小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「ねえ、まゆっち。」

「なんですか、伊予ちゃん。」

「えっとさ、昨日ね……」


「え?なに、何の話してんの?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



はあ、遅刻した、完璧に。

まあ、なんで平日の朝っぱらから迷子なんているかね。
かといって、放っておくのは無理だった。
この年で独りなのは、不安だろう。
そうだ、独りはな……

そんなこんなで遅れてしまった。
とはいっても、さっきのチャイムからすると、一時限目がさっき終わったとい
うところだろうか。

そして、2−Fの前に行くと、何人かの生徒が入り口から中を覗き込んでいた、
見たことない顔だな。
まあ、でも通り道にいるわけだし…


「ちょっと通してくれるか。」


仕方がないので、そう断る。
すると、その子たちはこちらを振り向き、俺の顔を見るなり、びっくりしたよ
うな顔をして、一目散に逃げ出してしまった。


「あれが、噂の流川先輩じゃない?」

「そうだよ、あのタッグマッチのときの人だもん。」

「顔もかっこよくなかった?」


離れたところで何か話しているようだが、聞こえないし興味もない。
なんか、俺をちらちら見てくるので、気にならないと言ったら、嘘になる。


「あれ、なんで一年生がこんなとこにいんだ?」


そんな声が耳に入った。
なるほど、見たことないはずだ。

気持ちを切り替えて、教室に入る。

ん、若干クラスがざわついたのは気のせいか?
別にあれから好かれるような真似こそしていないが、特別嫌われるようなこと
もしていないと思ったのだが…

というか、視線を感じる。
誰だと思い、そちらに目を向けると、あろうことか一子がすごい形相で俺のこ
とを睨んでいた。
え?俺まじで何かしたか?

疑問に思いつつも自分の席につく。
そして、いつものように机に常備されている本でも取り出そうとしたとき、違
和感を感じた。
明らかに本の感触ではないソレを取り出してみた。

…これは手紙?

これはあれか。
都市伝説であると思っていたが、本当にあるんだな。
通称、不幸の手紙。

いや、そりゃ恨みを買う覚えは腐るほどあるが、こいつの餌食になろうとは、
思いもしなかったな。
これって、やっぱりコピー機とか使ったらノーカンなんだろうか。
カーボン紙とかは意外にセーフだったりすんじゃねえか。

いや、待て。
誰が従来のタイプだと同じだと決め付けた。
もしかしたら、同じ文面ではなく、一語ずつ加えていきなさいという指令が付
加されているかもしれない。
そしたら、後になるにつれて、労力は増えていくじゃねえか。
やられたぜ…

うむ、随分と可愛らしい不幸の手紙だ。
水色の封筒にハートのシールで止めてある。
外見と中身の落差を激しくすることでダメージをより確実にしようという魂胆
か、今時のは進化しているな。

封筒を開ける前に机の上に落としてみる。
金属的な音はせず、パサッという軽い音だけが聞こえた。
紛れもなく普通の紙だ。
刃物の類は仕掛けられていないらしい。

確認したところで開封し、手紙を読む。

“流川先輩をタッグマッチのときに見て、とても惹かれました。
 守りながら戦う姿はとても素敵でした。
 また先輩がイベントに出るようなことがあれば、
 絶対見に行きます。
 かっこいい先輩の姿を期待しています。
 また、お手紙出させてください。”

………は?
あれ、これって宛て先間違えてないか。
いや、俺の名前書いてあんだけども。
これって、いわゆるファンレターっていうやつだよな。

わけが分かんなくなってきた。
俺なんて明らかにファンレターもらう奴じゃないだろ。
しかもいきなり…

ん?もしかして、昨日のがバレたのか。
いや、だが、たとえそうだとしても、俺が倒したなんてことにはならないか。
大方、体を張って、守ったとか、浮かぶのはそのビジョンだろう。
あの子の信用性は分からんが、その話は非現実的すぎる。

深く考えるのはよそう。

お!
ふと、手紙の下の方に目をやると、便箋に動物の猫がプリントされていた。
こんなのがあんのか、いいな〜。
猫を見て、和みつつ、自然と笑顔になった。


Side 一子


今日の朝、登校すると、一年生の女の子が海斗宛に手紙を持ってきたようだっ
た……なんか、気に入らないわ。

海斗は結局遅刻してきて、アタシはつい睨みつけてしまった。
そして、海斗が机の中の手紙を見つけて、読み始めた。

今は手紙を眺めて、なんか笑っている。
そんなに下級生からの手紙が嬉しいのかしら。

なんか、海斗の笑顔を見てるのに、いらいらしてきた。
いつもは海斗が笑顔だと嬉しいはずなのに。

なんで、アタシばっかり振り回されるんだろう。
よし、決めた!
今日はもう相手にしてあげないことにしよう。


Side out




Side 大和


「なんで、あんな奴がもてるんだ…」


ガクトの悲痛な叫びが聞こえてくる。
いくら年下には興味がないガクトでも、野郎が女の子にもてているのは、どん
な状況であろうと、気に食わないようだ。

そもそも、ことの始まりは今日の朝。
いきなり見た目は可愛い1年生がやってきた。
その手には手紙を持っており、明らかに飢えた男子たちの目は光っていた。
そして、1人の男が突入していったが、返された言葉は

“すみません、流川海斗先輩の席ってどこですか?”

期待していた男子が一掃された。
その1年生が頬を染めて、聞くものだから、男子たちは戦闘不能となった。
まさに撃沈である。


「あいつがなんで手紙なんてもらえるんだよ。」

「いや、それがまゆっちに聞いた話だとな、流川は1年生の間じゃ、結構人気
があるらしいぞ。」

「は!?」


まあ、言われてみればおかしくはない。
容姿は普通に良いし、何よりそれまでの流川を知らない1年生にとってはあの
タッグマッチでワン子のために戦う姿こそが第一印象なのだ。
条件は十分だろう。

そして、今日の朝から1年生の間で急速に広まっている噂。

“流川先輩が不良から1年の女子を救ったらしい”

それがきっかけとなったのだろう。

タッグマッチで興味を持っていた女の子たちが、教室を見に来たり、手紙を出
したりという行動に出たわけだ。

ワン子は前途多難だな…

あと、まゆっちは大丈夫なのだろうか。


Side out


ふぁーあ、なんか驚きもあったが、ぼーっとしてたら、昼休みだ。

一子はなんか今日は終始不機嫌だ。
今ももう教室にはいない。

俺、ほんとに何かしたか?

そこへ教室のドアが開く音がした。


「か、海斗さん。」


そこに立っていたのはよく知る一年生、由紀江だった。

手は前に組んで…ん?
何か包みを持っている。


「わ、私、お弁当を作ってきたので一緒に食べませんか?」

「へ?」

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