小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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会場からの歓声はまだ鳴り止まない。


「さすが、流川先輩!」

「はぁ、かっこよすぎます〜」

「あんなに疲れながらも勝っちゃうなんて。」

「でも、最後のほう、凄く速かったよね。」


うむ、なかなか手こずってしまった。
スリップストリーミング作戦をとってなかったら、やばかったかもな。なーん
つってな。

ていうか、不自然な動きで長距離を走ってしまったから、なんか足が重い。
自分で作った策に溺れるとは…
まだまだ、修行が足りんな。
いや、ほんとにあんな格好で一番最後のスピードを出したのは、確実に失敗だ
ったな、うん。足が訴えてるもの。

だが、俺にはやらなければならないことがある。
足が痛くとも、そんなことは気にしてられない。
男には果たすべき瞬間がある。それが今だ!


………

……




「おい、ストラップよこせ。」

「あ、ああ、はい。」

「うむ、よろしい。」

「本当にキャップに勝っちゃうなんてな、しかも走りで。俺も含めて、ファミ
リーの皆は信じられない光景だったと思うぞ。」

「いや、俺、体ボロボロだし。火事場の馬鹿力って奴よ、いや真剣で冥界見え
たね、ありゃ。」

「え!?海斗、だいじょぶなの!」

「海斗さん、どこか怪我なさってるんですか!?」


おい、いつの間にやってきたんだ、君たち…
そんな大げさにとらないでくれよ、なんか嫌な予感しかしないから、本当に怖
いんだよ。


「アタシが保健室まで連れてってあげるわ、ほら肩貸してあげる。」

「私もお供します、海斗さん。肩をどうぞ。」

「え、いや大丈夫。そこまでじゃないから。帰って寝れば、俺って大抵のこと
は自己再生しちゃうし。」


なんだ、どうした。
2人とも、なんかキャラ変わってないか?
こんなにグイグイ来る感じだったっけか。


Side 大和


今現在、目の前で2人の恋する少女による物理的な男の取り合いが絶賛開催中
である。

キャップに勝ったこの男。
やはり、キャップと同じように、何かしらの人を惹きつける力があるのかもし
れないな。
しかし、キャップとは、全く違った性質の魅力なのだろうな。
だが、あるのは間違いない。
実際に引っかかった事例が2件も目の前に並べられてるなら、もはや否定しよ
うがないだろう。

それにしても、今の2人の様子…

大方、キャップに勝った流川が一年生にもっと人気が出ると思って、危機感で
も持ち始めたってところだろうな。
あの声援や歓声の量は流石に無視できない事態だもんな。
“かっこいい”なんて言われてたら、そりゃ焦るだろうな、自分たちは思って
いても、絶対に言えないようなことだろうからな。

いや、それだけじゃないか。
なんか、互いに視線を数回交わしているような気がする。
これはあれか。
やっと、すぐ近くに恋敵がいるってのに、薄々気づいてきたか?

今更すぎるだろうが、恋は盲目って奴なのか。

まあでも、そんなに危険が散らばっていたら、そりゃこんだけ、積極的にもな
るよな。

というか、こんな空気の場所は非常に居心地が悪い。
俺はあきれ半分に二人の健闘を祈りつつ、その場をあとにした。


Side out


「いや、だから保健室はいいって。」


いまだ、少女たちとの攻防は続いていた。
どうする、元気を証明するためにタップダンスでもするか。
ステップを刻んでしまおうか。


「止まれ、流川海斗!」


誰かの声が前から聞こえた。
非常に真っ直ぐと通った声。
そして、呼んでいるのは俺の名前。

俺を呼ぶ奴なんて、限られている。
だが、その筆頭であるお二方は俺の隣に陣取っている。

ということは、誰だ?
そして、前にはその答えがあった。

前に金髪の嬢ちゃんが立っていた。
まあ、明らかにハーフだろうな、そんなオーラが出ている。
そんな子がブロンドを風になびかせ、俺の眼前で仁王立ちという、なんともお
かしな状況に陥っている。

てか、こいつクラスメイトだっけ。
なんか見覚えあるんだよな…



あ!思い出した。
こいつ馬に乗ってた奴だ。
そうだ、そうだ。
俺って、結構人の名前とか覚えられるタイプなのかもな。
こういうのって、人に好感もたれるだろ。
世渡り上手ってやつか、俺そんな称号もらえちゃうか。


「それで浜千鳥が何の用だ?」

「それは自分の馬の名前だ!!」


ありゃ、みすったみたい。
浜千鳥が馬の名前なら、こいつの名前はなんだよ。

馬の子だろ……馬子?
え、まさかの蘇我氏だったりしちゃうわけ。
あれ、でもあいつって男じゃなかったっけ。


「クリスティアーネ・フリードリヒだ!!一応、クラスメイトだろ!」


俺が思案顔で長い間沈黙していたのに、しびれを切らしたらしい。
凄まじい勢いでそんなことを言われる。

しかし、言われても全くピンとこないんだが…
うん、俺には永遠に社交的と呼ばれる日は来ないのかもしれない。


「で、その蘇我スティアーネなんちゃらが、何の用だ。」

「クリスティアーネだ!!お前は馬鹿にしているのか!」


思っていることが口に出てしまった。

いや、でも案外良い名前なんじゃない、蘇我スティアーネ。
ほら、なんか和洋折衷な感じが滲み出しててさ。
これなら、戦争とか起こらないんじゃないかな、うん。


「本当にふざけた奴だ、流川海斗。」

「だから、用件を言えっての。俺も暇じゃねえんだ。」

「お前、なぜ先程の試合で疲れている演技などした。」


な!?
おいおい、なんでばれてんだ。
自分で言うのもなんだが、完成度は高かったと思うんだが。
実際、みんな心配してくれたしな。


「クリ、どうしたの急に?」

「何のことだ?」

「とぼけても無駄だ。自分は父様の軍の訓練を幼い頃より、見てきた。本当に
疲れた者の動きは目に焼きついている。」


おい、可憐な女の子がそんな汗臭いものを幼い頃より見てるんじゃないよ。
こんなことでばれるなんて、計画破綻もいいとこだ。


「いや、疲れてないわけないだろ。今だって、足が悲鳴あげてんだよ。」

「大方、慣れない走り方をしたから、痛めたのだろう。演技だとしか思えんが、
それでもあの走り方であのスピードを出せることは、今でも信じられないから
な。」


こいつ、エスパーか。
なんで、そんなに見抜けるんだよ。
これは嘘をつき続けても無駄なようだ。


「ああ、確かに少しおおげさになっていたところはあるかもしれない。だが疲
れていたのは本当だし、何より、それでお前に文句を言われる筋合いはない。
勝負に負けて、言い訳に使ってるわけでもないしな。」

「お前は真剣に勝負しているキャップに対して、ふざけた態度で臨み、あたか
も苦戦しているように演技した。これは相手への侮辱だ。自分はそれが気に入
らないと言っているのだ!!」

「だから、俺は…」

「本気でなど走っていない!キャップには悪いが、あれはまぐれでも何でもな
い。お前の走るスピードの方が遥かに速かった。実際には接戦なんかじゃなか
った。ただ、お前が手を抜いていただけだ!そんな実力を持っていながら、お
前は…!」


なんか、怒りかたが尋常ではない。
手を抜いたことがそんなに気にくわないのか。


「だが、それはお前の主観的な意見でしかない。それを証明するものはないし、
もう過ぎたことだ。」

「ああ、そうだな。だから…」


一呼吸をおき、言い放った。


「流川海斗、お前に決闘を申し込む!」

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