小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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うん、“適応”ね、“適応”。
知ってるよ、うん知ってる。

“その状況によくかなうこと。ふさわしいこと。あてはまること。”

だよな、新村 出も言ってたぞ。
それに“力”がついて、“適応力”。
俺、何も間違ってないよな。

その一回戦の適応力勝負が何故ゲームなんだ……。


「さーて、一回戦目はこのゲームで勝負してもらうぞ。」

「何故、これが適応力勝負なんでしょうか。」

「ああ、これはとてもマイナーなゲームでな…、そこら辺の詳しい説明は特別
ゲストを呼んである。」

「おぉ、いきなり台本にないことを…」

「モロロとそのクラスメイトだ!!」

「モモ先輩、大串スグルだってば!さっきも言ったじゃん!」

「ん〜、そうだっけか。」

「名前も覚えられんとは、これだから三次元は…」

「まあ、ということで2人には解説についてもらう。」

「俺の出番、ただでさえ少ねえのに。」

「早速、このゲームについて説明させてもらうよ。」

「聞いてないしね…」

「さっき、モモ先輩が言ったとおり、これはマイナーなゲームなんだけど、マ
ニアの間じゃ、とっても有名なゲームなんだ。というのも、色々な要素、つま
りはシューティングや格闘、アクションといったもので全体が構成されていて
まさに適応力が試されるんだよ。」

「ただ、このゲームの製作は素人が個人で作ったもので、そのクオリティーこ
そ尊敬はできるが、その変態じみた難易度、作者の偏った趣味がゲームの中に
盛り込まれているという点から、クソゲーとも烙印を押されている、まさしく
やってみたくはあるが、買いたくはないゲームなのだよ。」

「はあ、説明されても、さっぱりわからねえ。結局、小さい娘は出てくるのか、
どうなんだ!?」

「いや、今そんな話してなかったよね。」

「まあ、聞くより見たほうが早いだろう、始めてくれ。」


俺と風間翔一が電源をつける。

すると、変なムービーが流れ始めた。
その奇妙なセンスはピカソを彷彿とさせた。
というか、見様見真似のゲルニカって、リアルにこんな感じじゃないだろうか。


「なんかカオスなムービーが流れ出したぞ。」

「ああ、人によってはあれでリタイアするそうだ。しかも、嫌がらせなのかス
キップは出来ない仕様だ。」

「鬼か!!」

「さっき、スグルが変態じみた難易度なんて、言ってたけど、それはノーマル
からの話で、イージーなら普通のゲームより少し難しいくらいなんだ。」

「まあ、日が暮れても困るしな。」

「キャップは大和とかと、よくゲームしてるけど、流川君はなんか、やったこ
とすら無さそうだよね。」

「ああ、間違いなくアイツはギャルゲーの最初の選択肢で、上の“早く起きて
学校へ行く”を選ぶタイプだ。そこは間違いなく、下の“まだ眠い、二度寝で
もするか”だろうが。何故、遅刻しそうな転校生と巡り合う可能性を考えるこ
とができないのだ、素人が!!」

「俺は何も押さずに、ロリっ娘の妹が起こしにくるのを待つぜ!そして、階段
を降りていくと、“お兄ちゃん、目玉焼き失敗しちゃったの。ごめんね”と言
うのを優しく撫でてあげるんだ。」

「おい、美少女の私がここに居ていいのか、心配になってきたぞ。」

「あ、そんな変な熱弁をしている間にムービーが終わったみたい…って!」

「おーっと、なんということだ!キャップは当然のごとく、イージーを選択し
たが、なんと流川海斗は最高難易度ハードを選択だー!」

「えー!!ハードは本当に理不尽なほど難しいんだ。」

「これは勝負する前に結果が見えたようなものだな。」


いや、なんかよく分からんが、そりゃ一番難しいのを選ぶだろう。
何故、俺が逃げなきゃならんのだ。

そりゃあ、確かにゲームなんて、生まれてこの方やったことはない。
しかし、ただボタンを然るべきタイミングで押せばいいだけのこと。
何も難しいことはない…よな。


(何!?あいつ、ハードでやりやがった。大和と協力して、このゲームやった
ことがあるが、イージーで精一杯だぞ。)

「さーて、予想外の事態が起こったが、1ステージ目は…これは格闘か?」

「そう、最初は相手の体力をなくせばいい格闘ステージ。」

「だが、このステージには相手キャラをイケメンにして、操作キャラを女性に
して、ボコボコにさせるという、もてない男である作者のしょうもない憎悪が
早速こもっている。」

「ああ、このゲームがクソゲーなのが、何となく分かってしまった…」

「残念ながら、私もだ。」

「まあ、そういうゲームだから……って!!」


司会・解説の4人、いや会場全体が目を疑った。

翔一が単調な動きの相手に慣れを生かして、コンボ技を入力している。
だが、その横で海斗は敵を圧倒していた。

というのも、翔一のようにコンボ技を決めているわけではない。
それ以前に、今日初めてやっている奴が知っているはずもないだろう。

海斗は敵の攻撃に対して、ぴったりとタイミングを合わせて、ガードをする。
“ジャストガード”という高等技術を連発していて、自身のキャラの体力は微
塵も減っていなかった。
そして、攻撃の隙を狙い、相手のゲージを削っていく。

決して派手なアクションではないが、その凄さは理不尽な攻撃を繰り出す相手
を完璧に捌いていることが物語っていた。


「おい、ハードの敵は遠距離攻撃、近距離攻撃、なんでもありのチートキャラ
なんだぞ!倒すという目標でさえ、何人ものゲーマーたちが挫折したというの
に、あの男は…無傷だと!?」

「なんか分からんが、凄いのは分かるぞ。」

「なんだなんだ、あいつは天才ゲーマーだったってことか。」

「いや、いくら上手い人でも無傷っていうのは、ありえないよ。未来が見える
とかでもないと、とても対処しきれない攻撃数だもん。」

「おい、“ジャストカウンター”まで使い出したぞ…!“ジャストガード”よ
りもさらにタイミングがシビアになるというのに……」


いや、専門用語は分からんが、要は相手の攻撃に合わせて、ボタンを押せばい
いだけのこと。
これで終了だ。

俺は敵キャラを撃破した。
隣もちょうど敵に勝ったところだった。


「体力だって、イージーとハードじゃ段違いなのに、まさか一緒に終わっちゃ
うなんて…」


会場は一回戦目の序盤から騒然としていた。

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