小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「あ、やはり海斗さんでした。」

「おー、由紀江か。」

「はうぅ」

「はうぅ、って……」

「オイオイ、察してやれよー、まゆっちは友達すらいなかったんだぜ、まして
や、名前呼ばれることなんて慣れてないっていう次元じゃねえよー。」

「でもま、これから嫌でも慣れなきゃな、由紀江。」

「うぅ、はい。」

「由紀江もここにいるってことは、学食か。」

「はい、たまには学校のご飯も食べようと思いまして。“も”ってことは海斗
さんもここでお昼ですか?」

「いーや。」

「え、じゃあお弁当なんですか?」

「いや、金がなくてな、昼は抜いてる。」

「そ、それは…あれ、では何故ここに?」

「あー、それはクラスメイトの付き添いだ。」

「そ、そうなんですか。あの、ご一緒してもよろしいですか。」

「ああ、いいぞ。」


由紀江が俺の前の席に腰を下ろす。
一子もこのくらいでどうこう言う奴でもないだろう。


「海斗さん、実はご報告がありまして。」

「お、なんだ?」

「私、クラスの子とお友達になれました。」

「へぇ、やったな。」

「はい、伊予ちゃんって言うんですけど、頑張って話しかけてみたら、お友達
になってもらえたんです、これも海斗さんのおかげです。」

「いや、そこに俺は関係ないだろ。」

「いえ、海斗さんが私とお友達になってくれたので、勇気が出せたんです。海
斗さんが優しくしてくれたから……」

「由紀江がそう思ってくれるのは嬉しいけど、本当に俺なんて優しくもなんと
もないぜ、数歩でも歩けば、俺より優しい人なんてすぐ見つかる。」

「私の中では海斗さんが一番です。」


まあ、困った。
思い込みっていうのは怖い。
どう間違ったら、俺を優しいなんて思うのだろうか。

俺は……


「え?まゆっち?」

「あ、一子さん。」


どうやら一子が戻ってきたようだ。
それにしても、これは知り合いか?


「なんで、まゆっちがいるの?」

「あ、私は海斗さんに許可を頂きまして…」

「“海斗さん”!?」

「ひ!」


いきなり一子が大きな声を出した。
由紀江もびっくりしちゃってるし。

でも、これは知り合いってことで、間違いなさそうだな。


「2人はどういう関係なんだ?」

「あ、私は一子さんたちの風間ファミリーに入れてもらって。」


風間ファミリー?
え、なに、ファミリーって、マフィアかなんかか。
そんな危ないとこに所属してんの?
それとも何、欽ちゃんファミリー的なとこなの。
フレンドリーって解釈でオーケー?


「風間さんという方がリーダーの遊びグループのようなものです。」


俺が悩みの狭間に陥っているのを、表情で読み取ってくれたのか、由紀江が
足説明をしてくれる。
うん、ええ子や。

というか、由紀江は友達いたんじゃねえか。
まあ、でも既存の仲良しグループに後から入っていくと、なかなか馴染めなか
ったりするからな。
一編に多く友達が出来るといえば、聞こえはいいが、実際問題、1人の人と親
密になる難易度は普通より高いだろう。
それにあの性格じゃただでさえ、入っていけそうにないもんな。


「ま、待って、海斗。それは今どうでもいいわ。」


いや、どうでもよくはないだろ。

てか、今まで黙ってたと思ったら、いきなり何だ。
ちょっと過呼吸じゃないか。


「なんで、まゆっちは海斗さんだなんて、親しげに呼んでいるの。」

「あー、それは今日の朝、由紀江が……」

「“由紀江”!?」


もういいっての。


「か、一子さん、それはですね、海斗さんが今日の朝、お友達になってくださ
いまして……」

「え、友達?」

「はい、それで一緒に座るのを、お願いしたんですが、迷惑でしょうか。」

「い、いや、そんなことはないわ、そう、友達ね。…ふぅ」


なんだか、よく分からないが解決したらしい。

そして、俺の席の隣に座り、食事を始めた。
由紀江はそば、ワン子はおそらく定食のようなものを食べていた。


「海斗さんは本当に食べないんですか?」

「ああ。」

「でも、お腹すくんじゃない。」

「夜に目一杯食ってるから大丈夫だ。」

「え、もしかして海斗さんは毎日そうなんですか?」

「そうだが?」

「そ、そうなんですか……」

「それでもやっぱり、お昼は食べた方がいいわよ。ほら、アタシのおしんこあ
げるわよ。」

「いや、これお前、好きだから残しといたんだろ。食えって。」

「ア、アタシ、実は漬物苦手なのよね。」


なら、そんなに涙目になんなっつーの。
好物を人にあげるなんて、よく分からんやっちゃな。
まあ、断っても永遠と言ってきそうだし。
ありがたくもらうか。


「じゃあ、もらうわ。あー」

「え!!」


なんか顔を真っ赤にして、驚いている。
一体どうしたって、言うんだ。
俺の後ろに面白い奴でもいんのか。
俺もかなり見たい。

いい加減、口開けてんのも疲れてきたんだが。


「え、海斗さん!?」

「おい、一子くれるなら、早くくれ。」

「あ、わわわ、分かったわ。」


しかし、一子は漬物を見たまま固まっている。
ったく、くれるって言ったしな。


「もう、もらうぞ。」

「あ…」


一子の手から箸を頂戴して、漬物を口に放り込んだ。

うん、美味い。
空腹は最高のスパイスというが、人からもらったというのも結構なスパイスだ
な、とか思ったりしてみる。


「むむむ…」


何をそんなに不機嫌な顔をしている。


「サンキュ、ほら箸返すわ。」

「え、お箸…」


また、みるみる顔が赤くなっていく。

さっきから、よく赤くなったり、戻ったり……
もう3分経ってしまったのか、そりゃ光の国に帰りたくなるわ。


「かかか、間接k……」


「海斗さんはお昼は食べない……」


色々騒がしかったが、楽しい食事だった。
なんか呟いてる2人に一言ことわって、俺は食堂を後にした。


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「おい、流川海斗だな。」


……ほーんと、楽しい食事だったなあ。

-17-
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