから何とか意識はあるようだ。
二人は急いで彼を起すのを助けようとするが振りほどかれた。

「やっ、やめろ!!俺はお前らに助けられる資格なんかねえ!!」

「な、何を言って……」

「俺は……お前らを地球に送り返すと言ったのに……逆に殺そうとしてしまった……俺は……俺はぁ……最低のクズ野郎だぁ!!」

顔を上げず、ブルブル震えて自分自身を貶すその様子はいつも彼からは想像できないことであった。

「……殺せよ。お前の持ってるその銃で今すぐ俺を殺してくれ!!」

「ラクリーマ……なんで……そんなこと言うの!?意味が分からないよ!!」

「殺せっていってんだよ!!俺はお前らを本気で殺ろうとしたんだ、お前らにしちゃあ正当防衛だろうが!!」

「ラクリーマさん……」

「頼むよ……もう……俺は生きてること自体が苦痛なんだ……お前らが俺を助けたいと言ってたがそれが今の俺の救い手だ……」

彼はもう身体的にも精神的に完全に朽ちていた。
しかしだからと言って、「殺せ」と言われても二人の性格からして到底不可能な行動であり、願いであった。
そんな二人に見かねたラクリーマは……。

「……だよな。お前らのようなアマチャンにはそんなこと出来るわけねえよな。なら仕方がねえ……」

ラクリーマは突然、のび太の持っていた拳銃を奪い取り、それを自ら自分の頭に押し当てた。

「「うわあああああっ(キャアアアアアっ)!!!!!!?」」

二人は狼狽するも彼は一向にやめる気配などなかった。


「もう嫌だ……今まで自分の全てをなげうってまでアマリーリスを、あいつらのために尽くしたのに……それが何の意味もなかった……俺のやり方が全て間違ってたんだ……」

「「………………」」

「ククク……全くよぉ、ホントに笑い話にもなんねえ。俺が良かれと思ってやったことが仲間からしたらそれが返って迷惑だったとはな……それじゃあアマリーリスが壊滅するワケだ……」

ラクリーマはついに指を引き金にかけた。

「だがこれで全てが終わるんだぁ!!」


引き金を引きかけた瞬間、のび太、しずかの二人の力で拳銃を力ずくで逸らした瞬間、拳銃から弾丸が発射され、樹を貫通した。

「キサンらなにしやがんだァァァァ!!」


二人は銃を撃たせないように持てる力で銃を地面に擦り付けていた。

「僕は……ラクリーマに死んで欲しくない。僕からしたら最高のお兄ちゃんだから……これからも仲良しでいたいから……」

「あたしもよ、ラクリーマさん。
あなたほど、ここまで仲間を大切にする人はいないと思うわ。
ただ、あなたは何から何まで自分で抱えこもうとしてたのが悪かったのよ……」

「しずか……」

「……ユノンさんがね、死ぬ前にあたしへこう頼んだの。
『これ以上、あいつを追い詰めないであげて』って……。

ユノンさん、レクシーさん達アマリーリスの人達はあなたの苦労を分かっていたからこそ、あなたをこれ以上、苦しませないために自ら命を張ったと思うの……」

「なんだと……ユノンが……レクシー達が……」

「……それでレクシーさん達だけでなく、ユノンさんまでもが……。
けどラクリーマさん、どうかあなたまで死のうとしないで、お願い……」

しずかは震える声で彼に嘆願した。

「僕からもお願い、もう自分を強く責めないでよ……」

「のび太……俺は……」

「ラクリーマらしくないよ。そんな辛そうな顔してたら僕らまで悲しくなるからいつもみたいに明るい顔をしてよ……」

「…………」

「大丈夫、僕らはラクリーマを守ってあげる。ねえ、しずかちゃん!」

「ええっ、あたし達はずっとあなたの味方よ!!」

二人の純粋なまでの優しさと励ましを受けた彼についに変化が……。



「う……うう………うう……」


ラクリーマの赤い瞳から大粒の涙が流れて出ている……彼は泣いていた。
二人は彼を包み込むように優しく触れた――。

「ラクリーマ……辛かったら泣いていいんだよ。
今は僕ら以外は誰もいないからいっぱい泣いて楽になろう……」


「うう……うわあああああ……ァァァァ………」

彼は声を出して泣いた。まるで子供のように……。
しかしそれと同時に溜まりに貯まった苦悩や悲しみが全て流れていくような気がした。

思えばあの男、エルネスの死から始まった悲劇。
彼の託した遺志は多分、そこまで深くはなかったと思うのだがラクリーマがそれを真に受けてしまった結果がこの結末となってしまった。
彼はそれほどまでに『純粋』すぎたのである。

……ラクリーマは極悪人ではあるが、実は誰よりも本当の意味で優しすぎた男だったのかもしれない……。

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