小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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―川神戦役

それは本来、クラスでの決闘法に用いられる。
くじ箱の中から出た様々な競技で戦い、それに応じた様々な力が問われるので
ある。
団体戦ではないので、自分一人の幅の広さが試される。
そして、先に5本先取した方が勝ちという、シンプルかつ分かり易いルール。
要するに今で言うバラエティ番組みたいなものである!




よし、説明もバッチリ決まった。

結局、勝負はその日の放課後に行われることとなった。
わざわざ、引き伸ばす必要性も感じなかったし、何より早いところ、あのスト
ラップをゲットしたい。
トカゲの“シロガネ”に友達ができるのだ。

場所はグラウンド。
多くのギャラリーが集まっていた。
これから、勝負が始まる。


Side 大和


まさか、ストラップで釣れるとは思いもしなかった。

ワン子が昨日、話しているのを聞いていて、
“いや、そりゃ多少は好きなんじゃないの”と相槌を打っていたが…
勝負を受けるほど、好きだったとは。

これは覚えておいたほうが良さそうだな。

そして、今まさに勝負が始まろうとしている。

ギャラリーも多く、活躍するキャップ見たさに同級生の女子などが多く集まっ
ている。
そして、他にも大量の1年生が見に来ていた。

これはあれなんだろうな。
流川の人気が1年生の間で凄いというのは、どうやら本当らしい。
あの噂もあったしな…
やはり、頼れる年上というのは下級生に人気があるのか。
こいつの守ってもらえるイメージはもはや定着しているからな。

そして…

まあ、まゆっちは1年生だしな、分かるよ。
何故、君もそっち側にいるんだい?ワン子よ……

口からは溜息しかもれなかった。


Side out


はあ、よりにもよってこんなイベントみたいになってしまうとは。
おまけに…


「えー、司会は小さい娘の味方 井上準と…」

「みんなのアイドル 川神百代だ!」


なんか司会まで付いてきやがった。


「えー、今回は放課後ということにより、時間もないので、3本先取で決着を
つけまーす。」

「大人の事情というヤツだな」


すげぇ、大がかりになってしまった。

まあ、合計で3回勝てばいいのだ。
嫌な勝負はギブアップすればいいだろう。
格闘なんて来たら、速攻ギブアップだ。

周りを見渡してみると、こちらに向かって、大きく手を振る一子が見えた。
その隣で由紀江も控えめに手を振っていた。

俺は自然に顔が緩み、そちらに手を振り返した。
途端、近くにいた1年生がドッと沸いた。

なんだ、どうしたってんだ。
俺が手を振るのがそんなにおかしいか。


「では、もうそろそろ1回戦の競技を決めてしまおう。」

「じゃあ、先攻・後攻を決めてくれ。」


正直、先攻・後攻なんてどうでもいいのだが、もらえるものはもらっておくと
するか。
ジャンケンなんて負ける可能性がないからな。


「よーし、それじゃ順番を決めようぜ。」

「あ、俺はチョキを出すから。」

「なに!?」


会場がざわめく。
まあ、これで俺の負ける可能性は“限りなく0に近い”から0になった。


Side 大和


同じだ。
これは俺がクリスと勝負したときに使った手と全く同じ。
突飛な行動をとり、相手の裏をかく戦法だ。

初見の相手には意表をつくし、ペースを乱す常套手段といえる。
しかし、キャップはそのときの一連のやりとりを見ていたから、この手には引
っかからないだろう。

だが、何故だ。
本来、このような作戦は相手の思考レベルをよく知っていて、こいつはどこま
で裏をかいてくるというのを予測できるうえで、初めて有効な手段といえるも
ののはずだ。
ましてや、あいつは俺とクリスの勝負なんて、これっぽっちも知らない。

こいつはキャップとは今日話したのが初めてだし、会話の内容だって、決して
お互いのことを知るとか、親交を深めるものではなかった。
それどころか、こいつはキャップ以外にも全く興味を示してはいなかった。

それなのに、この作戦を使ってくるということは相当な自信があるということ。
あの短い時間でキャップのレベルを計れたのか。

分からない。
この俺のような混乱が狙いだとしたら、それは意味がない。
キャップはここまで深く考えるような奴ではないからだ。

なら、何故だ。
何故、その作戦を使う、流川。

気まぐれか、確信があるのか。
それは勝負の結果を見なければ、知りようがなかった。


Side out


「は、その手には乗らないぜ。」

「ふーん。」

(大和がやっていた作戦だ、これは。こいつはチョキを出すといった。俺にグ
ーを出させるために、だから、相手はパーを出す。それを読んだ俺がチョキを
出すことを誘導しているのだから、相手はグーを出す。なら、パーを出せば、
俺の勝ちだ!)

「いくぜ!」

「おう。」

「「ジャンケン、ほい。」」


風間翔一はパー。
そして、海斗は…チョキを出した。


「ま、俺の勝ちだ。素直に負けてくれるとは、優しいな。」

「くそ、なんでだ。」


意外にこいつ、ひねった出し方してきやがった。
単純にグーでも出してくるかと思ったが、ひっかけられたことでもあんのか。

まあ、いくら考えたとこで俺には勝てない。
別に俺は思考の裏をかいたわけでも何でもないからな。

ジャンケンなんて、大抵の奴は出すものなんて、決めないで、その場の勢いで
出すのが普通だし、所詮“運”。
そんなことで勝敗が左右されるわけじゃないし、気にすることではない。
だが…

“俺は○○を出す”

こんなことを言ったらどうだろう。
普段、考えないのに、何を出すかを思考してしまう。
そして、脳内討論の結果、これを出すと決定してしまうのだ。

すると、どうだろう。
普段は不可思議な動きを経て、形になる手が、一つの形に向けて、一直線の単
純な動きとなってしまう。
そんな動きなら、何を出すかくらい、俺の目なら捉えることが可能だ。
別に不可思議な動きでも出来ないことはないが、確実に越したことはない。

さらに、自分が出すものを宣言しといて、勝利を収めた。
これは相手に“自分の思考を読まれているのではないか”という不安を植えつ
けるという便利な付加効果つきだ。

まあ、相手はお気楽で、どう考えても、そんなことを気にしそうな奴ではない
ので、もとから後者は期待していない。

だが、予想に反して、色々考えて出す手を決めてきたようなので、腑に落ちな
いモヤモヤ感くらい感じているだろう。
それだけでも、十分な収穫だ。

負けたときの言い訳にでも上手く使ってくれたまえ。


「まあ、先攻を奪われただけだ。勝負はこれからだぜ!」

「では、流川、くじを引いてくれ。」

「ど、どうぞ、ここから引いてください。」

「ああ、これでいい。」

「ありがとうございます……きゃー///」


なんかくじ箱を持ってきたと思ったら、一目散に離れてしまった。
そのスタッフみたいな一年生の娘がくじを開く。
なんで、スタッフいるんだよ…


勿論、一年生の有志の集まりであることは言うまでもない。
そんなことを海斗は知る由もなく、競技が伝えられる。


「第一回戦は適応力対決だ。」

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