小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「…約束守りに来たぜ。」


全員がその声の元に注目した。
一番に声を上げたのはクリスと一子、そしてその言葉を待ち望んでいた小雪
だった。


「「「海斗!!!!」」」

(こいつが来たってことは……)


大和は一瞬由紀江のことを考えるが、今分かることではない。
それに戦っていたとしても、海斗が無闇やたらに傷つけるはずはないと思い、
現状に集中することにした。


「海斗くん、本当にここまで来るとはね…」

「お!なんか楽しめそうな奴が来たじゃねーか。」

「あはー、海斗くんだー。」


冬馬、釈迦堂、辰子の敵側も遅れて反応する。


「しかし、これ以上は入れないように入り口は準が守っていたはずですが…」

「あんなんで止められると思ったのか?仲間のことも分からないようじゃ、
采配を振るなんてことは出来ないぜ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


時間はわずかにさかのぼる。
準は冬馬に言われたとおり、入り口の門番をしていた。
確かにこれ以上九鬼英雄のような勢力が入ってくれば厄介だ。

準は葵紋病院副院長の息子。
院長の息子である葵冬馬とは生まれたときから、主従関係のようなサポート
する立場が決められていた。
そして、冬馬を守るため幼い頃より武道の腕も磨いてきた。
故に強い。
力を発揮すれば、これ以上の進入を許すことはないだろう。


「ようやく着いた。」

「お前は…流川!」

「通してもらうぜ。」

「させるか!」


準は門番として立ち塞がる。


「…葵冬馬が、お前の仲間が悪の道に走ってるのにそれを止めるのではなく、
協力するのか?」

「俺は生まれたときから若についてんだ。悪いことだと分かっていても、若
がすることに反論はない。」

「はぁ…お前よりどっかの女の子のほうがよっぽど友達のことを考えてるな。」

「とにかく、ここは通さねぇ。」

「俺は通るけどな。」

「なら力づくで大人しくしてもらう……こう見えても俺強いぜ?」

「無理すんな。お前も小雪みたいに素直になったらどうだ?」

「…今更引き下がれるかよ。今の俺の役目はお前を潰すこと、それだけだ。」

「そんな不安定な状態で勝てると思ってんのか?」

「とっくの昔に迷いは捨てた!」


言葉通りのためらいのない真っ直ぐな拳。
そこに少しの揺らぎもなかった。


「確かに迷いはねぇな。」


だが、それでも拳は容易く受け止められていた。


「けど、魂がこもってない拳は人を倒すには軽すぎるぜ?結局、お前は自分
の心に嘘ついて迷いをごまかしてるだけだ。嘘の拳じゃ俺は倒せない。」


直後、海斗のカウンターが準に刺さった。
準の体は数メートル宙を舞い、吹き飛ばされた。


「タッグマッチのときのほうが痛かったぜ、お前の攻撃。」


海斗は倒れる準を一瞥すると、中に入っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(準が倒されたのは不思議じゃないですが、海斗くんの言った“仲間のこと
が分からない”とは一体?)

「さてと…」


海斗は奥の方へ控えている小雪を見る。
小雪は見る見るうちに笑顔になっていった。


「海斗!」

「ああ、…葵冬馬。」


小雪にこたえて、敵の名を呼ぶ。


「お前の馬鹿げた暴走を止めに来たぜ。」

「フフフ、何を言うかと思えば海斗くんも大和くんと同じですか。何も知ら
ないくせに言うことだけは言うんですね。」

「俺がお前がこんなことをする理由なんて知るかよ。けど、それで悲しんで
る奴がいるんだ。俺の動く理由はそれだけで十分だ。」

「ん……、やはり海斗くんと口論しても無駄ですね。何かを言われても、全
然曲がりませんから。」


冬馬はやれやれといった様子で溜息をつく。


「それにしてもユキも準も撃退し、ここまで辿り着くなんてやはり侮れませ
んね。タッグマッチのときは自分は凡才だと謙遜してましたが、海斗くんも
天才じゃないですか。」

「・・・・・」

「しかし、いくら海斗くんが天才でもこちらのジョーカー二人には太刀打ち
できませんよ。」

「楽しそうな戦いになりそうだなぁ、オィ。」

「海斗くんと戦うのー?まあ、しょーがないけどさー。」

「さて、せめてどちらと戦うかは選ばせてあげましょうかね?」


冬馬が余裕を見せる。
しかし、海斗も笑みを見せていた。


「何かおかしいことでもありましたか?」

「いや勘違いしてると思ってな。」

「何がですか?」

「俺は天才なんかじゃない。」

「ですが…」

「言っただろ?“どんなに高い壁を目の前にしても、諦めずに努力し続けら
れる奴”が天才って。」

「覚えてますよ。海斗くんが常夜という環境で生きてきたこと、それを一般
に言えば努力と言うのでは?」

「そっちじゃねぇよ。」

「はい?」

「確かに何もしてない奴と比べれば、多少の努力はした。そのなかで俺は今
まで生きてきて強い奴と出会ったこともあるし、何度も死にそうにもなった。
けどな、一度も目の前の壁が越えられないと感じたことはない。」


ただの言葉。
しかし、それには寒気を感じさせるほどの自信と迫力がこもっていた。


「来いよ。二人まとめて相手してやる。」

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