小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「流川海斗」


気のせいでもなんでもなく、呼ばれたようだ。
どうやら色々考えている間に小テストを返していたらしい。
この問題の難易度的に70くらいが平均だろうと思ったので、60点前後くら
いにしておいたはずだ。


「62点なので、平均72点にあと一歩だな。次はもっと頑張るように。」


うむ、大方予想通りだ、勿論不正解の箇所は空欄だ。
珍回答でわざわざユーモアを発揮することもない、センスもない。
平均より少し下くらいが一番目立たない。
教師に褒められることもなく、叱られることもない、決まって出る言葉は“次
は頑張れ”だ。
最高点数100点と黒板に書いてある、すごい奴もいたもんだ。
なんか毎回高得点取ってる奴がいるらしいが、生憎と名前は覚えてない。
てか、会話もしないから、覚えられないし、その必要もない。


「そして、今日はこの前のS組との件の処置について話がある。」


S組とは隣のエリートクラスのことで些細なことでこのF組といさかいを起こ
している。
ついこないだも何やら一悶着あったらしい。
詳しくは知らんが、この俺の耳に入るほど、まさに犬猿の仲なのだ。

ウウンと教師が咳払いをする。


「学園長にも相談したところ、パフォーマンスも兼ねてタッグマッチ大会を開
催することとなった。」

「たっぐまっち?」

「ああ、男女の二人一組でS・F混合のトーナメント戦を行う。」

「男女か……」

「はいそこ、変な妄想に浸らない。」

「まあ、その男子数名は置いておくとして、競技はなんですか。」

「サドンデスの格闘技のようなものだ。フィールドの中で闘い、細かいルール
などは一切なく、ギブアップ、フィールドアウト、判定負けが起きるまで、二
対二での戦闘だ、勿論武器の使用も許可する。」

「よくわからないけど、決闘みたいなものね。まぐまぐ」

「梅先生、そのペアはどうやって決めるんですか。」

「基本、なりたいもの同士がなるのでいい。決まらない場合は、くじでもなん
でも、とにかくお前らに任せる。」


教師の言葉でクラスがざわつく。
大体は女子連中のかっこいい男子と組みたいという願望の声、またはその逆の
男子連中の欲望の声であったが、その中には案の定……


「流川君とは組みたくないよね。」

「何考えてるか分かんないし。」

「てか、運動神経もそこそこだし、守ってくれないでしょ。」

「やっぱり強くてかっこいい、風間君とかでしょ。」


本人達は小声で聞こえないと思っているのだろうが、自分の悪口というのは何
故かクリアに聞こえてしまうものだ。
そして、自分に都合のいい事は聞こえないと。
人間って、不便にできてるな、ホント……

……ん?なんか気まずそうな視線が突き刺さる。
あぁ、どうやら他のクラスメイトにも普通に聞こえていたらしい。
クラス中にクリアに響き渡っていたようだ。
ただ、こういう二人組のイベントとかで嫌われるか……
自分で仕向けたとはいえ、あまりいい気持ちはしないな。
かといって、後悔もしていないが。

んー、誰か「その大会って参加しないことは出来ないんですか」という質問を
してくれ、こんなことに口数を使いたくねえ、無口の印象が崩れる。
というか、俺なんかが聞いたら色々可哀想なやつだ。

多くの女子からは嫌悪の目、比較的良識を持った人も不審の目をしている。
その他も関心のないものもあるが、同情などは一切なかった。
うむ、予想はしていたが、このクラスに味方は一人もいないらしい。
くそ、こんな予想もしない形で目立つとは……
誰だ、タッグマッチとか面倒くさいことを考えたのは。
もうオチが見えてる、最後まで余ってくじで一緒になった女子に疎ましがられ
て、後日そいつの友達とかに愚痴られるんだろう、はい正解。


「ちょっと待って。」

-3-
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