〜望んだ未来と望まぬ結果〜
side 三人称
あのジェラールを……ナツが倒した…!
私の八年間の戦いが…終わった……
これで…これで皆に本当の自由が……
ナツがジェラールを楽園の塔の最下層まで吹き飛ばし、楽園の塔での戦いが終わった。
そして、ナツも戦いが終わった事による安堵からか、急に力が抜けたように倒れ始めた。
エルザ「っ!ナツ!」
シモン「サラマンダー!」
エルザはそんなナツに慌てて駆け寄り、抱きしめ支える。後から続くように、シモンもハルを肩で抱えながら、ナツの元へ。
そしてナツが気を失った事からか、ナツの顔に刻まれていた竜の肌のようなものは、徐々に消えていった。
エルザ「お前はすごい奴だ…ほんとに……」
だが休む間もなく、楽園の塔が輝き始めた。それは楽園の塔の外にいたグレイ達の目にも入っていた。
シモン「この光…まさか!?」
エルザ「エーテリオンの暴走か!?」
そう、それはエーテリオンの暴走の兆し。ラクリマから弾け出る光は、周りにあるラクリマを破壊しながら次々と出てくる。
エルザ「シモン!お前はハルを、私はナツを運ぶ!ここから脱出するぞ!」
シモン「あぁ!」
エルザ「それとハルが持つ剣を!落とすなよ!」
エルザは早速シモンに指示を出した。ここでじっとしていたら、エーテリオンの暴走に巻き込まれて一巻の終わり。全てがおじゃんだ。
ハルの折れた剣を、折れた先の部分も含めシモンに手渡す。
エルザ「必ず生きて帰るんだ!必ず…!」
―――私には帰る場所があるのだから
その思いで、疲れ果てていた筈の体に鞭を打ち、ナツをおぶって楽園の塔からの脱出を計る。
だが………
エルザ「はっ!くっ…うわぁ!?」
シモン「エルザ!」
逃げる途中でラクリマから出る光を避け、バランスを崩し倒れてしまうエルザ。そんなエルザに慌てて駆け寄るシモン。
エルザ「器を…ラクリマをも変形させてしまう程の魔力か。このまま外に出ても、助かるかどうか……」
シモン「くそっ!どうにもならないのか!?」
エーテリオンの暴走の中、苦悩する二人。だがそんな中、エルザは寝そべっているナツと、シモンに抱えられているハルを見る。
エルザ(いや…諦める訳にはいかない!今度はお前達を救う番だ。ナツ、ハル!)
そしてゆっくりと立ち上がるエルザ。しかし、そんな間でも、暴走を続けるエーテリオン。器であるラクリマが近くで爆発した。
エルザ(しかし、防ぐ事も不可能。どうする…!?)
シモン「くぅ!間に合わないのか!?」
そのとき、ジェラールが言った言葉を思い出すエルザ。そして、そこから導きだした最後の手段。
エルザ(私とエーテリオンを融合できれば、この魔力を私が操り、暴発を止められるか…!?)
エルザにはもう、それ以外の手段も、考える時間もない。そして決意し、変形したラクリマに手を触れる。
エルザ「これに懸けるしかない…」
シモン「エルザ?っ、エルザ!」
エルザの行動に気づいたシモン。だがそのときにはもう、エルザの腕はラクリマの中に入っており、その苦痛でエルザは顔を歪ませていた。
シモン「エルザ、何を!?」
エルザ「心配するな、シモン。私が…くっ!なんとかする…!」
シモン「何とかって…止めるんだエルザ!」
シモンの制止も耳に入れず、ラクリマの中に入っていくエルザ。
だがそんな中、エルザの行動を止める声がエルザの耳に届く。
ナツ「エルザ…?」
エルザ「っ!ナツ!?」
シモン「サラマンダー!?」
そう、ナツだ。ジェラールとの激闘の後だというのに、これ程早く目を覚ますなど、やはり流石だと言えるが……
ナツ「な、何してんだ…。エルザ、お前…体がラクリマに…!」
エルザ「エーテリオンを止めるには、これしかない!」
ナツ「エーテリオンを止める?」
シモン「ラクリマに溜まっていたエーテリオンの魔力が暴走しようとしているんだ!」
ナツ「そんな……」
エルザ「そしてその暴走により、エーテリオンは大爆発を起こす。しかし!私がエーテリオンと融合して抑える事が出来れば…!」
ナツ「何言ってんだバカ野郎!そんな事したらお前が…!」
エルザ「ぐあぁ!」
それでも尚ラクリマに体を入れていくエルザ。ナツはそれを見て、エルザの元に走り出す。だが、はやり先程の戦いが体に影響しているのか、体が思うように動かないでいた。
シモン「エルザ止めろ!お前がそんな事しなくても、他に方法が…」
エルザ「そんなもの考えている余裕はもうない!解っているんだろシモン!こうしなければ、お前達全員が助からないことぐらい!」
シモン「エルザ…!」
エルザ「心配するな…必ず、止めてみせる!」
ナツ「よせ!」
エルザ「ぐあぁああぁぁぁ!!」
シモンの言葉も聞き入れず、体をさらにラクリマに捧げていくエルザ。それでも止めようと、ナツはエルザがいるラクリマの元へ。
ナツ「エルザ!」
エルザ「ナツ……」
だがそんなナツにエルザは手を伸ばした。そしてナツの頬を触りながら、言う。
エルザ「…私は、フェアリーテイルなしでは生きていけない。仲間のいない世界など、考える事も出来ない……。私にとってお前達は、それ程大きな存在なのだ……」
ナツ「…エルザ……」
ゆっくりとナツに振れていた手を放し、エルザはさらに言う。
エルザ「私が皆を救えるのなら、何も迷う事はない。この体など…くれてやる!!」
そしてエルザは、全身をラクリマに入れ、その体をラクリマの中で浮遊させる。
ナツ「エルザ!出てこいエルザ!」
シモン「エルザ!エルザ!」
ラクリマの外にいるナツとシモンは、エルザとの唯一の境であるラクリマを叩き、エルザの名前を叫び続ける。だが、その声もむなしく、エルザの耳にはぼやけて聞こえてしまう。そしてエルザの体は、ラクリマの奥へと向かっていく。
エルザ(ナツ、皆の事は頼んだぞ。私はいつも、お前達のそばにいるから…!)
ナツ「…っ、くぅ…エルザぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そしてラクリマが、否、楽園の塔全体が光り始め、一気に魔力を放出し始め、空中に消えていった。
「……エル…ザ…………」
そこは、何もない白い空間だった。
エルザ「ここは…エーテリオンの中…?いや、違う…」
その中で目を覚ますエルザ。そんなエルザは、白いワンピースを着ていた。
そして目を覚まして間もなく、白い光がエルザの目を覆う。
その先にエルザが見たものは、エルザの墓標とその周りにたたずむフェアリーテイルの皆。その顔には、皆同じように涙が流れていた。
エルザ「そうか……私は…死んだのか………」
降りしきる大雨。それは、フェアリーテイルの皆の涙を象徴するかのような土砂降りだった。
マカロフ「エルザ・スカーレットは、神に愛され、神を愛し、その心は悠久なる空より広く、その剣は、愛する者の為に気高く、煌めき……」
そんな大雨の中でも、マスターは気にする事もなく、エルザの墓標の前で語る。だが、その顔には他の皆と比べ物にならない程の涙があった。
その様子を見て、エルザの心は少しずつ揺らぎ始める。
自分の行動は、本当に皆の未来に役立ったのか、と……
そこに現れる評議会の面々。エルザの墓標の近くまでしゃべりながらやってきて、言った。
「エルザ・スカーレットに、聖十魔道の称号を与える。」
しばらくの沈黙。だが、その沈黙を蹴破るがごとく、ナツが現れる。
ナツ「ふざけんな!なんなんだよ、皆してよぉ!?」
エルザ「ナツ…!」
まっすぐエルザの墓標に近づくナツ。そして墓標の上にあった花束を蹴った。
マカロフ「よさんか、ナツ!」
ルーシィ「ナツ、止めて!」
グレイ「てめぇ!」
ナツ「エルザは死んでねぇ!」
グレイにワカバ、マカオがナツを止めに入る。ナツの叫びとルーシィの悲鳴にも聞こえる怒声。
そんな中、エルザはその光景を見て涙していた。
エルザ「私は…ナツの…皆の未来の為に……なのに……。」
ナツの行動に感化されてか、エルザの墓標の周りにいた者達が、大きな声を上げながら泣き、よりいっそう流す涙の量を増やしていた。
エルザ「私はこんな未来を見たかったのではない…私はただ…皆の笑顔の為に…!私は…こんな…!!」
そのとき、エルザの周りが光に包まれた。だがそれは先程とは違う。温かい光だった。
思わず振り向くエルザ。その光の先から、二つの手が伸びていた。その手はまっすぐエルザの元に向かってくる。
エルザ「…んっ……はっ!ここは…!」
目を覚ますエルザ。そこには、先程までの光景ではなく、どこかの海岸が映っていた。
そしてすぐに聞こえてくる水が弾ける音。その音の先に目を、顔を向けると………
「「「「「「「エルザーー!!」」」」」」」
楽園の塔の外に避難していた筈のグレイ、ルーシィ、ハッピーにジュビア、ショウ、ミリアーナ、ウォーリーがいた。
エルザ「どういうことだ?生きているのか、私は……?」
そのとき、自分の両脇に違和感を感じたエルザは、周りを確認してみた。その瞬間、今自分がどういう状況にいるのか把握した。
自分が抱えられてるのだ。右側はナツが、左側はハルが。それぞれエルザの腕を自らの方にまわし、立っていた。後ろには膝をついているシモンもいた。
エルザ(ナツ、ハル…!お前達が、私を……。あの魔力の渦から、私を見つけたのか?なんという……!)
ハル「お、目ぇ覚めたか、エルザ。」
エルザが目を覚ましたのに気づいて、ハルが声をかけてきた。そして、ナツはそれを聞いた瞬間、膝を海面につける。それにつられて、エルザとハルの体が傾く。ハルはそれを要領よく対応し、エルザの腕を肩から放しながらエルザを降ろした。
ナツ「…同じだ。」
エルザ「え…?」
ナツ「俺達だって同じなんだ。」
ハル「…俺達だって、エルザのいないギルドなんか、考えられねぇんだよ……」
エルザ「ハル……」
ナツ「…二度と、こんな事するな……」
エルザ「…ナツ」
ナツ「するなぁ!!」
そう叫ぶナツの顔には、涙が流れていた。エルザはそれを見て、ナツの額に自分の額をつける。
エルザ「…うん……ナツ…ありがとう……。ハル、すまなかったな……」
ハル「それを言うなら、アイツらにも言ってやれよ。」
エルザ「あぁ、そうだな……」
そしてエルザに駆け寄る皆。そんな中、エルザは思う。
エルザ(そうだ、仲間の為に死ぬのではない。仲間の為に…生きるのだ。それが、幸せの未来につながるのだから……)
そう思うエルザの右目には、一筋の涙が流れていた。
side out