小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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―チャイルドパレス
そこには3対3の図が形成されていた。
入り口側には一子、クリス、大和。
二人の少女が一歩前に出て、各々の武器を構えている状態だ。
対して、中央に近い側には冬馬、準、小雪。
こちらも線対称のように冬馬を守って、準・小雪の二人が一歩前に出ている
陣形だ。
しかし、その手には武器はない。


「犬はあっちの男を頼む。自分はこっちの女をやる。」

「任せなさい、行くわよ!」

「仕方ない、若を守るためだ。少々、痛い目見てもらうぜ。行けるか?ユキ。」

「うん〜。」


それはいつも通りの言葉だったが、準にはそれがどこか無理をしているよう
に感じた。
だが、今は気にしていられる余裕もない。
目の前の敵を倒すことに集中する。
そして、2つの戦いが始まった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


川神の街中。
ここでは京たちのグループがマガツクッキーとの戦いを繰り広げていた。
頑丈な機械を破壊していくが、倒したそばから増えていく。


「くっ、壊しても壊しても…キリがない。」


京は比較的防御が薄いと思われる部分に集中して、矢を放つ。
それは確実に成果を上げていたが、終わりの見えない現状に言葉をもらす。
翔一、ガクトの男性陣も援護するが、その勢いは止められない。


「はっ!」


それでも京がまた一体にとどめをさす。
あの機体はあとは自爆するだけだろう。


「くそ、俺様の男気で一気に終わらせてやる。」

「おい、ガクト!?」


ガクトは今京が仕留めた機体に走って近づいていく。


「うぉらああああ、ハンサムラリアーーーットォ!!」


その無駄に鍛え上げた筋肉のついた腕でその機体を巻き込むと、そのまま他
のマガツクッキーたちに突っ込んでいった。
そして、堰を切るように内部から爆散した。
近くにいた多くのマガツを一掃していくが…


「ガクト!!」


その爆発の矛先は当然、ガクト本人にも向かう。
いくらガクトが頑丈だといっても、他のマガツも巻き込むその威力に人間が
耐え切れるはずもない。


「ガクト、大丈夫か!?」

「へへ…どうだ、俺様最高にきまってただろ…」

「この大馬鹿!」


京は傷だらけのガクトを見て、叱咤する。


「クッキー、ガクトを川神院に運んで。手当てしてもらって、お願い。」

「了解した。」

「俺様がいないと心配だぜ…」

「別にいなくて大丈夫。」


クッキーに背負われたガクトに厳しい言葉を放つ。


「もう沢山倒してくれたから、あとは私たちでなんとかする。」


京はそう言って、ガクトを見送った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


部屋の両脇ではそれぞれの戦いが繰り広げられる。
クリス、一子のおかげで大和は葵冬馬と正面からぶつかれる。


「もうこんな無駄なことはやめたらどうだ?」

「唐突ですね。」

「根城は俺たちに攻め込まれ、街の不良たちやマガツクッキーだって皆の協
力で抑えられてる。これ以上やったところでカーニバルは成功しない。」

「何が言いたいんですか?」

「俺たちは約束通り警察には連絡しない。だから、警察に来てもらうんじゃ
なくて、お前から自首してもらう。」

「ふふ…おかしなことを言いますね。悪い事はやめて自主をしろ?警察に今
から謝りに行って許しを請え?そう言っているんですか?」

「そうだ、だから…」

「大和くん、君が私の何を知っているんですか?」

「それは…」

「…私の家が病院だということは知っていますよね。葵紋病院、いわずと知
れた優秀で人気の病院。世間の認識はそんなものでしょう。かくいう、私も
そんな病院の院長を務める父を尊敬していました。いつか、父のようになり
たいとね。」


穏やかな調子で語る冬馬。
しかし、その口調とはかけ離れ、表情は心底馬鹿らしいと言っているようだ
った。


「そんな父に近づきたいと私は勉強しました。そして、父が褒めてくれれば
一層頑張って私は知識を増やしていきました。ですが、賢くなることは一方
で私に世の中が腐敗していることを教えたんですよ。それでも父だけは尊敬
できる唯一の人間だと信じて疑わなかった…」


冬馬は笑う。
それは昔の自分を愚かさ加減を自嘲しているのか。


「しかし、賢くなった私は見つけてしまいます。葵紋病院が、尊敬していた
父が行ってきた不正の証拠の数々を。結局、世の中なんて例外なく腐ってい
るんですよ。だから、真面目に生きても損をするだけ。もう悪に生きると決
めたんですよ。後戻りの道なんて必要ありません。」

「それでも!今なら学生でやり直しもできる。もうこんなことはやめよう。」

「そんな安い説得にのるとでも?」

「……まあ思ってないさ、ただの前座だよ。」


そう大和が言った瞬間、入り口のドアが豪快に蹴破られた。
そんな滅茶苦茶な登場で姿を現したのは…


「ふはははは、九鬼英雄光臨である。」

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